生前にわずか10編の詩を発表したのみで、無名のまま生涯を終えたアメリカの女性詩人エミリ・ディキンスン。
死後に約1800編の詩が発見され、彼女の詩は後世の芸術家たちに大きな影響を与えています。
そんなディキンスンの少女時代から晩年、そして死までを、『セックス・アンド・ザ・シティ』のミランダ役でエミー賞助演女優賞を受賞したベテラン女優シンシア・ニクソンが熱演、『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』をご紹介します。
CONTENTS
1.映画『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』の作品情報
【公開】
2017年(イギリス映画)
【原題】
A Quiet Passion
【監督】
テレンス・デイビス
【製作】
ロイ・ボールター ソロン・パパドプロ
【キャスト】
シンシア・ニクソン ジェニファー・イーリー キース・キャラダイン ジョディ・メイ キャサリン・ベイリー
【作品概要】
アメリカの女性詩人エミリ・ディキンスンの生涯を、シンシア・ニクソン主演で映画化。
北米の小さな町の屋敷から出ることなく、10編の詩を発表したのみで、無名のまま生涯を終えたディキンスンの少女時代から晩年、そして死までを描いてます。
監督は『愛情は深い海の如く』などを手がけたテレンス・デイビス。
2.映画『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』のあらすじ
19世紀半ばのマサチューセッツ州。
家族と離れ、マウント・ホリヨーク女子専門学校に通っていたエミリ・ディキンスンは、学校での福音主義的な教え方が理解できず、問題児として扱われていました。
エミリは迎えに来た家族と共に家に帰り、弁護士の父親、病弱な母親、兄のオースティン、妹のラヴィニアと過ごすようになり、詩を綴る事を楽しみにしていたエミリは、父親の口添えもあり、地元の新聞に初めて自身の詩が掲載されます。
エミリとラヴィニアは、資産家の娘、ヴライリング・バッファムと友人になります。
女性が男性と同等の扱いをされる事が許されなかった時代に、バッファムは進歩的な考えを持っていました。
信仰を強要する教会への反発で意気投合し、エミリはバッファムの美しい外見とユーモアに富んだ知的な部分に、憧れを抱くようになります。
大学に通っていたオースティンは、父親の弁護士の仕事を手伝うようになり、妻のスーザンを連れてエミリの家族が住んでいる家の隣に引っ越します。
エミリとラヴィニアは、隣人になったオースティン夫婦を喜び、受け入れるのでした。
真夜中の静寂の中、詩を綴っていたエミリにスーザンが気付きます。
エミリは、父の許可を得て詩を綴っており、この時間が楽しみである事をスーザンに伝え、理解を示したスーザンと仲良くなります。
家族と幸せな時間を過ごしていたエミリですが、南北戦争が始まります。
仲間と共に戦う事を望んだオースティンですが、父親は認めず、泣いて懇願するオースティンを突き放します。
父の理解を得られなかったオースティンは、戦争に参加しない事を了承しますが、納得がいかない様子でした。
教会への反感を持ち続けているエミリでしたが、素晴らしい説教をするワズワース牧師に興味を持ち、ワズワース牧師とその夫人を自宅に招きます。
ワズワース夫人は全ての嗜好品を拒み、お茶すらも飲まず、庭の散歩も断る堅物、エミリはワズワース牧師と庭に散歩に出かけ、自身の詩をワズワース牧師に見せます。
ワズワース牧師はエミリの詩を称賛し、エミリは自身の詩を後世に残す事を決意します。
一方、親友のバッファムが結婚。
エミリはバッファムの結婚に戸惑い、心から祝福できません。
更にワズワース牧師が別の土地に旅立つ事になり、エミリを守り続けてくれた最愛の父親も亡くなります。
愛する人達との別れと、変化する環境に動揺を隠せないエミリは、次第に心を閉ざすようになりました。
3.映画『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』の感想と評価
エミリは純粋な女性!
純粋であるが為、教会の教えを強要される事や、男尊女卑の考え方に疑問を持ち、納得できなかった為、周囲から孤立する事になるのです。
映画の舞台は19世紀半ばですが、現代社会に生きる我々にも通じる部分があると思います。
周囲の考え方や、やり方に疑問を感じ、納得できない事があったとしても、実際に声を上げる事は非常に難しい事です。
声を上げても、常識という概念や、「空気が読めていない」という言葉によって抑えつけられ、時には「厄介者」として扱われる為、納得がいかないまま、黙って従うという事があるのではないでしょうか?
しかし、エミリはその風潮を受け入れる事ができなかった、受け入れようとしていたのですが、彼女の純粋さがそれを許さなかったのです。
エミリの詩は自然や信仰、愛や死をテーマに、繊細な感性と深い思索のなかで記されており、劇中でも約20篇の詩が織り込まれています。
苦しみや葛藤と向き合った中で綴られてきた彼女の詩は、現代に生きる我々の胸にも響きます。
まとめ
これまで謎に包まれていた伝説の詩人、エミリ・ディキンスンの生涯を、エミリの熱心な愛読者であるシンシア・ニクソンが挑み、実際にエミリが暮らした屋敷で撮影が行われたという、敬愛に満ちた本作。
人間や世の中の本質を捉えたエミリの作品は、現在でも数多くの芸術家に影響を与えており、苦悩と葛藤に満ちたその人生は、考えさせられるものがあります。
これまで、エミリ・ディキンスンを知らなかった人にこそ、お薦めしたい作品です。