全米最大のTV局FOXニュースを揺るがせた女性キャスターのセクハラ騒動の全貌が明らかに!
2016年に、アメリカで視聴率1位を誇るニュース放送局「FOXニュース」で実際に起きたセクシャルハラスメント事件を題材にした映画『スキャンダル』。
シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーの豪華共演が実現! ジョン・リスゴーがFOXニュースのCEOロジャー・エイルズに扮しています。
第92回アカデミー賞では、カズ・ヒロがメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しました。
映画『スキャンダル』の作品情報
【公開】
2020年公開(アメリカ映画)
【原題】
bombshell
【監督】
ジェイ・ローチ
【キャスト】
シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、ジョン・リスゴー、ケイト・マッキノン、コニー・ブリットン、マルコム・マクダウェル、アリソン・ジャネイ
【作品概要】
2016年に起こったアメリカのケーブルテレビ局FOXニュースにおける女性キャスターへのセクハラ騒動をシャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーという豪華共演で映画化。
脚本は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』でアカデミー賞脚本賞を受賞したチャールズ・ランドルフが手掛け、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』のジェイ・ローチが監督を務めた。
第77回ゴールデン・グローブ賞主演女優賞【ドラマ部門】ノミネート(シャーリーズ・セロン)、助演女優賞ノミネート(マーゴット・ロビー)
第92回アカデミー賞主演女優賞ノミネート(シャーリーズ・セロン)、助演女優賞ノミネート(マーゴット・ロビー)、メイクアップ&ヘアスタイリング賞ノミネート(カズ・ヒロほか)
映画『スキャンダル』あらすじとネタバレ
メーガン・ケリーはアメリカのケーブルテレビで視聴率No.1を誇るFOXニュースのアンカーウーマンで、人気実力と共にトップに君臨していました。
彼女は、共和党の大統領候補者の討論会の進行係を務めた際、ドナルド・トランプの女性問題に踏み込み、トランプの怒りを買います。トランプはその夜、十数回もツイッターを更新し、メーガンを批判しました。その後、メーガンはトランプの狂信的支持者からの憎悪に悩まされることになります。
朝のニュースの顔として活躍してきたベテランキャスター、グレッチェン・カールソンは、番組を降板させられ、昼の視聴率の低い番組のキャスターに甘んじていました。
原因ははっきりしていました。FOXニュースのCEOロジャー・エイルズからのセクシュアルハラスメントに抵抗したせいでした。
彼女の下で働くケイラ・ポスビシルは、スターキャスターを目指しており、グレッチェンを尊敬しながらも彼女に見切りをつけます。
ある日、軽い気持ちでロジャーに挨拶に行くと、彼は彼女をメインキャスターにすることをチラつかせながら、スカートを持ち上げることを強要しました。ロジャーは「忠誠心」という言葉でケイラにせまり、ケイラは断ることができず言われるままにスカートをたくしあげました。
動揺したケイラは仲のいい同僚で、実はレズビアンで民主党支持者のジェスに相談しようとしますが、彼女は状況は理解してくれますが、「あなたのためにも私を巻き込まないで」と警告します。
2016年5月。メーガンは一年以上続いたトランプとの確執にピリオドを打つため、トランプと手打ちします。
ケイラはその後も忠誠心という名のセクハラを続けるロジャーを拒めず、その代償としてキャスターの地位を手に入れます。
一方、グレッチェンは番組終了後に呼び出され、クビを言い渡されます。グレッチェンは弁護士に電話をし、ロジャーをセクハラで訴えることを決心します。
グレッチェンがロジャーを訴えたことがメディアでセンセーショナルに報じられ、メーガンもケイラも自身の体験を思い動揺します。
メーガンはすぐにロジャーを擁護しセクハラなどないと番組で発言するよう指示を受けますが、彼女は沈黙を貫きます。人々はメーガンが契約更改の最中なので、契約金を釣り上げるために黙っているのではないかと噂しました。
グレッチェンは必ず自分以外の女性からも声があがるはずと踏んでいましたが、FOXニュースの女性たちは躊躇していました。
映画『スキャンダル』の感想と評価
アメリカのFOXニュースのCEOロジャー・エイルズに対するセクハラ訴訟は、2017年10月に始まったハーヴェィ・ワインスタインによる過去のセクハラ暴露騒動とその後の「#MeToo」運動の先駆けとなったものです。
まだ数年しかたっていない実際の出来事をこれほどスピーディーにエンターティンメント作品に仕上げるのはアメリカ映画ならではの強みでしょう。テーマを深めるため映画オリジナルな登場人物も付け加えられていますが、ほとんどが実在の人物をモデルにしており、事実に忠実に描かれています。
