米国アカデミー賞の作品賞・監督賞・脚本賞のビリー・ワイルダー代表作
1960年にアメリカで公開され、同年のアカデミー賞の五部門を受賞した映画『アパートの鍵貸します』。
監督、脚本、制作を務めたのは映画『サンセット大通り』や『お熱いのがお好き』のビリーワイルダーです。
ホテル代わりにアパートの部屋を貸し、上司の不倫を手助けすることで出世を図る男バクスターが、想いを寄せていたエレベーターガールと社長が不倫の関係にあることを知ります。
部屋を貸す男バクスターを演じたのは『酒とバラの日々』(1962)のジャック・レモン。エレベーターガールを演じたのは『あなただけ今晩は』(1963)でもビリー・ワイルダーとタッグを組んだシャーリーマクレーン。
他のビリー・ワイルダー作品にも多く出演した二人が、もどかしい片思いとその相手を演じています。
映画『アパートの鍵貸します』の作品情報
【公開】
1960年(アメリカ映画)
【原題】
The Apartment
【監督・脚本・制作】
ビリー・ワイルダー
【キャスト】
ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン、フレッド・マクマレイ、レイ・ウォルストン、ジャック・クルーシェン
【作品概要】
映画『サンセット大通り』(1950)や『お熱いのがお好き』(1959)のビリーワイルダー監督作品。アパートの鍵を貸し、上司のご機嫌を伺って生きるバクスターと、彼が恋したエレベーターガールの恋愛模様を描いたヒューマンドラマ。『お熱いのがお好き』でビリー・ワイルダーとタッグを組んで以来、何度も同監督作品に出演したジャック・レモンが主演をし、『愛と追憶の日々』(1983)でアカデミー主演女優賞を受賞したシャーリー・マクレーン、『宇宙戦争』(1953)のジャック・クルーシェンが共演しています。
映画『アパートの鍵貸します』のあらすじとネタバレ
1951年、大手の保険会社にC.C.バクスターは勤めていました。バクスターは、ニューヨークのセントラルパーク付近に一人暮らし用のアパートを借り、そこに住んでいました。隣の部屋には、医師のドレフェスが住んでいます。
いつものように残業をした後に帰路につくと、上司の不倫現場を目撃します。バクスターが部屋に帰ると、ドレフェスに空になったワイン瓶を見られます。ドレフェスは、バクスターの酒豪っぷりに驚きます。
バクスターがインスタントの夕飯を食べていると、電話が鳴ります。バクスターの上司は、部屋を貸してくれるよう、頼みます。バクスターは申し出に応じ、部屋を去ります。
朝になり、バクスターは出社しました。そして、エレベーターで働くフラン・キューブリックと会い、髪型を褒めます。
バクスターは、フランに片思いをしていましたが、その思いを告げられずにいました。
部屋を貸し、公園へ避難したせいで風邪を引いたバクスター。上司に貸した鍵を取り返すべく、電話をかけます。
バクスターは上司にアパートを貸すことで、評判を上げていました。19階で働くまでに上り詰めていましたが、上司の逢瀬のスケジュールがバッティングしないよう、うまっく調整します。
27階で仕事をする社長ジェフ・D・シェルドレィクに、バクスターは呼び出されます。バクスターは胸を躍らせ、エレベーターに乗り込みます。
エレベーターでフランに花をもらい、社長室でジェフと会います。
ジェフは、バクスターが上司に部屋を貸していることを指摘します。そして、それを黙っている代わりに鍵を借ります。
バクスターは、ジェフからもらったお芝居のチケットを持って、フランを誘います。フランには別の男性と会う用事がありましたが、バクスターの誘いを断りませんでした。
待ち合わせの時間、バクスターは一人で劇場で待ちます。そこにフランの姿はありませんでした。待てども待てども、フランは現れません。
その頃フランは、不倫相手のジェフと食事をしていました。一度別れを決めたはずでしたが、フランにはまだ未練がありました。
「もう少し待ってくれると、妻との離婚が成立する」そんな甘い言葉にフランは騙されます。そして、バクスターから借りた部屋へと、二人は向かいます。
映画『アパートの鍵貸します』の感想と評価
ビリー・ワイルダーが監督を務め、恋愛映画の金字塔として今も多くの観客に愛される映画『アパートの鍵、貸します』。
バクスターとフラン、二人の男女のやり取りは、モノクロ作品ながらそれを感じさせないほど退屈せずに楽しめます。
また、リアルな60年代のアメリカの職場や町並みは、当時と現代と比較ができて面白いです。
一度出た小道具を再度別の方法で用いる演出も効いており、テニスでパスタの湯を切るシーンなど、思わず笑みがこぼれてしまいます。
名作に名俳優あり。フランを演じた、若かりしシャーリー・マクレーンが可愛らしい。また、バクスターを演じたジャック・レモンも、自然な哀愁を漂わせながら、わざとらしいいやらしさを感じさせない演技の妙を見せています。
登場人物の一人一人が些細な機微を、表情に浮かべることに秀でており、物語を引っ張っていました。
本筋の物語では、幸せにしてくれる人とそうでない人、魅力的に見える人が必ずしも前者にはならない悲しさが、切実に描かれています。
ヒロインが自殺未遂をするといった、恋愛映画とは思えないほどの衝撃的な物語も、その一つです。フランにとってジェフがどれほど大きな存在であったのかを見せてくれています。
バクスターの片思いが叶わないと感じられるシーンが、ありきたりなものではないことで、ラストシーンのカタルシスが大きくなっています。
まとめ
手軽な幸福を求める人間の悲しい性と、そこからの脱却を図る尊さをビリー・ワイルダーは恋愛と仕事の両面で描きました。
アカデミー賞では作品賞のみならず、監督賞や脚本賞、そして美術賞と編集賞を受賞しています。また、多くの部門でノミネートもされています。
アパートの鍵を貸すこと。そして、嘘ばかりの愛人に想いを寄せること。フランとバクスターは全く違うことをしているようでその実、似た行動を取っています。
楽な手法で利用され、尊厳を失う代わりに金銭等の益を得る。フランもバクスターも、権力者のジェフに利用される人生を歩んでいました。
しかし二人は、恋愛を通して真の自分と見つめ合いました。自分の大事な物が何なのかが分かり、例え難しくともそのために生きる喜びを手にしたのです。
本当の意味で心を満たすための方法。ビリー・ワイルダーの名作は、現代にも通ずる普遍のメッセージを伝えているのです。