1974年、イギリス北部ランカシャーの町で若者たちはアップビートなレアソウルに合わせて踊る!
イギリス北部の労働者階級の若者たちから生まれた音楽ムーブメント「ノーザン・ソウル」の最盛期を舞台に、ファッション・フォトグラファーのエレイン・コンスタンティンが初監督に挑戦。
英国ユース・カルチャーを描いた新たな傑作『ノーザン・ソウル』をご紹介します。
映画『ノーザン・ソウル』の作品情報
【公開】
2019年(イギリス映画)
【原題】
NOTHERN SOUL
【監督】
エレイン・コンスタンティン
【キャスト】
エリオット・ジェームズ・ラングリッジ、ジョシュ・ホワイトハウス、アントニア・トーマス、スティーブ・クーガン、リサ・スタンスフィールド、リッキー・トムリンソン
【作品概要】
イギリスのワーキングクラスの若者たちの間で生まれた音楽ムーブメント“NORTHERN SOUL”。その渦中で、ソウル・ミュージックとダンスに情熱を注ぐ若者たちの姿を追う青春ドラマ。
エレイン・コンスタンティン監督は少女期に“NORTHERN SOUL”を目撃した世代。当時の熱狂をリアルに描き、音楽と友情の物語を作り出した。
映画『ノーザン・ソウル』のあらすじとネタバレ
1974年、イギリス・ランカシャーのバーンズワースという町で高校生のジョンは冴えない日々を送っていました。
大好きなおじいちゃんは施設に入れられてしまい、両親は小言ばかり。ユースクラブに行けだなんて、つまらないことばかり言ってきます。
通学バスで毎日顔をあわせる可愛い黒人の女の子だけが唯一の癒やしでした。話をしたことはありませんが、看護師をしているらしく、ジョンはいつも彼女に席を譲ってあげるのです。
ところが、そんな彼女の想いを綴ったノートを教師に取り上げられてしまい、あろうことかみんなの前で読み上げられてしまいました。こんな屈辱ったらありません。
親の支持に従い、いやいや出かけたユースクラブでジョンは、DJにこの曲をかけてくれと直談判しているマットをみかけます。
今回だけという条件でかかった曲はアップビートなソウル・ミュージックで、マットの独特なダンスも相まって、ジョンはたちまち魅了されます。
ところが、つまらない曲だと二人組がチャチャを入れ、マットと喧嘩になりました。ジョンは加勢して相手をやり込め、それをきっかけにマットと友人になります。
マットは、当時イギリスの北部で爆発的に盛り上がっていた音楽ムーブメント”Northern Soul”に夢中で、DJになりたがっていました。
彼はヤクの売人の兄との二人暮らし。近所の煉瓦の建物の落書き犯がジョンだと知ると「お前はテロリストだな!」と愉快そうに叫びました。
マットから、カリスマ的な人気があるDJ、レイ・ヘンダーソンのテープを渡されたジョンはたちまち虜になってしまいます。
マットと一緒にレコード店に行き、デトロイトやシカゴのレコードレーベルをあさったり、メールオーダーで珍しい盤を手に入れたりとこれまで知らなかった世界にのめり込んでいきます。
マットにアドバイスを受け、服装もどんどん様になっていくジョン。誰も知らない名曲を探しにアメリカへ行こう!と二人は盛り上がります。
そんな折、ユースクラブのDJが車の事故にあって来られなくなったという知らせがありました。マットは自分がDJをやるとステージにあがり、ジョンにダンスをするように言います。
自信のないジョンは数人の男子を呼び込み加勢を頼みました。彼らはフロアで一人で踊っているマットのダンスを真似して踊り始めました。
マットのかけた音楽に興味を示さなかった女の子たちも次第に加わり始め、フロアは”Northern Soul”の熱気につつまれます。
マットとジョンはユースクラブを舞台に着々と”Northern Soul”文化を広めていくのでした。
そんな折、祖父が亡くなったと施設から連絡が入りました。祖父を邪魔者扱いして施設に入れた両親への怒りがむくむくと湧き上がり、ジョンは家を飛び出してしまいます。
テスト中に悪態をついて高校もドロップアウトしたジョンは、マットと一緒に生活するようになりました。製菓工場に勤務し、アメリカへ行く資金を貯め始めます。
