2016年4月公開されて、前期公開作品の中では、断トツの話題をさらっていった、『さざなみ』に注目します!
当初の予想を超えた観客からの話題ぶりに、映画を配給された彩プロの関係者も笑顔。また、彩プロの担当者が、原題の『45 YEARS』をそのまま使用せず、『さざなみ』とした邦題は秀逸!
今回は、大人の映画ファンに、ぜひ、ぜひ、観ていただきたい、アンドリュー・ヘイ監督の『さざなみ』の意外に知られていない見どころと、作品解説をご紹介します。
映画『さざなみ』の作品情報
【公開】
2016年(イギリス)
【脚本・監督】
アンドリュー・ヘイ
【キャスト】
シャーロット・ランプリング、トム・コートネイ、ジェラルディン・ジェームズ、ドリー・ウェルズ、デビッド・シブリー、サム・アレキサンダー、リチャード・カニンガム、ハンナ・チャーマーズ、カミーユ・ウカン、ルーファス・ライト
【作品概要】
結婚生活45年を迎え、平凡だが幸せな毎日を送る熟年夫婦ジェフとケイト。そこに亀裂が入っていく1週間のドラマ。
出演は、『スイミング・プール』のシャーロット・ランプリングと、『長距離ランナーの孤独』のトム・コートネイが、円熟を見せる自然な演技が見どころです。
映画『さざなみ』のあらすじとネタバレ
イギリスの郊外の地方都市に暮らす元教師のケイト。愛犬マックスと散歩に出れば、かつての教え子に会うなど、小さな町では彼女のこと知らないものはいません。
そんなケイトは、結婚45年を迎えようとする夫のジェフと共に、子どもはおらず、穏やかな日常を過ごしていました。
週末の土曜日に結婚45周年の祝賀パーティを控えていた月曜日のこと、夫ジェフもとに一通の手紙が届きます。
それは、スイス警察からの手紙で、50年ほど前に雪山で遭難した、女性の遺体確認に来て欲しいという連絡でした。
ジェフは、「ぼくのカチャ」と呟くと、元恋人と登山旅行に行った祭に、登山ガイドと先を歩いて行ったまま行方不明となっていたのです。
しかし、地球温暖化によりクレパスの雪が溶けて、当時の姿のまま、カチャは発見されたというものでした。
心の中で止まったままだったジェフの元恋人カチャとの時間が動きはじめます…。ケイトと共に過ごした45年間の日常も忘れて、ジェフの気持ちはスイスのカチャへと向いていきます…。
ジェフの態度に不安を感じるケイトでしたが、週末の祝賀会準備のために、1人で計画をこなさなくてはなりません。
会場使用の打ち合わせや料理選び、また、パーティで使用するジェフとの思い出の曲選びなど、やらなくてはいけないことは山ほどありました。
しかし、一方でジェフは、地球温暖化についての書籍を読んだり、それまで1人で街に出かけたことも無かったのに、内緒で旅行代理店に行ったりしていたのです。
ケイトにとっては、もう、パーティードレスを選ぶことも楽しくはない、祝賀会のその日を迎えることも、今となっては、行う目的も意味もなくなっているかのようです。
その日も祝賀会の打ち合わせに向かったケイトでしたが、時計店でスイス製の高級時計を見ると、ふと、カチャを思い出したのか、突然不安がよぎり、自宅に電話を掛けます。
しかし、夫は出ません…。ケイトの気持ちに陰るばかり…。
ケイトが家に戻ると、ジェフは食事の準備をしていました。しかし、夕食の席で、ジェフはケイトにカチャとの思い出を語りはじめます。
捜索の際に警察には夫婦だと伝え、カチャには玩具のような指輪あげたこと、カチャのような花についてなど…。を左手の薬指にしていた、と。
ケイトは、余裕の表情でやり過ごそうとしますが、内心はそんな話を聞きたくありませんでした。死んでいることを理性では理解しながらも、見えないカチャに嫉妬心を重ねていきます。
映画『さざなみ』の感想と評価
シャーロット・ランプリングが演じた、ケイトは社会科を担当する元教師。このことは祝賀会の下見に行った時に、壁にかけられた絵画について担当者との会話から想像ができます。
その際に、彼女の性格が強固で融通がきかないことも理解できます。完璧主義でキツい性格のケイトが、徐々に不安になり壊れていくのがこの作品の見どころです。
では、そんな強いはずのケイトが、愕然となるまで壊れてしまうのか、この作品をご覧になった多くの方から疑問が上がりました。
「なぜ、ケイトは、過去に死んでしまったの元恋人カチャにあれ程の固執し嫉妬するのか?」
実は、この作品を演出したアンドリュー・ヘイ監督は自身がゲイであることを公言しています。
そこに読み解くヒントも求めれば、少し強引な話し方になりますが、ケイトとジェフは子どもいない夫婦。それを同性愛者と仮説しましょう。
同じような価値観を長年一緒に歩んできたと思い込んだ2人。しかし、本当はジェフはバイセクシャルで隠し子がいた。そのことを秘密にして一切何もケイトには語らないのです。
完璧主義で落ち度のないはずのケイトは、自分が惨めでならなかったのです。
夫婦や恋人同士のどのような関係でも良いのですが、関係を持った時間が長い短いではなく、どのように同じものを見ながら変化していくかがパートナーではないでしょうか。
このケイトとジェフは、45年間を実は一緒には歩んでいなかったのではないでしょうか。
ケイトは疎ましかった父親の元から出たかった、ジェフも元恋人カチャが忘れたかった、2人の出会いはそれがきっかけでした。
以後の45年間のペアとしての努力は、7日間よりも軽いものでしかなかったのです。
まとめ
この作品に、出演を果たした俳優のシャーロット・ランプリングと、トム・コートネイの長年連れ添ったような気配はリアリティそのものでした。
それでいながら、内に秘めた不安や揺らぎを抱えた姿は、円熟した俳優ならではと言えるのではないでしょうか。
アンドリュー・ヘイ監督が、脚本に書いた繊細なまでの世界観を、2人が見事なパフォーマンスで演じたことに、世界中から賞賛や評価も高かったようです。
ダーレン・アロノフスキー監督やポン・ジュノ監督、そしてクラウディア・リョサ監督などが審査員を務めた、第65回ベルリン国際映画祭で、主演男優賞と主演女優賞をそろって受賞という快挙を得たのです。
もし、まだ、『さざなみ』をご覧いただいていない、あなた⁈
パートナーとの関係が悪くなる前に視聴するのをお薦めします。2016年最強の夫婦映画!ぜひご覧ください!