映画『ふきげんな過去』作品情報
【公開】
2016年(日本)
【監督】
前田司郎
【キャスト】
小泉今日子(未来子)、二階堂ふみ(果子)、高良健吾(康則)、板尾創路(タイチ)、山田望叶(カナ)
映画『ふきげんな過去』あらすじとネタバレ
未来子、帰る
不機嫌な表情で、運河をじっと見つめている女子高生の果子。運河にはワニがいるという噂です。そんなものいるわけがないと思いながらも、なぜか果子は水面を睨み続けます。
食堂を営む両親や祖母と暮らす果子にとって、想像内で全てがおさまるこの世界はとてつもなくつまらないもの。果子が逃げ出せる場所はたった一つ、近所の喫茶店だけでした。
夏休みのある日、「ただいま」と店に入ってきた女性に家族は騒然となります。18年前に忽然と姿を消してそれっきりだった果子の伯母・未来子がふらりと帰ってきたのです。
未来子は果子の母親の姉で、その昔、手作り爆弾で事件を起こし警察沙汰になるほどの問題児でした。蒸発後は、家族も未来子のことをすっかりあきらめ、すでに戸籍すら残っていません。
再会の涙も感動もなく、戸惑うように迎える家族。未来子も未来子で、「追われている身だからしばらくかくまって」と平然。果子は、謎だらけの伯母がうとましくてなりません。
いつもの喫茶店で時間をつぶす果子。常連らしい、黒い帽子をかぶった若い男のことが妙に気になっています。店を出た男のあとをこっそりつけてみますが、いきなり「君、果子でしょ?」と逆質問されて仰天します。
男は未来子の知り合いだと言います。「未来子は監視されている。僕は未来子をさらうチャンスを伺っている」。訳のわからない言葉に果子は困惑します。ますます深まる未来子の謎。まるで何かから逃れるように、果子はワニ探しに没頭します。
未来子、去る
伯母の不可解さにキレた果子は、「さびしいから戻ってきたんでしょ」と未来子にくってかかり、派手な取っ組み合いにまで発展します。くたくたになって畳の上に寝転がる二人。未来子は、真夜中の外出につきあってよと果子を誘います。
その夜、一緒に連れて行けと言い張る、いとこの小学生カナも同行。三人は運河から舟を漕ぎ出し、夜の静寂の中を進んでいきます。着いたのは林の中の集落跡。未来子は、爆弾を作るために必要な硝石がここに埋まっていると言うのです。
硝石を掘り出した果子は、未来子に教えられて小さな爆弾を作ります。爆弾の効果を試すため、未来子とカナも一緒に河原へやって来ます。未来子は唐突に「私があんたの本当の母親よ」と告白しますが、果子の返事は「やっぱり」の冷めた一言。
その時、果子の爆弾が爆発します。期待したほどの爆発音もなく、がっかりした果子ですが、爆発のそばにいたカナが怪我を負い、血を流して倒れていました。
眼帯をし、腕に包帯をぐるぐる巻いた痛々しい姿のカナ。それでも平常心の果子は、帽子の男の部屋を訪れて自作爆弾を披露します。男はまともにとりあおうとせず「君は違う世界に連れていってほしいんだね」などと言ってキスを求めてきます。傷ついた果子は部屋を飛び出しました。
真夜中、布団の中で「なんで私を置いていったの」と問いかける果子に、未来子は「邪魔だったから。“カコ”が」と答えます。
夢うつつの果子の目に、窓際に立つ帽子の男と未来子が見えます。「私も連れてって」と果子は言いますが、二人はそのまま窓から飛び降り、夜の闇に消えます。翌朝果子が目を覚ますと、未来子はどこにもいませんでした。
果子が帽子の男の部屋へ行くと、未来子が何事もなかったように食事をしています。なんで消えたのかと問い詰めても未来子は要領を得ず、男の方も「世界を改革するために日本を出る」と、相変わらず意味不明です。
混乱した果子は傘を振り回し、あやまって未来子の腹を刺してしまいます。熱を出し、寝込んだ未来子を見てとり乱す果子。苦しそうな姿を見て泣き続けます。
果子と包帯巻きのカナが、運河を眺めています。いつものように「つまらない」という会話を続ける二人。運河の岸辺で何やら人々がざわめいています。まさかワニが見つかった?じっと見つめていた果子の顔が、ぱっと輝きました。
『ふきげんな過去』の感想と評価
「つまらない」と「わからない」を連発。家にいても面白くないし、見たい夢もない。いつも傘を地面に引きずって歩くその耳障りな音は、果子の気分そのもののようです。
そんな果子の前に突如現れた未来子。「あんた誰」な空気で始まり、実の母だと発覚しても「だと思った」で終わり。ああこれが果子なんだなと妙に愛おしくなりました。
演劇的な台詞まわしも、未来子の口から紡ぎ出されるとさほど不自然ではなく、むしろ未来子という摩訶不思議なキャラクターに深みを与えたようにも思えます。
結局、未来子は何だったのか。これがフ―テンの寅さんだったら、優しい身内が全力で心配すればよいだけの話ですが、相手は未来子です。平穏な日常に不安の波風を立てられた家族は、結局、昔と同じように再び未来子に取り残されます。
十代の頃、爆弾で全てを吹き飛ばしてしまおうと考えた未来子。そして娘の果子もまた、現実から逃げ出すことばかり妄想している少女です。はたから見ればなんとなく似たもの親子ですが、二人の距離は、近づくかと思えば離れてしまうという具合です。
娘と再会しても、母親としての愛情や責任が押し寄せてくることなど一切ない未来子。彼女の本質は「大人になりそこねた少女」であり、果子の存在も、未来子にとっては「もう一人の自分」でしかなかったのかもしれません。
未来子と過ごした夏が終わりを告げ、果子はどんな女性に成長していくのでしょう。この後のストーリーに、思いを馳せてしまいます。
まとめ
未来子の存在はもちろんのこと、運河のワニ、黒い帽子の男、そして名前がなく微動だにしない赤ん坊など、異様とも思えるモチーフがあちこちに散らばっている中、唯一、地に足ついた存在として描かれていたのが、いとこの小学生・カナです。
演じる山田望叶のナチュラルさが凄い。ごく普通の子どもなのですが、幼いなりのふてぶてしさとか、天然さとか、愛らしさとかを全身から発散させていて、場面の存在感を独り占めする瞬間が何度もありました。今後が楽しみです。
未来子が邪魔だったのは、「過去」なのか「果子」なのか。そして結局、未来子はどうなったのか。監督は、観る側に判断をゆだねたのでしょうか。リアルともファンタジーともつかない、気持ちのよい浮遊感につつまれる作品です。