ユースクラブのDJが復帰し、マットとジョンは出入り禁止にされてしまいます。新しいフロアを探そうとしますが、彼らが若すぎるため、なかなか許可がでません。
マットは兄のポールに頼もうとしますが、兄は警察に逮捕されてしまいました。唯一の肉親と離れ離れになりマットは落ち込みます。
ジョンは工場で全身入れ墨の中年男ショーンと知り合います。彼の腕には”Northern Soul”と記された入れ墨があり、二人は意気投合します。
ショーンに頼んで、フロアを借りることも出来ました。しかしマットは面白くありません。フロアを借りるのは兄に頼みたかったのです。
ショーンは有名なクラブ、ウィガン・カジノの常連で、連れていってやると言われてジョンは小躍りします。
マットはショーンを嫌っていましたが、彼から大量のアンフェタミンを渡され、3人はウィガン・カジノに出かけていきました。
ところが、ジョンは、アンフェタミンを飲みすぎて気分が悪くなりトイレでぶっ倒れてしまいます。
マットはフロアに、ジョンが憧れている看護師の女の子、アンジェラがきているのに気が付き、「どうにかしてくれ」と助けを求めます。
彼女のおかげで復活したジョンは、クラブを満喫し、彼女との距離も近づけることが出来ました。
ジョンとマットはある日、偶然、レイ・ヘンダーソンの“カヴァー・アップ”の曲の正体を知ります。“カヴァー・アップ”とはDJがレコードのレーベルの部分をはがすなどして、誰のどの曲かを客にわからないようにしているものです。
興奮した二人は、レイ・ヘンダーソンの“カヴァー・アップ”をクラブで発表すると謳い、SALVADORSの”Stick By Me Baby“という曲をかけました。
クラブにはヘンダーソン自身が見にやってきました。「来てくれて嬉しい」とジョンが駆け寄ると、「よくわかったな」とヘンダーソンは言い、彼のクラブでDJをしないかと誘ってくれました。
ただし、客を罵るマットのMCはなってない、あいつとは縁を切れ、と忠告されます。
ショーンは麻薬の売人をしており、警察からマークされていました。囮捜査官が頻繁に現れ、包囲網が狭まり、捕まるのを恐れた彼は、ジョンとマイクのところに転がり込んできました。
マークは薬の量が増え、そちらに金がかかってしまい、アメリカ行きの貯金がまったく出来ません。ジョンは苛立ちをぶつけてしまいます。
ジョンとマイクはヘンダーソンのクラブでDJを務めますが、マイクは相変わらず口の悪いMCを続け、ジョンは「なぜ連れてきた」とヘンダーソンに叱られます。
“NORTHERN SOUL”とは?!
“NORTHERN SOUL”とは、1960年代に、イギリス北部のワーキングクラスの若者から生まれた音楽ムーブメントで、現在のDJカルチャー、レイヴ・カルチャーの原点とも言われています。
60年代のユース・カルチャーである“モッズ”ムーブメントが廃れ始めても、イギリス北部の若者は、レアソウルをクラブでかけて踊るという“モッズ”のスタイルをそのまま継承しました。
DJは、誰も知らないアメリカ黒人音楽を探し出し、クラブでプレイし人々を熱狂させることに力を注ぎ、競い合いました。
1973年には英国北部の街、ウィガンに、ソウル・クラブ“ウィガン・カジノ”がオーブンし、“NORTHERN SOUL”全盛期をむかえます。1974年を舞台にした本作には、“ウィガン・カジノ”が憧れのクラブとして実名で登場し、再現されています。
商業主義に取り込まれず、音楽好きの間で広がっていたこのムーブメントは、現在でも生き続け、新たなファンを生み出しています。
日本では神戸で1990年代に生まれた“ヌードレストラン”というDJイベントが内外の高い評価を受け、日本の“NORTHERN SOUL”の聖地として知られています。
本作の日本での公開が東京と神戸からスタートしたのにはそういう理由があるのですね。
映画『ノーザン・ソウル』の感想と評価
教師も生徒も意地の悪いやつしかいない学校や、愛情に欠けた家族にとことん愛想をつかした少年ジョンは、それらを全て捨てて、“NORTHERN SOUL”に没頭します。
