映画『ファヒム パリが見た奇跡』は2020年2020年8月14日(金)より全国順次ロードショー!
バングラデシュから父とともに脱出し、フランスで新たな生活を目指していた少年・ファヒム。希望のカギは、彼のチェスの腕にありました。
バングラデシュからパリへと逃れた実在の天才チェス少年ファヒム・ムハンマドの物語をベースに、その亡命のエピソードを彼とチェスとの交わりで引き寄せられるさまざまな出会いを通じて描いた『ファヒム パリが見た奇跡』。
主人公ファヒムを演じたアサド・アーメッドは、撮影3ヶ月前にバングラデシュからフランスに移住したばかりという少年。この作品がスクリーンデビューとなった彼は、その特殊な役柄を演じるにあたり自身の体験を織り交ぜ、瑞々しくその役柄を表現しました。
また共演にジェラール・ドパルデュー、イザベル・ナンティらフランスのベテラン俳優が名を連ね、脇を固めています。
映画『ファヒム パリが見た奇跡』の作品情報
【日本公開】
2020年(フランス映画)
【原題】
Fahim
【監督・脚本】
ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル
【キャスト】
ジェラール・ドパルデュー、アサド・アーメッド、ミザヌル ラハマン、イザベル・ナンティ
【作品概要】
フランスの実話をベースに、バングラデシュからパリへと逃れた難民の天才チェス少年が、亡命のさまざまな障害と戦いながらチェス大会の優勝を目指す姿を描きます。
監督は俳優としても活躍し、2006年に映画『Essaye-moi』で監督デビューを果たしたピエール=フランソワ・マルタン=ラバル。
主人公ファヒムを演じるのは、バングラデシュ出身のアサド・アーメッド。そのファヒムを支える指導者シルヴァン・シャルパンティエ役に『ハニートラップ 大統領になり損ねた男』(2014)などのジェラール・ドパルデュー、ファヒムらを優しく見守るチェス教室の経営者マチルド役を『ママはレスリング・クイーン』(2013)などのイザベル・ナンティが担当します。
映画『ファヒム パリが見た奇跡』のあらすじ
バングラデシュ・ダッカのとある街。政変が続き国内の緊張が解けない中、親族が反政府組織に属していたことに加え、モハンマド一家の息子ファヒムがチェスの大会で勝利を重ねていたことへの妬みが原因で、一家は脅迫を受けるようになっていました。
一家としての身の危険を感じた父親は、先にわずか8歳のファヒムを連れてフランス・パリへと亡命を図りました。
フランス語もままならないままに難民センターに身を寄せた父子は、フランスでも有数のチェスのトップコーチであるシルヴァンのいるチェス教室に出向きます。
シルヴァンのクセのある性格に当初は戸惑っていたファヒムでしたが、厳しくも愛情あふれた熱心な指導に次第に心を開きながらも頭角を現し、チェスのトーナメントを目指して邁進していきます。
ところがある日、難民申請を却下されたファヒムの父親は強制送還を言い渡され、パリでの身の置きを失い町から姿を消してしまいます。
迫りくるタイムリミット。その緊張の中、ファヒムはチェスのフランス王者を目指す大会に出場することを決意します。そして彼の戦いぶりは、彼の人生に大きな変化をもたらします……。
映画『ファヒム パリが見た奇跡』の感想と評価
本作は実話に基づき、バングラデシュの難民親子がフランスに亡命を試みるさまを描いたストーリーですが、物語の主軸はフランス国内に降り立ったファヒムという少年、そして彼を取り巻く人々の姿を群像劇として描いたものです。
難民の境遇というポイントを主眼と考えると、ロケ―ションを多くしたりさまざまなエピソードを追加したりする必要がありますが、本作ではあくまでフランスのパリにおけるファヒムの進退という点にポイントが絞られています。
その意味では難民問題という点に関して、亡命を願う人に対し国がどのように対応するのか、対して亡命者はどのようにふるまうのか、という点に焦点が置かれています。難民問題の最も大きなポイントに焦点を置いているわけです。
物語のモデルであるファヒム・モハンマドはこの映画を見て「少し奇妙な感じだった。すべて自分が経験してきたことだが、自分のことのように思えなかった」と語っています。
もちろん物語には多かれ少なかれ事実とは異なる部分もあったようですが、その違和感はむしろファヒム自身が当初感じた思いより、物語で描かれる登場人物の心情が局所的であったことにあるようです。
撮影当初はバングラデシュからフランスに来て間もなく、自身の経験を演技にふんだんに生かしたというアサド・アーメッドと、ベテラン名優ジェラール・ドパルデュー、イザベル・ナンティという強力なバックアップ、そしてフランス語もしゃべれず、亡命という行為がままならずに焦りを見せつつも、子を思う父親役を演じたミザヌル ラハマン。
メインキャラクターはこの4人です。本作はこの4人のやり取りだけでほぼで成立しており、非常に明快な人間模様が表現されています。
また作品を手掛けたピエール=フランソワ・マルタン=ラバルは舞台俳優、演出の経験も豊富であり、本作でも人同士の会話劇の組み立て方、表情などの感情表現などは、共感心を呼ぶ非常に優れた演出を行っています。
ファヒムという少年と出会い、彼を知ることで徐々に受け入れていく周囲の人たちの気持ち、そしてファヒム自身の周囲と溶け込んでいく気持ち。
もしリアリティーだけにこだわり、彼の複雑な心情をそのまま表現しようとしていたら、作品の論点はもっとぼやけたものになっていくに違いありません。
本作でのストーリーは伝えるべきことを厳選し、シンプルに表現するという基本的な作り方を頑なまでに踏襲し、人々が自分のこと、身の回りのことについて深く考える手助けをするという、映画が社会生活の中で持つ役割を忠実に果たした作品といえるでしょう。
まとめ
ファヒムの故郷であるバングラデシュは、JICA(独立行政法人国際協力機構)が昔からずっと支援を続けている国で、日本には馴染み深い国であります。
また近年ではその安い労働力に、ビジネス面では注目が集まっています。その反面、近隣国ミヤンマーからのロヒンギャ難民が多く流入し、救済キャンプで受け入れきれない状況にあるなど、非常に複雑な情勢があります。
2016年7月にテロ事件が首都ダッカのレストランで発生して以降、治安面で不安定さが伝えられている所でもあります。
そういった複雑な環境の中で暮らす人々を、救える立場にある人間はどうふるまうべきなのかを、この作品からは改めて考えさせられます。
人はその生い立ちで背負ったバックグラウンドで人間の性質を決めつけてしまいがちですが、その本質は実はバックグラウンドと必ずしも一致するものではありません。
本作ではバックグラウンドに依存しない、ファヒム自身にある本質をチェスという特質で描いています。彼の置かれた状況を想像しながらこの物語を味わえば、改めてその事実に気づきハッとさせられることでしょう。
映画『ファヒム パリが見た奇跡』は2020年8月14日(金)より全国順次公開!