NYタイムズ紙がベストセラーに選んだ
胸打つ衝撃の実話を映画化!
今もなお、アメリカ中西部、南部に残る同性愛矯正施設。同性愛を克服するため施設に入れられた少年の体験と、本当の愛とは?
ルーカス・ヘッジズ主演、ジョエル・エドガートン監督第二作となる映画『ある少年の告白』をご紹介します。
映画『ある少年の告白』の作品情報
【公開】
2019年公開(アメリカ映画)
【原題】
Boy Erased
【監督】
ジョエル・エドガートン
【キャスト】
ルーカス・ヘッジズ、ニコール・キッドマン、ラッセル・クロウ、ジョエル・エドガートン、フリー、ジョー・アルウィン、グザビエ・ドラン、トロイ・シヴァン、デヴィッド・ジョセフ・クレイグ、チェリー・ジョーンズ、セオドア・ペレリン
【作品概要】
監督デビュー作『ザ・ギフト』(2015)が話題になったジョエル・エドガートンの監督第2作目。
若手実力派俳優ルーカス・ヘッジズが主演を務めた実話を元にしたヒューマンドラマ。
2016年に発表され全米で大きな反響を呼んだ実話をもとに描きます。
映画『ある少年の告白』のあらすじとネタバレ
バプティスト教会の牧師であるマーシャルは礼拝で誇らしげに語りました。「私には美しく思いやりのある妻と、素直で誠実な息子がいる。この恵みに感謝します」
マーシャルと妻・ナンシー、一人息子ジャレッドの生活は幸せに満ちたものでしたが、ある日、一変します。
ジャレッドが通う大学から匿名の電話がかかってきたのです。
高校時代から女性に興味が持てないと感じていたジャレッドは大学に入って、自分は同性に惹かれることを自覚し始めていました。
入学時に親しくなり、いつもジョギングを一緒にする友人ヘンリーに仄かな想いを持つジャレッド。
しかしある日、ルームメイトの旅行中に、ジャレッドはヘンリーに突然乱暴されてしまいます。
泣いて謝るヘンリーでしたが、彼は教会の少年にも手を出していることを告白し、ばらさないようにと半ば脅しをかけてきました。
ショックのあまり、家に戻ったジャレッドでしたが、そのことがどこからかバレて、何者かが家に電話してきたのです。
父は、別の教会の牧師と、以前同じような経験をしたことがあるという友人を家に呼び、何やら相談をしていました。
彼らの出した結論は、同性愛的嗜好を取り除くための救済プログラムにジャレッドを参加させるというものでした。
母の運転する車に乗り、何時間もかけてようやく施設に到着したジャレッドを、早速係員が施設内に連れていきました。
ナンシーは「見学させてもらえますか?」と尋ねますが、「本人のみです。迎えは5時です」と事務的な返事が返ってきただけでした。
12日間のプログラム中、ジャレッドは母と共に近くのホテルに泊まり、ここに通うことになっています。
白いシャツを着た若者たちが、集まっていました。
皆、同性愛のことを家族に咎められ、この施設にやってきた人たちでした。彼らは、禁止事項を読み上げさせられていました。
曰く、喫煙、飲酒、入所者同士の接触、日記を書くことなどすべて禁止。トイレに行くのすら係員と一緒でなくてはなりません。
ここで行われたことは決して口外しないようにと釘を刺されます。
ヴィクター・サイクスという男がやってきて、青年たちを見渡し言いました。「生まれつきの同性愛者などというものはいない。それは君たちが選んだものの結果なのだ。生まれつきのフットボール選手がいないとの同じだ」
「できるまで”フリ“をしろ!」とサイクスは叫び、青年たちに男らしくするよう何度も何度もその言葉を繰り返しました。
同性愛の傾向にあることは改められると信じ、ジャレッドは素直にプログラムに取り組み始めました。
家系図をかかされ、問題のある人を探し出したり、”心の精算“という自分自身の問題行動を皆に告白して懺悔する時間が設けられたり、と毎日同じようなプログラムが繰り返されていきました。
映画『ある少年の告白』の感想と評価
原題が『Boy Erased』とあるように、これは人格を否定され、取り除かれようとした少年の物語です。
息子が同性愛者であることを認められない牧師の父は、息子を矯正施設に送ります。
まだ十代の、未熟な少年は、自身も同性愛の傾向にあることに戸惑っており、親の言いなりになって、同性愛は矯正できると信じ、真剣にプログラムに取り組もうとします。
