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Entry 2018/09/11
Update

映画『1987、ある闘いの真実』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

  • Writer :
  • 西川ちょり

1987年.翌年にオリンピック開催を控える韓国で、拷問により一人の大学生が死んだ…。

国民が独裁国家と闘った韓国民主化闘争の実話を映画化!

韓国映画『1987、ある闘いの真実』をご紹介します。

映画『1987、ある闘いの真実』の作品情報


(C)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

【公開】
2018年(韓国映画)

【原題】
1987: When the Day Comes

【監督】
チャン・ジュナン

【キャスト】
キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン、キム・テリ、ソル・ギョング、パク・ヒスン、イ・ヒジュン、カン・ドンウォン、ヨ・ジング

【作品概要】
1987年 1月、全斗煥大統領による軍事政権下の韓国。警察に連行されたソウル大学の学生が取調べ中に命を落としてしまう。

隠蔽しようとする権力側に反旗を翻す検事、事実を報道しようとする新聞記者たちにより、事件は徐々に国民の知るところとなり、韓国全土を巻き込む民主化闘争へと発展していく。

チャン・ジュナン監督が、1987年の民主化抗争を豪華キャストで正面から描いた社会派ドラマの大傑作。第54回百想芸術大賞4部門受賞。

映画『1987、ある闘いの真実』のあらすじとネタバレ


(C)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

1987年1月14日。全斗煥大統領による軍事政権下の韓国。

南営洞(ナミョンドン)・対共分室に一台の救急車が到着しました。

医師が通された場所には裸の男性が横たわっており既に死亡していました。しかし、刑事のチョ・ハンギョンは「生き返らせろ」と命じ、医師は強心剤を打つなど、懸命に蘇生させようとしますが、かないません。

知らせを受けたパク所長は今夜中に火葬を行うよう命令します。

パク所長の部下からサインをしてくれと手渡された火葬同意書を見て、ソウル地検公安部長のチェ検事は不信に思います。「父親は対面済みなのか?」亡くなったのはソウル大学の学生パク・ジョンチョルでした。

警察の拷問により死亡したに違いないと判断したチェ検事は押印を拒否。上から脅しに似た圧力をかけられますが、法律で定められた通り解剖を行ってから火葬すると決定します。

「パク所長に楯突いて生き残ったものはいないぞ」と嘆く上司に「だからこそきちんとやるんです」とチェ検事は告げるのでした。

翌朝、ハンニャン大学病院に呼び出されたジョンチョルの家族は、霊安室に飾られた息子の遺影を見て、驚愕し、悲鳴を上げました。

チェ検事を慕う後輩検事は、ネタ探しに回ってきた中央日報の記者にソウル大生の死をさりげなくリークし、それは記事となって新聞に掲載されます。

中央日報の編集部には「報道指針」を破ったと軍人がやってきて、暴力を奮っていました。編集長は記事を書いた記者にしばらく身を隠すよう告げます。

新聞のスクープを受けて、治安本部のカン本部長は会見を開き、拷問はなかったと発表。パク所長は「机を叩くとウっと倒れた」というふざけた説明を平然と言ってのけました。

「医者のお墨付きですから」というカン本部長の言葉に、東亜日報の記者、ユン・サンサムは医師の名前を質問。本部長がオ・ユンサン医師の名前を出した途端、記者たちは席を立ち、出ていきました。

「まずかったな」と呟くカン本部長の横で、パク所長は部下に指令を飛ばします。

詰めかけた記者たちに医師は。現場は南営洞・対共分室で、遺体は濡れていたと説明。

なおも突っ込んで質問する記者の中に刑事が紛れ込んでおり、刑事は背広をめくって銃を医師に見せました。医師は途端にしどろもどろになり、記者たちもそれ以上追求することができなくなってしまいました。

ジョンチョルの司法解剖が始まろうとしていましたが、刑事たちがやってきて、医師や付添いの検事らを妨害。また、ジョンチョルの家族は外に引きずり出されてしまいます。

チェ検事は、パク所長に電話し、「対共なら何をやってもいいのか!」と怒鳴りつけます。

パク所長と対面したチェ検事は身内が『NEWS WEEK』のアメリカ人記者と結婚したことを告げ、来年開催するソウルオリンピックにケチをつけたくないでしょ?と迫ります。

「好きに噛つけ。どうせ何も変わらん」とパク所長は応えるのでした。

サンサム記者は他の記者が去ったあとも病院のトイレに隠れて残り、トイレにやってきた医師をつかまえて、診察時、床が水浸しだったこと、肺からは水疱音が出ていたことを聞き出します。

