激動の時代を生きた男と女の18年間。
変わりゆく生活の中で変わらぬ思いとは。
2018年製作、中国・フランス合作映画『帰れない二人』は、中国の激動の時代を生きた男と女の18年間を描いた人間ドラマ。
2001年の炭鉱都市・大同(ダートン)。2006年の山峡ダム完成前の奉節(フォンジェ)。新疆(しんきょう)ウイグル自治区ウルムチ。そして2017年、再び大同に戻るまで。総移動距離は7,700㎞にも及びます。
ある事件がきっかけで生き別れたチャオとビン。18年かけ7,700㎞にもなる旅路を歩んだ2人が迎えた結末とは?映画『帰れない二人』を紹介します。
映画『帰れない二人』の作品情報
【日本公開】
2019年(中国・フランス合作)
【監督】
ジャ・ジャンクー
【キャスト】
チャオ・タオ、リャオ・ファン、シュー・ジェン、キャスパー・リャン、フォン・シャオガン、ディアオ・イーナン、チャン・イーバイ、ディン・ジャーリー、チャン・イーバイ、ディン・ジャーリー、チャン・イー、ドン・ズージェン
【作品概要】
国内外で数々の賞に輝く、中国の名匠ジャ・ジャンクー監督が、21世紀の中国を背景に描き出す人間ドラマ『帰れない二人』。
今作が、5度目のカンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品となりました。
主人公チャオには、ジャ・ジャンクー監督の公私にわたるパートナー、チャオ・タオが演じ、第54回シカゴ国際映画賞で監督賞と女優賞を受賞しました。
また、チャオの恋人ビン役は、映画『薄氷の殺人』にてベルリン国際映画祭最優秀男優賞の経歴を持つ、リャオ・ファンが演じています。
映画『帰れない二人』のあらすじとネタバレ
2001年中国、山西省の都市・大同。チャオは、炭鉱で働く父の世話をしながら、ヤクザ者の恋人ビンと、気ままに暮らしていました。
そんなチャオのささやかな夢は、新たな土地で父の家を買い、ビンと家庭を持つことです。石油開発で炭鉱は閉鎖に追い込まれていました。
しかし、父もビンもこの地に縛られていました。「渡世人は他じゃ生きられない」。チャオは「私は違う」と、羽ばたきたい希望を持っていました。
ビンは、この町のヤクザの中では地位ある立場です。市街地に、ディスコを経営し羽振りも良く、上からも下からも慕われていました。組の兄弟の結束は固いものでした。
ある日、ビンが慕うアーヨンが、若いチンピラに襲われ殺されます。最近、町には秩序を守らない名を上げたいだけの連中が増えていました。
怒りで暴れそうな仲間を抑えたビンでしたが、今度は自分がターゲットにされてしまいます。
市街地の真ん中で、ビンとチャオが乗る車が、バイクに乗った大勢のチンピラに囲まれます。殴り合いになる紛争を止めたのは、チャオが空に向かって撃った拳銃の音でした。
チャオは拳銃の不法所持で捕まります。警察の取り調べで「誰の拳銃なんだ」という質問に、最後までビンの名を出さないチャオ。懲役5年の刑で刑務所に送られます。
映画『帰れない二人』の感想と評価
21世紀、中国の激動の時代を生き抜いた、男と女の18年間を描いた人間ドラマ『帰れない二人』。
中国の広大な土地を舞台に、目まぐるしく変化していく高度成長期の中国の様子に圧倒されます。
2001年の炭鉱都市・大同(ダートン)では、石油開発で職を失っていく炭鉱労働者たちの焦りや不安が描かれています。
繁華街のディスコでは、日本でもヒットした「YMCA」や「CHA-CHA-CHA」の曲にのせて盛り上がる若者たちの姿が映し出されます。
次の舞台は、2006年の奉節(フォンジェ)です。世界最大の水力発電ダムである山峡ダム完成前の町の様子を描いています。
ダム建設によりダム湖に水没する多数の村落の住人は、移住を強いられました。貧しい暮らしから盗みを働く者、身一つで船に乗り込む者、そこで暮らしてきた者にとっては受け入れ難い選択だったことでしょう。
そして、チャオが行く当てもなくなった時、新疆(しんきょう)ウイグル自治区ウルムチへ希望を抱き向かいます。
ちょうど2010年、この地で謎の飛行物体が目撃されネットで騒がれました。UFOを観たことがあると言うチャオに、汽車で乗り合わせた男は、その経験談を話しツアーガイドをすれば儲かると持ち掛けます。
そして2017年、再び大同に戻ったチャオ。交通や通信の発達が、その後の中国の高度成長を象徴していました。
チャオとビン、離れてからのそれぞれの18年間。広大な中国の地を7,700kmも移動し、再び故郷で出会う2人。
やっと迎えた平穏無事な暮らしは、2人にとってすでに受け入れ難いものでした。あまりにも早い時代の流れに、2人の心は取り残されたままです。
時代が変われど、義理と人情、渡世人の心を持ち続け、強く生き抜いたチャオ。時代に取り残され、前に進めず、堕落的な生活から体を壊してしまったビン。
ビンは、強く生きるチャオを愛していながらも、相応しくない自分を責め、出て行ったのかもしれません。
そして、チャオとの再会で過ごした日々を糧に、もう一度ビッグな男になってチャオの元に帰ってくると願いたいです。
主人公チャオを演じたのは、ジャ・ジャンクー監督作品ではお馴染み、妻でもあるチャオ・タオ。18年間という時間の流れの中で変化していく風貌と、心の成長を見事に演じています。
まとめ
中国のジャ・ジャンクー監督、5度目のカンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品となった『帰れない二人』を紹介しました。
広大な中国の土地と、21世紀の激動の時代を背景に、17年におよぶ愛の物語を描いています。
高度成長を遂げた中国の歴史の裏側で、何が起こっていたのか。時代の変化に翻弄される住民たち、加速する列車に上手く乗り飛躍を遂げる者、そして乗り遅れる者。
1組の男女の生き方を通して、中国全体の変化していく時代が見えてきます。この物語は、時代が生んだ悲劇として、世界中の多くの人が共感することでしょう。