映画『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』は、2018年2月23日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開。
世間から隔絶された女子寄宿で暮らす7人の女性たちの前に、南北戦争でケガを負った敵軍兵士の男が現われ、介抱するうちに女性のすべてが彼に心を奪われていきますが…。
この作品で女性としては史上2人目となる、カンヌ国際映画祭で監督賞を獲得したソフィア・コッポラ監督。
かつて1971年に公開されたリメイク版に挑んだ彼女の新たなるスリラーとは。
CONTENTS
1.映画『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
The Beguiled
【脚本・監督・製作】
ソフィア・コッポラ
【キャスト】
コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、キルステン・ダンスト、エル・ファニング、オオーナ・ローレンス、アンガーリー・ライス、アディソン・リーケ、エマ・ハワード
【作品概要】
『マリー・アントワネット』や『ロスト・イン・トランスレーション』などで知られるソフィア・コッポラ監督の長編作品6作。
1971年にドン・シーゲル監督がクリント・イーストウッド主演の『白い肌の異常な夜』のリメイク版で、原作トーマス・カリナンの小説『The Beguiled』を女性から視点で映画化。第70回カンヌ国際映画祭で監督賞を獲得しました。
2.映画『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』のあらすじ
キノコ狩りで傷ついた敵兵と出会う…
1864年のアメリカ・バージニア州。
鳥のさえずりが響くの森には、遠くから絶え間なく大砲の音が聞こえ、3年目に突入した南北戦争が暗い影を落としていました。
キノコ狩りをしていた女子寄宿学園で暮らすエイミーは、傷を負った北軍兵士マクバニーを発見。
はじめは恐れていたエイミーですが、兵士を手当をするために学園へ連れ帰ることにします。
マーサ・ファーンズワース女子学園は、園長のマーサ、教師のエドウィナ。
そして戦争の影響で家に帰れない事情を抱えたエイミーをはじめ、アリシア、ジェーン、エミリー、マリーの5人の生徒が暮らしていました。
招かれざる敵兵の出現に、はじめこそ戸惑う彼女たちでしたが、キリスト教の教えに従い回復するまで面倒を見ることにします。
早熟なアリシアをはじまりに、7人の女たちは…
男子禁制の学園で暮らしていた乙女たちは、ワイルドでハンサムなマクバニーに興味津々。
早熟なアリシアは思わせぶりな視線を投げかけ、教師エドウィナはブローチをつけて秘かにおしゃれをし、
まだ幼いマリーも負けじとエドウィナの真珠のイヤリングをつけて着飾る始末…。
園長のマーサはそんな彼女たちをたしなめるものの、手当てをするために久しぶりに触れた生身の男性の身体に、彼女自身も胸の高鳴りを抑えきれずにいました。
手厚い看護を受けるマクバニーは、誠実な態度で信頼を勝ち取り、7人全員から好意的に受けられるまでになります。
ただし、誰にでも愛想を振りまき、女性たちが自分に虜になることを楽しむかのような態度は、秩序を保ってきた集団の歯車を次第に狂わせて行きます。
秩序は秘密を帯びて、隣り合わせの自由を…
脚の傷が回復したマクバニーを囲み夕食会を開いた7人は、目一杯のおしゃれをして音楽やダンスを楽しみ戦時中とは思えないほど優雅で幸せなひとときを過ごします。
でも…、うわべは美しい言葉を使いを貫きながらも、周囲を出し抜こうと会話の端々にはチクリと棘を忍ばせ、競うようにマクバニーを求める嫉妬と欲望は最高潮になっていきます。
その晩起きたある出来事によって、危うい均衡を保ってきた愛憎劇は予想もつかない方向へと…。
3.映画『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』の感想と評価
見どころ1:美しき映像と、そこに佇む女性
本作『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』を観た際に、はじめに気が付くのはフィルム撮影で行なった映像の美しさ。
撮影監督を務めたのはフィリップ・ル・スール。2016年に『プロヴァンスの贈りもの』や2013年に『グランド・マスター』で知られるキャメラマンです。
この作品の撮影期間は2016年10月下旬から始まり、26日間でクランク・アップしました。
撮影準備はその1年前から始め、かつて写真撮影された銀盤写真を資料参考に見るなどして、南北戦争期の世界観の再現に努めます。
