映画『きのう生まれたわけじゃない』は2023年11月11日(土)よりポレポレ東中野ほかで全国順次公開!
自由になりたい中学2年生の少女と、妻を亡くした77歳の元船乗りの老人の交流を描くヒューマンドラマ『きのう生まれたわけじゃない』が2023年11月11日(土)よりポレポレ東中野ほかで全国順次公開されます。
『急にたどりついてしまう』(1995)以降、自由で豊かな映画表現を探求してきた詩人でもある福間健二監督の遺作であり、独特の世界観が魅力的な一作です。
主人公・七海役を幼い頃から舞台などで活躍しているくるみ、元船乗りの老人・寺田役を福間監督自身が演じています。
福間監督ならではの温かな空気感が心地よい、ファンタジックなヒューマンドラマの魅力についてご紹介します。
映画『きのう生まれたわけじゃない』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【原案・監督・脚本】
福間健二
【プロデューサー】
福間惠子
【キャスト】
くるみ、福間健二、正木佐和、安部智凛、守屋文雄、蕪木虎太郎、住本尚子、谷川俊之、今泉浩一、小原早織
【作品概要】
長篇第一作『急にたどりついてしまう』(1995)以降、常に既成概念にとらわれない自由で豊かな映画表現を探求してきた福間健二監督の遺作。監督は2023年3月に本作を完成させた直後に脳梗塞で倒れ、治療中に肺炎を起こして同年4月に亡くなりました。
この世界への福間監督からの希望の贈り物となった本作は、学校に行かない中学2年生の七海(ななみ)と、妻を亡くした元船乗りの77歳の老人・寺田との心の交流が描かれます。
七海を幼い頃から舞台などに出演するも、今回が映画初出演となるくるみが演じ、寺田役を福間監督自ら演じています。
福間監督作『秋の理由』(2016)にも出演した正木佐和が岬と綾子を1人2役で演じ、次郎役を映画監督で俳優の守屋文雄が務めています。
映画『きのう生まれたわけじゃない』のあらすじ
母と二人暮らしの七海は中学2年生。自由になりたい七海は今日も学校には行きません。
くるみは川べりで「夫を亡くしたばかりの人」である岬と出会った七海は、心を通わせます。
77歳の寺田は、若い頃に妻を亡くした元船乗りで、最近は老人たちが集まって飲み食いする「憩いのベンチ」に参加するようになりました。
そこにやってきた七海は、老人たちに「長生きしてもいいことないのかな」と聞きます。自分にはいいことがないと言う彼女に「若いのにそんなこと言うんじゃないよ」と言う老人たち。七海は「きのう生まれたわけじゃないよ!」と反発します。
七海は寺田とともに二人で「憩いのベンチ」を抜け出しました。そして「七海」という名を褒めてくれた寺田に、名前をつけてくれた父はずっと前にどこかに行ってしまったと話します。
寺田は、人の心を読むことができる七海に驚きます。しかし七海は、母の心だけはわからないのだと寺田に話しました。
その夜、寺田の前に亡くなった妻の綾子が現れ……。
映画『きのう生まれたわけじゃない』の感想と評価
現実と非現実、近未来と近過去の境目のない、独特の世界観を持つファンタジックなヒューマンドラマです。
学校や母から自由になりたい孤独な少女・七海と、早くに妻を亡くした元船乗りの老人・寺田は、引き寄せられたかのように運命的な出会いを果たします。
寺田の亡き妻によく似た岬とも出会い、「私を気に入ってくれた人に今日は二人も会えた」といって喜ぶ七海。ぶっきらぼうな語り口の中には、確かな喜びがありました。
全編通して《福間マジック》と呼びたくなるような独特の時間が静かに流れていきます。心に傷を持つ人たちがいつの間にか身を寄せ合い、心の隙間を埋め合いながら。やがてそれぞれに「変わろう」と決意して一歩を踏み出していきます。
老人たちから「若いのにそんなこと言うんじゃない」と言われた七海が反発して言い返したのが、タイトルである「きのう生まれたわけじゃない」というセリフです。
その言葉を聞いた老人たちが感心して、その気の利いた言葉を後について繰り返す場面は印象的です。老人たちは「うまいこと言うな」と賛同する思いと、「若いくせに」と言われるのが同じように嫌だった自身の若かりし頃を思い出していることが伝わってきます。
人の気持ちがわかるという七海の能力や、何度も寺田の前に現れる亡き妻の姿が幻想的で、なんだか狐につままれたような気分を味わうことでしょう。
人の抱く孤独を描きながらも、ずっとぽかぽかと温かな空気が流れているのが本作の大きな魅力です。