映画『静謐と夕暮』は池袋シネマ・ロサにて2022年1月8日(土)〜1月14日(金)1週間限定レイトショー上映!
映画『静謐と夕暮』は、梅村和史監督が京都造形芸術大学映画学科・2019年度卒業制作として手がけた作品で、2020年の第44回サンパウロ国際映画祭でも上映されました。
本作は梅村監督が脚本・撮影・音楽などを兼任し、プロデューサー・録音・照明等を唯野浩平、主演の山本真莉もスタッフとして参加しており、3人のみで制作されています。
舞台は電車が往来する鉄橋の下にある川辺と、主人公のアパートとアルバイト先、そして……。
写真家の男が川辺に向けてカメラを構えると、咳き込みあきらかに衰弱してる老人に、若い女性がやってきて、原稿用紙の束を渡して去っていく様子をみます。
翌日、再び写真家が川辺に行くと、その原稿を読む人物を目撃します。そこにはいったい何が書かれているのか、なぜ彼女は原稿を書く必要があったのか……。
映画『静謐と夕暮』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【英題】
Silence and Sunset
【監督・脚本】
梅村和史
【キャスト】
山本真莉、延岡圭悟、入江崇史、石田武久、長谷川千紗、梶原一真、仲街よみ、野間清史、ゆもとちえみ、栗原翔、和田昂士、岡本大地、石田健太、福岡芳穂、赤松陽生、吉田鼓太良、南野佳嗣、鈴木一博、中山慎悟
【作品概要】
梅村和史監督は短編映画『つたにこいする』(2018)で監督デビューし、本作が長編映画の初監督作品となり、第44回サンパウロ国際映画祭・新人監督コンペティションにノミネートされました。
主人公カゲ役の山本真莉、写真屋役の延岡圭悟はともに京都芸術大学とのコラボ作品である、福岡芳穂監督映画『CHAIN チェイン』に出演していて、その福岡芳穂監督が“市場のおじさん役”でカメオ出演しています。
川辺の老人役は、映画俳優や声優として活躍する入江崇史が務め、自転車の男役には俳優だけではなく映像系などマルチに活動中の石田武久が務めます。
映画『静謐と夕暮』のあらすじ
写真家の男が川辺を歩いていると、そこで生活しているとみられる老人に、原稿用紙の束を渡す若い女性の姿を目にします。老人は激しく咳きこみ衰弱しているように見えます。
翌日、再び男がその場所に行くと、その原稿を読んでいる女性がいてそこには、昨夜の女性が書き溜めたと思われる、この川辺の街での日常がしたためられていました。原稿では自分のことを“カゲ”と称しています。
ある日、カゲがいつものように川辺にやってくると、そこには黄色い自転車が止めてあり、川辺には見知らぬ男が座っています。
そして数日後、カゲの住んでいるアパートの隣室に、黄色い自転車の男が引っ越してきます。彼は夜な夜なピアノを弾き、カゲはその音色に幼い頃の記憶を夢にみます。
翌朝、部屋の戸に手紙が挟まり、焼き菓子の入った箱があります。カゲは焼き菓子の礼なのか返事を書いて、男の家の戸に挟みます。
すると次の日にその返事が……次第に男のことが気になりはじめたカゲは、黄色の自転車で出かける彼の後をつけていくことにしますが……。
映画『静謐と夕暮』の感想と評価
映画『静謐と夕暮』は卒業制作ということもあり、公式HPに掲載されているイントロダクションからは梅村監督が縁のある人物に本作を捧げているのではと読み取ることができます。
また梅村監督をはじめ、本作に携わった唯野浩平と山本真莉は上映に際し、鑑賞後には個々にある“記憶”や“思い出”に、何か感じる部分があってほしいという願いを語っています。
タイトルになっている「静謐」の意味のごとく、早朝や深夜の静けさ、「夕暮」のような安らぎ感が作品全体に流れます。
しかし、それは昼間の喧噪の中では忘れ去られた時間であり、逆に人にとって忘れてはならない大切な時間帯でもあります。つまり、それらの時間を“記憶”に置き換えているようにも思えます。
主人公のカゲがピアノの音色や夏草のそよぐ音、鉄橋を走り抜ける列車の音、また音だけではなく匂いや味から忘れかけた記憶を思い出していく場面があります。まさにそれと同じように本作には、ある種のサブリミナル効果のようなものを感じます。
例えば、映像からは“匂い”はしてきません。ところが風がそよぎ夏草が揺れ、光が反射し川面が揺れ、突然の雷雨などの視覚から与える効果は、匂いの記憶を引き出します。
あたかもそこにいるように、草や川、雨上がりの土の匂いなどが、フワッと感じるのです。
すると不思議なことに、この映画の物語が登場人物のことを描いたものではなく、自分の思い出話のごとく、記憶とすり替わっていくのを感じていきます。「これはもしかしたら、監督や制作スタッフ達の術中にまんまとはまったのか?」と驚きを隠せません。
もし脚本に個人的な思い出や感情・感傷が込められていたとしても、その枠を飛び越え各々の解釈や感想に委ねられる作品です。
極端にセリフが少なく、同じシチュエーションが繰り返されるのが、サブリミナル効果だとすれば、ラストシーンでようやく転調し、現実をみつめ直す時間といった感じです。
それが“136分”……サブタイトル「136分、記憶の旅」という意味合いに通じていきます。長いと感じるのか、まだまだ足りないと思うのか……蓄積された“記憶”の量によるかもしれません。
映画としては稀代な作品で、観る者を選んでしまう類ではありますが、若年の監督が描いた作品でありながら、“悟り”を感じさせるという面において、その才能が存分に発揮された渾身作です。
まとめ
梅村和史監督・脚本作品『静謐と夕暮』は、河瀨直美監督作品『あん』(2015)、是枝裕和監督作品『そして父になる』(2013)、『海よりもまだ深く』(2016)が賞を獲得するなど、近年では重要な映画祭と位置付けられるサンパウロ国際映画祭で新人監督コンペティションにノミネートされました。
それを反映するかのように、梅村監督は国内の映画関係者からも高く評価され、大きな注目を集めています。
主人公のカゲが原稿に綴った日常の出来事が、物語となって描かれ進んでいく本作。
夏草の色が強烈な印象を与えながら、日常の風景や音がさりげなく通り過ぎていく映像が、その場所がどこであろうが、自分の記憶の中の風景になじみ、郷愁や哀愁に似た気持ちにさせてくれる作品です。
映画『静謐と夕暮』は、2022年1月8日(土)から1月14日(金)の1週間限定で、池袋シネマ・ロサにてレイトショー上映されます。