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Entry 2020/03/28
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映画『コロンバス』あらすじネタバレと感想。モダニズム建築を通し、小津安二郎が描いた“家族の系譜”を現代的に受け継ぐ

  • Writer :
  • 西川ちょり

透明性と光だ!静謐なタッチの長編作
主演はジョン・チョーとヘイリー・ルー・リチャードソン

ブレッソン、ヒッチコック、小津安二郎などの研究者だったコゴナダ監督がカメラを持ち、長編デビューを果たした映画『コロンバス』(2016)。インディアナ州コロンバスで出会う2人を、美しいモダニズム建築と共に静謐なタッチで描いています。

監督名は、小津安二郎の片腕ともいえる脚本家・野田高梧に因んだものです。

映画『コロンバス』の作品情報


(C)2016 BY JIN AND CASEY LLC ALL RIGHTS RESERVED

【日本公開】
2020年公開(アメリカ映画)

【原題】
COLUMBUS

【監督】
コゴナダ

【キャスト】
ジョン・チョー、ヘイリー・ルー・リチャードソン、ロリー・カルキン、パーカー・ポージー、ミシェル・フォーブス

【作品概要】
ブレッソン、ヒッチコック、小津安二郎についてのドキュメンタリーを撮り、小津映画にかかせない脚本家・野田高梧の名前にちなんでコゴナダと名乗る韓国系アメリカ人の長編映画監督デビュー作。

モダニズム建築の街として知られるインディアナ州コロンバスを舞台に、2人の男女が出会い、建築を通して心を通わせる様を描きます。

映画『コロンバス』あらすじとネタバレ


(C)2016 BY JIN AND CASEY LLC ALL RIGHTS RESERVED

高校を出たあと、地元の図書館で働いているケーシーは、コロンバスのモダニズム建築のガイドの勉強をしています。願わくば正式な図書館司書になりたいと思っていますが、修士をとっていないと厳しいようです。

ある日、ケイシーは、街を歩く一人の男性から煙草を求められます。彼女は彼を前日、病院でみかけていました。

彼はコロンバスに住む高名な建築学者の息子でした。韓国系アメリカ人で、現在は韓国・ソウルで翻訳の仕事をしていて、父が倒れたという報せを聞き、コロンバスにやってきたのです。父は意識不明で昏睡状態でした。

ケイシーは、この街の建築が好きで、彼の父親の講演会には毎回通っていました。建築には興味がないとジンはいいますが、知らずしらずのうちに建築の知識が身についているようでした。

ケイシーは、彼をエーロ・サーリネンが設計したミラー邸や、ファースト・フィナンシャル銀行などに案内します。

ジーンは、ケイシーが披露する建築の知識よりも彼女がその建築に何を感じたのかを知りたがりました。

そんな流れで、ふたりは自身の境遇を語り始めます。ケイシーは母親と二人暮らしですが、母は、ケイシーが15.6歳のころ、恋人と別れたショックで覚醒剤に手を出し、何日も帰ってこないことがありました。

今は、なんとか依存症を克服し、工場と清掃の仕事にもついていますが、ケイシーは母が心配でならず、自身の夢を諦め、母に付き添う日々を送っていました。

一方のジンは、父から一粒の愛情すらかけられたことがないことに傷ついて生きてきました。自分を愛してくれなかった父のために、仕事も放り出して付き添わなくてはならないことを理不尽としか思えず、強い葛藤を覚えていました。

ケイシーは以前、有名な建築家が街に来た際、その勉強熱心さを買われ、彼の教えている大学に来ないかと誘われたことがあるとジンに話しました。

ジンは、君は頭もいいし、未来のためにも行くべきだと自分の意見を伝えますが、ケイシーは母親を置いて街を出ることなどできないと首を振ります。

父親が合併症を起こしたと聞き、ジンは父の秘書だった女性とあわてて病院に向かいました。危篤の状態が続き、ソウルに帰るにも帰れないとジンは苛立ちますが、かつての初恋の女性に「よくなってもらうことを願うのよ」と諭されます。

ケイシーはジンにパーティーに行こうと誘いますが、彼女が車を止めた場所は彼女が卒業した高校の前でした。彼女は降りて、一人で狂ったように踊り始めます。降りてきたジンを誘い、夜の学校にこっそり忍び込みました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『コロンバス』ネタバレ・結末の記載がございます。『コロンバス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
ジンの父は小康状態が続いていましたが、よくなる望みはないようでした。

「最後をみとってあげるべきだ」という女性に対して、何もしてもらわなかった人間がなぜそこまでしなくてはならないんだとジンはつぶやき、「気持ちはわかるわ」と女性は固く彼を抱きしめます。

