『スケート・キッチン』は2019年5月10日(金)より渋谷シネクイントほかにてロードショー!
実在するガールズスケートクルー「スケート・キッチン」のキャスト起用で大きな話題となった映画『スケート・キッチン』。
ドキュメンタリー映画「The Wolfpack(原題)」で知られる気鋭の女性映画監督であるクリスタル・モーゼルが制作した本作。
スケーターとして生きる少女たちの日常、そこに潜む等身大の悩みを描いた青春の物語です。
映画『スケート・キッチン』をご紹介します。
映画『スケート・キッチン』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Skate Kitchen
【脚本・監督】
クリスタル・モーゼル
【キャスト】
スケート・キッチン(カブリーナ・アダムズ/ニーナ・モラン/ジュールス・ロレンゾ/アーディーリア・ラブレス/レイチェル・ヴィンベルク/アジャ ニ・ラッセル/ブレン・ロレンゾ)、ジェイデン・スミス、エリザベス・ロドリゲス
【作品概要】
2011年よりMiu Miuが開始したプロジェクト「Miu Miu Women’sTales」(Miu Miu【女性たちの物語】)の1本として、クリスタル・モーゼル監督自身が発表した短編『That One Day』(2016)を基に作られたのが本作です。
モーゼル監督は本作によって、第28回ゴッサム賞ブレイクスルー監督賞にノミネートされました。
出演しているメインキャストの女の子たちは、実在するガールズスケートクルー「スケート・キッチン」のメンバー。ちなみにクルー名は、「女性はキッチンにいるべきだ」という固定観念を打破すべく結成されたことから由来しています。
またメインキャスト唯一のプロ俳優であり、主人公の少女・カミーユが恋する少年・デヴォンを演じたのはジェイデン・スミス。ウィル・スミスの息子であり、『幸せのちから』(2006)『地球が静止する日』(2008)『ベスト・キッド』(2010)で知られる人気若手俳優の1人です。
映画『スケート・キッチン』のあらすじとネタバレ
ニューヨーク郊外。そこに暮らす17歳の内気な女の子・カミーユは、スケートボードに熱中していました。
けれども、スケートボード中に怪我してしまったことを理由に、母親からはスケートを止めるように言われてしまいます。
そんなある日、彼女はSNSを通じて「スケート・キッチン」と呼ばれる女の子たちだけのスケートクルーの存在を知ります。そして母親には内緒で、そのクルーがSNS上で参加を呼びかけていた“女子会”へと参加することにしました。
クルーのメンバーであるカート、ジャネイ、ルビー、インディゴらの「ノリ」に最初は戸惑いつつも、クルーの一員として彼女たちとの仲を深めてゆくカミーユ。
しかし、門限に厳しい母親との電話、或いは会話そのものが、彼女を現実を引き戻します。
時にはスケートボードを没収されてしまうようなこともありましたが、クルーのメンバーや同じスケート場で滑る男子がスケートボードの自作を手伝ってくれたりと、カミーユは何とかスケートを続けることができていました。
ところがある日、スケート場に母親が訪れてきてしまったことで、ついにカミーユは母親と喧嘩し、母親との生活に我慢で気なくなったカミーユは家出してしまいました。
クルーの一員であるジャネイの家に身を寄せたカミーユ。心が落ち着いた彼女は、母親との関係、現在別居している父親との関係、そして、離婚と父親との暮らしによって気付かされた“母親”という存在の重要さをジャネイに語りました。
家出生活を始めたカミーユはその後、「スケート・キッチン」と男子のスケートクルーとの間で起きたナワバリ争い、バイト先のスーパー・マーケット、そして「スケート・キッチン」加入前に抱いていたかつての孤独感を再び味あわされたナイトクラブで、スケートとカメラを生きがいにしている男子・デヴォンと出会います。
彼のカメラ撮影に付き合うなど、二人で過ごす時間が多くなってゆくカミーユとデヴォン。
そんな中、ジャネイがスケート中に足首を捻挫してしまい、しばらくの間クルーでの活動ができなくなりました。
映画『スケート・キッチン』の感想と評価
本作の主人公である17歳の少女・カミーユは、同世代の少年少女らの“性”、両親の“性”、そして何よりも、自分自身の“性”について戸惑い、悩み続けています。
それまで男子のように振舞い過ごしてきたカミーユは、両親が離婚した際、父親と共に暮らすことを選択します。しかし、第二次性徴期に伴う肉体の“女性”への変化に悩み、その悩みを理解することができない父親との暮らしに限界を感じたことで、父親との別居を決意しました。
そして、カミーユは「“母親”という存在が必要だった」という理由から、離婚後は年の一回会うことすら嫌がっていた母親と共に暮らし始めたのです。
それは、“男性”ゆえに理解できないもの/“女性”ゆえに理解できるものが存在すること、それがカミーユという一人の少女の“性”の捉え方、或いは“性”そのものに大きな影響を与えていることを端的に示しています。
また、カミーユの両親が離婚した原因は劇中において明確には明かされていませんが、同世代の少年少女らが躊躇うことなく“性”を露わにする姿に少なからず嫌悪感を抱いてしまうことからも、両親の離婚にもまた“性”の問題が絡んでいるのは明らかでしょう。
やがて、カミーユはデヴォンという一人の少年に恋したことをきっかけに、自身が持つ“女性”を強く意識し始めたものの、それがあくまで成熟し始めたばかりのものであったために、スケーター仲間の女子たちとの軋轢をも生んでしまいます。そして自身の持つ“女性”が未熟であることを、“男性”を持つデヴォンから突き付けられ、深く傷付いてしまうのです。
映画『スケート・キッチン』は、一見するとスケートクルーとして活動する少女たちの、クールでスタイリッシュな青春映画のように受け取れます。
しかしその中身は、一人の少女が自身の持つ“女性”を自覚し、自覚したことで失恋という名の傷を負い、傷を負ったことでその先に残った友情に気づくという、青くて苦い、けれど多くの人々が共感するであろう“性”の成長を描いた物語です。
そしてモーゼル監督は、男社会であるスケーターの世界で活躍するガールズスケートクルー「スケート・キッチン」のメンバーたち、つまりは誰よりも“男性”と“女性”を意識して生きている少女たちをキャスト起用することで、「“性”の成長」というテーマを、淡々と、しかし丁寧に描くことができたのです。
まとめ
スケーターの日常をクールでスタイリッシュな映像によって映し出しながらも、一人の少女が持つ“性”の成長という共感性の高いテーマをスケートという“性”を強く意識させられる世界を舞台に描いた映画『スケート・キッチン』。
スケーター映画として楽しむことはもちろん、青くて苦い、それでもキラキラと輝いている青春を観られる映画としても楽しめる作品です。
映画『スケート・キッチン』、ぜひご鑑賞ください。