Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2021/08/02
Update

映画『summer of 85』あらすじ感想と解説評価。フランソワ・オゾン最新作は80年代の楽曲にのせて“少年のひと夏の初恋”を描く

  • Writer :
  • 山田あゆみ

映画『summer of 85』は2021年8月20日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次ロードショー。

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(2018)で第69回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞し、三大映画祭の常連監督であるフランソワ・オゾン監督による最新作です。

1985年フランスを舞台に、初めての恋と永遠の別れを知った16歳の少年のひと夏の青春物語となっています。

1980年代ミュージックと、当時の映画を思わせるフィルムの質感がノスタルジックな気分を盛り上げる、夏にぴったりの映画です。

映画『summer of 85』の作品情報


(C)2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

【公開】
2021年

【監督・脚本】
フランソワ・オゾン

【原作】
エイダン・チェンバーズの小説「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ/徳間書店)

【キャスト】
フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、メルヴィル・プポー、フィリッピーヌ・ヴェルジュ

【作品情報】
フランス映画界の名匠フランソワ・オゾン監督が17歳の頃に影響を受けた小説「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ/徳間書店)の映画化。

三大映画祭の常連であるオゾン監督ですが、本作は第73回カンヌ国際映画祭でオフィシャルセレクションに選出され、第15回ローマ国際映画祭で観客賞を受賞、第46回セザール賞では作品賞や監督賞をはじめとした11部門で12ノミネートを果たしています。

映画『summer of 85』のあらすじ


(C)2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

1985年フランスのノルマンディーの海辺。友人にボートを借りて海に出たアレックス(フェリックス・ルフェーヴル)は急な悪天候に転覆してしまいます。

そこに偶然ボートで通りかかったダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)に助けられました。ダヴィドはアレックスを家に招き母親に紹介しました。

ダヴィドの母親に気に入られたアレックスは、家業の店でアルバイトをすることになります。

そのことをきっかけに急速に仲を深めていったアレックスとダヴィド。その友情関係は次第に恋愛関係へと発展していきます。

アレックスにとっては初めての恋、一緒にバイクに乗りドライブしたり映画を観たり、幸せな瞬間を嚙み締めていました。

しかし、そんな幸せな瞬間も6週間しか続きませんでした。永遠の別れは突然訪れます。ダヴィドと交わした約束をアレックスは果たすことができるのでしょうか。

映画『summer of 85』の感想と評価


(C)2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

オゾン監督の原作とキャストへの思い

映画原作は、フランソワ・オゾン監督が17歳のころに読んで大いに影響を受けた小説「Dance on my Grave」で、長編映画を撮るときには第一作目はこの作品だと決めていたほどでした。

時間をかけ、ようやく映画化にこぎつけた本作。原作者のエイダン・チェンバースもその仕上がりに満足し、「オゾンが小説の神髄に沿ってくれたことが嬉しかった。変更は小説をふまえたものもあって、何なら小説より良くなっているものもあったほどだよ」と評しています。

主人公アレックス役を演じたのは、フェリックス・ルフェーヴル。リヴァー・フェニックスを思わせる幼さと憂いのある魅力に一目ぼれしたオゾン監督によってオーディションで選ばれました。

アレックスの初恋の相手ダヴィド役を演じたのは、バンジャマン・ヴォワザン。はじめは、アレックス役のオーディションを受けていたものの、「アレックスの視点からするとバンジャマンこそダヴィドだ」というオゾン監督のインスピレーションから起用が決定しました。

俳優だけでなく、脚本家としても活動する若手注目株の俳優のひとりです。

フェリックスとバンジャマンの相性ははじめのスクリーンテストからピッタリだったようで、活き活きとした演技の掛け合いを見せています。

他にも魅力的キャストが集結し、オゾン作品の『ぼくを葬る(おくる)』(2005)で共演した、メルヴィル・プポー、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキらが重要な役どころで本作にも出演しています。

