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Entry 2018/06/27
Update

『ブリグズビー・ベア』ネタバレ感想レビュー。映画の工作のような手触り感と創意工夫

  • Writer :
  • 西川ちょり

サンダンス、カンヌ、シドニーほか、世界中の映画祭で話題騒然!

ニセ教育番組を25年見続けた青年が主人公という驚くべき設定と映画愛に溢れた作品。

映画『ブリグズビー・ベア』について、あらすじと感想(ネタバレ含む)をご紹介します。

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映画『ブリグズビー・ベア』の作品情報


© 2017 Sony Pictures Classics. All Rights Reserved.

【公開】
2018年(アメリカ映画)

【原題】
Brigsby Bear

【監督】
デイヴ・マッカリー

【キャスト】
カイル・ムーニー、マーク・ハミル、グレッグ・キニア、マット・ウォルシュ、クレア・デインズ

【作品概要】
幼少期に誘拐され、偽の両親に育てられたジェームズは、教育番組「ブリグズビー・ベア」だけを見て成長し25歳になりました。ある日、偽の両親が逮捕され、実の両親のもとに帰ることになりますが、ブリグズビー・ベアには隠された秘密が・・・!

2017年にサンダンス映画祭 正式出品作品、カンヌ国際映画祭 正式出品作品。ナショナル・ボード・オブ・レビュー インディペンデント映画TOP10受賞、プロヴィンスタウン国際映画祭 新人監督賞受賞など多数の映画祭で絶賛されたヒューマン・コメディ。

ジェームズの偽父親テッド役を「スター・ウォーズ」シリーズのマーク・ハミルが演じています。

映画『ブリグズビー・ベア』のあらすじ


© 2017 Sony Pictures Classics. All Rights Reserved.

ジェームズは、外気から遮断された小さなシェルターで両親と暮らしていました。

外の空気は汚染されているらしく、時折、ドームの中から眼の前に広がる砂漠の景色を覗き見ることが外との唯一の接点でした。

ジェームズの部屋は壁一面に本棚がこしらえられていて、そこには教育ビデオ「ブリグズビー・ベア」がぎっしり並んでいます。

子供のころから毎週ポストに届けられる「ブリグズビー・ベア」を観て育った彼ももう25歳。今は過去の回を見直し、せっせと「ブリグズビー・ベア」の研究に勤しんでいました。

その研究を聞いてくれるチャット仲間もおり、両親は優しく、寂しさを感じることもありません。

ところが、ある晩、ドームから外を観ると、何台ものパトカーがやってくるではありませか! ジェームズは警察に連行されてしまいます。

外の空気を吸ったら死んでしまう! ・・・おや、大丈夫みたい・・・。なぜ?

警察の取調室に座らされたジェームズは意外なことを聞かされます。両親だと思っていた二人は、25年前にジェームズをさらった誘拐犯だったというのです。ジェームズは保護され、両親だと思っていた二人は逮捕されたのでした。

本当の両親と妹は涙ながらに彼をハグしますが、ジェームズは突然現れた「外の世界」に戸惑います。「ブリグズビー・ベア」を観たいのに、そんなものはないと本当の両親は言います。

なんと、「ブリグズビー・ベア」は偽の両親(主に父親)がジェームズに見せるために自ら制作していた作品だったのです。チャット相手も偽の両親が成りすましていたらしく、そのことにも驚かされますが、もう新作が観られないことにジェームズは落胆してしまいます。

ある日、本物の父親が、ジェームズを映画に連れ出しました。コメディ映画を大いに楽しんだジェームズは、自分で「ブリグズビー・ベア」の新作を作ろうと考えます。

ネットで絵コンテの書き方を調べ、あっという間に完成させるジェームズ。

そんなある日、妹のオーブリーがアメフトの試合を見に行こうと誘ってきました。母親に言われて、渋々誘ったのですが、アメフトに行くというのはまったくの嘘で、彼女は友達のパーティーに行くつもりだったのです。

