半端者の男の葛藤と、現在進行形の日本の裏社会を描いた犯罪ドラマ!
刑務所から出所し、表の世界で新たな人生を歩もうとする、半グレの石神武司。
しかし、裏の世界から抜け出すことは容易ではなく、さまざまな思惑に巻き込まれた石神の、苦悩と葛藤を描いた映画『JOINT』。
本作は裏と表の狭間で苦悩する、石神の葛藤と共に「名簿売買」「地面師」「特殊詐欺」など現代の裏社会をリアルに描いた作品でもあります。
ドキュメンタリータッチで制作され、独特の臨場感が印象的な本作で、小島央大監督は2021年度「新藤兼人賞」の銀賞に輝いています。
今回は、映画『JOINT』の魅力をご紹介します。
映画『JOINT』の作品情報
【公開】
2021年公開(日本映画)
【エグゼクティブプロデューサー】
キム・チャンバ
【監督】
小島央大
【脚本】
HVMR
【キャスト】
山本一賢、キム・ジンチョル、キム・チャンバ、三井啓資、樋口想現、伊藤祐樹、櫻木綾、鐘ヶ江佳太、林田隆志、宇田川かをり、平山久能、二神光、伊藤慶徳、片岸佑太、南部映次、尚玄、渡辺万美
【作品概要】
2年の刑期を終え出所した、半グレの石神武司が、新たな人生を望みながらも、裏社会の思惑に巻き込まれる犯罪ドラマ。
主人公の石神武司役を、本作がデビュー作となる山本一賢が演じています。
監督は、東京大学建築学部卒業後に映像の世界に入り、本作が長編デビュー作となる、異色の経歴を持つ小島央大。
映画『JOINT』のあらすじとネタバレ
暴力団に属さない犯罪組織、通称「半グレ」の石神武司。
石神は刑務所で2年の刑期を終えて出所し、親友でカタギのヤスのサポートを受けながら、表の社会でやり直す為に東京へ戻ります。
出所したことを、関東最大の暴力団「大島会」の構成員、今村へ報告しに行った石神。
その際に、今村から「大島会」の構成員で石神の後輩でもある、広野の面倒を見るように伝えられます。
広野と再会した石神は、広野から相談され、もともと得意としていた「特殊詐欺用の名簿ビジネス」に再び手を染めます。
広告代理店から受け取った顧客情報と、韓国人の友人、ジュンギから貰った中古スマホの個人情報を合わせて、石神は精密な名簿を作ります。
石神は、自身の作り出した名簿を広野に使用させ「特殊詐欺用の名簿ビジネス」を成功させます。
大金を掴んだ石神は、このお金を使い、今度こそ表の社会でやり直す為に、投資家として、資金難に悩むベンチャー企業「トライトン」への投資を始めます。
「トライトン」は、石神の資金と名簿情報を元に、ビッグデータと紐づけた、新たな営業ツールを開発します。
さらに資金を獲得する目的で「トライトン」は開発した営業ツールを、大手企業に売り込もうとします。
石神も、大手企業のプレゼンに同席することになりました。
表の社会でやり直す為、裏社会と決別しようとした石神は、ジュンギとの名簿ビジネスを一方的に終わらせます。
石神との名簿ビジネスが、大事な資金源だったジュンギは、外国人犯罪組織「リュード」に近付きます。
「リュード」の幹部でジェイと名乗る男から、ジュンギは販売前のルーターに、個人情報を抜き出す為のウィルスを仕込むように依頼されます。
一方「大島会」は、暴対法の影響で、武闘派の構成員を全て破門にしていました。
「大島会」を破門にされた元構成員は、市川という男を中心に「壱川組」を作り、「大島会」と抗争を目論んでいました。
市川は「人を殺す為にヤクザになった」と言われる危険な男、荒木を「壱川組」に加えます。
表の社会で、新たな人生をやり直していた石神ですが、やがて裏社会の思惑に巻き込まれるようになります。
映画『JOINT』感想と評価
ヤクザにはならず、半グレとして生きてきた石神武司が、表と裏の社会の狭間で葛藤する、犯罪ドラマ『JOINT』。
本作では「名簿売買」や「特殊詐欺」など、日本で起きている「現代の裏のビジネス」を描いている部分が非常に新鮮で、特にジュンギが「リュード」に依頼される、販売前のルーターにウィルスを仕込み、個人情報を盗み出すという手口は、決してフィクションの世界の話ではありません。
現実に問題となっており「ルーターの脆弱性」という言葉は、よくネットで目にしますね。
このように『JOINT』では、犯罪組織の「裏のビジネス」は、我々の身近に常に潜んでいるという現実を描き出しています。
また、本作に登場するヤクザ「大島会」は、関東最大の暴力団ではあるのですが、暴対法の影響により、昔ながらのシノギではなく、ビジネスで組を存続させようとしています。
「大島会」は、武闘派のヤクザを次々に破門にして、トラブルの火種を消していくのですが、この辺りは『孤狼の血 LEVEL2』(2021年)でも描かれた「現代のヤクザ像」とも言えますね。
