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Entry 2017/10/23
Update

【リングサイド・ストーリー】感想と考察!ヒデオ(瑛太)の特別な景色とは?

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

瑛太と新垣結衣が卓球のペアでタッグを組んだ共演作『ミックス。』が、10月21日より全国公開されましたね。

すでに同月14日に公開されている『リングサイド・ストーリー』の瑛太は、かつて高校生の頃に卓球部に補欠で所属し、今では夢だけは大きい売れない役者・村上ヒデオを演じています。

また、この作品の共演にはカナコ役の佐藤江梨子をセコンドにして、「カンヌに連れて行ってやる!」というヒデオのデタラメぶりとプロレス愛に満ちた作品

演出は『百円の恋』で知られる武正晴監督。本作の演出を術の深掘り考察をしていきます。

1.映画『リングサイド・ストーリー』の作品情報


(C)2017 Ringside Partners

【監督】
武正晴

【キャスト】
佐藤江梨子、瑛太、有薗芳記、田中要次、伊藤俊輔、高橋和也、武藤敬司、武尊、黒潮“イケメン”二郎、前野朋哉、近藤芳正、余貴美子

【作品概要】
夢だけは大きい売れないダメ役者の村上ヒデオ役に瑛太、ヒデオを支える恋人の江ノ島カナコ役を佐藤江梨子が演じ、『百円の恋』で知られる武正晴監督による人情味溢れるコメディ作品。

プロレス愛に満ちた本作には、武藤敬司、黒潮“イケメン”二郎、K-1世界王者の武尊といったプロレスラーや格闘家も出演しています。

2.映画『リングサイド・ストーリー』のあらすじ


(C)2017 Ringside Partners

江ノ島カナコと村上ヒデオは交際をはじめて10年の同棲中のカップル。

ある日、カナコは突然勤めていた弁当工場で解雇を言い渡されます。

売れないダメ役者のヒデオは彼女の収入をあてにしていたため、カナコ以上に慌ててしまいます。

今の生活や住まいを失うどころか、身勝手に大きな夢を見続けている俳優稼業すら続けられなくなってしまいます。

そこでプロレス好きだったヒデオは、雑誌で見つけた武藤敬司率いるプロレス団体「WRESTLE-1」(レッスルワン)が、求人募集していることを知り、カナコに面接を受けるよう勧めます。

プロレスにまったく興味のないカナコでしたが、とりあえず話しを聞くだけと出かけてみると、即採用を言い渡されます。

その訳はカナコが送ったとされる志望動機の書かれた手紙でした。そこにはいかにプロレス愛に満ちているかが、びっしりと書かれていました。

実はその手紙はヒデオが勝手に書いてあらかじめ送っていたのでした。

こうして新しい職場に勤務することとなったカナコは、仕事に慣れるにつれ、プロレスの楽しさも知り生き生きと働きます。

しかし、一方で俳優としてのチャンスにも恵まれないヒデオと、生活の歯車がずれ始めると2人は徐々にすれ違ってしまいます。

そんなある日、北海道のプロレス地方巡業に出張したカナコをよそに、ヒデオはマネージャーが取ってきた仕事をドタキャンしたうえに、パチンコ屋に入り浸り興じます。

そのパチンコで当てた景品のカニ缶を数個持ち帰りカナコの帰宅を待ちます。

しかし、北海道から帰ってきたカナコは、プロレスラーの実家からいただいた毛ガニを大量に貰い戻ってきたので、ヒデオはカニ缶を床に押しやり隠します。

毎日が充実して楽しそうなカナコを見て、ヒデオはプロレスラーと浮気しているに違いないと嫉妬。

あげくに会場の観客席でトンデモナイ事件を起こして、カナコはヒデオに代わって責任を取り、プロレス団体の仕事を辞めることにします。

そんなヒデオでしたが、10年前に舞台袖で見た彼は才気に輝き溢れ、カナコと彼女の母親を「いつかカンヌに連れていく」と夢を見せてくれていました。しかし今のヒデオにはその輝きがありません。

