小説『天上の花―三好達治抄―』が映画化され、2022年12月に新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開!
三好達治、萩原朔太郎とその妹の慶子が織りなす純粋で凄まじい「愛」と「詩人の生」を、朔太郎の娘の視点で描いた小説『天上の花―三好達治抄―』。
1966年の発表からすでに56年の時を経ましたが、2022年秋に開催される萩原朔太郎の大回顧展「萩原朔太郎大全2022」の記念映画『天上の花』として公開されます。
監督は片嶋一貴、キャストは三好達治に東出昌大、美貌の慶子は入山法子という豪華な顔ぶれが揃いました。
小説はもとより映画では戦争の時代に翻弄された人々の痛みと葛藤、男女の交じり合わない恋愛がいつの日か激情とともに、制御できなくなってゆく様子が鮮明に描かれています。
映画『天上の花』は、12月9日(金)より新宿武蔵野館、ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺他順次公開!
映画公開に先駆けて、小説『天上の花―三好達治抄―』をネタバレ有りでご紹介します。
CONTENTS
小説『天上の花―三好達治抄―』の主な登場人物
【萩原葉子】
作者。父は萩原朔太郎。
【三好達治】
朔太郎を師とする作家をめざす貧乏書生。
【慶子】
葉子の美人の叔母。萩原朔太郎の末妹。達治に惚れ込まれる。
小説『天上の花―三好達治抄―』のあらすじとネタバレ
大正15年。小学校へ上がる前の作者・萩原葉子は、父朔太郎、母、それに妹と四人で大森に住んでいました。
萩原朔太郎を師と仰ぐ貧乏書生の三好達治が家に来るようになったのは、その翌年ごろからでした。
人見知りの強い作者は父を訪ねてくる客が嫌いでしたが、三好さんだけにはいつの間にか馴れてしまっていました。
葉子が小学校二年生になったころ、四人家族だったところへ叔母が加わり、五人家族になりました。
叔母は、父の末妹で二度目の結婚に破れて郷里の前橋から上京してきた慶子。丸顔の美人で当時、24、5歳でした。
外見を着飾る母と比べ、叔母は鏡に向かうこともないのに、母よりもずっと美しかったのです。
そんな美貌の叔母・慶子に三好は恋心を抱き、身体の具合を悪くし寝込んでいた慶子に、高価なバナナを持って見舞います。
三好は、夏のカスリに裏地をつけて袷にして着ているような貧乏書生でしたので、その身分でのバナナは不相応なものでした。
三好は朔太郎を通して、慶子に結婚を申し込んだものの、最初から相手にしてもらえません。
朔太郎は三好の才能を見越し、将来性のある青年だと勧めましたが、慶子の両親(作者の祖父母)は、「一定の職業についていない書生の身分で、大事な娘を欲しいとは、何と己知らずな人間か」と、三好に絶縁状を送りつけていました。
その後、昭和4年に葉子の両親は離婚をし、葉子と妹は父朔太郎に連れられて前橋の祖父母の家へ。三好が大阪の実母の所へいっている間のことでした。
昭和8年。朔太郎、祖母、葉子と妹、それに叔母の慶子は前年に新築した世田谷の家に住んでいました。
ある日、その家に詩人の佐藤惣之助が現れます。父に後妻の相手を紹介しようと訪れた惣之助は、慶子に一目ぼれをし、プロポーズをしました。
しかし慶子の心を獲得するには、祖母を納得させることが絶対条件でした。それから惣之助の涙ぐましい祖母のご機嫌取りが始まります。
三好よりは安定した収入があることが幸いし、その後まもなく2人は結婚式をあげます。惣之助は2度目。慶子は3度目の結婚でした。
昭和15年、惣之助はハルビンに出兵。無事に帰国した後、朔太郎が急逝肺炎で急逝しました。高血圧症を病んでいた惣之助は、「この次はぼくの番だよ」と言い、あっけなくこの世を去りました。
