内館牧子の小説「十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞」を映画化。黒木瞳監督の第2作目『十二単衣を着た悪魔』公開!
『源氏物語』の世界に迷い込んだ主人公が弘徽殿女御に出会い、翻弄されながらも自分を見出していく、映画『十二単衣を着た悪魔』。
就活で連敗し、自信をなくした雷が『源氏物語』の世界の中へタイムスリップ。千年前の世界で雷が出会ったのは悪女の代名詞“弘徽殿女御”「カワイイ女はバカでもなれる。しかし怖い女になるには能力がいる」。
言いたいことをはっきり言い、信念を貫こうとする弘徽殿女御に出会い、自身の価値観や生き方を見つめ直していきます。
成長していく雷の姿や、“女らしさ”にとらわれない弘徽殿女御の在り方は、世代をこえて共感を呼ぶエンターテイメントムービーです。
映画『十二単衣を着た悪魔』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
黒木瞳
【脚本】
多和田久美
【原作】
内館牧子『十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞』
【主題歌】
OKAMOTO’S
【キャスト】
伊藤健太郎、三吉彩花、伊藤沙莉、田中偉登、沖門和玖、MIO、YAE、手塚真生、細田佳央太、LiLiCo、村井良大、兼近大樹、戸田菜穂、ラサール石井、伊勢谷友介、山村紅葉、笹野高史
【作品概要】
数々の名作を生み出してきた名脚本家・作家である内館牧子の長編小説『十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞』を、『嫌な女』(2016)で長編映画デビューした黒木瞳が映画化。主演を務めた伊藤健太郎は本作で初めて時代劇に出演。
弘徽殿女御役には『Daughters(ドーターズ)』(2020)、『ダンスウィズミー』(2019)の三吉彩花、その他細田佳央太、伊藤沙莉など若手俳優陣が勢揃い。
映画『十二単衣を着た悪魔』のあらすじとネタバレ
就職試験59連敗中のフリーターの主人公・雷(伊藤健太郎)は日雇いのバイトで「『源氏物語』と疾患展」の設営に参加し、『源氏物語』の登場人物紹介に興味をひかれていきます。
「デキた弟・二宮(光源氏)」「後塵を拝した長男・一宮」の関係性に自身の優秀な弟との関係性に通ずるものを感じていました。そして、悪女と称された一宮の母弘徽殿女御の姿にも引きつけられます。
そんな雷の様子を見たバイトリーダーが給料と共に、『源氏物語』の概要がかかれた冊子を手渡します。バイト後彼女とご飯を食べていた際に「雷といると成長できない」と言われ振られてしまいます。
家に帰ろうとするも、弟が京都大学に合格した祝いをしている中に帰っていく勇気もなく、家の周囲をあてもなくうろついていました。
そんな時、光に導かれるように吸い込まれ、雷に打たれた雷。目を開けるとそこは何と『源氏物語』の世界でした。現状が飲み込めない雷は、不審人物と思われ牢に入れられてしまいます。
冊子で読んだ知識を頼りに、夜も眠れぬ日々を過ごしている弘徽殿女御(三吉彩花)にバイト先の手土産でもらった頭痛薬を飲むように仕向けます。そして見事弘徽殿女御の病を治してしまいます。
弘徽殿女御に気に入られた雷は咄嗟の出まかせで陰陽師・伊藤雷鳴と名乗り、弘徽殿女御の御前に呼び出されます。平安時代、高貴な女性は顔を見せることはなく、御簾の向こうから話すのが当たり前でしたが、そんなことを知らない雷は直接話すなら顔を見て話したいと言います。
雷の発言に弘徽殿女御に仕える女房らは驚きますが、その言葉を聞いた弘徽殿女御は御簾をあげるよう女房らに命じます。雷の目の前に姿を表したのは凛とした気品のある女性でした。
「能書きはいらぬ。男は能力を形にして示せ!」歯切れの良い物言い、自分の子である一宮を思う母としての姿に、冊子に書かれていた“悪女”とは違う弘徽殿女御の姿に雷は驚き、触発されていきます。
映画『十二単衣を着た悪魔』感想と評価
『源氏物語』において主人公光源氏をはじめ、光源氏の妻となった葵上、その親である左大臣家など光源氏側の人間を描くことが多いなか、光源氏と対立していた右大臣家を描くという目新しさが本作にはあります。
更に、光源氏と対立する側であり、悪女として名高い弘徽殿女御を描き、弘徽殿女御は“悪女”であったのではなく、当時の平安の世には珍しい自立した強い精神の持ち主であり、キャリアウーマンのような女性であったという意外性を持たせています。
そんな弘徽殿女御に出会い触発されていく主人公雷は、就職活動をするも、連敗しています。プライドを捨てきれず、面接に落ちた理由を人のせいにしています。更にできる弟と比べてしまい、卑屈になっています。
どこかで言い訳を探し、どうせ自分なんて…という気持ちがどこかにある雷の姿は現代の若者、更にはいつかの自分と重なるところもあるかもしれません。誰しも自分の弱さは認めたくないものです。
しかし、弘徽殿女御は人のせいにしないどころか、強気で男に愛されない可哀想な女だと思うかもしれないが、言わせておけば良いとまで言ってしまう強さがあります。
そのような弘徽殿女御の強さに雷は自分自身を見つめ直し、立ち向かう勇気を持つのです。
更に印象的なのは、雷が結婚する倫子です。倫子は当時の世では醜い女性だと思われています。
初めてあった夜雷も戸惑いをみせます。そんな雷に対し、「醜いでしょう。いいのです。こうなることはわかっていました」と失礼な雷に対し許す姿勢をみせます。
雷の弱さも受け止める優しさを持ちながら、倫子は自分自身の醜いとされてきた容姿を受け入れ、自分を好きだと胸を張って言える強さがありました。
弟と比べ卑屈になり、どこか自分を好きになれない雷のことを心配し、雷に愛情を与え、雷にも自分を好きになってもらおうとするのです。
弘徽殿女御と倫子。2人の女性像は現代の人々の心にも響く女性像であると言えます。2人に出会い大きく成長した雷とともに観客も勇気を貰えることでしょう。
まとめ
本作『十二単衣を着た悪魔』は、『源氏物語』という古典的な題材を扱いながら、登場人物の描き方に新たな視点を取り入れ、現代を生きるの人々の共感を誘う映画となっています。
その背景には、黒木瞳監督のこの映画に対する強い思いがあらわれているからでしょう。
黒木監督は、潔く、自信の信念を貫き、母親としての強さも兼ね備えたトップレディ。
そんな弘徽殿女御像を打ち出した内館牧子の原作に惹かれ映画化を熱望したといいます。
自身も母であり、女優としてトップを走り続けた黒木瞳監督だからこそ雷の弱さ、ネガティブさに寄り添いつつも彼を鼓舞する“女らしさ”にとらわれない弘徽殿女御を描けたのでしょう。