映画『のさりの島』は、2021年5月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開、天草、熊本にて5月先行公開予定。
タイトルにある「のさり」とは、熊本県天草地方に古くからある言葉です。
いいこともそうでないことも、自分の今ある全ての境遇は、天からの授かりものとして否定せずに受け入れるという意味。天草の人々の優しさの原点ともいえる言葉です。
オレオレ詐欺の旅を続ける若い男が流れ着いたのは熊本・天草の寂れた商店街、銀天街。男は孫の将太として老女・艶子に受け入れられます。
“やさしい嘘”から始まる奇妙な同居生活。全編ロケを熊本・天草で行い、人々の交流を通して人々の絆、優しさを丁寧に描きます。
監督は、プロの映画製作スタッフと大学生の混成チームで劇場公開映画を製作【北白川派】の山本起也。主演は藤原季節で制作されました。
映画『のさりの島』の作品情報
【公開】
2021年公開(日本映画)
【監督・脚本】
山本起也
【プロデューサー】
小山薫堂
【キャスト】
藤原季節、原知佐子、杉原亜実、中田茉奈実、宮本伊織、西野光、小倉綾乃、酒井洋輔、kento fukaya、水上竜士、野呂圭介、外波山文明、吉澤健、柄本明
【作品概要】
主演を務めるのは『his』(2020)、『佐々木、イン、マイマイン』(2020)、『くれなずめ』(2021公開予定)の藤原季節。本作が長編映画初主演となりました。老女役を演じたのは本作が遺作となった原知佐子。
本作は京都造形芸術大学映画学科が、プロの映画製作スタッフと学生の混成チームで劇場公開映画を製作する【北白川派】プロジェクトの第7弾として制作されました。これまで『正しく生きる』(2015)、『嵐電』(2019)など6作品が制作されました。
【北白川派】プロジェクトの第3弾『カミハテ商店』(2012)を監督した山本起也監督が本作の監督も務めました。プロデューサーを務めるのは『おくりびと』(2008)の脚本を務めた小山薫堂。
映画『のさりの島』のあらすじ
オレオレ詐欺をして各地を旅していた若い男(藤原季節)は熊本県の天草に辿り着きます。
「もしもしばあちゃん、俺だけど…」。
寂れた銀天街の店に電話をかけていた男の電話に出たのは山西楽器を営む老女・艶子(原知佐子)でした。
受け子として男が山西楽器に向かうと、艶子は「将ちゃん」と男を孫の将太として受け入れます。
“やさしい嘘”から始まった奇妙な同居生活に最初は戸惑っていた若い男でしたが、次第におだやかな時間が流れる天草での生活に居心地の良さを感じはじめます。
天草では、地元のラジオのパーソナリティを務める堀川清ら(杉原亜実)を中心に、若者が昔の天草の8ミリ映像や写真を集め上映会をしようと計画していました。
銀天街のかつての8ミリ映像や写真を探し、山西楽器にやってきた清らと将太は出会い、ひょんなことから将太も上映会の企画に参加することになります。
かつての賑わいのあった頃の天草・銀天街の痕跡を探すうちに将太が見つけた写真、天草の人々の交流を通じて将太はどう変わっていくのでしょう…
映画『のさりの島』の感想と評価
やさしい嘘
「まやかしでも人には必要なときはあっど」。終盤、地元の漁師が若い男に言った言葉です。
オレオレ詐欺で孫になりすまし嘘をついてお金を騙し取ろうとした若い男。しかし、嘘をついた男を受け入れ、本当の孫のように接する艶子のやさしい嘘。
艶子の孫はすでに亡くなっており、男が孫ではないことは分かっていました。それでも受け入れた艶子の中に宿る天草の“のさり”の精神なのかもしれません。
もしくは艶子自身も分かっていながら、もういない孫が帰ってきたという“まやかし”を信じたかったのかもしれません。
艶子は家にやってきた男のスマートフォンと財布を寝ている間に隠してしまいます。無くなったことに気がついた男は、艶子にどこに隠したのか尋ねますが、艶子は「知らない」の一点張りで教えようとはしません。
数日後、スマートフォンと財布を見つけた将太でしたが、艶子との奇妙な同居生活に居心地の良さを感じはじめ、見つけても帰ることはありませんでした。
ひょんなことから上映会の企画に参加することになったは将太は、銀天街の8ミリ映像や写真を探していくうちにかつての銀天街の賑わい、そして火事により多くのものが失われてしまったことなどを知っていきます。
「ばあちゃん、何かすることある?」と尋ねる男に艶子は「なかなか、もう十分やってくれたよ」と答えます。
ある事実を知っても、最後まで2人はお互いのうそを本当のように受け入れ、本当のことを言うことはありませんでした。
2人とも“まやかし”だと分かっていても“信じたい”気持ちがあったのでしょう。
時に人は“まやかし”が必要だと言った漁師の言葉のように。
地方都市が抱える問題
若者の地方離れ、地方の高齢化などの問題は現代の日本において無視できない問題であり、その問題を描いた映画は数多くあります。
本作においてもそのような問題は無関係ではありません。
冒頭、清らがパーソナリティを務める地元のラジオでは、町おこしに尽力している人々を交えて話している場面が描かれます。
そして銀天街がかつては天草にこれほど人がいたのかと思うほどの賑わいを見せていたことが語られています。
しかし、現在の銀天街はかつての賑わいなど嘘だったかのようなシャッター街になっています。
地元・天草を愛す清らは地元のために何かしたいと考えています。しかし、友人のゆかりは清らに東京に行くと告げます。
出ていく理由を聞かれたゆかりは、地方は人情や人の繋がりがあって良いというけれど、地元の人にとってはそうでもなく、息苦しいと感じる、と言います。ずっとここで母親のように生きるのは嫌だ、と。
天草の地に宿る“のさり”の心。受け入れて生きてきた人々の絆と優しさを艶子と若い男の交流を通して描く一方で、現代の天草が抱える地方の問題も描いているのです。
この地で生きること、同時にこの地を出ていこうとする人がいること。全てを天草の人々は受け入れ繋がっていくのです。
まとめ
オレオレ詐欺をしながら旅を続ける青年がたどり着いた熊本・天草。
“のさり”の心が宿るこの地で、やさしい嘘により奇妙な同居生活を送る艶子と青年の交流と天草の人々の絆を描く映画『のさりの島』は2021年5月29日(土)よりユーロスペースほかにて全国公開、天草、熊本にて5月先行公開予定です。
自然豊かで美しく、穏やかな時間が流れる天草の地で生きている人々の絆と、様々なことを受け入れてきた人々を紡ぐ優しい物語です。