ただ、そんな「現代のヤクザ像」に不満を持つ「大島会」を破門されたヤクザ達が、独自に作り出したのが「壱川組」で、この組には荒木と言う、危険な男も加担しています。
「壱川組」は「大島会」と抗争を起こそうとしますが、「大島会」は争いを極力避けようとします。
そこに現れるのが、外国人犯罪組織「リュード」です。
「大島会」「壱川組」「リュード」という、3つの組織の思惑に翻弄されるのが、本作の主人公である石神武司です。
「大島会」の構成員、今村から何度も誘いを受けながらも、ヤクザとしての生き方は選ばず、いわゆる半グレとして犯罪に手を染めてきた石神ですが、刑務所から出所したことをキッカケに、裏の世界から足を洗い、表の世界でやり直そうとします。
カタギとして生きる親友ヤスの手助けも借りながら、やり直しを図ろうとする石神。
ですが、石神は昔から得意としていた、特殊詐欺の名簿作りでしか、大金を稼ぐ方法を知りません。
出所して東京に戻った石神が、最初に始めるのは、やはり特殊詐欺の名簿作りでした。
そして、名簿作りで稼いだ資金をもとに、投資家として表の社会で生きようとします。
石神は裏の社会と決別する為に、後輩の広野や友人のジュンギと決別します。
しかし、前科者の石神を簡単に受け入れる程、表の社会は甘くはありませんでした。
結局、石神は裏の社会に戻ることになります。
この石神の行動を、多くの人が「中途半端」と感じるでしょうし、感情移入もできないかもしれません。
石神は「大島会」や「壱川組」のように、ヤクザとして生きることを決意した訳ではなく「リュード」のような、日本で生きる手段を模索する外国人を「自分には関係ない」と切り捨てます。
カタギの社会とも繋がりながら、そこに居場所を作り出せなかった石神は、表の住人でもなく、裏で生きるヤクザでもない、中途半端な人間なのです。
そもそも石神は、本当にカタギになりたかったのか?それすらもハッキリとしません。
半グレ組織は、よく「実態が掴めない」と言われますが、石神の存在はまさに半グレだと言えます。
人生において、存在意義が見出せない石神ですが、自分を慕う後輩の広野の為に、なんとか力になろうとするなど、男気に溢れる性格で、それが裏社会の抗争に巻き込まれる原因となります。
石神は、中途半端に見えるかもしれませんが、実は優しく不器用なだけで、自分の信念には真っ直ぐな男なのです。
そして、そんな石神を認めてくれるのは、結局、裏の社会の人間というのも皮肉な話です。
本作では、裏社会に翻弄される石神の苦悩が描かれていますが、組織の決定と個人的な感情の狭間で葛藤を抱くのは、社会の中で誰しも経験があるのではないでしょうか?
最後に石神は、日本からも出ていくことになります。
空港に向かう車内で空を見上げる眼差しは、全てのしがらみから解放された、清々しさを感じます。
映画『JOINT』は、どこまでも不器用で真っ直ぐな石神の生き様を通して「中途半端に、曖昧に生きていないか?」と、あらためて自分に問いかけてしまう、そんなキッカケを与えてくれる作品でした。
まとめ
『JOINT』は、ドキュメントタッチを意識して制作された作品で、脚本が完成しないまま撮影に入り、俳優のアドリブなどを重視して撮影を進めました。
ヤクザ独特の活舌にもこだわっており、その為、作中の台詞が聞き取りづらかったり、手持ちカメラで撮影された場面が、何が起きているか分からなかったりということもありますが、それが本作における、独特のリアリティを生み出しています。
また、本作では光と影を効果的に使用した場面が多く、特に印象的なのが、表の社会に居場所を無くした石神が、広野の敵討ちを決意する場面。
石神は自身の事務所で、広野が殺されたという電話を受けるのですが、石神の事務所には何も置かれておらず、電気も無く真っ暗で無機質な部屋です。
しかし、石神の事務所の窓からは、対照的にビルの光が差し込んでいます。
その光を見つめながら電話をする、石神の姿は影となっており、表情が読み取れないのですが、表の社会と壁で遮られ、裏の社会で生きるしかないという、複雑な心情を、この場面で表現しています。
そして、電話を終えた石神は、窓に背を向けて事務所を出るのですが、これは表の社会との完全な決別を意味しており、これまで中途半端だった石神が覚悟を決める、とにかくカッコいい場面となっています。
舞台挨拶の際に、小島央大監督が語っていましたが『JOINT』の制作スタッフは、作品への情熱から目が輝きすぎて、警察から職務質問を何度も受けたそうです。
キャストと制作スタッフのギラついた情熱は、間違いなく作品に反映されているので、独特の迫力と魅力を持った映画『JOINT』を、是非体験してみてはいかがでしょうか?