Netflix配信の映画『ROMA/ローマ』
『ゼロ・グラビティ』から5年…。
メキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン監督が発表した『ROMA/ローマ』は既に世界中で絶賛され、賞レースを賑わせています。
Netflix映画『ROMA/ローマ』とは一体どのような作品なのか。
人々をこれほど熱狂させるものは何なのか?!その魅力に迫ってみましょう。
映画『ROMA/ローマ』の作品情報
【公開】
2019年公開(Netflixにて配信)メキシコ・アメリカ合作映画
【原題】
ROMA
【監督】
アルフォンソ・キュアロン
【キャスト】
ヤリッツァ・アパリシオ、マリーナ・デ・タビラ、マルコ・グラフ、ダニエラ・デメサ、カルロス・ペラルタ、ナンシー・ガルシア、ディエゴ・コルティナ・アウトレイ
【作品概要】
『天国の口、終りの楽園。』(2001)『トゥモロー・ワールド』(2006)、『ゼロ・グラビティ』(2013)などで知られるメキシコ出身の映画監督、アルフォンソ・キュアロン監督が、かつてメキシコシティ近郊のコロニア・ローマに住んでいた頃の自身の思い出をモノクロ映像で綴った半自伝的作品。
第75回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門で最高賞である金獅子賞を獲得。
第76回ゴールデングローブ賞では外国語映画賞と監督賞を受賞。第24回放送映画批評家協会賞では作品賞、監督賞を受賞。2019英国アカデミー賞 -BAFTA-では作品賞、監督賞、外国語作品賞を受賞している。
映画『ROMA/ローマ』のあらすじとネタバレ
1970年、クレオはメキシコシティのコロニア・ローマで住み込みの家政婦として働いていました。
雇い主の一家は、医者であるアントニオとその妻ソフィア、4人の幼い子どもたちとソフィアの母のテレサで、クレオはもうひとりの家政婦アデラとともに毎日家の人の世話に明け暮れていました。
朝早く起きて、洗濯ものを干し、子どもたちを起こしてまわり、朝食の準備をします。
家族が出かけると、部屋の片付けや掃除をし、昼過ぎには一番幼い三男のお迎えも。夜は一家が寝静まるのを待って、部屋を消灯してまわり、やっと自分の部屋に戻って休むという毎日です。
子どもたちはクレオによく懐いていて、彼女も子どもたちをかわいがっていました。
医者であるアントニオはカナダのケベックでの会議から一時的に戻ってきますが、またすぐに出かけることになりました。
ソフィアはそんなアントニオを背中からぎゅっと抱きしめました。「すぐに戻ってくる」と夫は言いますが、二人の間には既に大きな溝が出来ていました。
休暇をもらったクレオとアデラは街で食事をし、ボーイフレンドのラモンとフェルミンと落ち合いました。
アデラとラモンは映画館に行きましたが、二人は行かず、部屋を借りました。フェルミンは全裸姿で武術の型を披露しました。
母を早く亡くし、スラムで荒れた生活をしていた自分を武術が救ってくれたと彼は告白します。「世界が変わった。君の目のようにはっきり」
後日、映画館の一番うしろの席に座り、クレオとフェルミンはキスを交わしていましたが、クレオが妊娠したことを告げると、フェルミンはトイレに立ち、そのまま姿を消してしまいました。
クレオはソフィアに妊娠のことを相談します。「首ですか?」と不安そうに尋ねるクレオに「首?そんなことはしないわ。でも一度診察してみなくてはね」とソフィアは応えました。
ソフィアの運転で病院に行き、診察を受けたクレオは妊娠三ヶ月であることを告げられます。そのことをソフィアに伝えると、「三階に新生児室があるから見てくれば?」と言われます。
新生児室の前には妹の誕生を喜ぶ幼い女の子の姿がありました。その時、激しい揺れを感じます。地震でした。まもなくおさまりましたが、クレオは低出生体重児の赤ちゃんに目が釘付けとなっていました。
ソフィアは、子どもたちとクレオを連れて、新年を迎えるために、親戚のアジェンダへ向かいました。
昼間の野外パーティーでは大人たちがピストルを盛んに撃ち、夜は夜で賑やかなどんちゃん騒ぎが繰り広げられました。
この家の家政婦がクレオを誘い、酒場に連れて行ってくれましたが、酒を飲もうとしたところ、フロアで踊っていた男女が激しくぶつかってきて、グラスは吹っ飛んで割れてしまいました。
屋敷に戻ってきたクレオは腰に手を回そうとした男をソフィアが撃退しているのを目撃します。
「必要じゃないかと思ってね。色気も何もあったもんじゃない」と男は憎まれ口を叩いて去っていきましたが、アントニオとソフィアが不仲であることが皆に伝わっているようでした。
その夜、山火事が起こり、山に駆けつけた大人も子供も、消火活動に励みますが、それはどことなく馬鹿騒ぎの続きのような光景でした。
一家は街にもどりますが、アントニオは家に戻ってきません。ソフィアが電話でそのことを話していると、次男が立ち聞きしていました。
ソフィアは思わず、息子の頬を打ちますが、すぐに「ごめんね」と抱きしめます。立ち聞きをやめさせなかったとクレオが責められました。他の兄弟には内緒にしておいてほしいとソフィアは息子に約束させます。
クレオはフェルミンが武術訓練場にいると聞き、ラモンに頼んで車で送ってもらいますが、ようやく会えたフェルミンは、赤ん坊の父親が自分であることを認めようとせず、二度と会いに来るなと暴力的な振る舞いをするのでした。