盲目の恋を文学的美しさにのせて


(C)2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

初恋の美しさとあやうさを瑞々しく描き、青春のあの頃を経験した大人たちの誰もが切なさを募らせるだろう作品でした。

純愛のあまりに残酷で儚い、普遍的な一面を見事に描いています。

時に恋は人を盲目にします。特に、10代で経験する初恋はまわりが見えなくなるほど、熱く心を焦がすものです。

本作では、アレックスの燃えるような恋心が丁寧に描かれています。出会いの緊張感と止められないときめきと嫉妬。そして別れによる絶望。

この出会いから別れまでを、アレックスは物語として執筆することになります。

その語りとともに思い出を振り返る構成となっている本作は、文学的魅力も持ち合わせているのが見どころの一つだといえるでしょう。

「理想の友達」としてダヴィドのことを書き連ねる中で、アレックスは盲目の恋から少しずつ現実に目を向けるようになるのです。

また、アレックスを演じたフェリックス・ルフェーヴルの演技は、オゾン監督が言うようにリヴァー・フェニックスを思わせる色気と無邪気さが際立っていました。

狂おしいほどの恋心を抱えながらアレックスが執着した、ダヴィドとの約束についてのクライマックスシーンは必見。今後の彼の活躍に多いに期待したいです。

両親と友人の存在


(C)2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

ひと夏の恋物語として記憶に新しいのは、ルカ・グァダニーノ監督、ティモシー・シャラメ主演の『君の名前で僕を呼んで』(2017)ですが、そこでも両親との関係性が描かれていました。

年上の男性を好きになった息子を両親は受け入れ、そっと優しく包み込みます。特に、父親が傷ついた息子に贈る言葉が感動的です。

本作では、アレックスと彼の母親との会話がさりげなくポイントとなっています。また、父親との絶妙な距離感もアレックスの成長を描くうえで重要だといえるでしょう。

アレックスは16歳の少年で、子どもと大人の狭間にいるからこそ両親との関係が描かれるのは必然です。

設定は1985年ですが、その親子の絆や関係性は今と通ずるので多くの観客の心を揺さぶるのです。

また、本作でアレックスとダヴィドの関係に大きな影響を与えるのが、イギリス人のケイト(フィリッピーヌ・ヴェルジュ)です。

16歳のアレックスと18歳のダヴィドに対して21歳のケイトは、冷静に恋愛を見つめる視点を持っています。彼女がアレックスに本音で告げる言葉は、納得の一言でした。そこに恋の本質があると言っても過言ではないでしょう。

本作は、初恋の切なさだけでなく人生における喪失と再出発を描いた青春映画となっています。

まとめ


(C)2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

本作は、アレックスとダヴィドの衣装やバイクなど、赤と青のコントラストが夏の港町に美しく映えています。

そして、80年代の音楽とフィルム撮影によるざらついた質感は、ノスタルジックな感覚に観客を引き込むことでしょう。

夏になると本作のことを思い出すような、そんな作品となっています。公開時期もぴったり夏真っ盛りなので、ぜひスクリーンで夏を感じてみてはいかかでしょうか。

『summer of 85』は2021年8月20日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ニューヨーク 親切なロシア料理店』あらすじと感想評価。ゾーイカザンらキャストの演技力が光る感動作

映画『ニューヨーク 親切なロシア料理店』は2020年12月11日(金)公開。 2020年12月11日(金)より、映画『ニューヨーク 親切なロシア料理店』が、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBI …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】異人たち|考察ラスト結末と感想評価。リメイク映画化でアンドリュー・ヘイ監督が孤独と向き合う男を描く

大林宣彦監督も映画化した山田太一の小説をアンドリュー・ヘイが映画化 映画『異人たち』は、『荒野にて』(2017)、『さざなみ』(2016)のアンドリュー・ヘイ監督が、山田太一の小説『異人たちとの夏』を …

ヒューマンドラマ映画

『アルジェの戦い』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。戦争映画の名作は実話実録のドキュメントタッチでベネチア金獅子賞に輝く!

ベネチア国際映画祭で金獅子賞に輝いた戦争映画の名作。 ジッロ・ポンテコルヴォが脚本・監督を務めた、1966年製作のイタリア・アルジェリア合作の戦争ドラマ映画『アルジェの戦い』。 1950年代初頭、フラ …

ヒューマンドラマ映画

『天間荘の三姉妹』ネタバレあらすじ結末と感想評価の考察。実写映画化した原作 高橋ツトムの漫画で描かれたを地上と天上の狭間にある“不思議な街”

現世に戻るか?天界へ旅立つか?魂の選択を求められる「天間荘」の物語 地上と天界の間に存在する街で、臨死状態になった小川たまえが出会う、さまざまな人との「魂の物語」を描いた映画『天間荘の三姉妹』。 20 …

ヒューマンドラマ映画

舞台版『アマデウス』を映画で鑑賞。ナショナル・シアター・ライブ2018は一見の価値あり

ナショナル・シアター・ライブ2018の『アマデウス』が、7月6日(金)より、TOHOシネマズ日本橋ほか公開。 モーツァルトに嫉妬心を抱いた宮廷音楽家サリエリは、果たしてモーツァルトを殺したのか? 映画 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学