仕方なく兄をパーティーに連れていくオーブリー。ジェームズは初めての体験に戸惑いながらも、オーブリーの友人で、「スタートレック」好きのスペンサーと親しくなります。

担当の刑事は、演劇好きで、映画を撮りたいというジェームズに理解を示し、証拠品である「ブリグズビー・ベア」に関する小道具を一部こっそり回してくれました。その中には、ベアの頭もありました。

スペンサーに「ブリグズビー・ベア」のビデオを貸すと、彼はそれを早速アップロード。すぐに再生され、「本当の人が観てるってこと!?」とジェームズは嬉しそうに声を上げました。

撮影したものをYouTubeにあげると番組は大人気。刑事ものりのりでキャラクターを演じてくれました。

始めは兄に非協力的だったオーブリーでしたが、非礼を詫て、スペンサーや仲間たちと共に撮影に加わります。

撮影は順調に進んでいましたが、爆発シーンがほしいために、ジェームズが作った爆弾が問題になって、警察に連行されてしまいます。

ジェームズは自分に責任がある、と仲間をかばうのでした。

ブリグズビー・ベアにはアリエルとニーナという仲間がいました。今彼女たちはどうしているんだろう? と思ったジェームズはアリエルを探し出し、訪ねていきます。

彼女はウエイトレスをしていました。青年がジェームズだとわかり、彼女はお詫びを口にします。お金が必要だったし、カナダで放送すると聞かされていたそうです。

「私はアリエルでもニーナでもないの。なぜ私を訪ねてきたの?」と彼女が尋ねると「君は僕の支えだった」とジェームズは応えました。「優しい人ね」と彼女は微笑みました。

偽の両親が制作した番組に、ジェームズが未だに夢中になっていることに、本物の両親は複雑な思いを抱いていました。息子が帰ってきたらあんなこともこんなこともさせてあげたいと思っていたのに、そのどれにもジェームズはまったく反応しません。

彼の頭の中はあの憎き誘拐犯が作った熊のことでいっぱいなのです。

25年間、苦悩の日々を過ごした両親の気持ちが爆発してしまいます。彼らはジェームズをまっとうな世界に戻すため、カウンセラーの指導のもと、入院という処置をとりましたが…。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ブリグズビー・ベア』ネタバレ・結末の記載がございます。『ブリグズビー・ベア』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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「ブリグズビー・ベア」も映画づくりも奪われ、ジェームズは生きた屍のように、生気もなく、毎日を過ごしていました。しかし、ある日、この施設を出ていくことを決意します。

椅子を投げつけ窓を割って、飛び出すというごくごく正攻法のやり方で。

その頃、家では、オーブリーが楽しげに生き生きと映画製作をしているジェームズの様子をとらえた映像を両親にみせていました。

両親は自分たちが間違っていたことに気が付きます。

ジェームズが家に戻ってきて、荷物を持ってまた出ていこうとした時、父親がガレージを開けました。そこには「ブリグズビー・ベア」制作に使われた小道具が揃っていました。

「私が考えたリストより、こっちを家族でやろう!」と父は言い、「今のままの君を愛している」とジェームズに告げるのでした。

制作は順調に進み、あと一歩という頃、ジェームズは偽の父親との面会に向かいました。彼と彼の妻は誘拐の罪を認めていました。

ジェームズは父親に「ブリグズビー・ベア」の映画を作っていることを語り、あとひとつ、どうしても足りないものがある。あのナレーションだよ、と言って、シナリオを見せるのでした。

「お前が書いたのか」と偽の父親は感心しながら、差し出されたマイクに向かって、長年続けていた名調子で、脚本を読み上げ始めました。

映画はついに完成し、映画館で上映されることになりました。当日のチケットは全て売り切れ。大勢の人々が映画が始まるのを今か今かと楽しみにしていました。

スペンサーはジェームズの姿が見えないのに気付き、ロビーに彼を探しに出ました。

ジェームズは泣いていました。「もし、不評だったら?」

「他人の評価なんてどうでもいいのさ。君はやりとげたんだ」とスペンサーは微笑みました。

上映は大成功。ジェームズがそっと客席を覗くと、観客は彼をスタンディングオベーションで迎えました。

ステージの上にはブリグズビー・ベアが立っていましたが、ふっと消えていなくなりました。拍手はまだ続いていました。

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映画『ブリグズビー・ベア』の感想と評価


© 2017 Sony Pictures Classics. All Rights Reserved.
*この「感想と評価」は、映画のラストに触れています。感想をお読みになる際はご自身の判断でお読みください。

手作り感のある映画ってどうしてこんなに心躍るのでしょうか?

