家族とは?親と子とは?
『活きる』で知られる中国の作家・余華(ユイ・ホア)による人気ベストセラー「血を売る男」を映画化。
『1987、ある闘いの真実』『お嬢さん』『チェイサー』などで俳優として活躍する、ハ・ジョンウが監督を務め、自ら主演もしています。
貧しい中でもし子供が病気にかかってしまったら?治療費が払えなかったら?そして、もし実の息子ではなかったら?
育ての親として、どこまで子供のために自分のすべてを捧げることができるのでしょう。
原作のストーリーの舞台を朝鮮戦争後の激動する韓国に舞台を移して描くヒューマンドラマです。
映画『いつか家族に』の基本情報
公開
2018年
原題
허삼판 / Chronicle of a Blood Merchant
監督
ハ・ジョンウ
キャスト
ハ・ジョンウ、ハ・ジゥオン、ナム・ダルム
作品概要
中国の余華(ユイ・ホア)のベストセラー小説である『血を売る男』を1950年の韓国を舞台に移し2015年に映画化。今や韓国映画界にはなくてはならない存在である『チェイサー』『1987、ある闘いの真実』のハ・ジョンウと、ドラマ『シークレット・ガーデン』や『マンハント』で有名なハ・ジゥオンを主役に迎えました。主演であるハ・ジョンウ自身が『ローラーコースター!』に続き演出を務めます。
映画『いつか家族に』のあらすじとネタバレ
朝鮮戦争が終結して間もない1953年、貧困を凌ぐために「血を売る」ということが日常的に行われていた韓国。
現場仕事で生計を立てていたホ・サムグァンは「血を売ることは先祖への冒涜だ」という教えから、まだ売血に手を出さずにいました。
ある日、現場にやってきたポップコーン売りの美女に一目惚れをします。
その美女の名前はオンナンといいました。彼女には恋人のハ・スンウという男がいましたが、諦めきれなかったサムグァンは近所の人たちが言う「血を売らなければ立派な男ではない」という言葉を思い出し、病院に血を売りに行く決断をします。
無事血を売って高額のお金を手に入れたサムグァンは、一緒に血を売りに行った二人に恋人がいる女性とどうしても結婚したいのだと相談します。帰ってきた答えは「お前の全部を捧げろ、そうしたら結ばれる」というものでした。
オムナンを無事にデートに誘うことが出来たサムグァンでしたが、デートの最後に「2000ファン(1ファン=約100ウォン、日本円で2万円ほど)も使ったのだからいつ結婚してくれるんだ?」と聞いてしまいます。
その様子に呆れたオムナンでしたが、段々と一生懸命なサムグァンの様子にオムナンの父親は説得され、ついに二人は結ばれます。
よく気の利く長男のイルラク(ナム・ダルム)をはじめ3人の子供に恵まれたサムグァン一家は、貧しいながらも楽しく幸せな毎日を送っていました。
しかしながら、ある日11年間育ててきた長男のイルラクが実はスンウの子供ではないのかという噂が流れ始めます。まさかそんなことはと思い病院にイルラクを連れて行ったサムグァンでしたが、結果はAB型。
サムグァンはA型、オムナンはO型。スンウはB型。イルラクはサムグァンの子供ではなく、スンウの子供であると証明してしまう結果になってしまったのです。
困惑し怒るサムグァンに、オムナンは一度だけスンウと夜を共にしたことを告げます。今まで11年間も他人の子供を育ててきてしまった…と落胆するサムグァン。今まで優しかった態度が打って変わって、イルラクに冷たく接するようになります。
ある日、イルラクが近所の子供を怪我させてしまいました。怪我をした子供の父親が治療費を払えと請求しに家までやってきましたが、父親は俺ではないのだからスンウの家に治療費を請求しろと飄々とした顔で言うスングァン。
聡明なイルラクは父親に滅多に反抗しませんでした。弟たちよりもずっと聞き分けがよく、頭のいいイルラクでしたが、サムグァンはイルラクに「二人きりの時はお父さんではなく叔父さんと呼べ」とまで言うのです。
またある時、いつものように血を売って稼いだお金を持って帰ってきたサングァンでしたが、イルラクには大叔父の家でサツマイモを食べろと命令し、下の弟二人には肉まんをたらふく御馳走します。
お腹が減って苦しいイルラクは、大叔父の家からの長い夜道を一人で帰っていました。空に浮かぶ満月がまるで肉まんのように見えます。どうしても食べたい。その気持ちだけでスンウの家へと向かいますが、「夜に騒ぐな」と叱られるだけでした。
映画『いつか家族に』の感想と評価
戦後間もない貧しい韓国の街で繰り広げられる親子の絆を主軸として、韓国に根強く残る家父長制度や貧富の差、そして身体を売ってお金を稼ぐという本来ならば重苦しくなりそうなテーマをコミカルに扱った本作。
サムグァンとイルラクの間にある家族としての絆と、「自分の血を引いていない」という衝撃的な事実(しかもかつての恋敵の子供である)の中で葛藤するサムグァンの様子が印象的でした。
冒頭のシーンを覚えているでしょうか。サムグァンは「血を売るということは先祖への冒涜だと聞いていた」と言っていたのです。
そのサムグァンが長い旅路を渡り歩き、大量の血を売ってたった一人の長男のために治療費を稼ぐということは、まさに血の繋がりを超えた家族の絆と言ってもいいのではないでしょうか。
まとめ
近年の映画の傾向として、「貧富の差」と「家族の絆」をテーマにしたものが多く見られます。カンヌ国際映画祭の本年の受賞作『パラサイト 半地下の住人』(ポン・ジュノ/2018)もそうですが、中でも韓国は長年格差の問題を抱えています。
隣国の作品を見ることで、もう一度家族とは何なのか?絆とは何なのか?を見つめ直すきっかけになるのではないでしょうか。
あなたは、自分の息子のためにサムグァンのように命を懸けることができますか。