田舎町の少女がオーディションに挑み歌手を目指す!
イギリス・ワイト島で暮らす少女がオーディション番組の予選に勝ち抜いてロンドンでの本選に挑む!
『ラ・ラ・ランド』のスタッフが再結集。ヒロインに『マレフィセント』『20センチュリー・ウーマン』のエル・ファニングが主演を務めました。
脚本と演出を務めたのは、名匠アンソニー・ミンゲラを父に持ち、俳優として活躍するマックス・ミンゲラ。
青春音楽映画『ティーンスピリット』をご紹介します。
映画『ティーンスピリット』の作品情報
【公開】
2019年公開(イギリス、アメリカ合作映画)
【原題】
Teen Spirit
【監督】
マックス・ミンゲラ
【キャスト】
エル・ファニング、ズラッコ・ブリッチ、アグニエシュカ・グロホウスカ、アーサー・マデクウエ、ユーソラ・ホリデイ、ジョーダン・スティーブンズ、クララ・ルガード、ルアイリ・オコナー、ミリー・ブレイディ、オリーヴ・グレイ、レベッカ・ホール
【作品概要】
フレッド・バーガーが製作、マリウス・デヴリーズがエグゼクティヴ音楽プロデューサー/作曲を担当。映画『ラ・ラ・ランド』のスタッフが集結した洋楽ヒットソング満載の青春音楽映画。
イギリスのワイト島に住む高校生のヴァイオレット役をエル・ファニングが演じている。監督は本作が初監督作となるマックス・ミンゲラ。
映画『ティーンスピリット』あらすじとネタバレ
イギリス南東部・ワイト島
ポーランド移民の母親と暮らすヴァイオレットは17歳の高校生です。父親は彼女が幼い頃に家を出て行ったきり。母はいつか父が戻ってくると家を手放さずにいますが、ヴァイオレットはもう父は帰ってこないだろうと諦め気分でいます。彼女は羊の世話をしたり、鶏が生んだ卵をフェアで売るなど毎日家の手伝いで忙しく過ごしていました。
内向的な彼女は学校では目立ない存在で、心を癒やすのは音楽だけです。
ある日、バイトでパブのステージで歌っていると、ひとりの中年男性だけがヴァイオレットに拍手してくれました。男はヴラドという名の元オペラ歌手でした。一斉を風靡した時代もありましたが今はすっかり歌わなくなっていました。
仕事がはけて店から出てきたヴァイオレットはヴラドから声をかけられ車で送ってやると言われますが、断ってバス停に向かいました。
しかし、若い男性の集団がこちらにやってくるのを見て怖くなり、ヴラドの車に乗せてもらいます。
ヴラドは彼女の歌を褒めてくれましたが、家の前につくとヴァイオレットは軽いお礼を述べ、逃げるように立ち去りました。
学校ではワイト島で初めて「ティーンスピリット」という公開オーディション番組の予選が行われることでもちきりでした。
世界中に配信され、多くのスターを生んできたことで有名な人気番組です。歌が大好きなヴァイオレットは大きなチャンスだと母親に内緒でオーディションを受けることにします。
歌とダンスが審査される一次オーディションに見事合格した彼女は、二次オーディションには保護者同伴でくるよう告げられます。
母に頼むわけにいかないヴァイオレットは、ヴラドを訪ねオーディションについてきてくれるよう頼みます。
彼はマネージャーになり、優勝して有名になったらギャラの半分をいただく、と条件をつけて彼女の頼みを受けてくれました。
二次オーディションも通過しますが、審査員からまだまだ学ばないといけないことがあると基礎テクニックの未熟さを指摘されます。最終予選に向け、ヴァイオレットはヴラドから特訓を受けることにしました。
ここまで来ると母に隠しておくこともできず、母にヴラドを引き合わせます。最初は頑なに認めようとしない母でしたが、最終的に「マネージャーの報酬は15%。娘には絶対に手を出さないこと」を条件にヴラドの協力のもと娘がオーディションを受けることに同意してくれました。
「重要なのは声だが、人々が見ているのは君のスピリットだ」とヴラドはいい、二人の猛特訓が始まりました。
いよいよ最終オーディションを迎え、ヴァイオレットは最後の二人に残りますが、別の少女に敗れてしまいます。感情を顕にして悔しさをぶつけるヴァイオレットに「また次があるさ」と声をかけたヴラドでしたが、「次はないのよ」とヴァイオレットは吐き捨てるように言うのでした。
数日後、ヴァイオレットはヴラドを訪ね、非礼をわびました。そして、オーディションの合格者が実は他のオーディションにも出ていたことが判明して失格となり、ヴァイオレットが繰りあげ当選になったことを告げました。
ワイト島では、ヴァイオレットの快挙を皆が祝い、彼女はすっかり有名人になっていました。夢とプレッシャーの中、バックバンドを務めてくれることになった友人たちと一緒にロンドンへと向かうヴァイオレット。
ヴァイオレットはヴラドにロンドンからパリまではすぐらしいからパリにいる娘さんに会いにいけばどうかと語るのでした。ヴラドには長い間会っていない娘がいました。
ロンドンにつくと早速、彼女の担当者が宿泊先のホテルに案内してくれました。その夜、ヴァイオレットとヴラドはある音楽事務所のスタッフから呼び出され、契約をしたいと持ちかけられます。
前年度優勝者のケイヤンも契約している事務所で、アルバムを出したいと持ちかけられて、ヴァイオレットは思わずほほえみました。
