映画『MOTHER マザー』は2020年7月3日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開予定。
映画『MOTHER マザー』は『日日是好日』『光』の大森立嗣監督が、描いたヒューマンドラマ。
製作は『新聞記者』『宮本から君へ』など現代社会のさまざまなテーマを問いかける作品を送り出している河村光庸。
男たちと行きずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきたシングルマザーの秋子。別れた夫との間にできた息子の周平に執着し、自分に忠実であることを強制します。その歪んだ愛の結末は?
主役の秋子に長澤まさみ、新人の奥平大兼が息子の周平役を務め、脇を阿部サダヲという実力派キャストたちがおさえます。
映画『MOTHER マザー』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
大森立嗣
【脚本】
大森立嗣、港岳彦
【企画・製作】
河村光庸
【キャスト】
長澤まさみ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、土村芳土、荒巻全紀、大西信満、木野花、阿部サダヲ、郡司翔
【作品概要】
『MOTHER マザー』は、『日日是好日』(2018)『光』(2017)の大森立嗣監督が、長澤まさみ、阿部サダヲという実力派キャストを迎え、実際に起きた「少年による祖父母殺害事件」に着想を得て描いたヒューマンドラマ。製作は『新聞記者』『宮本から君へ』など現代社会のさまざまなテーマを問いかける作品を送り出している河村光庸。
男たちと行きずりの関係をもち、その場しのぎで生きているシングルマザーの秋子。そんな母からの歪んだ愛に翻弄されながらも、母以外に頼るものがない息子の周平は、秋子の要求に応えようとします。身内からも絶縁され、社会から孤立した母子の間に生まれた強い絆が、17歳となった周平をひとつの殺人事件へと向かわせます。長澤まさみが秋子、阿部サダヲがその内縁の夫を演じています。息子・周平役はオーディションで抜てきされた新人の奥平大兼。
映画『MOTHER マザー』のあらすじ
急な坂道を下って来る自転車が、坂を登って来る一人の小学生と会いました。
「しゅうへーい」と自転車から呼びかけるのは、母・秋子。夫と別れ、息子周平を引き取ったシングルマザーです。
秋子は自転車から降り、周平の膝から血が出ているのを見ると、何のためらいもなく、血をなめとってやります。2人はそのまま、プールへ行き、飛込禁止のプールに飛び込んで遊びました。
その後、2人そろって秋子の実家へ。秋子は自分の両親に「お金が無いから貸して」と言います。しかし両親、特に母の反応は冷たいものでした。
それというのも、秋子が生活保護を受けるシングルマザーでありながら、働かないでパチンコ三昧の毎日を過ごし、これまでにも何回も実家や妹からお金を借り、返していなかったからです。
「お金は出せない」という母に対して、秋子は「あたしのこと、嫌いなんでしょ。いいからお金だけちょうだい」と、キレます。
修羅場となった家族会議の合間に秋子の父は、周平をそっと別部屋に連れて行き、こっそりとお小遣いを渡しました。
実家からまとまったお金をもらえなかった秋子は周平を連れてゲームセンターへ行き、そこで知り合った遼を自宅へ連れ込んで一緒に暮らすようになります。
秋子はいつもその場しのぎで生きています。小学生の周平を使い走りにし、身内から借りたお金で遊び歩き、何日も自宅に帰らないことも多いのです。
周平はそのたびに電気もガスも止められた部屋で、学校にも行かずにじっと母を待ち続けていました。その暮らしは遼という内縁の夫の存在ができても変りません。
遼と秋子は借金から逃れるために、盗みをしたり夜逃げ同然に部屋から逃げ出すこともたびたび。
そのたびに、周平は荷物の入ったキャスターを引き、秋子たちの後をついて放浪の生活をしていました。
そんなとき、秋子は遼との間に子供ができたのですが、「子供を降ろせ」と言う遼と喧嘩になり、遼は秋子の元を去っていきました。
困った秋子は実家でお金を借りようと周平を使いに出しますが、「妊娠している」秋子に祖母は怒り、絶縁を言い渡されました。
