怪我のため、トップから転落し悪役に転身したレスラーと、その家族の物語を描いた映画『パパはわるものチャンピオン』。
家族をテーマにした作品ですが、1人のレスラーの生き様を描いた映画として、非常に見応えのある本作を、プロレスファン目線でご紹介します。
CONTENTS
映画『パパはわるものチャンピオン』の作品情報
【公開】
2018年9月21日(日本映画)
【監督・脚本】
藤村享平
【原作】
板橋雅弘、吉田尚令
【キャスト】
棚橋弘至、木村佳乃、寺田心、仲里依紗、オカダ・カズチカ、田口隆祐、真壁刀義、バレッタ、天山広吉、小島聡、永田裕志、中西学、KUSHIDA、後藤洋央紀、石井智宏、矢野通、YOSHI-HASHI、内藤哲也、高橋ヒロム、淵上泰史、松本享恭、川添野愛、大泉洋、大谷亮平、寺脇康文
【作品概要】
板橋雅弘と吉田尚令による人気の絵本「パパのしごとはわるものです」「パパはわるものチャンピオン」を原作に、TVドラマ『ラブリラン』の藤村享平が監督と脚本を担当し実写映画化。
主演に新日本プロレス所属のレスラーで「100年に一人の逸材」と呼ばれる棚橋弘至。
息子の祥太役に、天才子役と呼ばれる寺田心。
映画『パパはわるものチャンピオン』あらすじ
プロレス団体「ライオンプロレス」で、かつてエースとして人気と実力を兼ね備えていた、プロレスラー大村孝志。
孝志の子供、祥太は、体が大きくて優しい父親が大好きでしたが、孝志の仕事を聞いても絶対に教えてくれず、母親の詩織にも隠される事に、不満を感じていました。
ある日、祥太は孝志の車に忍び込み、孝志の職場へ潜入します。
そこにいたのは、屈強な強面の男達で、祥太は恐怖を感じ逃げ出します。
逃げた先にあったのはプロレスのリングで、リング上では試合が行われており、大勢の観客が観戦していました。
客席にいた祥太のクラスメートで、父親と観戦に来ていたマナちゃんの誘いで、祥太は初めてプロレスを観戦します。
始まったのは「ライオンプロレス」の現在のエースでマナちゃんが大好きなレスラー、ドラゴンジョージと、悪役で嫌われ者のレスラー、ゴキブリマスクとの試合でした。
ゴキブリマスクは、相棒のギンバエマスクと共にラフ殺法を展開し、客席からブーイングが起きます。
ブーイングに反応するように、ポーズを決めるゴキブリマスク。
しかし、ゴキブリマスクのポーズが、銭湯で孝志が決めていたポーズと同じだった事から、祥太はゴキブリマスクが孝志だと気付き、孝志も客席の祥太に気付きます。
試合が終わり、祥太を追いかける孝志ですが、自分の父親が嫌われ者のゴキブリマスクだった事に、ショックを受けた祥太に拒絶されます。
次の日、クラスメートから父親の仕事を聞かれた祥太は「プロレスラーだ」と答えますが、ゴキブリマスクとは言えず、ドラゴンジョージだと嘘を吐き、マナちゃんにサインをもらってくるように、お願いされます。
祥太はプロレスファンが集まる、もんじゃ屋に潜入し店内に飾ってあったドラゴンジョージのサインを盗みますが、店内にいたプロレス好きの雑誌記者、大場ミチコに見つかり掴まります。
ミチコにドラゴンジョージのサインを取り上げられた祥太でしたが、祥太を迎えに来た孝志と遭遇し、戸惑うミチコから再び逃げ出します。
追いかけて来た孝志から隠れた祥太は、再びミチコに掴まります。
祥太を見失い帰宅した孝志は、詩織に「ライオンプロレス」最大のイベント「Z1クライマックス」に出場が決まった事を報告、ここで優勝して祥太にカッコいい所を見せたいと意気込みます。
そこへ帰宅した祥太にサインをねだられ、孝志は更に喜びます。
祥太は孝志のサインとドラゴンジョージのサインを交換する取引をしており、入手したドラゴンジョージのサインをマナちゃんに渡し、クラスのヒーローとなります。
ですが、それを面白く思っていないクラスメートもいました。
そして、いよいよ始まった「Z1クライマックス」。
まさかのゴキブリマスクの出場に、興奮したミチコは「ゴキブリマスク特集」を企画します。
祥太はマナちゃんとクラスメートと共に、試合を観戦していました。
ゴキブリマスクは「Z1クライマックス」1回戦、ジョエル・ハーディから大番狂わせとも言える勝利を収めますが、卑怯な戦い方に観客からはブーイングが飛びます。
勝っても嫌われるゴキブリマスクに、更にショックを受けた祥太は、同じく観戦に来ていたミチコから「ヒーローばかりではプロレスは面白くない、悪役も必要」と説明されます。
ですが、祥太は話を聞かず会場を飛び出し、後を追いかけて来た孝志に「嫌われ者なら、普通のパパが良い」と言います。