契約すると有能なマネージャーがつくと聞いたヴラドは自分がマネージャーだと主張しますが、鼻にもかけない調子で女性スタッフは「これはチャンスよ。優勝できなくても契約できるんだから。一日よく考えてちょうだい」とヴァイオレットに向かって言うのでした。
オーディション前日は静かにしておけとヴラドに言われますが、「一時間だけ。外に出るわけじゃないから」と言って、ヴァイオレットはホテル内で開かれているパーティーに顔を出しました。
酒は飲むなと言われていたのに、成り行きで口にしてしまったヴァイオレットをケイヤンが誘惑し、唇を重ねるふたり。
部屋で酒を飲んでいたヴラドは酒がつきてしまったので、ヴァイオレットの部屋を訪ねますが、彼女がまだ戻ってきていないことに気付き、パーティー会場にやってきます。
すっかり酔っ払いケイヤンといるヴァイオレットを見つけたヴラドは、彼女を抱え上げ、無理やり部屋へ連れて帰るのでした。「あんな女たらしにひっかかるな」と説教され、ヴァイオレットはかっとなり言い合いになりました。
ヴラドは怒って彼女のもとを離れます。そんな時、契約を申し出た音楽事務所の女性がヴァイオレットのところにやってきました。
戻ってきたヴラドがエレベーターを降りようとすると廊下でヴァイオレットが音楽事務所の女性と笑顔で抱き合っている姿が見えました。彼はエレベーターで一階に降りると、ホテルを飛び出していきました。
映画『ティーンスピリット』の感想と評価
エル・ファニングは燦然と輝くハリウッドのスター女優ですが、田舎から出てきた垢抜けない役柄がとても良く似合います。
と、同時に誰もが持ちたくても持てない特別な輝きを備えていてスターになるべくしてなる女の子役としてもぴったりの女優なのです。
ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ネオン・デーモン』(2016)では、田舎町からトップモデルになるのを夢見てロサンゼルスに出てきた少女を演じていましたが、そんな彼女に一流デザイナーや一流カメラマンたちはたちまち魅了されていきます。
このような特別な輝きと美を持つ少女を前にすると、誰もが美こそが全てという概念に取り憑かれてしまうでしょう。あの狂った物語はあまりにも美しいものが存在してしまったがゆえなのです。
一方、『ティーンスピリット』でエル・ファニングが扮するのは、イギリスのワイト島に住み、母とともに生活をしている音楽好きな少女です。学校でも目立たず、地味な存在の少女が公開オーディション番組に挑戦し、みるみる見いだされていく様はスリリングで、まさにエル・ファニングにぴったりの役柄といえるでしょう。
ところが驚いたことに最初から彼女にオファーがあったわけではなく、企画を知ったエル・ファニングの方からマックス・ミンゲラ監督にアプローチしたのだそうです。
役柄から歌がうまい女優でなくてはならないと考えていた監督は、エル・ファニングがここまで歌えることを知らなかったのです。
宇宙人役に扮した『パーティーで女の子に話しかけるには』(2017/ジョン・キャメロン・ミッチェル)ではパンクバンドのヴォーカリストを務めるなど、これまでにも歌を披露してはいましたが、本作では見事な歌いっぷりを見せています。
あどけない田舎娘の特質と誰もが認める特別なスター性に歌唱力が加わるのですから『ティーン・スピリット』が面白くないわけがありません。
さらに本作はオーディション番組の世界の面白さをうまく物語に組み込んでいます。ロンドンの本選に進んだ挑戦者たちは、エル・ファニング扮するヴァイオレット以外も皆、実に魅力的です。
ボーイズバンドあり、女性ヴォーカルチームありとバラエティに富んでいて、ヴァイオレットの好敵手にふさわしい実力を備えた彼女、彼らの歌もたっぷりと聴くことができ、リアルに番組に引き込まれていきます。
また、そうした本番のステージとともに、裏舞台を見る面白さもあり、ついに出番となってステージに続く長い廊下を歩いていくヴァイオレットの姿をカメラはカットを割らずに正面から長回しで撮っていきます。映画を観る者も他人事でない緊張感に包まれます。
ラストステージのエル・ファニングのダイナミックな歌声とそれを盛り上げるカット割りも完璧で、圧倒的に力強い見事なパフォーマンスの目撃者となったことに興奮を抑えきれなくなってしまうのです。
まとめ
マックス・ミンゲラ監督は『イングリッシュ・ペイシャント』(1996)などのアンソニー・ミンゲラの息子で、『ルイの9番目の人生』の脚本や『ソーシャル・ネットワーク』などでの俳優の活動を経て本作で監督デビューを果たしました。
舞台となったワイト島は父・アンソニー・ミンゲラが幼少期を過ごした場所であり、また母キャロラインはダンサーになるために故郷の香港から英国に移り住んだという経歴の持ち主で、そうした家族の思い出が物語に大きな影響を与えています。
クロアチア出身のオペラ歌手ヴラドに扮するのは実際にクロアチア出身の俳優ズラッコ・ブリッチです。ヒロインの心の支えになると同時に彼もまた失っていたものを取り戻すラスト近くのシーンが感動的です。
そして映画全編に流れるティーンポップの数々の素晴らしいこと!ヴァイオレットが最後に歌う「Don’t Kill My Vibe」はノルウエー出身のシンガー・ソングライター、シグリッドによる2017のヒット曲で、その歌詞がヴァイオレットの心の吐露のように響き渡ります。まさにラストステージを飾るに相応しい選曲となっています。