ケイシーは街を出る決心をしました。もっと2人で旅行にでも行けばよかったと言う母。

苦労をかけたことを詫びる母にそんなことないわと優しくささやくケイシー。2人は寂しさで泣きたい気持ちをおさえながら最後の夜を過ごしました。

ケイシーが街を出る一方、ジンは、父の傍にいるためホテルを借り、しばらくこの街に落ち着くことにしました。

まだ母のことを心配して涙顔のケイシーに「お母さんも喜んでいるよ」と言って励ますジン。ジンはケイシーを抱きしめ、別れを交わすのでした。

映画『コロンバス』の感想と評価


(C)2016 BY JIN AND CASEY LLC ALL RIGHTS RESERVED

冒頭、フィンランド出身の建築家、エーロ・サーリネンが設計した「ミラー邸」を、一人の女性が横切っていきます。彼女は高名な建築学者を探しており、カメラは画面手前のソファーの真ん中くらいの位置に陣取り、彼女が通り過ぎるのを部屋ごとに映し出します。

奥行きのある映像は、センスのいい調度品とともに、貴重なモダニズム建築の内部を手際よく見せていきます(その後も何度もガイドツアーのシーンが出てきてミラー邸の一部を味わうことができます)。

ヘイリー・ルー・リチャードソン扮するケイシーはファースト・クリスチャン教会を背景に初めて画面に現れ、「非対称でありながらバランスを保っている」というこの建物の特徴を口にします。

映画の舞台であるインディアナ州コロンバスは、モダニズム建築の街として知られ、この他にも多くの魅力的な建築が登場します。

モダニズム建築とは鉄、ガラス、コンクリートなどの工業化された材料を用い、機能性や合理性を追求した建築です。映画『コロンバス』は、そのモダニズム建築の機能美をそのまま映画に持ち込んだような画面作りをしています。

スクリーンに投影される建築群は静謐なたたずまいをみせ、その建築を見つめている人間の配置も絶妙に計算されています。完璧な構図を持った映画と言えます。

それでいて、ケイシーが、ジョン・チョー扮するジンに、それぞれの建築物に対する想いを吐露すると、そこには、豊穣ともいえる感情がほとばしり出て、冷たい機能美だけではない優しさのようなものが画面に立ち現れてきます。

モダニズム建築が持つ透明感のある美の世界を映画として再現するという試みがなされた本作ですが、ここに展開する人間ドラマは、スモールタウンに住む少女が街に残るか街を捨てるかで葛藤する青春物語です。

また親子の確執、家族のあり方を問うヒューマンドラマでもあります。

小津安二郎作品の脚本家・野田高梧にちなんでココナダと名乗る韓国系アメリカ人の監督と聞くと、小津安二郎作品との共通項をどうしても探してみたくなりますが、画面や手法には小津らしいものはとりたてて現れていないように見えます。

小津のことは一旦忘れて映画に集中するほうが懸命かもしれません。ですが、小津が描いた「家族」像の影響をそこに嗅ぎ分けることはできるのではないでしょうか。

母が気がかりながら大学に進み学びたいという希望を叶えるために、一大決心して街を出ていくケーシーの姿は、『晩春』(1949)の原節子を思わせなくもありません。

小津は「家族」というものを様々なバリエーションで描いた作家ですが、そこには「所詮、人間はひとりだ」という悲しみを秘めた悟りがありました。

子どもは成長し、結婚をして、親から巣立っていく。残された親の方には「死」がいつの間にか近づいている。

そいう意味では『コロンバス』はまさに小津が描いた「家族」の系譜を現代的に受け継いだ作品であるといっても間違いではないでしょう。

まとめ


(C)2016 BY JIN AND CASEY LLC ALL RIGHTS RESERVED

ジンに扮したジョン・チョーは韓国系アメリカ人俳優で、コメディ映画「アメリカン・パイ」シリーズ(2001~2014)、『スタートレッック』(2009)のスール役などで知られる人気俳優です。物語がすべてパソコンの画面上で進行していくユニークなサスペンス映画『Search/サーチ』の父親役も記憶に新しいところです。

『コロンバス』では、偉大な父親を持ちながら、愛情を与えられず育った孤独な男性を繊細に演じています。

ケイシーを演じたのは、ヘイリー・ルー・リチャードソン。『スウィート17モンスター』(2016)ではヒロインの唯一の友だち役。シャマラン監督の『スプリット』(2016)はヒロインと共に囚われの身となる少女を演じていました。

『コロンバス』では、自分の夢と家庭環境の間で揺れ続けるスモールタウン・ガールの心の機微を丁寧に演じています。A24制作によるココナダ監督の新作『After Yang』の出演も決まっているとのことで非常に楽しみです。

この2人が、街のモダニズム建築をめぐりながら心を通わせていくさまが、繊細に、かつ温かい眼差しで描かれており、その出会いと別れの物語が涙腺を刺激します。

また、ケイシーの同僚役のロリー・カルキンも少ない出番ながら印象的でした。彼は、ケイシーに人間が持つ「興味」について力説しますが、これが非常に興味深い話でした。

もし、ケイシーが建築に興味がなければこの街は彼女にとってはずっと住みづらいものであったでしょうし、次のステップもまた見えにくいものだったでしょう。すべての事柄は“興味”から始まるのです。

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