ゴールドラッシュで沸くアメリカが舞台となる『ゴールデン・リバー』。
ブッカー賞作家パトリック・デヴィットの小説『シスターズ・ブラザーズ』を基に映画化されました。
最強の殺し屋・シスターズ兄弟が山師を追ってカリフォルニアへ向かう物語をコメディタッチで描いています。
主演は『僕たちのラストステージ』でゴールデン・グローブ賞主演男優賞にノミネートされたジョン・C・ライリーと『ザ・マスター』でベネチア国際映画祭最優秀男優賞を受賞したホアキン・フェニックス。
映画『ゴールデン・リバー』の作品情報
(C)2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.
【公開】
2019年7月5日(アメリカ、フランス、ルーマニア、スペイン合作映画)
【原題】
The Sisters Brothers
【監督】
ジャック・オーディアール
【キャスト】
ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッド、レベッカ・ルート、キャロル・ケイン
【作品概要】
本作の製作を兼務したジョン・C・ライリーは、原作を読み7年掛けて映画化しました。
ゴールドラッシュは世界中から人が押し寄せた時代だったため、アメリカ人ではなく欧州出身の監督に従来とは異なる視点で西部劇を描いて欲しいと考え、『預言者』のフランス人監督ジャック・オーディアーにオファー。
オーディアールは脚本も手がけました。本作は、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞しています。
映画『ゴールデン・リバー 』のあらすじとネタバレ
(C)2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.
1851年、オレゴン州。プロの殺し屋シスターズ兄弟は、雇用主である通称・提督から次の仕事を命じられます。
次の標的であるハーマン・ワームは、提督から盗みを働いたと聞かされた弟のチャーリーですが、兄・イーライは権力者である提督に逆らう人間がいるとが信じられませんでした。
提督に派遣された調査員のジョン・モリスがハーマンの行方を捜していることから、兄弟は後を追い南へ向かいます。
ふとチャーリーが将来家族を持つ可能性に触れ、自分達の子供が父の血を引くことになると呟きます。
イーライは、父は唯の酔っ払いだったと言いますが、チャーリーは、その父親のお蔭で自分達は腕の立つ殺し屋なのだと鋭い視線を向けました。
途中店に寄った兄妹は、その晩町で宿をとることにします。イーライは、初めて耳にする歯ブラシを店主に勧められて購入し、指示書を見ながら試してみます。
チャーリーは、早速酒場へ行きお酒を呷ります。夜中、銃声を聞いたイーライが目を覚まし窓から外を覗くと、酔っぱらったチャーリーが酒場の外で乱射していました。
一方、ジョンは、南へ向かう幌馬車隊に交ざるハーマンを発見します。マートル・クリークへ到着し、ハーマンを観察。日雇い仕事で食事と寝床にありつくハーマンは、同行者も無く、お金や荷物さえ持たずカリフォルニアへ向かっていました。
食事中にハーマンから話しかけられたジョンは、チャンスと捉え仲良くなります。金探鉱にカリフォルニアへ行くと話すハーマンに、ジョンは、ジャクソンビルに仕事があると嘘をつき、ハーマンと一緒に旅をすることに成功します。
ハーマンは、発掘した金でテキサス州にユートピアを構築する計画を持ち、民主主義に基づいた理想郷を作りたいと熱く語ります。
マートル・クリークに到着したシスターズ兄弟は、ジョンが残した伝言を受け取り、近道となる山道へ馬を走らせます。
ジョン・モリスの伝言‐ハーマンを発見し、首尾よくジャクソンビルまで同行することに。ここからは7日程の距離。君たちが町へ到着したら、人気の無い場所でハーマンを引き渡す‐
以下、『ゴールデン・リバー』ネタバレ・結末の記載がございます。『ゴールデン・リバー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
深い森を野宿しながら進む兄弟ですが、イーライは毒蜘蛛に噛まれて体調を崩し、イーライの馬がグリズリーに襲われ顔に深い傷を負います。
一方、ジョンとハーマンはジャクソンビルに到着。ジョンの持っていた手錠と銃を見たハーマンは、ジョンが自分を捕まえに来た提督の使者だと気づきます。
ジョンは、ハーマンが提督から盗みを働いたのではなく、ハーマンの発明した金探鉱に使う化学薬品を提督が狙っていたことを知ります。
ジョンは、ハーマンの行く末を憂い、2人で逃げることにします。
ジャクソンビルへ到着したシスターズ兄弟は、ジョンとハーマンが4日前に町を出ていたことを宿泊所で聞き、後を追います。
手掛かりを頼りにサンフランシスコまで来た兄弟は、ゴールドラッシュで沸く別世界の街を目にします。
チャーリーは、ジョンが土地の権利を主張したことを調べ上げ、登録された川辺へ向かいます。
それを予期して待ち伏せていたジョンとハーマンが寝ている兄弟を襲います。しかし、ハーマンを狙う別の有力者が差し向けた刺客が奇襲をかけます。
戦闘は素人のジョンとハーマンはピンチに陥り、拘束されたイーライとチャーリーがプロの腕に任せろと説得。発砲を受けるジョンとハーマンは、兄弟を解放します。