実際に撮影するキャメラにはヴィンテージのレンズを使用して撮影をすることで、女優たちのボディランゲージがよく見えるよう画面のアスペクト比をビスタサイズ(横縦比が1.66:1程度の横長の画面)を採用しました。
また室内は電灯照明が導入される10年以上前の設定のため、太陽光を基本的なキーライトとして最大限に活用しています。
そのことがあって画面は薄暗く見えるシーンも多いのですが、ローソクの灯りなどで補い時代背景に即した情感を再現させています。
登場する女優たちの顔が見えにくいこと思われる観客もいるかもしれませんが、そのことがあってこそ、ストーリー展開に大きくリアリティを与えていると言えるでしょう。
その美しい光と陰の中に佇む女優たちの筆頭には、学園をまとめる園長ミス・マーサに、『誘う女』『ムーラン・ルージュ』『アザーズ』『めぐりあう時間たち』『LION/ライオン ~25年目のただいま~』etc…、(あまりに代表作の多い⁈)ニコール・キッドマンが演じています。
彼女は2017年に、カンヌ国際映画祭に出品された『ビッグ・リトル・ライズ 〜セレブママたちの憂うつ〜』『パーティで女の子に話しかけるには』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』、そして本作『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』で、第70回記念名誉賞を受賞しました。
ニコール・キッドマンはその際に“カンヌの女王”と呼ばれるほど充実した円熟期に入っています。
また、周囲を出し抜いた早熟な少女アリシア役を『SOMEWHERE』のエル・ファニングが演じ、純粋な教師エドウィナ役を『ヴァージン・スーサイズ』や『マリー・アントワネット』のキルスティン・ダンストが務めます。
彼女たち2人はソフィア・コッポラ作品の常連といっても良い女優ですね。ソフィア監督が得意とする“人と人が触れ合う一瞬の時間”を繊細に見せていて、大女優ニコールに負けず劣らぬ見どころなので、要チェックです!
見どころ2:リメイク版としての時代性の鏡
美しいキャスティングたちや、彼女たちを活かした映像、そして彼女たちが身に付けた衣装の華麗さもあって、何となく童話を想起させてくれるかもしれません。
例えば、はっきりとした類似性はないものの、ペロー童話集やグリム童話の『赤ずきん』を感じたりするかもしれません。
それは童話に漂う“生と死の匂い不安感”や、その教訓(テーマ)を感じたりするからでしょうか。
さて、そもそも本作は、1971年にドン・シーゲル監督のクリント・イーストウッド主演作『白い肌の異常な夜』のリメイク版。
しかし、ソフィア監督は前作とは異なり、本作を女性の視点で描くことに注力してトーマス・カリナンの原作を脚本化して執筆します。
これらのドン・シーゲル版とソフィア・コッポラ版のどちらかに優劣をつけることに意味がないので指摘はしませんが、1番の違いが見えたラストの展開には少し触れておきましょう。
それは男性視線や女性視線といった二極化ではなかったと記しておきたいです。
内容は詳細に話しませんが、“南北戦争期の森に響き渡る大砲の音や、秩序を重んじる女子寄宿学園の女性たち”のメタファー(隠喩)は、今のアメリカそのものような気がしたのです。
もちろんドン・シーゲル版は、既に過去に観ていたので、結末ラストまでのストーリーは知ってはいましたが、これほどまで解釈に時代性が色濃く浮き彫りされるのかと、少し驚かされました。
何かを強いられ秩序が保たれた社会は、隔離された規則の中で多様性を排除しているのでしょうね。
そのことが史上2人目の女性として、カンヌ国際映画祭で監督賞を獲得するソフィア・コッポラに、大いに納得させる『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』の秀作の証です。
まとめ
1980年に入ってクリント・イーストウッドが俳優ではなく、監督として評価され始めた際に、“最後のアメリカ良心”と呼ばれたことがあります。
かつてアメリカの持っていた豊かな良心(スピリッツ)は、もうクリントにしか見られないと嘆きの一片だったのでしょう。
奇しくも、そのクリント・イーストウッドが俳優として出演した、1971年に若かり主演作のリメイク版に、今のアメリカに問題提起を感じさせるソフィア・コッポラ監督のテーマ性を伝達する手腕は見事なものです。
情欲と危険な嫉妬に支配されるようになった女たちの奥底に潜む怖さ、秩序を保つための排除のルールとは?
女性も、男性も、ちょっと“美しい怖さ”を覗きにいきませんか?
映画『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』は、2018年2月23日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開。
ぜひ、お見逃しなく!