映画『オーケストラ・クラス』は、8月18日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順公開。
挫折したバイオリニストと夢を見つけた子ども達。音楽で紡ぎ出した真実の物語であり、奇跡のメロディが響く瞬間に出会えます。
第74回ベネチア国際映画祭で特別招待作品となった、映画『オーケストラ・クラス』を紹介します。
映画『オーケストラ・クラス』の作品概要
【公開】
2018年(フランス映画)
【原題】
La Mélodie
【脚本・監督】
ラシド・ハミ
【キャスト】
カド・メラッド、アルフレッド・ルネリ、ザカリア・タイエビ・ラザン、シレル・ナタフ、ユースフ・ゲイエ、サミール・ゲスミ
【作品概要】
フランスで実践されている音楽教育プロジェクト『デモス』とは、音楽に触れる機会が少ない子ども達に無償で楽器を贈呈しプロの音楽家が技術と素晴らしさを教える情操教育プログラムであり、今や世界で大きな話題となっています。
このプログラムのドキュメンタリーの情報を知ったラシド・ハミ監督は、自らの生い立ちと重なる子ども達にインスピレーションを得て本作を描きました。
またプロデューサーは『コーラス』『幸せはシャンソニア劇場から』など音楽映画の名作を手がけてきたニコラ・モヴェルネが贈る珠玉の音楽映画です。
映画『オーケストラ・クラス』のあらすじとネタバレ
パリ19区の小学校。子ども達の登校する姿を見つめながら、椅子に一人の男が座っています。
些細な言い合いから本気になって喧嘩をする子どもたちを、先生たちが止めに入ります。その男は校長室の入り、説明を受けていました。
6年生のオーケストラクラスの指導者として、校長とそのクラスの担任ブラヒミに説明を受け、挨拶を交わしました。
その男はバイオ二ストのシモン・ダウド。
アフリカやアジア系などの多様な移民たちが通うこの学校では、地元のフィルハーモニー・ド・パリが運営する音楽教育プログラムを実践しており、今年はダウトが子ども達にバイオリンを指導することになります。
緊張な面持ちで、ダウドは担任のブラヒミと防音設備のある小さな教室に向かいました。
教室の中では好き勝手に喋っている子どもや、気ままに騒いでいる子どもなど、新しい先生が来ても全く意に介さない様子です。
唖然とするダウドでしたが、自己紹介を始めますが、子どもたちの様子は変わらず勝手に振る舞い続けます。
ダウドは「クラシックで好きな曲は?」質問をします。
「ジャジャジャジャーンのベートーベンかな?」とピアノを引く真似をして答える子ども。あちこちから罵声とバカにした笑いがあふれます。
さらにダウドは「じゃ知ってる音楽家は?」と質問を繰り返します。
「セリーヌ・ディオン!」と声を張り上げる子ども。すると大喝采の子どもたち。
ダウドがバイオリンの扱い方やパーツを教えようとすると、ある子どもが好き勝手に弾こうとします。
ダウドは止めるように注意をすると、「先生は、遊べ(play)と言った」と不満げに言い返す子ども。
ダウトは「遊ぶのじゃない、弾く(play)だ!」と厳しい顔でが答えます。
もともとダウドはこの仕事を望んで引き受けたわけではなく、別れた妻や疎遠になった娘、そしてプロのギタリストの仕事も失った彼は、半ば自暴自棄に生活のためこの小学校にやってきました。
初日の授業を終えて、担任のブラヒミに大丈夫かと声をかけられ、ダウドはこう答えます。
「30秒も集中できないし、ほとんど楽器にも触れたことがない。どうやってバイオリンを教えるんだ?」。
ブラヒミは、オーケストラクラスの最終目標が年度末にフィルハーモニー・ド・パリのメインホールで課題曲『シェエラザード』を演奏することを確認し、子ども達のために頑張ってほしいとダウドに伝えました。
後日、ダウトは子どもたちに模範演奏を披露します。
いつもの騒がしい子どもたちの動きが止まり、真剣な表情で子どもたちの耳に音楽が飛び込んだ瞬間でした。
ある日休み時間に、オーケストラクラスにある男の子が入り込み、勝手に人のバイオリンを触っていました。
触られているバイオリンの子どもが、「俺のバイオリンを勝手に触るな!」と、見つけて怒鳴りつけました。
他の友達も加勢して大げんかになっているところに、ダウドとブラヒミが駆けつけ彼らを止めます。
そのアフリカ系の男の子はアーノルドといい、時々授業を窓から覗いているのをダウトは気づいていました。
「オーケストラクラスに入りたいのか?」とダウドが聞くと、「やりたい」と真剣な眼差しでアーノルドが答えました。
アーノルドは学校から貸してもらったバイオリンが嬉しくて、帰宅してから毎晩アパートの屋上に上がり、パリ郊外の夜景を見ながら、練習に励みました。
アーノルドの母親は「バイオリンやりたいの?」と尋ねます。
彼は静かに「…うん」と答えました。それを聞いた母親は微笑んでいます。