カナコの熱心な仕事ぶりもあって、気にかけ心配してくれたレスラーに、格闘技団体のK-1の裏方の仕事を紹介され働きはじめます。

そこでの仕事も順調にこなしていたカナコでしたが、またもや選手との浮気を妄想するヒデオがトラブルとなる事件を起こすのです。

すると今度はカナコが責任を取るのではなく、 K-1の女性コミッショナーからヒデオにある提案が出されました。

それは、カナコとの交際の破棄をかけて、K-1チャンピオンと一騎打ちの真剣勝負をすることでした。

1ラウンドもたなければカナコと別れるという約束をさせられたヒデオ。カナコのためにドシロウトの彼は一世一代のリングの大舞台に上がることが出来るのか…。 

3.映画『リングサイド・ストーリー』の感想と評価


(C)2017 Ringside Partners

本作で演出を務めた武正晴監督は、1967年生まれの愛知県出身。 1986年に明治大学に入学後に映研に入部。卒業後はフリー助監督として映画現場に参加します。

2006年に短編映画『夏美のなつ いちばんきれいな夕日』(06)で監督デビュー後、2007年に『ボーイ・ミーツ・プサン』で長編映画デビューを果たします。

モンゴル野球青春記〜バクシャー〜』や『イン・ザ・ヒーロー』などのオリジナル作品を撮り続け、2014年に安藤サク主演の『百円の恋』で、第39回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。本作は『百円の恋』スタッフとともに3年ぶりのオリジナル作品です。

武正晴監督は映画『リングサイド・ストーリー』について次のように述べています。

不完全な登場人物達が、懸命にある障害を乗り越える瞬間を映画の中で表現したいといつも心がけてます。今回の映画では瑛太さんと、佐藤江梨子さんが其れを見事に体現してくれました。ヒデオとカナコを眺めてみると、喧嘩するにも、笑いあうにも、1人よりも2人の方が良いのかなと思わせてくれました。主人公ヒデオの語る『最高の景色』とは何なのかを撮影中常に考えてました。僕自身、映画が完成した今も尚考えてしまうのです。

さて、このコメントにも書かれている“最高の景色(特別な景色)”とは一体何を指すのでしょう。

今回は筆者なりの推測を踏まえつつ、武正晴監督の演出の術をご紹介します。

四角いモノの3点(リング・お弁当・スクリーン)

この作品のオープニングは瑛太演じる村上ヒデオのナレーションではじまります。

戦後日本の夜明けはプロレスとともに始まった…」として、力道山が外国人レスラーを空手チョップでなぎ倒して、庶民が街頭テレビに群がる戦後間もない日本人が見ていた夢の様子を紹介。

戦争で外国人に父親や息子、または最愛の家族の命を奪われた苦い体験をした日本人にとって、夢のような願望を体現してくれたのが力道山でした。

日本の戦後復興と高度経済成長がプロレスというエンターテイメントとともにある指摘で、どれだけこの作品がプロレス愛に満ちているのか想像つくはずです。

また、四角いリングサイドで見ていた日本人、四角い街頭テレビで見ていた日本人。夢は四角い中にある

これはメタファーとして劇場のスクリーンをさしていることも想像させています。

それの理由に村上ヒデオはプロレス愛があり、レスラーに強い憧れを持っています。そのことは物語が進めば進むほどヒントが隠されていました。

ヒデオのオープニングのプロレス団体の系統図のナレーションにはじまり、手にしていたプロレス雑誌、カナコに内緒で書いたプロレス愛の手紙、K-1の選手入場と、どれもがプロレスファンの心をくすぐるものばかり。

その彼は役者になりたかった。これは”役者=プロレスラー”という図式が読見とれ、そしてヒデオがカナコや彼女の母親に「カンヌに連れて行ってやる!」と言うわけですから、四角いリングは映画館のスクリーンに繋がる訳です。

村上ヒデオの四角い中で見た夢とは映画俳優としてのスターなのです。

このことが、“最高の景色”と繋がっていきます。(これは後ほど解釈します)

さて、では、その前になぜお弁当なのでしょう

お弁当箱はカナコの働いていた職場が弁当の仕出し屋ということもありますが、それだけでしょうか。

四角いリングで多くのプロレスラーが戦うように、お弁当箱の中には多くのおかずがひしめき合っています

それを上手に表現した本作のアニメーションは、実に軽妙で力道山以後の赤いパンツのジャイアント馬場と赤いタオルのアントニオ猪木、はたまたあのレスラーこのレスラーと、プロレスファンなら思わず小躍りしてしまいますよ。

