立ち上がって前に進めば愛をみつけられる
大ヒットTVドラマシリーズ「THIS IS US/ディス・イズ・アス」のダン・フォーゲルマンが脚本・監督を手掛けた『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』が2019年11月22日より日本公開されました。
ニューヨークとスペインを舞台に、人々を翻弄する人生の過酷さを描きながら、それでも前に進めば愛を見つけられると謳い上げる感動のヒューマンドラマ。
「スター・ウォーズ」シリーズのオスカー・アイザック、『her 世界でひとつの彼女』のオリビア・ワイルド、『ペインアンドグローリー』のアントニオ・バンデラス、『20センチュリー・ウーマン』のアネット・ベニングが共演で、ある1つの事故をきっかけに翻弄されていく2つの家族の様を描いています。
CONTENTS
映画『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』の作品情報
【公開】
2019年公開(アメリカ映画)
【原題】
Life itself
【監督】
ダン・フォーゲルマン
【キャスト】
オスカー・アイザック、オリヴィア・ワイルド、マンディ・パティンキン、オリヴィア・クック、ライア・コスタ、アネット・ベニング、アントニオ・バンデラス
【作品概要】
テレビドラマシリーズ「THIS IS US/ディス・イズ・アス」(2016~2019)の企画・脚本・製作総指揮を手掛けたダン・フォーゲルマンが脚本・監督を務めたヒューマンドラマ。
ニューヨークとアンダルシアを舞台に2組の家族の運命が交錯し、空間、時間を越えてつながる壮大な物語で、ボブ・ディランの曲が大きなモチーフになっています。
映画『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』あらすじとネタバレ
【第一章 ヒーロー】
学生時代に出会い、大恋愛の末に結ばれたウイリーとアビーは、第一子の誕生を間近にし、幸福の絶頂にいました。
アビーはボブ・ディランが1997年に発表したアルバム「タイム・アウト・オブ・マイン」について熱く語り、そんなアビーをウイリーは満面の笑みを浮かべて愛しそうに見つめていました。
しかし今、ウイルはやつれ果て、セラビストのドクター・モリスに定期的にセラピーを受けているのです。
その日はいつになくアビーの話をたくさんしたウイル。幼い頃に両親を交通事故で亡くして、たちの悪い叔父に引き取られたこと、虐待を受けて育ったがある日銃を手に入れ叔父の両膝を撃ったこと、猛勉強して大学に入りそこでウィルという友人を得たこと、「信頼できない語り手」について書くと卒論のテーマを興奮した調子で報告に来た時のことなどを。
「今日は随分アビーのことを話してくれたわ。これはいい兆候よ」とドクター・モリスは言い、ウイルをみつめました。
ウイルは長い間入院しており、セラピーを受けることを義務付けられていました。実はアビーをウイルの両親に紹介し、一緒に食事をした帰り、話に夢中になっていたアビーは道路に飛び出しバスに轢かれて亡くなってしまったのです。
お腹のあかちゃんは奇跡的に助かったのですが、アビーを失ったという現実を受け止められないウイルは、その子にも頑なに会おうとしませんでした。
そして彼はドクター・モリスの目の前で拳銃自殺してしまいます。
【第二章 ディラン・デンプシー】
奇跡的に生まれてきたウイルとアビーの娘は、ディランと名付けられ、ウイルの両親に育てられました。
6歳のときに祖母が亡くなり、7歳のときに大切な友だち(愛犬)を失います。祖父が一人で育て上げ、ディランはその日21歳になりました。
ロック少女に成長した彼女はバンドを組んでライブハウスで歌っていました。
ライブ終了後、ディランは自身を盗撮した女の携帯を奪ってたたきつけ、弁償しろとせまる女にパンチを食らわしました。
誕生日の夜、彼女はひとり、街のバス停の椅子に座っていました。
【第三章 ゴンザレス一家】
スペイン・アンダルシアのオリーブ農園で働くハビエル・ゴンザレスは、実直な働き者です。雇い主のサチオーネは、他の者が熊手で収獲しているのにひとり丁寧に素手で収穫し、2倍働く彼の勤勉さを認め、彼を畑の作業長に抜擢しました。
彼にはレストランで働いているイザベルという恋人がいました。昇給したハビエルは「君を養える」と彼女に求婚します。
息子のロドリゴをさずかり、幸せに暮らす3人でしたが、ハビエルが仕事で出ている時を見計らい、度々サチオーネが家を訪れるようになりました。
ロドリゴは彼にすっかりなつき、地球儀をお土産にもらって大喜びです。