ショックを受け、立ちすくむ孝志を背に、祥太は1人で帰宅していきます。
プロレスファンの視点から見た映画『パパはわるものチャンピオン』
本作は、プロレスファンでなくても楽しめる作品ですが、1人のプロレスラーの人生を描いた作品として見ると、非常に熱い作品となっています。
そこで、プロレスファン視点での、本作の魅力をご紹介します。
プロレスラー棚橋弘至の人生が反映された作品
先日放送された『情熱大陸』を振り返り、棚橋弘至選手が「面白いっしょ、プロレス!」と熱く語った日記『第389回 情熱の日々』は、新日本プロレス・スマホサイト(https://t.co/tgSS7enxE0)で更新中!#njpw pic.twitter.com/vMm8Iq81nB
— 新日本プロレスリング株式会社 (@njpw1972) 2018年10月4日
本作の主人公、大村孝志を演じるのは、新日本プロレスの棚橋弘至選手。
かつてのエースが、膝の怪我でトップ戦線から脱落し、それでもプロレスにしがみついている姿が「近年の自分とシンクロした」と語っていますが、大村孝志を演じるのは、棚橋選手以外は考えられないという程、本人と役が重複する部分があります。
ここでは棚橋選手のプロレス人生を、ご紹介します。
1976年生まれの棚橋選手は、1999年10月10日に、新日本プロレスのレスラーとしてデビューしました。
ですが、デビュー当時は総合格闘技がブームとなっており、プロレスには逆風が吹いていました。
新日本プロレスは集客に苦しむようになり、所属レスラーも大量に離脱し、倒産寸前とまで言われていました。
そこで、新日本プロレス復活の、先頭に立ったのが棚橋選手でした。
自ら「エース」を名乗り、チャラいキャラを確立しながら、時間が空けば地道な普及活動に励むようになります。
ですが、復活の兆しが見えないプロレスに、ファンの苛立ちが募り、棚橋選手がリングに立てばブーイングが起きる状況が4年間ほど続き「プロレス史上あんなに嫌われた人はいない」とも言われています。
この時の経験が、嫌われ者のゴキブリマスクに活かされたと思われます。
現在は棚橋選手の地道な普及活動と、新日本プロレスのSNS戦略が功を奏し、新日本プロレスの人気は回復し、国内のみならず、世界にもファンを拡大させています。
プロレス人気回復の、棚橋選手の貢献度はファンや他団体のプロレスラーも認めており「プロレス界の救世主」とも呼ばれています。
しかし、長年体を酷使してきた棚橋選手の体は限界にきており、近年ではダメージの蓄積した右膝の怪我が悪化し、ここ数年はトップ戦線から離脱します。
誰もが「プロレスラー棚橋弘至は終わり」と思っていた2018年、棚橋選手は右膝のダメージを顧みない、捨て身とも呼べるファイトスタイルで、名勝負を連発、久しぶりにトップ戦線に食い込んできました。
プロレスラーとして嫌われ者を経験し、怪我に苦しみながらも、諦めずに戦い続けるその姿は、本作の主人公、大村孝志そのもの。
大村孝志を演じる事ができたのは、棚橋選手だけだと言えます。
感動的な「ブック破り」
本作では、孝志が試合中にゴキブリマスクを脱ぐ場面があり、ストーリーが進むキッカケとなる重要なシーンとなっています。
かつてのエース、大村孝志の登場に、ファンは熱狂し盛り上がりますが、試合後に孝志は「ライオンプロレス」を解雇されます。
プロレスを知らない方だと、不思議に感じたかもしれませんが、これは「ブック破り」と呼ばれ、業界ではご法度とされています。
プロレスには、試合の勝敗から、試合中に起きるアクシデントまで事前に決められている「ブック」が存在すると言われています。
「言われている」というのは、正式に存在するかは不明となっていますが、プロレスファンからすると、かなり信憑性の高い話なのです。
過去には「ブック破り」が起きた思われる試合も存在し、ほとんどが不穏な空気となっています。
つまり、「ブック破り」は興行主からすると、興行そのものを壊しかねない、歓迎できない事なのです。
会社の方針に従わなかった孝志が、試合後に解雇されたのは当然といえます。
キャリアの長い孝志が、その事を知らないはずも無く、試合中にマスクを脱いだのは、祥太が自慢できるレスラー、エースだった頃の自分を見せたいという「父親としての意地」からです。
レスラーとしてではなく、父親としてのプライドを感じる、感動的な名場面と言えるでしょう。
悪役レスラーは本当に悪者なのか?
