20歳の若さでウィンブルドンで初優勝を果たし、その後4連覇を達成したテニスプレーヤー、ビヨン・ボルグ。
天才的な才能を持ちながら、審判に噛み付く気性の粗さから「悪童」と呼ばれたジョン・マッケンロー。
2人の天才が激突した、伝説の試合を描く映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』は2018年8月31日から全国公開中。
壮絶な人間ドラマを描いた、本作をご紹介します。
映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』の作品情報
【公開】
2018年8月31日(スウェーデン・デンマーク・フィンランド合作映画)
【原題】
Borg/McEnroe
【監督】
ヤヌス・メッツ
【脚本】
ロンニ・サンダール
【キャスト】
スベリル・グドナソン、シャイア・ラブーフ、ステラン・スカルスガルド、ツバ・ノボトニー、レオ・ボルグ
【作品概要】
1980年のウィンブルドン決勝戦、5連覇に挑んだビヨン・ボルグと、5連覇を阻止するべく挑んだジョン・マッケンロー。
「氷の男VS悪童」の3時間55分に及ぶ試合を中心に、2人の壮絶な過去を描いた人間ドラマ。
ビヨン・ボルグ役は『ドラゴン・タトゥーの女』シリーズ最新作『蜘蛛の巣を払う女』への出演で注目されているスベリル・グドナソン。
ジョン・マッケンロー役は『トランスフォーマー』シリーズのシャイア・ラブーフ。
映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』あらすじ
1980年、テニス世界ランキング1位のビヨン・ボルグは、24歳にしてテニスの聖地ウィンブルドンで4連覇を果たし、その端正なルックスから、常にファンやマスコミに追いかけられる、落ち着かない毎日を送っていました。
ウィンブルドン5連覇という、歴史的な快挙を前にプレッシャーを感じ、精神的な疲労からスランプに陥っていました。
一方、ボルグのライバルとして注目されている世界ランク2位のジョン・マッケンローは、審判や観客に暴言を吐く事から「アル・カポネ以来の、最悪のアメリカの顔」と呼ばれ、激しいバッシングを受けていました。
テレビに出演したマッケンローは、テニスではなくボルグの事ばかりを質問され、うんざりした様子を見せます。
ウィンブルドンに到着したボルグは、乗り込む車や宿泊するホテル、タオルの枚数に至るまで、全て同じ事にこだわり、就寝前に、ガットを張り直したラケット50本を、全てチェックする事をルーティーンとしている「精密機械」「氷の男」と呼ばれていました。
ボルグの全てを把握しているのはコーチのレナートだけで、ボルグは「皆が僕の負ける姿を期待している」と悲観的になっていました。
ボルグは少年時代、気性の荒い性格をしており「紳士のスポーツ」と呼ばれている、テニスには不向きと判断され、いくつものテニススクールを退会させられていました。
ですが、ボルグの才能に目を付けたスウェーデン代表の監督レナートは、気性の荒いボルグを辛抱強く指導し、現在もボルグと共に歩んでいます。
ウィンブルドン男子シングルス1回戦、調子が上がらないボルグは、ノーシードの選手に苦戦を強いられます。
ボルグの試合をホテルで見ていたマッケンローは、テニス選手で友人のピーターに誘われ食事に行きます。
レストランでは、苦戦しながらも1回戦を突破したボルグのインタビューがテレビで流れており、マッケンローは「何度も彼のようになろうとした」と呟きます。
その直後、マッケンローは友人に誘われピーターを置いてクラブに行きます。
そこで、マッケンローはボルグが「精密機械」と呼ばれる理由を聞かされます。
次の日の2回戦、ボルグはホテルのテレビでマッケンローの試合を見ていました。
試合環境や審判、観客全てに暴言を吐くマッケンローに「彼は、ああやって精神を安定させている」と分析、ボルグにとってマッケンローは、かつての自分を見ているようでした。
2回戦の試合に挑むために、控室で準備をしているボルグの前に、試合を終えたマッケンローが暴言を吐きながら入って来ます。
マッケンローは、ボルグに気づきますが、お互い無言で視線を合わせるだけでした。
ボルグは2回戦を勝ち抜き、3回戦に挑みますが、試合途中で雨が降り試合が中断します。
自身のテンポを狂わされたボルグは苛立ち、試合を中止するように求めます。
ですが、雨が止んだ為、試合の続行が決まり、ボルグは苛立ちを抱えたまま試合に挑みます。
3回戦を勝利し、ホテルに戻る車中でボルグのストレスは爆発し、その場でレナートにクビを宣告、ホテルに戻った後も妻のマリアナと口論になり、マリアナが出て行き1人になった部屋で、ボルグは塞ぎ込みます。
映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』感想と評価
1980年のウィンブルドンで、実際に行われた試合を、ボルグとマッケンローの現在と過去を絡め、重厚な人間ドラマとして描いています。
対照的な2人と思われたボルグとマッケンローですが、少年時代のボルグは感情的で、逆に少年時代のマッケンローは神経質、ただ、ボルグは機械的なルーティーンで「氷の男」を作り上げ、マッケンローは暴言を吐く事で精神を安定させる「悪童」となりました。
「試合に負けると全てを失う」という恐怖を抱きながら、テニスに「氷の男」と「悪童」として試合に挑み続けた2人は、対照的どころか、同じ人間であった事が分かります。
常人では理解できない「孤独」に苦しみ続けた2人は、激しい決勝戦を通して分かり合い、実際にその後は親友になっています。
作品全体を通して、ドキュメンタリー映画のような乾いたタッチで、ドラマチックな演出は無く淡々と進んでいきますが、だからこその緊迫感が生まれ、決勝戦では一瞬も目が離せない展開となります。
ヤヌス・メッツ監督は、臨場感を出す為にハンディカムやステディカムを使用して撮影しました。
この決勝戦のシーンだけでも、この作品の面白さを堪能でき、本当に観賞後に満足できる作品となっています。
まとめ
この作品の成功は、ボルグ役のスベリル・グドナソンとマッケンロー役のシャイア・ラブーフが行った、徹底的な役作りにあります。
スベリル・グドナソンは当初、ボルグを演じる自信がありませんでしたが、ボルグの内面を徹底的にリサーチし「有名である事に上手く対処できない」という共通点を見つけ、「運が味方すれば上手くいく」と考えました。
また、これまでテニスをやった事が無かったスベリルは、食事制限と毎日2時間のテニス特訓を行い、半年間かけて肉体改造を行いました。
結果的に、見た目もボルグに似せる事を成功させ、高い評価を受けています。
マッケンロー役のシャイア・ラブーフは、海兵隊役を演じた後で、体がガッチリしていた為、野菜食を中心にした減量を行いながら、テニスの猛特訓を受けました。
シャイア・ラブーフは、問題発言や奇怪な行動が多く、お騒がせ報道でマスコミに注目される辺りが、マッケンローとの共通点を感じます。
シャイアはマッケンローを、故意的に暴言を吐いたり暴れたりする事で、場に緊張感を与えていた「戦略家」と考えており、「ずっと誤解されていた」と信じていました。
シャイアは、この作品の脚本を読んだ際に「僕の中にあることを表現してくれる映画」と感じました。
ヤヌス・メッツ監督は、2人を別々にトレーニングさせて顔を合わせないようにし、実際のボルグとマッケンローの距離感を表現しており、この2人の距離感が、作品に緊迫感を与える事に成功しています。
テニス界の伝説の試合を繰り広げた、2人の天才を徹底的な役作りと演出で描いた、見応えのある作品『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』は、2018年8月31日から全国公開中です。