映画を作る映画というだけで、面白いに決まっているのに、それがまた、工作の愉しさに溢れ、工夫と創意に満ちた内容で、これが楽しくないわけがありません!

映画内映画をじっくり見せてくれるのも嬉しい!

一方で、この作品には社会の闇も潜んでいて、失われた25年という重たい歳月がのしかかります。

がらっと人生が変わってしまったら、人はどう生きていけばいいのか? 周りの人間はどうアシストすれがよいのか!? 

そんなシリアスな主題を含みつつ、映画は立ち止まらず、疾走し続けます。

主人公のジェームズの『ブリグズビー・ベア』への一途な思いが様々な人を巻き込んでいくのですが、とりわけ、彼を最初に尋問した刑事が素晴らしい!

かつて少しばかり演劇をかじっていた彼は、その時の情熱を思い出し、ノリノリになってジェームズの映画の俳優を務めるのです。水を得た魚のように。

さらに、マーク・ハミル演じる偽の父親が、ジェームズに請われて、ナレーションを担当することになるのですが、その第一声に、思わずうなった人も多いのではないでしょうか。

こちらは、もう職人芸のようで(そりゃあ、25年もやっていたわけですから!)、倫理観念を吹き飛ばしてしまうほどのパワーに、すっかり心を持っていかれました。

とても独創的で意表をつく設定であるにもかかわらず、ここには普遍的な人間の成長と、親の役割の問題が描かれています。

親の価値観の押しつけよりも、子供の好きなことを思いっきりやらせてあげようよ、というメッセージを観ていて勝手に感じてしまいました。

杓子定規な常識なんて(映画ではクレア・デインズ扮するカウンセラーがその象徴として登場しています)人をスポイルするだけではないか!と。

ラストは映画が完成しただけでなく、彼が人生の新たなステップを登ったことを示唆しています。

人に与えられるだけだったものの続きを自ら作り、その評価を畏れ、作りものでない本物の他者と触れ合う。

それはまさしく社会とのつながりそのもの。

そういう意味で、これはスティーヴン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』(2018)にも通じる部分があります。

もっともあちらは華やかなラストで、こちらはそれに比べると実にささやか。でも、それだからこそ、作品に流れる暖かさと優しさが、クローズアップされ、私達の心を満たしてくれるのです。

まとめ


© 2017 Sony Pictures Classics. All Rights Reserved.

主人公のジェームズを演じるカイル・ムーニーは共同脚本も担当しています。

その風貌と佇まいが、青春学園映画の隠れた傑作として名高い『ナポレオン・ダイナマイト』(2004/ジャレッド・ヘス監督)の主人公を思い出させます。

カイルは『サタデー・ナイト・ライブ』で大活躍し、YouTubeチャンネルが大人気のコメディユニット〈GOOD NEIGHBOR〉のメンバーとして知られています。

監督のデイヴ・マッカリー、共同脚本のケヴィン・コステロとは中学の同級生の幼馴染なのだそう。

『俺たちポップスター』で制作・監督・脚本・出演を務めたコメデイトリオ[ザ・ロンリー・アイランド]に才能を見出され、さらに『レゴ®ムービー』のフィル・ロード、クリス・ミラーの協力という強い味方も得て、映画は見事に完成。

ほぼ新人と言って良い彼らと、作品の中で映画を撮るジェイムズが重なって見えるような気がしました。

好きなことに一生懸命になること、好きなことを人と分かち合うことの愉しさ、そうした事柄を全肯定する素直さと勇気に拍手を送りたいと思います。

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