サチオーネの父親は、大金持ちでしたが、妻や息子に冷たくあたり、サチオーネが16歳のときに母親がなくなると、彼をあっさり見捨てたのでした。そんな父が急逝し、莫大な財産がサチオーネに残されました。父はまさか自分が死ぬとは思わず遺書も何も残していなかったのです。
複雑な生い立ちのため、孤独に生きてきたサチオーネはゴンザレス家の暖かさとイザベルの優しさに惹かれたのでした。
しかし、いつもより早く帰ってきたハビエルは彼に地球儀を返し、家に来るなと追い返します。
サチオーネからアメリカ・ニューヨークの話をたっぷり聞かされていたロドリゴは、サチオーネとニューヨークに行きたいと言い出します。
ハビエルは家族でニューヨークに旅行することにしました。セントラルパークやタイムズスクエアなどを訪れた彼らは興奮した面持ちでバスに乗っていました。
ロドリゴはバスの前の方に行きたがり、乗客にかわいらしく挨拶をしながら父とともに移動してきました。
運転手が愛らしいロドリゴに一瞬気をとられた時、バスは女性を轢いてしまいます。お腹の大きな女性が倒れて血を流しており、男性が取りすがっていました。ロドリゴはその様子を全てフロントガラス越しに見てしまいました。
ロドリゴはそれから何年も苦しむこととなります。
ロドリゴの状態は次第にひどくなっていき、心配したイザベルは専門医にみせようと夫に相談します。ハビエルは金がかかると応えますが、2人はサチオーネに治療費を出してくれるよう頼むことにしました。
原因はやはり事故のトラウマでした。しかし、時間をかければ必ず治りますと医師は話してくれました。
治療のおかげで次第に元気を取り戻すロドリゴ。ハビエルは何もできない自分にいらつき、妻の制止も振り切り、家を出ていってしまいます。
映画『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』の感想と評価
冒頭、「信頼できない語り手」という概念を、実際に映像としてたたみかけてくるダン・フォーゲルマンの容易ならざる語り口にすっかり驚かされます。
と同時に、彼が企画・脚本・製作総指揮を担当した大ヒットテレビドラマシリーズ「THIS IS US/ディス・イズ・アス」(日本ではNHKで放映)の特に第一話のラストを思い出し、いかにも彼らしいと納得した方も少なくないでしょう。
ある意味トリッキーでエキセントリックな表現方法でもありますが、それはまた作家として“物語を語る”ことへの真摯な態度だともいえます。
物語を語ること、主人公を設けること、人々の人生を想像し作り上げ奈落の底に落としたり、あるいは幸せの絶頂に置くこと、そうしたものを書く、描く、作り上げることの意味を問うたメタフィクション的な一面を持った作品でもあるのです。
「THIS IS US/ディス・イズ・アス」でダン・フォーゲルマンは、第一話を成功させるために、決してネタバレをしてはいけないとマスコミに釘をさしたそうですが、本作に関しては、そういうことはなく、物語の展開はだいたい想像のつくものとなっています。
それでも、時間や国境を越えて、二組の家族が交錯し、結びついていく展開は圧巻で、5章に分かれたストーリーの構成の見事さ、旨さにうならされることになります。
これでもか、というほどの過酷な試練を与えられる人々。その描写は時にサディスティックでさえありますが、人生のもうひとつの局面である“愛”が描かれる時、エモーショナルに心をうち震わさずにはいられません。“緻密な構成とともに恐ろしいほどの力技を持って、映画は観るものの心へ、心へと侵入してくるのです。
まとめ
オリヴィア・ワイルドが演じたアビーは「信頼できない語り手」をテーマにした卒論を書きますが、教師からは低評価を受けます。
また、オリヴィア・クック演じるところのディランとアレックス・モネールが演じたロドリゴが出会うちょっと前のシーンで、アビーが好んだボブ・ディランの「メイク・ユー・フィール・マイ・ラブ」が、当時、批評家から一般大衆向けでアルバムに不似合いだと酷評されたという事実を説明するナレーションが入ります。
そしてこの『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』は、アメリカ公開時、批評家からは酷評を受けました。
しかし、アビーの論文をオスカー・アイザック演じる夫が愛したように、「メイク・ユー・フィール・マイ・ラブ」を今でも多くの人が愛しているように、ダン・フォーゲルマンの『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』は一般の観客から圧倒的な支持を得たのです。