映画『ぼくが旅に出た理由』は生き別れた兄を探す青年の成長を描いたヒューマンドラマ!
『ぼくが旅に出た理由』は2019年のアメリカ映画で、ラファエル・モンセラーテが監督した作品です。
母を亡くした青年ピールが25年前に父親と一緒に出て行ったふたりの兄を探す中で、自身の孤独感や心の傷と向き合う物語となっています。
主演はショーン・ペン監督による『イン・トゥ・ザ・ワイルド』や、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に出演しているエミール・ハーシュ。
『ベイウォッチ』に出演しているジャック・ケシーや、『トゥ・ヘル』のギャレット・クレイトンも脇を固めます。
個性的な登場人物たちが織り成す独特の雰囲気が、思いがけない感動をもたらす本作。見どころや考察を解説していきます。
映画『ぼくが旅に出た理由』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【監督】
ラファエル・モンセラーテ
【キャスト】
エミール・ハーシュ、ジャック・ケシー、シャイロー・フェルナンデス、ジェイコブ・バルガス、ギャレット・クレイトン、エイミー・ブレネマン、ヤヤ・ダコスタ
【作品概要】
主演のエミール・ハーシュはテレビドラマシリーズ「ER 緊急医療室」や「プロファイラー/犯罪心理分析官」などに出演したのち『イノセント・ボーイ』(2012)で映画デビューしました。
代表作はショーン・ペン監督の『イン・トゥ・ザ・ワイルド』です。最近ではクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)にも出演しています。
ロイ役のジャック・ケシーはテレビドラマシリーズ「ストレイン」に出演。映画ではドウェイン・ジョンソン主演の『ベイウォッチ』(2017)や『デッドプール2』(2018)、ブルース・ウィリス主演の『デス・ウィッシュ』(2018)などに出演しています。
チャド役のギャレット・クレイトンはニコラス・ケイジ主演の『トゥ・ヘル』(2018)や『ドント・ハングアップ』(2016)などに出演している俳優です。
映画『ぼくが旅に出た理由』ネタバレあらすじ
ピール(エミール・ハーシュ)は幼いころに両親の教育の方針が合わずに喧嘩の末、父親が出て行ってしまいました。ピールは母親に依存し、母親は過保護すぎるところがありました。
ピールが成長し青年になってからは、アルコール依存症の母の世話をしながら暮らしていました。
そんなある日突然母が死んでしまいます。家はピールのものになりましたが、月800ドルのローンの返済義務が課せられてしまいました。
ふたりの兄を探し出そうとするピールですが、手がかりが何もなく途方に暮れるピール。
部屋を貸しますという看板を立てると、ガラの悪い男性ロイがやってきて家賃を払う代わりに女性にもてる方法を教えてやる、と言って居座ってしまいました。
教授だという彼の連れの謎の男チャックも一緒です。
ピールの女友達のチュンジャがお悔やみを言いにやってきます。ピールは「ママは天国にいる」といって、色とりどりに飾った紙芝居のセットのようなものをチュンジャに見せました。
ロイとチャックは家でパーティを開こうとピールにけしかけます。パーティ資金のためにはママが使っていた部屋を間貸しする必要があるとロイはピールに説明します。
納得したピールは、同居人の面接をロイと始めます。快活でハンサムな大学生がさっそく面接にやってきました。
彼はチャドといって、大学を卒業したら世界を見に旅に出る予定だと話します。
ピールの「プールでどのくらい息を止められる?」という不気味な質問についても「3分27秒。泡なしで」と笑顔で答えました。
他に面接に来ている人はいなかったのもあり、ロイとピールは即決でチャドの同居を許可しました。