傷心の慶子の元へ、朔太郎の通夜から告別式まで通い詰めた三好から、励ましの手紙が届きます。
三好は当時佐藤春夫の姪と結婚し二児の父となっていました。しかし、慶子と再び交流を持つようになると、慶子に家庭のぐちをこぼすようになり、「家庭がつまらない」と言いました。
妻とうまくいっていなかった三好は、慶子の夫惣之助が死んだその日から、今度こそ慶子を自分のものにしようと思っていたのでした。
三好は妻子との別居を決心し、福井県三国町の森田別荘を借りる手はずを進めていました。
朔太郎の三回忌の日に、実家に戻った慶子を訪ね、あなたを16年4カ月思い続けてきたと慶子にプロポーズしました。
迷う慶子に祖母は、「本当に好きなら妻との籍をちゃんと抜いてから迎えに来い」と言うように助言しました。
慶子がそれを三好に伝えると、三好はすぐに実行しました。
小説『天上の花―三好達治抄―』の感想と評価
タイトルになっている「天上の花」は、仏教においては伝説上の天界の花を意味し、燃えるような色を持つ赤い花「曼珠沙華」、別名「彼岸花」と呼ばれる花をさしています。
真っ赤なその花(白い花もありますが)は、情熱の象徴であり有毒性をもつと言われています。
そんなタイトル通りの恋愛を描き出した『天上の花―三好達治抄―』。
詩人であり、翻訳家、文芸評論家など幅広い顔を持つ三好達治の燃えるような愛の様子が鮮明に描かれています。
小説の中では、こんなに愛しているのにどうしてわかってくれないのかと、三好は我を忘れ愛する慶子に乱暴しました。
本当に乱暴したのかどうかは不明ですが、これが三好なりの愛の表現とするなら、誰もが怖い愛情表現と思うでしょう。
DV男はいつの世も女性から怖がられ嫌われます。三好がそれに気がついた時はすでに遅く、せっかく自分の元に来てくれた慶子は実家へ帰ってしまいます。
行き場を失った三好の愛……。小説の後半では晩年の彼の姿も描かれていますが、胸にくすぶり続ける慶子への思慕が寂しい独居生活へと導いたのに違いありません。
切なすぎるほど激しい2人の愛憎劇は、男女間に存在する愛の戦いというのに相応しいものでした。
映画『天上の花』の見どころ
小説『天上の花―三好達治抄―』は、『いぬむこいり』(2017)の片嶋一貴監督が手がけました。
三好達治には『草の響き』(2021)などで唯一無二の存在感を放つ東出昌大、萩原朔太郎の妹で美貌の慶子は、新たな境地を切り拓いた入山法子が演じます。
毒のある「天上の花」を食したような、激しい恋愛に身を焦がす三好達治。
愛に翻弄される彼をクールな風貌の東出昌大がどう演じるのかと、期待は高まります。
映画『天上の花』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【原作】
萩原葉子:『天上の花―三好達治抄―』(講談社文芸文庫)
【監督】
片嶋一貴
【脚本】
五藤さや香、荒井晴彦
【キャスト】
東出昌大、入山法子、浦沢直樹、萩原朔美、林家たこ蔵、鎌滝恵利、関谷奈津美、鳥居功太郎、間根山雄太、川連廣明、ぎぃ子、有森也実、吹越満
まとめ
映画『天上の花』の原作小説『天上の花―三好達治抄―』をネタバレありでご紹介しました。
著者である萩原朔太郎の娘・萩原葉子によって、萩原の家族と三好達治の一連の出来事が小説化されています。
戦争真っ只中の混乱の時期から動乱の戦後を生き抜いた人々の激しい「愛」と「憎しみ」の恋愛模様に驚くことでしょう。
三好達治の人生を垣間見るような本作の映画『天上の花』は、12月9日(金)より新宿武蔵野館、ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺他順次公開!