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Entry 2021/02/07
Update

映画『漂流ポスト』あらすじ感想と評価解説。震災から10年“一歩踏み出すことが忘れることになりそうで怖い” 色褪せて行くことへの「罪悪感」

  • Writer :
  • もりのちこ

東日本大震災から10年。
あの人に伝えたい想いを手紙にして。

「手紙を書くことで心に閉じ込められた悲しみが少しでも和らぎ、新たな一歩を踏み出す助けになるなら」。

東日本大震災で亡くなった人への想いを受け止めるため、岩手県陸前高田市に設置された「漂流ポスト」。現在でも、様々な事情で大切な人を亡くした人々から想いを綴った手紙が届いています。

東日本大震災から10年。心に負った悲しみに区切りはありません。あの日から時間が止まったままの人もたくさんいます。

一行だけでもいい。想いを書き出すことが、新たな一歩になるかもしれません。

そして、映画『漂流ポスト』を通して、何気ない日常の幸せ、大切な人との貴重な時間、人と人との絆、命の尊さをいまいちど考えてみてはいかがでしょうか。

映画『漂流ポスト』の作品情報


(C)Kento Shimizu
【日本公開】
2021年(日本)

【監督・脚本・編集・プロデュース】
清水健斗

【キャスト】
雪中梨世、神岡実希、中尾百合音、藤公太、小田弘二、植村恵、永倉大輔

【作品概要】
東日本大震災の被災地、岩手県陸前高田市の山奥に建てられた郵便ポストを舞台に、震災で大切な人を失くした人々の心の復興を描いた短編映画。

今作は、これまで世界18の映画祭で上映され、ニース国際映画祭にて最優秀外国語短編映画グランプリに輝いたほか、ロンドン国際映画祭では、出演の神岡実希が外国語長編作品部門最優秀助演女優賞を受賞など、高い評価を得ています。

清水健斗監督は当時、震災があった次の日に被災地に仕事で行く予定でした。1日ずれていたら・・・。他人事とは思えず、何かしたいの一心で長期ボランティアに参加。直に見聞きした被災者の想いを風化させないため、映画『漂流ポスト』を製作しました。

岩手県陸前高田市に実際に存在する「漂流ポスト」の管理人・赤川勇治さんの全面協力で、現地のガーデンカフェ森の小舎での撮影を敢行。

ポストを訪れた人々の想いを取材し、作中に出てくる手紙もすべて実在のものを使用するなどリアリティを追求しました。

映画『漂流ポスト』のあらすじ


(C)Kento Shimizu
きらきらと輝く海面。セーラー服姿の少女が、こちらを振り向き微笑んでいます。穏やかな時間は、大きくなる波の音でかき消されていきました。

園美は、東日本大震災で親友の恭子を亡くしています。青春の美しい1ページは、園美の心に悲しみの記憶も連れてきます。

ある日、園美のもとに学生時代に恭子と埋めたタイムカプセルが見つかったと連絡が届きました。中には、将来のお互いに宛てた手紙が入っていました。

「大人になったら一緒に開けて笑おうね」。溢れ出す恭子との思い出。誰にでも優しい優等生の恭子が、自分にだけ見せてくれた弱い一面。授業をサボり、海を眺めながら飲んだサイダーの味。

「気持ちいーよ!園美もおいでよ」。海に足だけ入った恭子が楽しそうに笑っています。

今はいない恭子。携帯電話に残されたメッセージ。「園美、元気?声が聞きたくて」。なんであの時折り返さなかったのか。なんで、恭子だけ。なんで、なんで、なんで。

やり場のない悲しみと後悔。押し寄せる罪悪感。園美は恭子の死を受け入れられないまま、前に進むことも出来ず苦しんでいました。

そんな時、園美は「漂流ポスト」の存在を知ります。震災で亡くなった大切な人へ伝えられなかった想いを綴った手紙が届く場所だと言います。

被災地の森の中、設置された「漂流ポスト」を訪ねた園美。しかし、どうしても手紙を投稿することが出来ません。

しゃがみこむ園美に、声を掛ける人がいました。「まだ決心が付きませんか?」ポストの管理人さんです。園美は管理人さんに導かれるように、自分の心と向き合いペンを取るのでした。

映画『漂流ポスト』の感想と評価


(C)Kento Shimizu
2011年3月11日、東日本大震災。あの日、岩手県沿岸を襲った大津波は、多くのものをのみ込みました。

現在の沿岸部は、防波堤の設置、道路や土地のかさ上げ工事が進み、町並みも戻ってきています。以前の三陸海岸の風景ではない寂しさはありますが、新しいことへ挑戦していく逞しさを感じます。

しかし、建物は建て直せても、人の心はそう簡単には建て直せるものではありません。まだまだ心を痛め続けている人もいます。

忘れられない悲しみもありますが、将来の不安、孤独感、新しい生活に馴染めない高齢者など、復興のニュースには良いことばかりではありません。

辛い思いを心に閉じ込めたまま前に進めないという経験は、震災に限らず誰の身にも起こり得ることです。

実際に現在の「漂流ポスト」には、全国各地から病気や事故などで大切な人を亡くし、伝えられなかった想いを綴った手紙が届くそうです。

(C)Kento Shimizu
映画では主人公・園美が「漂流ポスト」に寄せられた手紙を読むシーンがあります。大きな箱にいっぱい詰まった手紙は、実際に送られてきた手紙たちです。

2014年3月11日から「漂流ポスト」を管理し続ける赤川勇治さんは、「手紙を書くまでに至れない人もいます。1行でいいので心を出してみてほしい」と言います。

想いの詰まった500通を超える手紙は、地元の寺で供養を受け、同じ境遇の人々にシェアされ心の蘇生の助けになっています。

また、映画の中で印象に残るシーンのひとつに、園美が「一歩踏み出すことが忘れることになりそうで怖い」と言うセリフがあります。思い出が色褪せて行くことへの罪悪感もまた辛いものです。

作中では「漂流ポスト」の管理人さんが、「辛(つらい)」気持ちに一本の線を足すと、「幸(しあわせ)」になると説いてくれます。大切なあの人は、あなたの幸せを願ってくれているはずと。

悲しみを乗り越え、少しでも前に一歩踏み出すこと。それは、大切なあの人が願ってくれていることなのです。

苦しい表情だった園美が、最後に晴れやかな顔でポストに向き合う場面は、自分の暗い心も晴れて行くような気持ちになりました。

まとめ


(C)Kento Shimizu
東日本大震災で親友を亡くした少女の心の復興を描いた短編映画『漂流ポスト』を紹介しました。

岩手県陸前高田市に実際に設置されている「漂流ポスト」を舞台に、そこに寄せられた手紙など実在するものを使用した映像は、ドキュメンタリーのようなリアリティがあります。

悲しみを乗り越え、命に感謝し、今を生きるということ。30分という短編映画の中に詰め込まれたメッセージは、手紙を読むように心に響いてきます。

拝啓 みなさま
被災地で起きた真実の物語『漂流ポスト』は、2021年3月5日よりアップリンク渋谷にて、ほか全国順次公開です。敬具

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