本作では、孝志は膝の怪我から仕方なく、悪役レスラーへ転向しましたが、実際の悪役レスラーはどうなのでしょうか?
プロレスファンの間では「悪役レスラーは常識的な人が多い」と言われています。
新日本プロレス所属で、本作にも少し出演している矢野通選手は、反則攻撃を連発する悪役レスラーですが、ある番組で「誰よりも早く来て、会場をチェックし、凶器を隠す場所を考える」と語っており、誰よりも真面目である事が判明しました。
いくら悪役レスラーとは言え、反則攻撃ばかりだと試合が成立しなくなり、観客は不満しか感じないようになります。
ファンが盛り上がるタイミングで、効果的な反則攻撃を出すには、常識的な判断と、高いプロレス技術が必要と言われています。
悪役レスラーは常識人で、プロレスが本当に強い人でないと勤まらないのです。
現役プロレスラーが多数登場
本作は棚橋選手の他に、新日本プロレス所属の現役プロレスラーが多数登場しています。
「ライオンプロレス」の現エース、ドラゴンジョージを演じるオカダ・カズチカ選手は、実際に棚橋選手が3年以上勝てなかった相手ですし、スイートゴリラ丸山を演じた真壁刀義選手は、スイーツ好きレスラーとして、バラエティ番組によく出演していますね。
中でも注目は、ギンバエマスクを演じた田口隆祐選手で、長年悪役レスラーとしてタッグを組んできた孝志が、エースだった頃に戻ろうとする姿に、葛藤を感じ、その様子を見事に表現しています。
木村佳乃さんに「アナタ、役者に向いてるわよ」と太鼓判を押されたそうなので、今後は俳優として見る機会が増えるかもしれませんね。
映画『パパはわるものチャンピオン』感想と評価
プロレスをテーマに扱った本作ですが、描かれいるのは「家族愛」です。
祥太は父親の孝志に「かっこいいパパ」である事を望み、孝志も祥太の想いに答えようとします。
しかし、現実は厳しく、孝志はゴキブリマスクとして生きていくしかなく、祥太はその現実にショックを受けます。
お互いの葛藤や苦しみを乗り越えた時に、孝志はプロレスラーとして新たなファイトスタイルを確立し、祥太は孝志の仕事を受け入れ、家族として成長するのです。
この映画の成功は大村孝志を演じた棚橋弘至選手と、祥太を演じた寺田心君の、本当の親子のような空気感が作品から伝わってくる事にあります。
撮影前に約2ヶ月のリハーサルがあり、お互いを「祥太」「パパ」と呼ぶようにし、実際の親子のような関係を作り上げてきました。
また、孝志の妻で祥太の母親である詩織を演じた木村佳乃さんも、親子というより友達同士が喧嘩したような祥太と孝志を、暖かく見守り存在感を出しています。
実際の撮影現場も、木村佳乃さんが、演技に集中していた棚橋選手を引っ張り、撮影現場の大黒柱のような存在だったそうです。
家族を守る為に、悪役レスラーのゴキブリマスクとして生きていく道を選んだ孝志、父親の仕事にショックを受け「かっこいいパパが良い」と望む祥太、そして2人を陰ながら支え見守る詩織。
それぞれの目線や感情が作中で表現されており、プロレスを知らなくても、大人や子供、女性も、必ず誰かに共感できるような作品になっています。
まとめ
プロレスを題材に、家族愛を描いた本作は、異色作と感じる方もいるかもしれません。
本作でも、プロレスファンのミチコが言っていましたが「プロレスは生き様」なのです。
生き様とは人生で、人生に不可欠なのは家族。
つまりプロレスラーの父親を通して、家族の姿を描いた本作は、人間ドラマとして正しい作品と言えます。
作品全体のテンポもよく、ストーリーにグイグイ引き込まれる作品なので、プロレスを知らない方でも楽しめる映画となっており、この作品をキッカケに、プロレスに触れてみても面白いのではないでしょうか?
映画『パパはわるものチャンピオン』は、2018年9月21日より、全国公開中です。