しかし、それだけが共通点ではありません。

お弁当箱の蓋に映画タイトルの『リングサイド・ストーリー』とクレジットがかぶることでわかると思いますが、お弁当はもちろん自分で作ることもあります。

しかし、お弁当は母親やあるいは家族の誰かが作るもの、また、仕出し屋の人たちでも良いのですが、その食べる本人ではなく、それを支えるサイドにいる人たちが作った食事がお弁当なのです。

四角いリングや四角い街頭テレビ、また映画館の四角いスクリーンといった、四角い中にいる夢の願望を身代わりにいる憧れのプロレスラーや俳優ではなく、本作のタイトルに示されたように、テーマはそのリングサイドにいる人たち(脇役)が主役の映画という意味がすでにオープニングで暗示させてくれます。

これを考えた武正晴監督。少し褒めすぎかも知れませんが…。

映画のロケ現場で仕出しの弁当を食べながらどれだけ周囲のスタッフや裏方に感謝している人なのかと想像すると、その人柄に頭が下がりますね。

さて、では四角いリングサイドにどんな人物がいるのでしょう?

四角いリングで立つ主役に夢を託す人とは?

少し話しはズレますが、わかりやすくボクシングの話をしましょう。(K-1デモヨイノデスガ…)

ボクサーのリングサイドには、セコンドにトレーナーやジム仲間がいますね。

プロレスのリングサイドのコーナーにはタッグを組んだ相棒プロレスラー。また、リングマット脇には後輩プロレスラーたち、その周囲の観客席ではプロレス愛に満ちたファンがいます

つまりはリング上のプロレスラーの主役1人の力のみで光り輝き立っているのではなく、そのサイドという脇の周りにはプロレス団体のあらゆる関係者とファンの人たちに支えられ、主役という存在の輝きがあり、主役に夢を託す人物たちの“下支えの強さ”があります

本作では主役のヒデオを支えるカナコもそうですが、カナコとヒデオを支える母親の恭子役の余貴美子。

ヒデオを支えるマネージャーの百木清太郎役の近藤芳正、怪しい通訳のロベルト・ホンダ役の高橋和也など、主役ではなく脇役でサイドから支える人たちが光る味のある演技を見せてくれます

武正晴監督らしい小粋な脇役に散りばめられた宝石のキャラクターに要注目です。

もちろんプロレスラーの武藤敬司をはじめとする、黒潮“イケメン”二郎など大注目ですよ!

そんな四角いリングサイドで人気プロレスラーを支える人たち、誰かが誰かに夢を見て支える人たち、これらのモチーフから読み取れる“最高の景色”とはなんでしょう

ヒデオは見上げた光の中に何を見たか?

カンヌ国際映画祭のレッドカーペットを夢見る村上ヒデオ。彼はこの物語で眩い限りの光り輝く景色を見ます

眩しさの向こうに見えたものこそが、村上ヒデオの最高の景色(特別な景色)”なのです。では、彼は何を見たのでしょう。

どん底で見たからこそ尊くも光り輝くもの

さて、これは劇場にて武正晴監督があなたに託した大切なテーマを、ご自身の目で見つけてくださいね。

まとめ


(C)2017 Ringside Partners

本作では、日本映画ファンならくすりとさせられるのは、映画『ラブレター』の岩井俊二監督もワン・シーンだけ登場するのも見落とさないように。

でも日本映画ファンとして、プロレスファンとしても、武藤敬司がスクリーンに立っていることが何よりも嬉しかったですね

武藤敬司のスクリーンデビューは、1987年の名匠・相米慎二監督の『光る女』での松波仙作役。

公開当時に初日に筆者は映画館に行き、何度となく観た映画でした。

その後、当時24歳でイケメンと騒がれた武藤敬司は、もう2度と映画には出ないとインタビューで述べていました。(その後も何本も映画出演していますが…笑)

やはりプロレスラーは強いし、プロレスラーは憧れの存在。グレートでカッコいんです!!

さて、本作『リングサイド・ストーリー』で狂言回しである村上ヒデオは言います。

プロレスラーはスポーツエンターテーメントで、技と技の応酬と。

技はかける相手がいてこその技。そして互いが光り輝くもの

ヒデオとカナコの関係はどうなるのでしょう?

そして“最高の景色”(選ばれた者しか見れない特別な景色・支え託した者にしか見えない特別な景色)とは?

現代の庶民派映画監督の武正晴の『リングサイド・ストーリー』は、2017年10月14日(土)より全国順次公開!

あなたの目で四角いスクリーンで、ぜひご確認ください!

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