イーライとチャーリーは戦術を活かし、敵を一気に倒しました。ハーマンは、川で採掘した金の半分を渡すと申し出、兄弟は承諾。チャーリーは、ハーマンとジョンが残り半分の金で、分かち合いと尊重に基ずくコミュニティを作るための会社を創業すると聞いて笑い飛ばします。
ハーマンは、自分が考案した薬品は高アルカリ性なため皮膚を焼いてしまうので、水に長く浸からないよう兄弟に警告します。
早朝、イーライが相変わらず慣れない手つきで歯を磨いているとジョンも歯を磨きながらテントを出てきます。お互い歯ブラシを持つ手を止め視線を交わします。
4人は力を合わせて川を堰き止める作業に汗を流し、お酒を回し飲みします。チャーリーはジョンとの会話の中で、ハーマンと真剣に理想社会の構築を目指していることが分かります。
イーライは、長旅を共にして来た自分の馬が熊に襲われた傷で遂に力尽きた姿を発見し、ショックを受けます。ハーマンに慰められたイーライは、まだ兄弟が幼かった頃、チャーリーが父親を殺害したことを明かします。
それ以来人が変ってしまったチャーリーは暴力的になり人を殺害。その結果、追われる弟を守るため、イーライも殺し屋になった経緯を話しました。
いよいよ金の採掘開始。ハーマンが薬品を川に流し入れます。すると透き通った水の底で、化学反応を起こした金があちこちで輝き始めます。
一心に金をたらいに入れ始める4人。しかし、暫くして薬品が薄まり、金の輝きが鈍くなります。焦ったチャーリーは、薬品の入った大型容器を抱え勝手に川に入れてしまいます。
止めようとしたジョンが川の深みにはまって沈み、助けようとしたハーマンが水に潜ります。薬品の原液を腕にこぼしたチャーリーが叫び声を上げ、イーライが駆け寄りました。
翌朝、死んだたくさんの魚が川に浮いています。チャーリーは右腕に重傷の火傷を負い、ジョンとハーマンは瀕死でした。兄妹は、ジョンとハーマンの最後を看取ります。
イーライは、チャーリーを連れて町へ移動。医者がチャーリーの右腕を切断します。
そこへ、報告の無いシスターズを始末する為提督が寄こした刺客が兄妹に迫ります。動けないチャーリーの代わりに、イーライは1人で撃退しました。
提督を殺す以外助かる道は無いと悟った2人は、再びオレゴンを目指します。道中提督に雇われた刺客達の攻撃を避けながら、やっと到着したオレゴンですが、提督は死亡していました。
イーライは棺に眠る提督を見つめ、突然遺体を殴ります。止めに入った付添人に、「念のため」と言い残し、イーライはチャーリーと共に町を後にします。
晴れて自由を手に入れたシスターズ兄弟は、母が住む故郷へ戻ります。懐かしい家庭料理を頬張り、チャーリーが母にお風呂の世話をしてもらう間、イーライは、幼少時代に寝ていた小さなベッドに横たわります。
窓からの木漏れ日とそよ風を受けながら、イーライは穏やかな表情で眠りに落ちました。
映画『ゴールデン・リバー』の感想と評価
(C)2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.
本作は、馬に乗るカウボーイハットの男性達、銃撃戦、砂埃等西部劇の要素が揃っているにも拘らず、美しい自然の風景を取り入れたロードムービー+心温まる家族ドラマとしても成立しています。
監督を務めたジャック・オーディアールの手腕が発揮され、所々にセンスが光る作品です。
クロースアップを多用せずカメラを動かして撮影し、舞台を観ているような躍動感が生まれます。
また、台詞抜きで一場面を切り取る手法が見事です。例えば、シスターズ兄弟が実家に帰省する終盤、母を演じたキャロル・ケインの背後にカメラを配置。
母の背中は広く、シャツを肘まで捲くった両腕は兄弟をがっしりと抱きしめ、2人は子供の様に母の肩に顔を埋めます。
多くの人が恐れた凄腕の殺し屋も、母の前では無防備の息子であることを5秒間画面一杯に映し出し、続くケインの台詞は「あんた達臭いわよ」。久し振りに会う親子の微笑ましい場面です。
2人が少年時代に使っていたベッドは綺麗にベッドメイクされており、その画を敢えて挟むことで長く音沙汰の無い息子に馳せた母の想いも伝えています。
更に、物語の佳境となる金の採掘場面では、自然音とピアノだけを使い、水底で輝く金を幻想的に描写しました。
演じる人物そのものになる実力派俳優ホアキン・フェニックス。オーディアール同様、当初は西部劇に関心がありませんでしたが、原作を読みシスターズ兄弟に魅かれ出演を決めました。
幼い頃から誰の助けも借りず寄り添って生きて来た兄弟であったため、フェニックスとライリーは、撮影前に長い時間共に過ごし、散歩へ行く時も一緒に出掛けたそうです。
まとめ
(C)2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.
父親の暴力が暗い影を落とした幼少時代を過ごし、町から町へ名が轟く殺し屋に成長したシスターズ兄弟。
2人にとって単なる“仕事”にしか過ぎない存在だったハーマンは、唯心論を唱える化学者でした。
連絡係のモリスとイーライは彼の人柄に感化されます。
ジャック・オーディアールの西部劇『ゴールデン・リバー』は、人の命を奪うことに何の躊躇も無い兄弟がロマンを追う山師に出会い、新たな人生を歩み始めるまでを描いたコメディ作品です。