出産予定日が近づいてきたクレオはテレサに連れられて家具屋にやってきました。通りには政府に抗議する学生たちが集まってきていて、道路には大勢の警官たちが配備されていました。
ベビーベッドを見せてもらっていたとき、突然外が騒がしくなり、窓際によってみると学生たちが襲われ、逃げ惑う姿が見えました。
店の中にも一組のカップルが逃げ込んできました。4,5人の銃を持った男があとを追いかけてきて、男性を射殺します。
銃を持った男たちの中にフェルミンがいました。クレオと目のあったフェルミンは立ち尽くしますが、仲間に呼ばれて立ち去ります。
恐怖で棒立ちになったテレサの隣でクレオは破水してしまいました。
映画『ROMA/ローマ』の感想と評価
タイトルのROMAとは、メキシコシティのコロニア・ローマを指しています。
本作は1970年代、その地で少年時代を過ごしたアルフォンソ・キュアロン監督の思い出を描いた半自伝的作品で、中流階級の白人一家とそこに住み込んで家政婦として働くクレオという女性の日常が綴られていきます。
冒頭、床のタイルが画面に映し出されています。やがてそこに水が流れ始めます。泡と混じって、何度も流れる水はまるで打ち寄せる波のようですが、水が溜まったことでそこに鏡が出来て、上空の景色が映り込み、小さな小さな飛行機が通り過ぎていくのが見えます。
なんと鮮やかで繊細で驚くべき映像でしょうか。全編モノクロで撮られた映像はコントラストが鮮やかで、映画とは光と影が織りなす産物であることを改めて確認させられます。
また、終盤、旅行先から戻る車中、車の後部座席に座っているクレオが窓越しに外を見ている姿をカメラは車の外から映しています。窓ガラスに映った風景が彼女と混じり合って、通過していきますが、途中、空の景色が写り込んで、雲の流れが彼女とオーバーラップするというある意味壮大な風景を観ることができます。
人間の生活は宇宙と一体であると言わんばかりに、鮮やかな光と、空気までが、そこから立ち込めてくるかのようです。
撮影はアルフォンソ・キュアロン自身が担当しており、登場人物から一定の距離を置いて、右へ左へと移動しながら終始長回しで撮っています。
家族が寝静まったあと、家の消灯をクレオが行っていく場面では、カメラは彼女の動きを追って360度回転してみせます。
1970年代のメキシコシティを再現するプロダクションデザインも見事としかいいようがなく、カメラは、街の歩道を走って行くクレオと並走して横移動します。
クレオが走っている場面は、家政婦仲間アデラと一緒に競争している場面でも、アジェンダで身重の身でいくつもの荷物を運んでいるシーンでも快活さに溢れています。
家具屋に行く際の横移動では手前にデモの警備に配置されている警官たちを置いて、クレオたちは画面奥を歩いています。
家具屋に入ったあと、外が俄然騒がしくなり、カメラはゆっくり右手にパンして、窓の外で暴動が起きているのを映し出します。カメラはずっと端の窓までパンするのをやめず、最後にクレオとテレサがフレームインしてきます。
これは1971年のコーパスクリスティの大虐殺を描いた場面で、抗議に駆けつけた大学生たちが政府側に雇われた暴力集団に襲われ100人以上が死亡した事件です。
圧倒的な映像と言わずにいられません。個人の思い出、個人史といっても、社会的な事柄と無縁ではいられません。
映画は極めてパーソナルなものでありながら、一般的な普遍性を宿し、彼女たちの痛みを自分の痛みとして感じさせる力を持っています。
このあとクレオが破水して、病院への長い距離を、手術室での分娩までの時間を、ある意味、執拗に描写していきます。
まるでクレオと一体化を試みたように、省略を嫌い、彼女とともに試練を体験するかのごとく彼女に寄り添うのです。
まとめ
クレオは、アルフォンソ・キュアロンの幼少時に彼を育ててくれた家政婦がモデルであり、映画はその女性に捧げられています。
ここでは男たちは皆、大切なものから目をそらし、逃げ出しています。雇い主のアントニオは、家庭から逃走し、生活費すら振り込みません。
クレオのお腹の子の父親であるフェルミンはそのことを認めず、武術に救われたといいながら、実態は政府のお抱え暴力組織に属しているのです(彼は、オリンピックのために武術を学んでいるとクレオには語っていました)。
浮ついた男たちに対していつでも根底のところで踏ん張り、大切なものを守っているのは女たちなのです。
夫を失うことへの不安でいっぱいだった母親が、ある日、吹っ切れたように新車を購入し、子どもたちへ真実を告げ、出版社で正社員として働くことを報告します。
「これも冒険よ」と語る彼女は、実際は不安だらけのはずです。しかし一方で、“冒険”という言葉が持つワクワク感を彼女は少なからず感じているのです。
新しい人生への不安と期待に満ちた母親の表情は、強がりとは違う晴れやかさが宿っています。
「私達は一緒よ」という母親の言葉が具体的な映像となるクライマックス。安堵と感謝と悔恨がごったになった感情の渦の中で確かに確認できた絆の瞬間を映画は光で讃えています。
クレオを演じたヤリッツァ・アパリシオを筆頭に、ほぼ無名の俳優が素晴らしい姿を見せてくれます。
カンヌでの受賞も、多くの映画祭へのノミネート、受賞も納得の大傑作と言ってよいでしょう。
『ROMA/ローマ』はNetflixにて配信されています。