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Entry 2023/12/01
Update

映画『エス』あらすじ感想と評価解説。逮捕された経験を基に太田真博監督が描き出す“会話満載の群像劇”

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『エス』は2024年1月19日(金)よりアップリンク吉祥寺で劇場公開!

太田真博監督の初の長編劇場デビュー作『エス』が2024年1月19日(金)よりアップリンク吉祥寺にて公開されます。

太田監督が自身の逮捕経験から着想を得て生み出した、再会と断絶の物語です。

本作のタイトルロールである若手監督「S」も、自らが犯した罪により未来と人間関係の多くを失っていきます。

逮捕された染田をめぐって集まった演劇仲間たちによる、膨大なセリフに圧巻される会話劇『エス』の魅力をご紹介します。

映画『エス』の作品情報


(C)2023 上原商店

【公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本】
太田真博

【プロデューサー】
上原拓治

【撮影監督】
芳賀俊

【キャスト】
松下倖子、青野竜平、後藤龍馬、安部康二郎、向有美、はしもとめい、大網亜矢乃、辻川幸代、坂口辰平、淡路優花、石神リョウ、篠原幸子、中尾みち雄、ノブイシイ、岡山甫、高村明裕、太田真博、松永直子、河相我聞

【作品概要】
脚本・監督の太田真博が、自身の逮捕経験から着想して生み出した作品。

2011年に不正アクセス禁止違反容疑などで逮捕された太田監督。演劇的手法を大胆に取り入れた独特の会話劇を撮る新進気鋭の監督として注目を集め、その前年に国際的な映画祭でグランプリを受賞しており、まさにこれからメジャーに進出して活躍する矢先のことでした。

本作のタイトルロール「S」こと染田も新鋭の若手として注目されていながら、自らが犯した罪により映画監督としての未来、そしてそれまで築いてきた人間関係の多くを失います。

染田の演劇仲間を松下倖子、青野竜平、後藤龍馬らが好演。

映画『エス』のあらすじ


(C)2023 上原商店

若手映画監督・染田真一が不正アクセスの罪で逮捕されました。

染田の大学時代の演劇仲間たちは、嘆願書を書く目的で久しぶりの再会を果たします。

染田の新作に主役として出演する話が立ち消えとなり、恨みがましい思いを抱いている崖っぷち俳優の高野。自称“染田との絆が最も深い”先輩のお調子者・鈴村。そして染田への想いをこじらせ散らかした挙句、別の男性と結婚したばかりの千穂。

それぞれが、染田への複雑な思いを抱えていました。

「染田の力になってあげたい」という想いで集まったはずでしたが……。

映画『エス』の感想と評価


(C)2023 上原商店

太田真博監督が、自身が逮捕された経験から着想して生み出した映画『エス』

不正アクセスの罪で逮捕された染田の嘆願書を書くために演劇仲間たちが集まったところから、物語は始まります。友人の逮捕により、彼らもまた日常にさまざまな問題を抱えるハメに。

常に話の中心にいる染田の姿は現れません。染田の不在を通して、逆に彼の存在をくっきりと浮かび上がらせる手腕は見事です。

仲間たちは染田のために久しぶりに顔を合わせ、他愛もない話をして盛り上がったりしながらも話し続けます。「染田を助けたい」という想いは同じながらも、それぞれの目から見た「染田像」は異なり、染田への想いの違いが次第に浮き彫りになっていきます。

染田をめぐって他者との関係を断絶する者もあれば、心が通じ合っていく者も出てきます

本作の見どころは、演劇仲間同士の膨大な量の会話です。本筋から脱線したり、ぶつかり合ったりする様はとてもリアルで、年を重ねながらもいまだ青春の渦中にいるかのような彼らの姿に、胸を鷲掴みにされることでしょう。

無駄話も交えながらもいくつもの会話を重ねた末、強い求心力に巻き込まれていくかのように見事な着地を見せるラストは必見です。

まとめ


(C)2023 上原商店

逮捕された「エス」こと染田の姿が、その友人らの会話を通して浮かび上がる群像劇です。

それぞれの視線が結ぶ像が異なることや、思惑の違いが浮き彫りとなっていくことで、彼らの関係性が目まぐるしく変わっていきます。

ごく普通の日常を描きながらもスリリングに展開する会話劇に、思わず魅入られるに違いありません

映画『エス』は2024年1月19日(金)よりアップリンク吉祥寺にて公開されます。





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