さっそく、チャドの友人らを呼んでとパーティを開きましたが、集まったのは大勢のゲイたち。
そしてチュンジャとそのいとこのジュウンだけです。ロイは心底がっかりしていました。
チュンジャはお酒がまわり、気分良く酔っぱらっていました。そして、ピールを踊りに誘います。
ふたりで良いムードで踊ったあとにピールはひとりで踊ります。チャックも独特の踊りを披露しました。
ピールは名前の由来を聞かれて話します。兄二人と違ってピールだけオレンジ色の髪の毛で生まれてきて、プール清掃員と母親の子だといじめられましたが、母はピールがオレンジの皮(ピール)から生まれたのだと言ったというエピソードでした。
お酒のせいで気持ち悪くなったチュンジャはロイに介抱され、そのまま一緒にベッド潜っているところをピールが見てしまいます。
ロイは、ジュウンとチュンジャを間違えたのだと説明しますが、怒りがおさまらないピールはロイに謝るよう怒鳴ります。
そしてピールがひとりで部屋で暴れて、うずくまっているとチャドがやってきました。
ロイは本当に勘違いしていて、チュンジャも酔っぱらっていたから仕方ない、早まってはいけないとチャドはロイを諭します。
そしてチャドは25年間会っていない兄たちの話をします。チャドはそれを聞いて長男のウィルの電話番号を検索してくれました。
夜中でしたが構わずピールはウィルに電話をかけました。そして驚くウィルに対して、母が死んだことを伝えました。
ウィルから父もだいぶ前に亡くなったと聞きます。次男のサムとは長い間連絡をとっていないと言われ、またかけるからと言って一方的に切られてしまいます。
ウィルに会いに行ったピール。妻と2人の娘と一緒にサムが帰ってくるのを待っていました。
帰宅したサムはピールの姿をみて驚きます。まさか会いに来るとは思っていなかったからです。子ども時代のサムとウィルとピールの身長が刻まれた木の板を持ってきたピールは、ウィルの身長を測って刻みます。
ウィルと二人で話していると、サムはドラックの依存症になってしまい、長い間関わっていないのだということでした。なぜ父親は出て行ったのか訪ねます。
父親が自分だけなぜ置いていったのか知りたいというピールに、父は母に愛想をつかし教育方針の違いもあって出て行ったのだとウィルは説明します。ピールに会いたがっていたと。
そして、父が書いて送らずにいたピール宛ての手紙を渡しました。
翌朝一緒にパンケーキを食べる約束をしていましたが、寝室でウィルと妻が、突然現れたピールを受け入れられないと話しているのが聞こえてしまい、ピールは辺りが暗いうちにこっそりと家を出ていきました。
バス停に座っているとロイが車で迎えに来ます。チュンジャとのことを謝るロイ。ジュウンと間違えたのだと説明します。そしてピールを家に連れて帰ろうとしましたが、ピールはビロクシーに連れていってほしいとロイに頼みます。
ロイとチャックとピールはビロクシーに到着しました。サムの家に向かったピール。彼は引っ越したと言われ一度は帰ろうとしますが、ピールはもう一度部屋を訪ねます。
部屋の中でドラッグを吸おうとしていた男は先ほどサムは引っ越したと言った男でした。
サムは会うことを拒みましたがピールは中に入れたら200ドル渡すと言います。しぶしぶ部屋の中に招いたサム。
ウィルの家にも持って行った身長を刻んだ板を見て、サムは驚きました。何の目的できたのか分からず戸惑うサム。そんなサムに会えてよかったと話すピール。
昔にいたずらをして怒ったサムがピールのお気に入りのG.Iジョー人形を庭に埋めてしまったことがありました。
庭中掘り返したが見つからないのでどこに埋めたか教えてほしいというピールにさらに驚きを隠せないサム。そんなことで来たのかと。
サムは呼んでもいないし、会いたくなかったとピールに帰るように言います。
動揺するサムに「怒っていない、許すよ」と言うピール。その言葉を聞いて「何を許すんだ、俺が何をした」と返すサム。「G.Iジョー人形の場所を教えて」と言うピール。
