名優ロバート・レッドフォード、最後の出演作品
『明日に向って撃て!』(1969)や『ニュースの真相』(2015)などの作品を発表し、長きにわたり活躍してきたロバート・レッドフォードの俳優引退作『さらば愛しきアウトロー』が、2019年7月12日より公開されました。
ここでは本作の解説及び、レッドフォードの俳優人生を辿ります。
CONTENTS
映画『さらば愛しきアウトロー』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
The Old Man & the Gun
【監督】
デヴィッド・ロウリー
【キャスト】
ロバート・レッドフォード、シシー・スペイセク、ダニー・グローヴァー、ケイシー・アフレック、トム・ウェイツ、チカ・サンプター、キース・キャラダイン
【作品概要】
アメリカで幾度の脱獄と銀行強盗を繰り返した、実在の人物フォレスト・タッカーを描いた実録ドラマ。74歳という高齢ながら、華麗な手口で次々と銀行を襲うフォレストを演じるのはロバート・レッドフォード。共演にシシー・スペイセク、ケイシー・アフレックといったアカデミー賞俳優に加えて、「リーサル・ウェポン」(1987~1998)シリーズのダニー・グローヴァーが顔を揃えます。また、本作をもってレッドフォードが俳優業からの引退を表明したことも話題となりました。
監督と脚本を担当したのは、『ピートと秘密の友だち』(2016)や『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(2017)で注目を集めた新鋭デヴィッド・ロウリーです。
映画『さらば愛しきアウトロー』のあらすじ
1980年代初頭のアメリカ・テキサス州で、コートの端に入れた拳銃を見せるだけで、銀行強盗を繰り返す老齢の男がいました。
その男、フォレスト・タッカーは、誰ひとり傷つけることなく犯行に及ぶその手口から、被害者の銀行員たちから「紳士」と呼ばれ、マスコミからも“黄昏ギャング”という異名が付くまでになっていました。
ダラス市警のジョン・ハントは、被害者の証言や、襲われた銀行の位置を手がかりに黄昏ギャングの行方を追うも、捜査していくうちに彼が人格者であると直感。
一方、とあるきっかけでフォレストと知り合った老齢の女性ジュエルも、彼の素性が分からないながらも、次第に心惹かれていきます。
そんな中、フォレストは仲間のテディとウォラーと共に、これまで襲った事のない、規模の大きい銀行に狙いを定めます。
念入りな下調べをしたのち、ついに銀行を襲った3人でしたが…。
芯の通ったアウトロー役が似合う男
1962年の『戦場の追跡』で俳優デビュー以降、ハリウッド屈指の二枚目スターとして活躍してきたロバート・レッドフォード。
これまでに彼は、列車強盗犯、スキーレーサー、パイロット、新聞記者、刑務所長、野球選手など、バラエティに富んだ役を演じてきました。
中でも特筆すべき点として、体制に反発する側に立ちつつ、それでいて芯が通った男を多く演じていることが挙げられます。
例えば『出逢い』(1979)では、CMタレントとして企業にこき使われていたレッドフォード演じる元ロデオチャンピオンが、同じような境遇にある名馬を野生に放そうと、企業に歯向かう姿を描きます。
また、『ラスト・キャッスル』(2002)では、レッドフォード演じる軍刑務所に投獄された歴戦の名将が、理不尽かつ極悪な刑務所長に改革を求め、反乱を起こします。
そうした、体制への反逆者=アウトロー役の第一人者とも言えるレッドフォードが最後に演じる役が、拳銃を見せるだけで銀行強盗を成功させてしまう伝説の“アウトロー”なのも、決して偶然ではないのです。
生真面目さが溢れる晩年の主演作
続けて、レッドフォードの代表作を総ざらい…といきたいところですが、全てを挙げるとキリがないので、ここでは2010年代以降の老境に差しかかった、生真面目さ溢れる主演作品をチョイスします。
『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』(2014)
ヨットでインド洋を単独航海していた男が、海上を漂う貨物用コンテナとぶつかってしまい、船体に穴が空いて浸水する事態に。
無線やパソコンも故障し、さらに悪天候にも襲われ絶体絶命となる中、男は一通の手紙をしたため始めます。
