イ・ビョンホン主演『それだけが、僕の世界』が、12月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー。
伝説的スターであるイ・ビョンホン、超大型の若手俳優パク・ジョンミン、ベテラン女優ユン・ヨジュンが家族となり、観る者の胸を熱くさせるドラマを紡ぎます。
ユーモアと包容が織りなす家族ドラマ『それだけが、僕の世界』をご紹介します。
CONTENTS
映画『それだけが、僕の世界』の作品情報
【公開】
2018年(韓国映画)
【原題】
Keys to the Heart
【監督】
チェ・ソンヒョン
【キャスト】
イ・ビョンホン、パク・ジョンミン、ユン・ヨジョン、ハン・ジミン
【作品概要】
孤独に生きてきた兄と、母の愛情を一心に受けてきた弟。
全く異なる人生を歩んできた兄弟と、彼らを見守る母が音楽を通してつながっていくヒューマンドラマ映画です。
イ・ビョンホンがアクション俳優としての顔を封印し、しがない不器用なボクサーを熱演します。
同じく主演には、音楽や作詞などマルチな才能を持ち、韓国の新人俳優賞を総なめしたパク・ジョンミン。
『王の涙 イ・サンの決断』の脚本家チェ・ソンヒョンが、脚本と初監督を務めました。
ヒューマンドラマの傑作『国際市場で逢いましょう』の監督ユン・ジェギュンが製作を担当。
映画『それだけが、僕の世界』のあらすじ
かつては東洋チャンピオンだったボクサー・ジョハ(イ・ビョンホン)は、落ちぶれた今もボクシングを諦めきれず、ビラ配りをして生計を立てる毎日。
所属ジムでトラブルを起こし住む場所もなくなった時、彼は偶然母・インスク(ユン・ヨジュン)と出会います。
インスクはとある事情から夫と幼いジョハを置いて家を出ており、まともに会話するのは数十年ぶりでした。
ジョハは母に再会すると同時に、自分に弟がいることを知ります。
弟の名前はジンテ(パク・ジョンミン)。自閉症のため母と同居する彼は、ピアノに優れた能力を発揮するサヴァン症候群を持っていました。
行くところのないジョハはインスクに招かれ、3人での奇妙な同居生活を始めることとなります。
優しい母に見守られ、屈託のない純真さでジョハとの距離を縮めていくジンテ。
家族に反発しながらも、ジンテのピアノの才能にふれ、徐々に心を開くジョハ。
かつては捨てたジョハに、無償の愛を注ごうとするインスク。
ぎこちなくも一緒に歩む3人に、ある日、謎の女性ガユル(ハン・ジミン)が現れ、物語は思わぬ方向に動き出します…。
映画『それだけが、僕の世界』の感想と評価
韓国映画『それだけが、僕の世界』の見どころは、『王の涙 イ・サンの決断』の脚本を務めたチェ・ソンヒョン監督が、自ら脚本を書き上げた感動のヒューマンドラマを演じる俳優陣の確かな演技力の高さです。
主演を務めた実力派俳優イ・ビョンホンが演じた元ボクサーのキム・ジョハはじめ。
ジョハの自閉症である弟オ・ジンテ役を務めたパク・ジョンミン。
そして彼らの愛情を見せる母親役のユン・ヨジョン。
彼ら三人の掛け合いが、おかしみと愛しさに溢れる家族を作り上げました。
イ・ビョンホンが表現するジョハ役の多面性
ジョハは一人で生きてきたというプライドを持ちながら、心の中に傷ついた子供を抱える複雑な人物です。
本作はジョハがビラ配りをするシーンから始まります。
ジョハは作中で40歳と言及されますが、「こんなに軽快にチラシを配る40歳がいるのか」と観ていて驚くほどに熟練した動きを見せます。
もはや慣れきった仕事であり、日銭を稼ぐためと割り切りつつ、通行人が思わず受け取ってしまうよう動線に配慮しながら動きを工夫している・・・そんなジョハの心理がわずか1分の映像から全て見えてきます。
パク・ジョンミンはインタビューで「身振り、視線、声の揺らぎなどでニュアンスが変わる」とイ・ビョンホンへの尊敬の意を述べています。
母に向ける愛憎を視線で表現したり、隠しきれない優しさやひょうきんさが不意ににじみ出たりと、まさに細かなディティールでジョハの全てを語ってみせる、息を呑むほどの演技力です。
かつて『海洋天堂』で自閉症の子を持つ父親を演じたジェット・リーは、アクションスターの人生を全力で駆け抜けたゆえの優しい眼差しが印象的でした。
イ・ビョンホンの眼差しからも、やはり同じように深い情緒が感じられます。
パク・ジョンミンが達した表現者の極致
ジンテは自閉症でありながら、自意識をしっかり持ったしたたかな青年。時には兄をはじめ、周囲の人間を出し抜いて驚かせます。
物語の盛り上がりには必ず彼のピアノが登場します。
登場人物の感情の高まりに、彼の内的世界が重なり、広がり、新しい出会いを迎えていく演出が見事です。
何事にも伸び伸びと、曇りのない目で向かい合うジンテの愛らしさが、クラシック音楽に瑞々しい息吹を吹き込みます。
撮影の三ヶ月以上前からピアノの鍛練を重ね、作中全ての演奏シーンを吹き替え無しで演じきったパク・ジョンミン。
テクニックだけではない、音楽の真髄にふれた者の喜びに溢れた笑顔と表現力は必見です。
作中「彼のピアノの才能はサヴァンの表出に過ぎない」と評される場面がありますが、やはり彼はピアノを愛している、と確信させる彼の表情は観客に深い感動を呼びます。
ユン・ヨジョンが伝える母の強さ
ジョハへの罪悪感を抱えながら、二人の息子と暮らすのが嬉しくて仕方ないインスク。
彼女は正反対の生き方をしてきた兄弟をつなぎ、これからの道を示していく愛情深い母親として描かれます。
インスクの細くて小さな佇まいは、それまでの辛い過去や生活の過酷さを感じさせます。
ユン・ヨジョン自身も離婚を経験し、世間の目に耐えながら我が子のために女優業を続けた過去を持っています。
恐らくインスクの生き方に、ユン・ヨジョンが自らを重ねた部分もあったかもしれません。
愛情に満ちた母親だからこそ味わわなければいけなかった苦しみ。引き替えに得た、息子達との交流。
その交流は楽しいことばかりではなく、またインスクも過去の苦しみを全て乗り越えたわけではありません。
乗り越えられないけれど、立ち止まってはいられない母としての力、息子にすべてを渡そうとする姿が、観る者に優しくも重い爪痕を残します。
まとめ
3人の名優を見事にまとめ上げた監督チェ・ソンヒョンは、なんと本作が初監督作品です。
人生の哀しみと喜び、人と人が出会う奇跡をユーモアたっぷりに描いた本作は、重厚なドラマでありながら、全編を通して温かさを感じられる傑作。
韓国映画2018年の一年の総決算としてふさわしい映画ではないでしょうか。