ある日、『シェエラザード』の同じフレーズを、何度も子どもたちが弾いている音をダウドが聴いていると、優しく透き通った音色が聴こえました。
アーノルドにみんなの前で音を出すようにダウドがアーノルドに言うと、恥ずかしくて尻込みをしてなかなか弾こうとしません。
「弱虫!」など冷たい言葉や嫉妬の視線を受けながらも、ダウドはみんなの前に出して弾くように促します。
アーノルドは意を決し、バイオリンを弾き始めます。
子ども達が、アーノルドの音色に惹き込まれます。
アーノルドの才能を見出したダウドは、無口で引っ込み思案の彼の背中を押し、演奏のソロを弾くように伝えました。
子ども達が少しずつ真剣に練習を重ねるも、相変わらずトラブルは続いていました。
クラスの一番のガキ大将サミールに授業中度が過ぎた暴言を吐かれ、ダウトはカッとなって彼を突き飛ばしました。
担任のブラヒミに「子どもに手をあげたらダメだ」と窘められますが、「サミールのような子どもは排除すべきだ」と反論します。
「本当にそう思っているのか?」と言って去っていくブラヒミを見て、ダウドは再び自暴自棄に陥り、指導者としての自信を失いました。
そんな時、昔共に仕事をしていたバイオリストの友人から連絡がありました。
第2バイオリストが必要で、ツアーにも行けることを知りました。
小学校の授業の後、ダウドはブラヒミを呼び出します。
バイオリストに戻り、ツアーに行くことを伝えました。
「子ども達を見捨てるのか?子ども達は君を信じているし、コンサートを楽しみにしているんだ」とブラヒミのは説得しましたが、「僕は、音楽家なんだ!」と言い放つダウド。
既にダウドの心は決まっている様子でした。
映画『オーケストラ・クラス』の感想と評価
なぜこんなにも音楽に心を惹かれるのでしょう。
観る者にこんな質問を自分自身に問いかけてしまう映画です。
この映画の中に入っていく時、知らず知らず自分がオーケストラ・クラスの指導者ダウドになっていることに気がつきます。
最初教室に入った途端、余りにも勝手気儘の子ども達と騒がしい教室にダウトは唖然とします。
その瞬間実は観ているものも、口を開けて観ています。ここでもうダウド先生と一体化してしまった様な気がします。
更に、偉そうにサミールがダウド先生に減らず口叩くシーンなんて、「そら突き飛ばしてしまうでしょ!」とツッコミを入れたい気分になっている自分に気づきます。
ここまでくると、子ども達の一挙一動に腹が立つと思ったら感動したり、そして泣いたり笑ったりしている自分に驚きます。
知らない間に、ラストのオーケストラの演奏に自分もバイオリンを弾いている側にいてるようにさえ感じるかもしれません。
ダウドになって子ども達と一緒にメロディを創っていくこの1年間を目撃し、体感できる映画です。
とともに何と言っても喜怒哀楽のエネルギーの源は、魅力的な子どもたち!
オーケストラ・クラスのナンバー1のガキ大将サミール。
本当に毎回出てくる度に罵詈雑言が飛んできます。日本語で書けないNGワードも満載です。
でもダウド先生がアミールの家に謝罪に来た時、もう目が嬉しそうでした。
案の定すぐに登校を再開し、ダウド先生に向ける眼差しのキラキラ感が半端じゃないのです。それまで茶化す側だったのに、先生とのやりとりを茶化されてもニコニコスマイル。
クリクリ目玉のお調子者アブ。
いつも調子に乗って喋ってしまうので、ついアミールの格好の餌食になってしまいます。
自主練の屋上シーンで、ついにアミールに爆発。泣きながらアミールに今までのことを吐露する姿は、さすがのアミールもこたえた瞬間であり、クラスの心が一つにまとまる大切な機会となりました。
そしておませでしっかり者の女子、ヤエル。
クラスの雰囲気を一番に掴み、一番心配しているような女の子です。何よりもバイオリンが大好きだという思いが視線に表れています。
アーノルドのことが大好きで、気持ちも伝えているし、お守りを渡して励ますシーンもあります。本当にしっかりして脱帽です。
まとめ
フィルハーモニー・ド・パリが近づくある日、アーノルドが母親に今まで言えなかったこと、父親のことを涙ながらに思いの丈を伝えるシークエンスがあります。
オーケストラの演奏は「テレビに映るの?」と聞きながら、父親のことを「何処にいるの?」「なぜ出て行ったの?」と問い詰めます。
母親は何も答えませんでした。
アーノルドが父親に会いたい気持ちは、もう痛いほどわかっているけれど、母親は話せないという事実。
この苦しい思いを届けようと演奏するアーノルドのバイオリンの音色が、あの切ない音楽になるのです。
他の子どもたちもそれぞれ抱えているものがあって、自分の音色に乗せて表現しているのが、この映画、原題が”La Mélodie”(メロディー)です。
ぜひ『メロディー』が生まれる瞬間を体感しに行きませんか。