学校では見つけられなかった友人を得て、アメリカに行って誰も知らないレコードを探すという目標が出来たことが彼の生活を人間らしいものにしていきます。
さらに、人前でDJを務めるという経験や、年上の人と接することが、彼を少しずつ成長させていきます。
映画『ノーザン・ソウル』は、そんな音楽とダンスと友情と青春の物語です。
ジョンの姿は当時のイギリス北部の工業都市に住むワーキングクラスの若者の一つの典型であったのかもしれません。
単調な仕事をこなすだけで、出世の望みもなく、夢を持つことすら許されない日々の鬱屈を音楽とダンスに注ぐのは、一種の憂さ晴らしであり自己防衛でもあったでしょう。
しかし、徹底して50年代のアメリカ音楽にこだわり、流行の音楽に背を向け続ける姿勢は一つの抵抗の姿でもあるし、独特のダンスなど、特有の表現は圧倒的なパワーを持ったアートの領域とよんでもおかしくありません。
映画は当時の“NORTHERN SOUL”の熱気を、再現し、その熱狂ぶりを余すことなく伝えてくれます。
それにしても、ダンスの中にブルース・リーの功夫が取り入れられているのを見ると、1970年前半に、ブルース・リーが与えた影響というのは、ワールドワイドなのだなぁということを改めて感じさせます。
いけてないファッションのジョンを友人のマットが変身させるのですが、髪型はほとんどブルース・リーそのもの。
黒のスラックスをはいて、上半身裸でフロアで踊っている姿なんてまさにブルース・リーにしか見えません。好きなもの全部詰め込んでやったぜ!というパワフルな絶対的信念がそこには感じられます。
ところでダンスカルチャー、ユース・カルチャーというとドラッグがつきものだったりするのですが本作でも例外ではありません。
マットはドラッグにはまっていき、金をそちらに使ってしまい、アメリカ行きの資金をためることができません。マットとジョンの友情は次第に揺らいできます。
ミア・ハンセン=ラヴ監督の『EDEN/エデン』は、1990年代に台頭したフランスのフレンチ・タッチという音楽ムーブメントを駆け抜けた一人のDJを描いたものでしたが、主人公は最後には酒とドラッグ漬けとなり、借金が膨らみ、クラブシーンを去ることとなります。
えてして皆、不幸になっていく作品が多い中、二人の友情がどうなっていくのかも物語の大きな要素になっていきます。
ジョン役には、エリオット・ジェームズ・ラングリッジが、マット役には、『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ~ロンドンの泣き虫ギタリスト』でお馴染みのジョシュ・ホワイトハウスが扮し、フレッシュな魅力を発揮しています。
まとめ
監督のエレイン・コンスタンティンは十代の時に実際、“NORTHERN SOUL”のムーブメントを体験しています。
ユースクラブで、普段は流れないソウル・ミュージックを流し、マットが1人で踊っていると、最初は男子が真似して踊り始め、女子も加わっていくシーンがありますが、まさにそれと同じような現場を彼女も経験して虜になったのだそうです。
エレイン・コンスタンティンはファッションカメラマンとして活躍する他、ミュージックビデオやコマーシャルフイルムのディレクターも務めています。
『ノーザン・ソウル』が初の映画監督作で、“NORTHERN SOUL”に寄せる彼女の熱い想いが込められています。
本作により、2015年英国アカデミー賞(BAFTA AWARDS)英国デビュー賞(脚本・監督)、2015年ロンドン批評家協会賞 ブレイクスルー英国フィルムメーカー賞(監督・脚本)にノミネートされるなど、高い評価を得ました。
ちなみに、彼女が監督したMoloko「Familiar Feeling」のMVは“NORTHERN SOUL”をモチーフにしています。
また、ジョンの母親役として「All Around the World」などで知られるイギリスのトップ女性ボーカリスト、リサ・スタンスフィールドが扮しているのにも注目してみてください。