世界最高峰のテノール歌手であるアンドレア・ボチェッリの愛と半生。
2019年11月15日(金)より、新宿ピカデリーほかにて全国ロードショーされる映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』。
現在活躍するクラシック・アーティストの中でトータルCDセールスNo.1を誇る世界最高峰のテノール歌手アンドレア・ボチェッリ。
彼の自伝を、『イル・ポスティーノ』(1994)のマイケル・ラドフォード監督とアンナ・パヴィニャーノの脚本で映画化したのが本作『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』です。
ボチェッリこと主人公“アモス”を支えた、周囲の温かな人物たちの愛と、ボチェッリ自身の歌声が太陽の如く降り注ぎました。
本記事では映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』の感想や見どころについてご紹介していきます。
CONTENTS
映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』の作品情報
【日本公開】
2019年(イタリア映画)
【原題】
The Music of Silence
【原案】
アンドレア・ボチェッリ「The Music of Silence」
【監督】
マイケル・ラドフォード
【脚本】
アンナ・パヴィニャーノ、マイケル・ラドフォード
【キャスト】
トビー・セバスチャン、アントニオ・バンデラス、ルイーザ・ラニエリ、ジョルディ・モリャ、エンニオ・ファンタスティキーニ、ナディール・カゼッリ、アレッサンドロ・スペルドゥーティ
【作品概要】
ボチェッリ自ら執筆した自伝的小説「The Music of Silence」を『イル・ポスティーノ』(1994)のマイケル・ラドフォード監督が映画化。
ボチェッリの役どころであるアモスに、人気のTVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」でその頭角を顕した新鋭のトビー・セバスチャンを起用。
アモスを指導するマエストロ役にペドロ・アルモドバル監督に見出され『デスペラード』(1995)で世界のトップスターに上り詰めたアントニオ・バンデラスを配しました。
映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』のあらすじ
イタリア・トスカーナ地方の小さな村。ワイン醸造を営む夫婦に、待望の男の子が生まれました。
アモスと名付けられたその子は、生後5カ月になっても泣きやむことが無く、両親は病院に連れていきます。
そこで、アモスは緑内障による視覚障がいがあると判明。
弱視に悩まされていながらも明るく過ごすアモスは、寄宿学校で天性の歌声を開花させました。
しかし12歳の時、学校の授業中にサッカーボールが顔に当たり持病が悪化、失明してしまいます。
不自由な暮らしに鬱憤を抑えきれず両親を困らせるアモス。
そんな彼を見かねたジョヴァン二叔父さん(エンニオ・ファンタスティキーニ)が、アモスを歌のコンクールに連れ出します。
その美しい歌声が評価され、コンクールで見事優勝。アモスは歌手になることを決意します。
ですが、すぐに声変わりが始まり、高音が出ず、今までのように歌えなくなってしまいました。
それを機に歌手を諦め、青年になったアモス(トビー・セバスチャン)は父を安心させようと弁護士を目指しながら、バーでピアノ演奏のアルバイトを始めます。
バーでオペラ『椿姫』の“乾杯の歌”を歌ったことがきっかけで、歌う喜びを取り戻したアモス。
そして、知人に紹介された、数々の有名オペラ歌手を育てたスペイン人の歌唱指導者、マエストロ(アントニオ・バンデラス)との出会いがアモスの人生を一変させていきます。
映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』の感想と評価
ふたりの名優の大きな懐
本作はボチェッリが自ら執筆した自伝的小説「The Music of Silence」を基に映画化されました。
ボチェッリの鏡である主人公の名前は“アモス”。これはボチェッリにとって理想の名前だそう。実際彼は息子に“アモス”と名付けています。
主人公が別人の名前を持ったことで、本作はボチェッリの半生を俯瞰しながら、映画的なリズムで描くことに成功しています。
挫折を繰り返しながらも、わずかな光に向かって進み続けたアモス。
本作は、挫折の部分はしっかりと描きながらもウェットにならず、カラッとした明るさがあります。
それは彼自身の前向きさと、彼を支えた周囲の温かさによるもの。
中でもエンニオ・ファンタスティキーニが演じたジョヴァンニ叔父さん、アントニオ・バンデラスが演じたマエストロのふたりが本作の要となっています。
父母はアモスへの深い愛情がありながらも、ハンディを背負わせてしまった罪悪感ゆえに、彼との接し方にぎこちなさがあります。アモスは両親の庇護から早く抜け出したいと望み、彼らには素直に甘える事ができません。
そんなアモスも、ジョヴァンニ叔父さんとマエストロには全面の信頼を預けられるのです。
いつでもユーモアを忘れないジョヴァンニ叔父さんは、アモスのハンディを気にせず、彼の才能を信じ続けています。
アモスをこき下ろした批評家にジョヴァンニ叔父さんが取った言動には、だれもが拍手したくなるはず。
演じたエンニオ・ファンタスティキーニはイタリアを代表する名優でしたが、2018年12月に急性骨髄性白血病のため63歳で死去。
ジョヴァンニ叔父さんのおおらかな笑顔が胸に残ります。
また、マエストロを演じたスペイン出身のスター、アントニオ・バンデラス。
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)『デスペラード』(1995)『マスク・オブ・ゾロ』(1998)と、ハリウッドデビュー後のラテン系セクシー俳優といった印象の強い彼ですが、元来はペドロ・アルモドバル作に登場する繊細なキャラクターを多く演じていました。
本作では、その力強さと繊細さを内包し、渋みを増した演技を味わえます。マエストロがアモスを指導する場面は、不思議なユーモアに溢れていました。
短い時間ですが、バンデラスの歌声も本作で披露されます。
魂を震わせる歌声
参考映像:セントラルパークでのライブ『椿姫』より“乾杯の歌”
歌声と言えば、青年期以降の歌唱シーンは全てボチェッリ本人の吹き替えによるもの。
1996年に世界中で大ヒットした「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」をはじめ「アヴェ・マリア」「誰も寝てはならぬ(トゥーランドットより)」などが歌われます。
中でも、バーの喧騒の中で歌い始める“乾杯の歌”と、マエストロに見守られながら歌うレコーディングの場面は圧巻。
例えオペラに興味がなくとも、彼の歌声は聴く者全ての魂を震わせてくれます。
ぜひとも音響設備の整った劇場の空間で味わって頂きたいです。
アモスを演じたトビー・セバスチャンも、ミステリアスな魅力と類まれな音楽の才能を持ちながらも、波に乗ることができないアモスの焦燥感を体現。
ボチッェリの歌声とも違和感なくシンクロしていました。
まとめ
参考:アンドレア・ボチェッリのフェイスブック
原題は「The Music of Silence」。その意味は本編の中で明かされます。
一度は神の存在を疑ったアモスが、自分の中の“沈黙”を信じ、才能が大きく花開く瞬間をぜひスクリーンで見届けて下さい。
マイケル・ラドフォード監督は、存命の人物の伝記映画を作るにあたって、「私生活のリズムと映画で描くべきリズムは別物」であり「本当のことを偽るのではなくて映画的にする」と語っています。
まさにボチェッリが“アモス”という名に託した思いが、本作で具現化されたと言えるでしょう。
映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』は2019年11月15日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて順次公開。
何かを志す人間にとって希望となる作品です。