水攻めによる拷問致死であると確信したサンサム記者は編集長に訴え、編集長は決断します。「拷問根絶キャンペーンをはるぞ! 真実を書け!」

司法解剖が行われ、一人立ち会いを認められたジョンチョルの叔父は記者たちに向かって「警察が殺しました!」と泣き叫び、騒然となります。

ジョンチョルの遺体はすぐに火葬に付されます。軍隊が出動し、記者たちは取材を拒まれます。

家族の手によって、遺灰は川にまかれましたが、氷の上に積もってしまいます。父親は冷たい川の中に入り、「ここにいちゃだめだ。ちゃんと行っておくれ」と遺灰を水に流してやるのでした。

解剖した医師は「拷問による窒息死」と結論づけますが、カン本部長は「心臓麻痺」と書けと迫ります。しかし、医師は拒否します。

それでもカン本部長は、会見で「暴力行為は一切なかった」と発表。

公安部職を解かれたチェ検事のもとにサンサム記者がやってきます。チェ検事はわざと資料を記者の目にとまる場所に置いて立ち去りました。

それは解剖報告が書かれた資料でした。

翌朝、東亜日報はソウル大生の死が拷問致死であることを一面で扱い、世間を騒然とさせます。全斗煥大統領による長年の軍事政権への不満が、怒りへと変わっていく瞬間でした。

拷問致死の罪状でチョン・ハンギョンとカン・ジンギュという二人の刑事が治安本部に逮捕されました。世間の批判をかわすため、大統領府が命令したのです。

拷問に関わった5人の刑事のうち、逮捕された二人は実際の関わりが少なく、理不尽だと抗議しますが、パク所長は拷問致死を過失致死に変更させてやるからと言い、納得させます。

彼らは永登浦(ヨンドゥボ)刑務所に収監されました。ここには1986年5月の「仁川事態」で逮捕された東亜新聞の記者イ・ブヨンも収監されていました。

看守のハン・ビョンヨンは密かに民主化運動に身を投じ、刑務所で得た情報をこの記者に文章にしてもらい、それを民主化活動家のキム・ジョンナムに渡すという役目を担っていました。

しかし、街では大きな通りのあちこちに警察が立って検問しており、ビョンヨンはいつも呼び止められてしまうため、危険の多い役目でした。

彼は父親代わりとして可愛がっている姪のヨニにしばしば使いを頼んでいました。ヨニは叔父がこのような行動をしていることをよく思っていませんでした。叔父の身に危険が及ぶのではないかと恐れていたのです。

今度が最後だという条件で、ヨニは寺に潜伏しているキム・ジョンナムに文章が仕込まれた雑誌を渡しました。

キム・ジョンナムは、同じ活動家のハム神父に「我々に残された武器は真実だけです。拷問した人物、関与した人物、全ての名前を明らかにします。その真実が現政権を倒すのです」と決意を語るのでした。

収監されているカン・ジンギュの家族が面会にやってきました。父親は「お前をこんな鬼畜に育てた覚えはないぞ」と怒りをぶつけました。

カン・ジンギュは涙ながらに「悔しいよ。こんなの理不尽だ。僕は応援を頼まれて、足を持っただけで殺していない」と訴えます。

それを聞いて、彼の家族も記録をつける保安係長のアン・ユも仰天の表情を浮かべました。そこに刑事たちがなだれ込んできて、カン・ジンギュは連れて行かれました。

現場にいたパク係長はアン・ユがつけていた記録を破り、「今後一切記録はつけるな」と恫喝しました。

ヨニは大学の友人と初めての合コンに出向くため、街の中心街にやってきました。ところが、そこで学生のデモが急遽はじまりました。

関係ないと帰ろうとしたヨニでしたが、催涙弾が打ち込まれ、人々が右往左往する中、警察は学生を捕まえ、殴る蹴るの暴行を加え始めました。

ヨニも警官に追われ、逃げ惑っていると、一人の男性が彼女のもとに駆け寄り、彼女を救ってくれました。イ・ハニョルという大学生でした。

ヨニは大学で、イ・ハニョルが所属している漫画サークルの上映会に誘われ、参加しますが、そこで上映されたのは光州事件のドキュメンタリーでした。

次々と人々が倒れる映像を目にしてヨニは部屋を飛び出してしまいます。

後日、訪ねてきたイ・ハニョルに、「デモなんてしても何も変わらない。その日なんてこないわ! 目を覚ますことね」と言いますが、彼は「僕だってそうしたい。でも……できないんだ。とても胸が痛くて」と応えるのでした。