「人形のことじゃない。情けない兄の姿を見に来たのか。自分はムシケラだ。死にきれないゴキブリだ。」と言って泣き出したサム。耐えきれない、2度と来るなと言って身長の板を叩き割りました。
部屋を静かに出て行ったピール。部屋の湯船に使っていると昔のプールで父に抱かれている思い出が蘇ります。心配したロイが声を掛けます。
映画『ぼくが旅に出た理由』の感想と評価
独特なテンポとシュールな笑いが効いた心温まるヒューマンドラマ。複雑な家庭環境で育った青年ピールが、母の死をきっかけに新たな出会いを通して生き別れた兄弟を探す物語です。
クセが強い登場人物たち
本作の魅力のひとつは、主人公のピールを含め登場人物たちが個性豊かなところです。
母に依存して育ったせいで世間知らずのピール。まるで少年のようにピュアな彼の家へと最初にやってきたのはロイでした。
どこから見てもチンピラで家賃も払わないギャンブラーな男ですが、ピールに男しての生き方を教える姿から少しずつ兄貴分のようなポジションになっていきます。
2人目の同居人のチャド。彼は大学卒業を控えたチア部の主将というキャラクターです。
友人も多く、大学卒業後は旅に出ると決めていてハンサムで肝の座った人物です。ピールとロイがもめたときに仲裁に入って優しくピールを慰めました。
ロイもチャドも違った個性ですが、ピールにとって初めての友達であり、兄のように導いてくれる存在といえるでしょう。
兄と生き別れになったピールにとって人生をやり直すきっかけをくれた第二の兄弟です。
個性的キャラと言えば、ロイの連れのチャックも忘れてはいけません。パーティでの奇妙ながら絶妙に上手いダンスが最後にああいう結末になるとは驚きと笑いがこみ上げます。最後までオチ的ポイントの謎の人物でした。
この個性的キャラクターたちの生み出す独特の空気が本作の魅力となっています。シュールな笑いが感動的なシーンもエモーショナルにさせすぎない絶妙なバランスを保っていたと言えます。
だからこそラストシーンにかけての感動がひとしおなのではないでしょうか。
兄弟の再会
淡々としたテンポで進む物語は、ピールが生き別れになったふたりの兄を探しに旅に出たところから一変します。25年ぶりに会う兄2人は、突然現れたピールに対してそれぞれ違った動揺を見せました。
長男のウィルは家庭を持ち幸せに暮らしており、ピールにどう接したらいいかわかりません。なかったことにしようと自分の中で区切りをつけようとしていました。
一方で次男のサムは生活が上手くいかずクスリに溺れみじめな姿です。ピールを置いていったことを心の奥底で悔やんでいました。
ピールはウィルと話すことで、長年の父へ抱いていた「なぜ自分を捨てたのか。」ということの答えを見つけます。そして、時の長さゆえに兄弟の間に入ったヒビがそう簡単に直せないという現実にも気付くのです。
そして、サムと話す中で置いていった兄も傷ついていたことを知ります。
この2人との再会と対話が、長年の寂しさから解放させると同時にピールを自立へと導きます。
母と置き去りにされたピール。父に連れられて出て行ったウィルとサム。
彼ら3兄弟それぞれから見た両親の離婚について、そしてピールの孤独感。兄らの罪悪感など、とてもデリケートな心境を丁寧に描いています。
まとめ
本作には何度も登場する印象的な場面があります。それは、ピールがシュノーケリングゴーグルを着けてプールに浮かぶ様子です。
少年時代のピールも、母が死んだ後もピールはひとりでプールに浮かんでいました。
それは、水中を眺めて何もない空間を漂うことで、孤独感や複雑な感情から解放され、心の平穏を保つピールの唯一の方法だったのではないでしょうか。
そのシーンがラストに向けて変わっていきます。彼が自ら旅に出たことで人生に大きな変化がもたらされたのです。
ぜひ、プールのシーンにも注目して観てみてはいかがでしょうか。