映画『サンドラの小さな家』は2021年4月2日(金)より公開。
アイルランド出身の女優クレア・ダン。舞台出身の彼女が、家を失った友人の話から着想を得て脚本を書き上げた『サンドラの小さな家』。
その脚本に心を打たれたフィリダ・ロイド監督が映画化し、主演はクレア・ダンが務めました。
DV、シングルでの子育て、貧困、移民など、現代社会の問題に切り込みながらも、希望が光る温かな作品です。
2021年4月2日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開となる映画『サンドラの小さな家』をご紹介します。
映画『サンドラの小さな家』の作品情報
【日本公開】
2021年(アイルランド・イギリス合作映画)
【原題】
herself
【監督】
フィリダ・ロイド
【キャスト】
クレア・ダン、ハリエット・ウォルター、コンリース・ヒル、イアン・ロイド・アンダーソン、アニータ・ペトリー
【作品概要】
『マンマ・ミーア!』『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』のフィリダ・ロイド監督、『女王陛下のお気に入り』『ルーム』のチームが製作。
企画・脚本・主演を務めたのはアイルランドの新星クレア・ダン。
映画『サンドラの小さな家』のあらすじ
サンドラには、幼い2人の娘がいます。姉がエマで、妹がモリー。
ある日、夫ガリーから暴力を受けたサンドラは、エマに秘密の合言葉を伝えて、通報を頼みます。
女性支援グループから支援を受けて、夫の元から逃げ出し、娘たちと3人で生活を始めたサンドラ。
公営住宅は申込者が多いため、ホテルでの仮住まいをすることになりますが、ホテルは勤め先から遠く、ホテルスタッフからは「ロビーやエレベーターは使わないでください」と言われる始末。
サンドラは生活のために、元軍医のペギーの家で清掃婦の仕事と、横柄な店主が切り盛りしているパブでダブルワークをしており、心も体もクタクタです。
週末には、元夫との取り決めで、面会のために娘たちを彼の実家に送り届けます。
元夫と顔を合わせるだけでも、DVを受けた時の記憶がフラッシュバックしてしまい、サンドラは苦しんでいました。
ある晩。娘のエマが、ベッドで横たわるサンドラに「聖ブリジット」の話をします。王様の凍てついた心を和らげたブリジットは、広大な土地を手に入れて、そこに修道院を建て、みなが自由に使える場所として提供したと言うんです。
それを聞いたサンドラは、自分の家を自分の手で建てることを考え始めます。
インターネットで検索すると、格安で家を建築できると話す建築家のサイトを見つけました。
サンドラが家を作ろうとしていると知った雇い主のペギーは、家の裏の土地を譲ってくれます。亡くなったサンドラの母も、ペギーの家で清掃婦として働いていたことがあり、ペギーは恩を感じていたんだそう。
土地の次は、家の資材集めです。建築家のサイトに載っていた資材について、ホームセンターで相談しますが、店員は愛想なく突っぱねます。
それを見ていた土木建築業者のエイドは、店員の接客態度を注意。サンドラはエイドに、家づくりを手伝って欲しいと頼みます。
最初は乗り気ではなかったエイドですが、サンドラの熱意に押されて、息子と共に家づくりを協力することに。
パブで一緒に働くエイミーや、その友人たち、ママ友のローザも手伝ってくれることになり、みんなでサンドラの家を建てることになりました。
唯一のプロであるエイドの指示のもと、少しづつ家は完成に近づいていきます。
そんな中、サンドラと元夫の間で再びトラブルが発生。末娘のモリーが元夫と会うのを嫌がり、元夫に会わせなかったことが面会権の侵害にあたると言い、法廷で親権を争うことになったんです。
不利な証拠を次々と挙げられたサンドラは……。
映画『サンドラの小さな家』の感想と評価
本作は、主役のサンドラ役を務めたクレア・ダンが、親友から「ホームレス状態になってしまった」という電話を受けたことがきっかけとなり、誕生しました。親友は、家主から、1ヶ月後に追い出すと言われたんだそう。
憤りを感じたダンは、数日間そのことが頭から離れなかったと言います。3人の子どもを育てている女性に、住む場所すら与えられない状況。
なんとかしたいと思い立ったダンは、初めて脚本を執筆します。その脚本が、プロデューサーであるシャロン・ホーガンと、フィリダ・ロイド監督の目に止まり、製作が開始。
当初、キャストとして参加するつもりはなかったダンでしたが、ロイド監督が本作を撮るための条件として、ダンがサンドラを演じることを挙げます。
そして、ダンは、自らの想いを込めたサンドラという役を、不思議な魅力あふれる人物として演じ切りました。
自立のメタファーとしての家
サンドラには、左目の下に生まれつきの大きなアザがあります。「サンドラ」というありふれた名前の彼女を、特別な存在にしているのがそのアザです。
コンプレックスであるそのアザは、サンドラの人生そのもの。隠そうとすればするほど、彼女自身を苦しめていきます。
DVによる怪我の痛みとフラッシュバック、仮暮らし、ダブルワークなどで、心身ともに疲れ切っているサンドラは、一番大切にしたい存在である娘たちの前でも、明るく振る舞うことができません。
他人との関係の構築も苦手な彼女は、雇い主ペギーの前でも、エイドに家の建築を頼むときも、無愛想で悲壮感に満ちています。
そんなサンドラですが、彼女の熱意に触れた多くの人間が心を動かされ、手を貸そうと歩み寄ります。
シングルマザーで住居がないという、いわばマイノリティのサンドラの元に集うのは、社会の中では同じくマイノリティとされる人々。
ペギーはかつて軍医だったものの、いまは引退し、腰の痛みから介助が必要な状態。エイドは心臓を患っており、精力的に働けません。また、彼の息子のフランシスはダウン症です。
手伝ってくれることになるエイミーとその友人も、住居を不法占拠している、移民や無職だったりと、それぞれに事情を抱えています。
サンドラが完璧ではないからこそ、みなが「自分ごと」として彼女を支えてくれるんです。
彼らの愛を受け、サンドラはアザを隠さずに、ありのままの自分でいられる勇気を手に入れます。
まとめ
本作で描かれる、アイルランドに昔から伝わる「メハル(皆が集まって助け合い、結果自分も助けられる)」の精神は、日本の「情けは人の為ならず、巡り巡って己がため」に通じるものがあります。
サンドラを柱に、寄せ集めの仲間たちが作り上げる「家」。人と手を取り合えば、人生は何度でもやり直せることをそっと伝えてくれます。
折に触れて鑑賞したくなる、優しさに満ちた作品となっています。
映画『サンドラの小さな家』は、2021年4月2日(金)、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開です。