映画『詩人の恋』は11月13日より、新宿武蔵野館ほか全国順次上映公開!
『息もできない』『あゝ、荒野』で一躍人気を博した、ヤン・イクチュン主演の映画『詩人の恋』。夢見がちな主人公が真実の愛を知り、愛や夫婦について考えさせられる、繊細かつ、美しい作品。
冴えない詩人のテッキは妻ガンスンが妊活を始めたことにより、生活に変化が現れ始め、子供が欲しいと願う妻との夫婦のあり方、関係性について考えはじめていく…そんな最中に出会ったドーナツ屋の店員セユン。
若くて美しいセユンに対し、恋心なのか同情なのかわからない感情を抱き戸惑うテッキ。次第に関係は複雑になり、三角関係へともつれていく。
演出は本作が長編初作品となるキム・ヤンヒ。テッキの妻ガンスン役に『名もなき野良犬の輪舞(ロンド)』のチョン・ヘジン、青年セユンに Netflixオリジナル韓国ドラマ「恋するアプリ LOVE ALARM」のチョン・カラムが演じています。
映画『詩人の恋』の作品情報
(C)2017 CJ CGV Co., Ltd., JIN PICTURES, MIIN PICTURES All Rights Reserved
【公開】
2020年(韓国映画)
【原題】
The Poet and the Boy
【監督・脚本】
キム・ヤンヒ
【キャスト】
ヤン・イクチュン、チョン・ヘジン、チョン・カラム、キム・ソンギ
ン、パン・ウニ、ソン・イナン、ペク・ジウォン、キム・ジョンス、キム・ジョンス
【作品概要】
監督を務めるキム・ヤンヒは短編で監督デビューを果たし、映画賞で受賞、その後助監督などを経て本作が長編デビュー作となりました。本作は第30回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門にて上映されました。
また、詩人役を演じたのは『息もできない』で長編映画監督デビューを果たし、監督・主演だけでなく製作・脚本・編集までも手がけ、国内外での数々の賞に輝いたヤン・イクチュン。
詩人が惹かれた若い青年役にはNetflixオリジナル『恋するアプリ LOVE ALARM』(2019)に出演し、話題となったチョン・カラム。他の出演作に『毒戦 BELIEVER』(2018)、『感染家族』(2019)など。
映画『詩人の恋』のあらすじと
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スランプに陥っている詩人のテッキは小学校で詩の授業を教えるも給料は少なく、妻のテンジンに養ってもらっていながら、平凡な毎日を過ごしていました。
しかし、妻が子供が欲しいと言い出し、妊活を始めることに。結婚していない時は早く結婚さえできればいいと思っていたのに、欲張りだよね、という妻に対し、テッキはあまり乗り気ではありません。
2人で病院に行くと、テッキは乏精子症と診断されます。
詩の創作も上手くいかず、精をつけるようにとプレッシャーを与える妻に困っていたテッキは妻が買って来たドーナツを食べ、そのドーナツ店に通い詰めるようになります。
ある日、ドーナツ店で詩の創作をしていたテッキは店員の若い青年・セユンが呟いた言葉がきっかけで詩が思い浮かびます。そして次第にセユンのことが気になり始めます。
ある夜、酔い潰れて外で寝ていたセユンを見かけ、家まで送りに行ったテッキは、セユンが貧乏で苦労していることを知ります。セユンに対して自分が抱いている感情は恋心なのか、それとも同情なのか…自分でも分からず戸惑うテッキ。
そんなテッキの様子の変化に気づいていた妻テンジンはテッキの手帳を見て、帰宅したテッキに問いかけます。
「恋しているの?」「好きな女の子でもできた?」
「浮気ではない、相手は年下の男の子だし、かわいそうだから助けているだけだ」そう答えつつもテッキは動揺していましたが…。
映画『詩人の恋』感想と評価
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本作『詩人の血』は全編を通し、揺れ動く主人公テッキの感情を詩にのせて語る手法で、映画の繊細で美しい世界観を作り上げています。
テッキが小学生に詩の授業をした後、1人の生徒にどうやったら詩人になれるのかと問いかけます。
その質問に対し、そのままでもなれると答え、更に「詩人は代わりに泣いてあげる人だ。悲しみを抱える人々のために、代わりに泣くのが詩人だ」と言います。すると、生徒は「それじゃあ詩人が悲しい」と答えます。
テッキは少し寂しそうな顔をしながら「平気だ、悲しみは詩の材料だから」と、まるで自分に言い聞かせるようにいいます。それはテッキの自分の感情を抑えるためのものだったのか、それとも今までずっとそうしてきたのでしょうか。
セヨンに惹かれていくテッキの感情は恋なのか、同情なのか本人にも分からず、他人はもちろんのこと妻であるテンジンにも理解されません。
しかしそんな明確な感情ではないのかもしれません。真実の愛とは必ずしも定義化出来るものではありません。でも確かにテッキとセヨンは〝特別な時間〟を共にすごした〝特別な関係〟でした。
そんなテッキに対し、しきりにテンジンは「錯覚しているだけ、それは愛じゃない」「あなたは何も分かっていない」と言います。
テッキにとってはそれは自分の感情を知ろうともせず、非難するだけに見えたかもしれません。しかしそれはテンジンにとっての、テッキへの愛だったのかもしれません。
夜の営みも少なく、テンジンにただ養われているだけの関係、セヨンと出会い、セヨンに対しての感情に目覚めたテッキは本来の夫婦のあり方と違うのではないかと思っています。
しかし、テンジンにとってはそれでも夫婦でありたい、だからこそセヨンへの気持ちは愛じゃないと否定し、自分こそ本来の家族だと訴えようとしていたのでしょう。
この映画に描かれている三角関係、それぞれの感情は一見歪に見えるかもしれません。けれどそれぞれがそれぞれの〝愛〟の形なのです。
真実の〝愛〟は測れるものでも、定義できるものでもないのです。この映画を通して、〝愛〟とはなんだろうと考えずにはいられません。
まとめ
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自然豊かな済州島を舞台に、真実の愛を知っていく詩人の詩的で繊細な恋模様と、いがみ合いながらも、子供を生み育てていこうとする夫婦のあり方を訴えかける物語が交錯し、織り成す本作は様々な人々の心に届くでしょう。
〝真実の愛〟〝夫婦のあり方〟どちらも正解はなく、人はその答えを見つけようともがきます。そんな人々の繊細な心を長編映画デビューのキム・ヤンヒ監督が時に詩的に、時に現実的に厳しく描き上げていきます。