「イタイね」「ヤバっ」「分かんない」「何のために生きてんの?」
「どこへ行けばいいの?」みな、迷子。
数々のトップアーティストのMVや、ブランド広告を手がけてきた映像クリエイターの丸山建志監督による初長編映画『スパゲティコード・ラブ』。
東京でもがく13人の若者たち。作り上げたキャラと本当の自分の間で行先を見失い、迷子のように泣き叫ぶ日々。「どこへ行けばいいの?」。
解読困難なプログラミングコード「スパゲティコード」のようにこんがらがった彼らの日常が、重なり結びつき進むべき1本の道へと繋がっていく。
エモーショナルな映像と若者たちのリアルな心情に共感度マックス。映画『スパゲティコード・ラブ』を紹介します。
映画『スパゲティコード・ラブ』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督】
丸山健志
【キャスト】
倉悠貴、三浦透子、清水尋也、八木莉可子、古畑新之、青木柚、xiangyu、香川沙耶、上大迫祐希、三谷麟太郎、佐藤睦、ゆりやんレトリィバァ、土村芳、冨田菜々風、蟹沢萌子、河口夏音、川中子奈月心、鈴木瞳美
【作品概要】
東京を舞台に13人の若者たちの物語が複雑に連鎖し絡み合う群像劇。監督は、満島ひかり出演で話題となったMONDO GROSSOMV「ラビリンス」を手がけた、映像クリエイターの丸山建志監督。
倉悠貴、三浦透子、ゆりやんレトリィバァ、満島ひかりなど多彩なキャストの共演と、物語のキーワードともなる、指原莉乃プロデュースの≠MEが歌う劇中歌「誰もいない森の奥で1本の木が倒れたら音はするか?」にも注目です。
映画『スパゲティコード・ラブ』のあらすじとネタバレ
ゲームセンターで泣き叫ぶ子供をきつく抱きしめる女。ここは、東京。ネオンの明かりが揺らめき、人々はまるで溺れているかのようです。
大森慎吾と綾瀬夏美は、ラブホテルでカレーを食べています。家をもたないアドレスホッパーな慎吾はこの暮らしを気に入っていました。財布とスマホがあれば十分。
「美人だと人生イージーモード」って言われるけど、簡単に手に入るものは簡単に無くなることを夏美は知っていました。モデルの仕事よりもパパ活の方が忙しい。
路上で歌っているのは、シンガーソングライターを目指す桜庭心です。元カレの慎吾が笑って通りすぎました。「なんで笑ったの?」。自分には音楽以外ないと思っていたけど、音楽もなかったって最近気付いた。
広告クリエイターの黒須凛は、承認欲求に捕らわれていました。自分は特別、価値のある人間。凡人になんかなりたくない。
フードデリバリー配達員の羽田天は、込み合う車の間を縫うように自転車で走り抜けます。追っかけていたアイドルグループの推しが突然の引退宣言。配達件数が1000件いったら、君を忘れるよ。
高校生の赤羽圭と千葉桜は、いつもの喫茶店でダラダラと時間を過ごしていました。圭は桜へ片思い中。桜は虚無感で死ぬことに捕らわれています。一生なんて怠い。
圭と桜が通う喫茶店の店員・剣持雫は、同僚からは省かれ上司には怒られてばかりです。でも私は幸せ。好きな人に尽くすことが何より私の生き甲斐だから。
カメラマンの氷室翼は、仕事がなくて焦っていました。コミュ力だけでここまでやってきたけど、25歳過ぎたら通用しないし。
翼とSNSで知り合った地方に住む高校生の小川花は、東京に出てカメラマンになりたいという夢があります。東京は夢を叶えられる場所。
中学生の宍戸一樹は、コンビニのイートインでライフプランを立てることに没頭していました。何歳で結婚して子供は何人、死ぬときは若い妻がいいな。何度書いても計算合わない。
一樹がいたコンビニのATMに駆け込む女がいました。渋谷桃子は失恋のショックでネット占いにハマりお金をつぎ込んでいました。彼と復縁できますよね。
桃子の隣の住人はピーナッツバターを止められない目黒梅子。隣から聞こえてくる桃子の声に「あほかっ」と悪態をついています。
理想と現実の狭間でもがく若者たち。一瞬だけよぎる「寂しい」という思いは絶望的に寂しくて、知らなくていい事ナンバーワンは自分自身だと諦め、嫌いなものの方が楽と好きなものを手放し、迷子の子供のように泣き叫ぶ心を抱えていました。
はやりのアイドルの曲は、「誰もいない森の奥で1本の木が倒れたら音はするか?」。この世界で自分の存在を認知して、自分の声に気付いてくれる人はいますか?
映画『スパゲティコード・ラブ』の感想と評価
東京を舞台に、生きることにもがく13人の若者たちが知らぬうちに出会い、複雑に絡み合いながら未来に向かっていく群像劇。
劇中に登場するアイドルの曲「誰もいない森の奥で1本の木が倒れたら音はするか?」が、物語のひとつのテーマになっています。
このタイトルの元は、アイルランドのバークリー主教の言葉だそうです。木は森の中で大きな音を出して倒れたかもしれません。しかし、気付いた人がいなければ音はしなかったも同然。
つまり、「存在=音」とは「認知」があって初めて成り立つものだということです。その認知が多ければ多い程、存在は確かなものになります。
まさに現代のSNSの世界を現している表現だと感じました。フォロワー数を増やすことで認証欲求が満たされ、そこに自分の存在意義を見出す。
SNSの世界で大勢のフォロワー数がいたとしても、自分の存在を本当に認知してくれる人は果たして何人いるのでしょうか。
映画では、家を持たないアドレスホッパー・慎吾が登場しますが、スマホと財布を無くしSNS上で助けを求めるも見向きされないシーンが特に印象に残ります。
SNSが主流の現代は多くの人と繋がっているようで、その関係性の希薄さに孤独を感じる瞬間があるかもしれません。
気持ちのこもっていない多くの「イイネ」より、心からのひとつの「イイネ」を大切に出来るリアルな人間関係の大切さを感じました。
物語の登場人物である13人の若者たちは、飾り立てた「キャラ」と本当の自分のギャップに疲れ、理想と現実の間で落ち込み、好きな事もやりたい事も分からない虚無感を抱え、何のために生きているんだろうと、もがいています。
若者に限らず映画を観た多くの人は、自分の姿を重ねてしまう登場人物がいたはずです。この物語はあなたの物語でもあります。
まとめ
数々のミュージックビデオやCMを手がけてきた映像クリエイターの丸山建志監督の初長編映画『スパゲティコード・ラブ』を紹介しました。
東京でもがく13人の若者の日常を追った群像劇。タイトルの「スパゲティコード」は、解読不可能なほど複雑に絡み合ったプログラミングコードを指す俗語から来ているそうです。
どんなに、もがき、こんがらがったとしても、生きることを止めない限り、自分の向かう先が明るく照らされる時が、きっと来ると信じたい。そう思える作品でした。