しかし、彼にとって、キリスト教の清廉な場所であったはずの施設は次第にカルト的なものへと変容していきます。彼が戸惑い悩む様子がリアルに描かれています。
彼が体験するこの不安な感覚は、ジョエル・エドガートンの処女監督作『ザ・ギフト』と似た雰囲気を持っています。
参考映像:ジョエル・エドガートン監督作品『ザ・ギフト』(2015)
『ザ・ギフト』(2015)では、幸福な人生を送っている夫婦に突如近づいてきた謎の男をジョエル・エドガートンが演じていましたが、『ある少年の告白』では、施設の責任者サイクスをジョエル・エドガートンが演じているのです。
彼の嗜虐的なふるまいは、子どもたちを追い詰めていき、ついには自死まで出してしまいます。
本作は、ガラルド・コンリーが実際に体験した回想録を原作としていて、こうした矯正施設の実態をあぶり出すことが映画の一つのテーマとなっています。
驚くべきことに、同性愛をキリスト教の信仰によって克服させようとするセラピーは、エンドロールで示されるように、現在も南部や中西部で行われています。
セラピーを強いられたため、鬱やトラウマをもたらされたり、自殺に及んだ人も少なくないといいます。
映画はそうした事柄を告発する一方、聖書原理主義のキリスト教が持つ根深い問題にも焦点をあてています。
さらに親と子、とりわけ、父親と息子の関係性がこの映画のもう一つの大きなテーマとなっています。
この親子の場合、同性愛への父親の偏見、誤解というだけでなく、父親の職業が確執に大きく関わっています。
成長した少年は未だにわかり会えない父に向かって、「自分の保身をした」と非難の声を浴びせていますが、父親が牧師という身分、尊敬される職業についている自分を守りたかったのは確かでしょう。
このあと父親は彼を理解する努力をすると約束し、物語は一筋の光明を描いて終わります。
苦悩の果てに、それでも我が子を愛している父の姿が浮かび上がり、ほっとさせられますが、このシーンが感動的なのは、寧ろ、あれほど自信がなく戸惑っていた青年が、自分をきっちりとみつめ、はっきりと父親に対して物事が言えるように成長した姿をみせていることです。
人が一つの大きな殻をやぶった様子が描かれており、その姿は実に感動的です。
それは、また、息子が助けを求めてきた時に、きちんと自分の意志で息子を救い出し、夫の言葉にはむかい息子を守り通した母親の姿にも言えます。
夫に付き従う良き妻を盲目的に演じていたこの女性が、子供のために、その大きな殻を突き破る姿は壮快でさえあります。
「恥を知りなさい!」と声を荒げた女性は、そのあと、疑問を持ちつつも夫に黙って従った自分自身を恥じます。
この女性の懸命さが息子を守り成長させたのです。『ある少年の告白』が感動的なのは、まさにこの殻を破ることが出来る人間への想いに満ちているからなのです。
偏見や差別に対して、人は変わることが出来るのだという可能性を映画は見ているのです。
まとめ
ジャレッドを演じるのは、若手実力派俳優として活躍しているルーカス・ヘッジズ。『レディ・バード』(2017/グレタ・ガーウィグ)でも 同性愛である自分に戸惑う高校生を演じていました。
母親をニコール・キッドマン、父親をラッセル・クロウという、最近益々精力的に活動しているベテラン俳優が演じ、複雑な家族関係を見事に表現しています。
施設に通う少年に、YouTuber、ミュージシャンとしても有名なトロイ・シヴァンが扮していますが、アイスランドのロックバンド、シガー・ロスのヴォーカリスト兼ギタリスト、ヨンシーとともに、本作の主題歌「Revilation」も担当するなど、多才ぶりを発揮しています。
カナダの著名な映画監督グザビエ・ドランが出演しているのにも注目です。
監督兼出演のジョエル・エドガートンは、監督第一作『ザ・ギフト』(2015)では子供時代のいじめの問題に切り込んでいました。
さらに主演した映画『ラビング 愛という名前のふたり』(2016/ジェフ・ニコルズ)では黒人女性と結婚したために異人種間の結婚が法律で禁止されていたバージニア州を追い出されながらも、生得権のために州裁判所に判決を棄却するよう訴える物静かな白人男性を演じていました。
今回の作品といい、作品選びに確かなポリシーを感じさせます。