被害者のグレッチェン・カールソンは、ロジャー・エイルズと和解する際、過去の詳細を語らないという条件を飲みました。しかし、この事件をもっと世間にしらしめなければならないと考えた人物がいました。
アダム・マッケイ監督のリーマンショックの裏側を描いた映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』の脚本家・チャールズ・ランドルフです。
『マネー・ショート』は、ときにトリッキーな方法をとって、難しい経済問題を素人が見てもわかりやすいように解説していましたが、本作でも、冒頭、FOXニュースをはじめ、アメリカ保守派陣営の大半が入るビルを、シャーリーズ・セロン扮するFOXニュースの看板キャスター、メーガン・ケリーに歩かせ、案内人として映画の背景をわかりやすく説明してくれます。
FOXニュースは、メインキャストのひとり、マーゴット・ロビーが扮する女性の家族がそうであるように、一日、つけっぱなしにして観ている家庭も多いという保守層に圧倒的な人気があるチャンネルです。
トランプ大統領がまだ大統領候補だった際には、FOXニュースは決して彼を応援していなかったという事実に驚きますが、なによりもFOXニュースという職場で働く女性たちの実態が克明に描かれています。
ロジャー・エイルズは、保守層の男性視聴者にアピールするために、女性たちには、パンツでなくスカートをはくよう、しかももっと短いスカートをはくよう促し、カメラマンには脚線美をアピールするように映せと徹底的に指導していました。
また、女性の権利問題に直面すると男性から「君たちはフェミニストなのか?」と問われ、皆が、違いますと応える場面もいくつかありました。私たちは女の権利などと高らかに宣言して男性と闘う気はない、「フェミニスト」と呼ばれたくないという保守派の女性たちの姿が描かれています。
勿論、保守派の女性が皆、そうだというわけではないでしょう。中には、本当は民主党支持でレズビアンという社員もいて、彼女はそれがバレたらクビになるとひた隠しにしています。この女性を演じたケイト・マッキノンが実にいい味を出しています。
リベラルな思想の主人公による、正義感溢れる痛快な物語というのではなく、女性たちの複雑な心理描写に大きく焦点をあてているところが本作の特徴です。
喉から手が出るほどほしいポジションをちらつかせ、ほしかったら自分と付き合えと迫ってくる男性上司に対して、女性が実際に応える言葉と心の声を交互に重ねるシーンなどは、チャールズ・ランドルフならではのユニークさで、重要な問題を伝えるのにとても効果的です。
マーゴット・ロビーが演じるケイラは映画のオリジナルなキャラクターだそうですが、これは、実際にセクハラを受けた人のデリケートな問題が絡んでくるからでしょう。他に誰もいない場で上司に命令されるがまま、それに応じてしまい、自分を汚れてしまったと感じる彼女。
告発することで、立場がどう変わるかと恐れたり、セクハラを許したことを後悔する一方で仕方がなかったのだと正当化してみたりと、複雑な心理が吐露されます。それは局の看板キャスター、メーガン・ケリーも同様です。
また、全ての女性がロジャーを糾弾するわけではなく、ロジャーに反旗を翻す女性とロジャーを守ろうとする女性たちに二分化していく様なども大変リアルです。
どのようにして日々、女性たちが、働いており、どのような葛藤を抱いて毎日を乗り越えているのかが、可視化されていることが、この作品を並のエンターティンメントとは一線を画するものにしています。
まとめ
上司のセクハラを拒否したために看板番組から降ろされ、挙げ句に理由もなくクビにされたため、訴訟を起こした女性、グレッチェン・カールソンを演じたのは、ニコール・キッドマンです。
大きな組織の実力者をたった一人で訴えた勇気ある女性を、抑えた演技で表現しています。訴訟の際に見せる冷静さもさることながら、閑職においやられながらも、懸命に結果を出そうとする一人の女性キャスターの人間味も見事に表しています。
FOXの看板キャスター、メーガン・ケリーはアメリカでは知らぬものはないと言われるほどの有名人ということで、シャーリーズ・セロンはカズ・ヒロによる特殊メイクを施し、彼女自身になりきりました。どんな時にも冷静で、格好良い様は、映画の中でも同僚の女性が「かっこよかったわ」と溜息をつくほどです。
また新進キャスターに扮したマーゴット・ロビーの初々しさに溢れた様にも触れておきましょう。タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で演じたシャロン・テートも実に愛らしく魅力的でしたが、今回の役柄も負けていません。
それ故に、セクハラシーンは非常に痛々しく彼女の気持ちが伝わってきます。スターキャスターに扮したニコールとセロンとは違い、身近な存在に感じられるキャストとして、マーゴット・ロビーに感情移入する人も多いのではないでしょうか。
ニコール・キッドマンとシャーリーズ・セロン、マーゴット・ロビー3人が一同に揃う場面は実は一箇所しかありません。たまたまエレベーターで3人は一緒になるのですが、ほとんど会話もかわされないその僅かな時間に、組織内で置かれたそれぞれの立場や様々な感情が顕になり交錯します。非常に緊張感のある見応えのあるシーンです。