それから5年。周平は16歳になっていましたが、秋子は相変わらずパチンコばかりの毎日です。遼との間にできた子供・冬華の面倒を見るのは周平でした。
その頃知り合った児童相談所の亜矢が簡易宿泊所などを世話し、周平を学校に行かせたりして、母子の社会復帰を手助けし始めました。
なんとか生活に希望が見えた頃、冬華の父である遼がふたたび秋子たちの元にあらわれ、一緒に暮らし始めます。しかし、またしても借金をつくり、去っていきました。
「もう、周平しかいないんだからね」と泣いて16歳の息子に縋りつく秋子。周平は母から与えられる歪んだ愛に翻弄されます。
母以外に頼るものがない周平は、秋子の要求に背く事が出来ずになんとか応えようと苦しみ続けます。
そしてまたお金の無くなった頃、秋子から絶縁された実家へお金の無心に行くように言われ、周平は秋子の実家へ向かいました。
映画『MOTHER マザー』感想と評価
実際に起こった事件の母の生き方を基にした映画『MOTHER マザー』。主演の長澤まさみは、自由奔放で自堕落な母親を体当たりで演じています。
飛込み禁止のブールに、秋子が躊躇する周平を命令して飛び込ませるシーンでは、“私の命令通りにしなさい”という傲慢さを出し、子供のそばに居ながらただぼんやりとたばこをふかす場面で、“私は好きなようにします”的な我儘なムード満載です。
人に子供のことについて忠告されるたびに、秋子は「私が産んだのだから、子供は私のもの。どうしようと私の自由でしょ」。と言います。秋子にとって、子供は依存できる自分の所有物なのです。
男に頼りきりパチンコに熱中する秋子は、何かに頼らなければ生きていけないという精神的な病を抱えていたのかも知れません。
男だったり子供だったりと、依存する対象が変わるだけで、一人では生きていけない人間だったのでしょう。
一方の周平は、母・秋子からどんなに怒鳴られ殴られても、実の父が一緒に暮らそうと言っても、母から離れようとしません。
それどころか、「僕はお母さんが大好きです」と堂々と公言しています。
これだけ慕われているのですから、もう少し子供のことを考えればよさそうなものですが、秋子にとって、子供と自分は一体化しているので、自分さえよければそれでよかったのです。
母を慕っているから見捨てられない周平。理解力のある優しい少年ですから、普通に育っていれば、りっぱな青年になっていたことでしょう。
子供は親を選べませんから、つくづく周平は運がなかったとしか言いようがありません。本人がそれに気がついていないのが切なく哀しい……。
それに対して、母・秋子は息子の人生を自分が台無しにしていることに反省の色はありません。あくまで自分の我を押し通そうとするモンスターのように見えます。
秋子の心に巣くう悪魔のような自己中心的な性格はとても正常とは思えません。こんな母に誰がしたのでしょう。育った環境がそうさせたのでしょうか。
一般常識の“ふるい”からこぼれた親子に対して、どう救いの手を差し伸べれば良かったのかと、考えさせられます。
まとめ
映画『MOTHER マザー』は、大森監督が、実際に起こった「少年による祖父母殺害事件」に着想を得て手掛けた作品です。
実際の事件でも少年の小遣い欲しさが原因かと思われそうですが、詳しく調べるとその背後には、シングルマザーの母親の指示があったそうです。
この母親の生き方を基に描いた映画『MOTHER マザー』。主演の長澤まさみは、自由奔放で自堕落な母親を体当たりで演じています。
モンスターのような母親に執着される息子は、オーディションで選ばれた新人・奥平大兼が熱演。母に頼るしかなかった少年の苛立ちと断ち切れない母への愛を、瑞々しい表現力で表しています。
秋子は息子の将来を食いつぶす鬼母のようですが、息子にとっては母はただ一人ということに改めて気づかされました。
祖父母殺人事件にヒントを得て、母親目線で描いた『MOTHER マザー』は、母子の絆の強さとともに、児童虐待や福祉支援のあり方も考えさせられる映画です。
映画『MOTHER マザー』は2020年7月3日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開予定。