登場人物がレッドフォード演じる男一人のみで、セリフらしいセリフもほとんど無しという、この作品。
自身が主宰の、若き映画人の作品を上映するイベント「サンダンス・インスティテュート」で脚光を浴びたJ・C・チャンダー監督たっての依頼で参加したレッドフォードは、海水が耳に入って難聴になるトラブルに見舞われるも、危険なスタントも自らこなす熱演を見せました。
批評的には高い評価を受けた本作でしたが、製作者側がアカデミー賞などの主要レース参加に意欲的でなかったことが、レッドフォードが俳優引退を決意したきっかけの一つとなったとされています。
しかしながら、セリフに頼ることなく極限状態からの生還を試みるレッドフォードの演技は確かなものがあり、間違いなく彼の晩年の代表作であると断言します。
『ニュースの真相』(2016)
ブッシュ政権に対するアメリカ国内の不満が高まりつつあった2004年、放送局CBSのプロデューサーのメアリーは、著名ジャーナリストのダン・ラザーがアンカーマン(司会者)を務める局の看板番組で、ブッシュの軍歴詐欺疑惑を報道。
しかし、その疑惑を確証する証拠を保守派勢力に「偽造」と断定されたことで事態が一変、2人は窮地に立たされます。
アメリカ国内のブッシュ政権へのバッシングと、スクープ報道へのバッシングを対比させて描く、骨太な社会派ドラマ。
『大統領の陰謀』でニクソン大統領の不正を追及する新聞記者を演じたレッドフォードが、この作品ではブッシュの詐称疑惑を糾弾するジャーナリストのダンを演じます。
レッドフォードは、ダン本人の仕草やクセなどを真似たりせずに、あくまでも自然体で演じることに徹しています。
レッドフォードへのオマージュが詰まった『さらば愛しきアウトロー』
そして、本作『さらば愛しきアウトロー』は、そこかしこに主人公フォレスト役のレッドフォードへのオマージュが込められています。
まず、オープニングクレジットのフォントが、『明日に向って撃て!』と同じ物を使用すれば、ポスターアートにもなった、手で形作った銃で狙い撃ちするフォレストのポーズは、同じく『明日に向って撃て!』で彼が演じた強盗サンダンス・キッドを連想させます。
さらには終盤での、警察に追われたフォレストが馬で逃げるシーンは、前述した『出逢い』のオマージュだったり、ケイシー・アフレック扮する刑事ジョンがする鼻の横をこする仕草(ノーズ・タッチ)は、『スティング』(1973)で詐欺師たち同士で交わす合図が元ネタとなっています。
ほかにも、レッドフォードが脱獄囚を演じた『逃亡地帯』(1966)の一部シーンを流用したりと、とにかく往年のファンを喜ばせるレッドフォード尽くしの小ネタが仕込まれています。
ついでに言うと、フォレストの恋人ジュエル役のシシー・スペイセクの出世作『キャリー』(1976)のオマージュも一瞬出てくるので、気になる方は注視してみましょう。
まとめ
“黄昏ギャング”フォレスト・タッカーが銀行強盗を繰り返していた理由。
もちろんお金のためであることは相違ないですが、どうやら他にも理由があることを、『さらば愛しきアウトロー』では示唆します。
刑期を終えて出所しても、平穏な生活に満足できずに、つい銀行に足が向かってしまう。
登山家が山を登る理由を聞かれて「そこに山があるから」と答えるように、「そこに銀行があるから」強盗をしたくなる――フォレストはそんな感覚なのかもしれません。
『明日に向って撃て!』のサンダンス・キッドも、一旦は足を洗うも、やはり普通の生活に満足できずに強盗稼業へと戻っていきます。
ロバート・レッドフォードは、そうした安住の地にいられないアウトローを何度も演じてきました。
そもそも彼がサンダンス・インスティテュートを立ち上げたのも、大作主義のハリウッド体制に左右されない、自由な作風を目指す映画人を輩出するのが目的だったから。
映画人でありながら、元々アウトローの素養を身に付けていたレッドフォード。
俳優引退宣言をしたものの、監督・製作業は続けるという彼のことです。
ひょっとしたら数年後に、「そこに撮影カメラがあるから」と言って、しれっと俳優業に復帰するかもしれません。
だから、彼がもし復帰しても、映画ファンは怒るどころか、むしろ「愛しきアウトローが帰ってきた」と歓迎することでしょう。
『さらば愛しきアウトロー』は、2019年7月12日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー!