是枝裕和監督が構想8年をかけた国際共同作『真実』
是枝裕和監督の映画『真実』は、2019年10月11日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国で公開。
「家族とはなにか」をテーマに置いた『万引き家族』(2018)で、第71回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督。
8年の構想、映画界の至宝カトリーヌ・ドヌーヴを迎え、環境の変わるフランスで10週間の撮影期間をかけた是枝裕和監督の映画『真実』をご紹介します。
映画『真実』の作品情報
【公開】
2019年(日本・フランス映画合作)
【原題】
La Verite
【監督】
是枝裕和
【キャスト】
カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディビィーヌ・サヌエ、クレモンティーヌ・グルニエ、マノン・クラベル、アラン・リボル、クリスチャン・クラエ、ロジェ・バン・ロールほか
【作品概要】
パルムドール受賞監督、是枝裕和監督の自身初の国際共同製作となる長編作品です。
本作品は2011年から企画を始め、構想に8年かけ実現した是枝監督の野心作となっています。
『シェルブールの雨傘』(1964)、『ロシュフォールの恋人たち』(1967)を始め、数多くの作品に出演し、様々な映画賞を受賞してきた映画界の至宝カトリーヌ・ドヌーヴが、是枝監督の書き上げたオリジナル脚本に惚れ込み主演女優として出演を快諾。
また、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)でアカデミー賞受賞し、『ショコラ』(2000)で再びオスカーノミネートをした演技派女優のジュリエット・ビノシュ、アカデミー賞ノミネートの経験を持つ演技派俳優のイーサン・ホークが脇を固めています。
世界最高の役者と是枝監督によって紡がれるヒューマンドラマは、日本人監督初となる、ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門オープニング作品に選出されました。
映画『真実』のあらすじとネタバレ
フランスの国民的大女優であるファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は自伝を出版のため、パリの自宅で取材を受けていました。
そこに出版祝いを理由として、ニューヨークで脚本家をしている娘のリュミエール(ジュリエット・ビノシュ)、テレビ俳優として売れ始めた夫のハンク(イーサン・ホーク)、7歳になる娘のシャルロット(クレモンティーヌ・グルニエ)の3人が訪ねてきます。
3人を出迎えたのは、長年ファビエンヌの秘書を務めるリュック(アラン・リボル)と現在のパートナーで料理担当をしているジャック(クリスチャン・クラエ)でした。
事前にリュミエールに原稿を見せる約束をしていたことをファビエンヌに尋ねますが、ファビエンヌは「送ったわよ。きっと入れ違いになったんだわ。」と平気で嘘をつきます。
ちょうどそこへ、出版社から刷り上がった自伝本が届きます。そのタイトルは「真実」でした。
一晩で「真実」を読み終えたリュミエールは、翌朝、本の内容は事実とあまりにもかけ離れていることをファビエンヌに問い詰めます。しかし、ファビエンヌは「事実なんて退屈だわ。」と相手にしませんでした。
さらに、リュミエールの怒りに触れたのは、ファビエンヌのライバルであり、母親の代わりをしていた女優サラのことについて書かれていないことでした。
サラの名前を聞き、ファビエンヌは顔を曇らせますが、変わらず相手にしませんでした。
怒りが収まらないリュミエールは、リュックに怒りをぶつけます。
リュックは、ファビエンヌはサラが亡くなってからずっと彼女を意識していたこと。撮影中の映画『母の記憶に』もサラの再来と評判の新鋭女優マノン(マノン・クラヴェル)が主演として出演しているから、引き受けたことをリュミエールに説明します。
そんなファビエンヌのことを全て理解しているリュックが、自伝に自分のことが一行も書かれていなかったことから「人生を否定された気分だ」と言い、リュミエールにファビエンヌの世話を任せ、突然辞職してしまいます。
リュックが辞職したことで、リュミエールはファビエンヌの撮影に付き添うことになります。
久しぶりにスタジオにやってきたリュミエールは「こんなに小さなスタジオだったかしら」と尋ねます。
ファビエンヌは「記憶なんて当てにならない、時が進むごとに変わっていくもの」とリュミエールに言います。
映画『母の記憶に』は、難病の治療のため地球にいられなくなった母親が、娘と7年ごとに会うという内容で、母親は宇宙空間に住んでいるため歳を取らないという設定です。
そのSF映画の晩年の娘役をファビエンヌは引き受けていました。
しかし、ファビエンヌは老いと自身の年齢を感じさせる役に不満と不安を抱いていました。
翌朝、ファビエンヌの元夫でリュミエールの父ピエール(ロジェ・バン・オール)が訪ねてきます。
ピエールは自伝への出演料を貰ってもいいだろうとリュミエールに言いますが、リュミエールは「パパはもう死んだことになってるわよ」と教えます。
その夜、久しぶりに集まった家族で食事をします。しかし、そこでファビエンヌとリュミエールは大喧嘩をしてしまいます。果てにリュミエールは「サラの娘に生まれればよかった」と言ってしまいます。
映画『真実』の感想
“真実”が明らかになっていく構成
『万引き家族』に続く今作『真実』においても、「家族とはなにか」、「演じるとは何か」に焦点を当てた作品です。
是枝監督は劇場公開用のパンフレットに以下のような記述があります。
「家族を家族たらしめるものは、真実なのか、それとも嘘なのか?残酷な真実と優しい嘘のどちらをあなたは選ぶのか?」
「演技はある種の”嘘”のようにも思われがちだが、自分にとってはむしろ”真実”に属するもの、というジュリエット・ビノシュの演技哲学に耳を傾けた」
本作品『真実』では、母と娘のぶつかり合いから、“真実”が明らかになっていくという構成がとられています。
例え、血の繋がった家族であっても、話し合うことなしに全てを理解することはできないのです。
家族といえども、互いの「真実」の見え方は違うので、口論し、感情をぶつけ合うことで、物事を多角的に見て、真実の共有をするということが大切なのでしょう。
カトリーヌ・ドヌーヴ×是枝裕和の化学反応
見どころの1つは、やはりカトリーヌ・ドヌーヴの演技力にあります。
映画界の至宝と言われる世界的大女優カトリーヌ・ドヌーヴが、作中の国民的大女優ファビエンヌを演じるという、メタ的構造に伴い、とても自然に、そして存在感あふれるものとなっています。
ドヌーヴとファビエンヌの共通点も多くみられるため、その点も非常に面白いです。
その意地が悪く、毒がある言い回しにもかかわらず憎めない演技は、2018年に亡くなられた樹木希林にとても似ているとすら感じました。
さらに、是枝監督の手腕も、やはり、もう1つの作品の見どころでしょう。
場所が変わり、関係者の人種も変わった環境で撮影された今作ですが、是枝監督らしさは全く変わっていないものでした。
出演している俳優の方々が、とても自然に伸び伸びと演技をしている様子や、無駄のない美しい構図のショットの数々、フィクションの中にリアリズムを巧く落とし込む物語の構成、可愛らしい子役の撮り方など、その是枝監督の手腕に感嘆しました。
特に、秋の始まりから冬の訪れ、嘘で隠されていた“真実が現れていく様子”、母と娘の間に存在していた問題が解決されていく様子を説明する、落葉によって、木の本来の姿が露わになる場面を段階的に見せて行く編集の巧さ。
そして「記憶は時と共に変わってゆくもの」、「臆病ライオンの気持ちがわかるから、ライオンを演じるのは上手かった」といったセリフが印象に残っています。作品に引き込まれ、気づけばホロリと涙が落ちている、そんなとても素晴らしい作品でした。
まとめ
是枝裕和の演出と、カトリーヌ・ドヌーヴの演技による化学変化を見せた『真実』。
貧困、擬似家族のような重厚な社会的テーマを扱った前作『万引き家族』とは違い、『真実』は、身近で、とても人間らしく、美しく、観賞後に爽やかな感動を生む作品です。
そのテーマは、とても身近すぎて見落としがちですが、改めて考えさせられました。
これからも是枝監督の活躍から目が離せません。