その頃、担当刑事に取り調べを受けていたチョン・ハンギョンが「どうせ過失致死なんだから、簡単にすませましょう」と言うと、刑事は怒鳴り出しました。

「過失? 何言ってるんだ。拷問致死で取り調べているんだ。ちゃんと供述しないのなら15年ぶち込むぞ!」

罪状変更はなされていなかったのです。チョン・ハンギョンは漸く自分が尻尾切りにあったことを悟るのでした。

パク所長は上司に罪状変更を願い出ますが、やっと世間を納得させたのに今更無理だと断られます。

彼は、捕まった二人に一億円が振り込まれた通帳を見せますが、チョン・ハンギョンは「これで10年我慢しろと?もう何も信じません。何が愛国だ! とっとと出してください」と抗議します。

パク所長は彼の妻と娘を川に沈めよう、脱南したことにすればよい。何度もやっただろう?と脅し、彼を黙らせました。

アン・ユ係長は、「規則を守ってください!」とパク所長に抗議しますが、部下に暴行されてしまいます。

パク所長のもとに大統領の側近から「閣下はキム・ジョンナムの逮捕を望んでおられる」と電話がかかってきます。民主化運動家の彼が実は北のスパイだったということにすれば、国民は大人しくなるだろうと。

脱北者で、共産思想を憎むパク所長もキム・ジョンナム逮捕は念願の事案でした。「我々に楯突くものは全てアカだ!全力を上げて逮捕しろ」と命じるのでした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『1987、ある闘いの真実』ネタバレ・結末の記載がございます。『1987、ある闘いの真実』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
4月13日、全斗煥大統領は護憲措置を宣言。自信の任期終了に伴う大統領選を直接選挙でなく間接選挙で行うと発表します。

国民が自ら選ぶ直接選挙ではなく、5000人の選挙人で選ぶ間接制で実施となれば、全斗煥の息のかかった者を大統領に指名し、院政を図る気だ、と学生たちや市民は嘆きます。

パク所長はこれまで逮捕した政治犯を釈放するよう命じました。彼らは必ずキム・ジョンナムと接触を図るだろう、という意図です。

永登浦刑務所ではイ・ブヨンに面会の声がかかりました。彼が赴くとそこにいたのは係長のアン・ユでした。彼は記憶に基づいて書いたという面会記録をイ・ブヨンに渡します。「私ができるのはここまでだ」。

ハン・ビョンヨンは明朝までに仕上げてください、とイ・ブヨンに紙を渡すのでした。面会記録を見て驚いたイ・ブヨンは懸命に書き始めました。

ハン・ビョンヨンは書き上がったものを届けに寺に向かいますが、検問で呼び止められます。法務部の公務員です、と身分証明書を出して、なんとか通してもらうことできました。

ちょうどその頃、釈放した政治犯が寺に向かったことをパク所長の部下たちが突き止めます。ソウル大生を拷問死させた三人の刑事は現場に向かい、自分たちの失態を取り戻すため、署に連絡を入れず、単独で捜査しますが、キム・ジョンナムは僧侶にまぎれて姿を消し、見つけることができませんでした。

寺に行っていたハン・ビョンヨンも、肝心のものをキム・ジョンナムに渡すことができませんでした。

パク所長は部下の失態に怒り心頭で、パク係長を何度も蹴り倒していました。

その時、一人の刑事が、寺の中に、見知った顔があったことを思い出します。あれは永登浦刑務所の看守だった・・・。

ハン・ビョンヨンは、ヨニに雑誌を届けてくれるように頼みますが、ヨニは断ります。彼女の父は、正しいと思うことをして友人に裏切られ、酒に溺れて交通事故で亡くなっていました。叔父が行っている活動にもヨニは懐疑的でした。

そこへ、警察が乗り込んできて、ハン・ビョンヨンは逮捕されてしまいます。彼はソウル大生が亡くなった部屋で拷問を受け、キム・ジョンナムの居場所を吐くよう迫られますが、固く口を閉ざしていました。

彼の姉とヨニは建物の前で抗議しますが、警察に車に連れ込まれ、見知らぬ場所で捨て去られました。

ヨニは公衆電話でイ・ハニョルに電話し、雨の中、彼はタクシーに乗ってかけつけてくれました。

なかなか吐かないハン・ビョンヨンに業を煮やしたパク所長はハン・ビョンヨンと面会し、北朝鮮に居た頃の自身の辛い体験を話し始めました。

父親が幼い頃に拾って育ててやった男が裏切り、ある日、家に人民部隊を連れて来たと。極悪地主だと訴えられ、床下に隠れていた彼以外の家族は皆殺しにあってしまったのです。

「家族が死に行くのをただ見ているしかない、それが本当の地獄だ」そう言うと、彼は、ハン・ビョンヨンの前に彼の姉と姪が映っている写真を置くのでした。

ヨニは引き出しの中に、叔父に頼まれた雑誌が入っているのに気づきます。「ヒャンリム教会にキム先生がいる」という手紙がそえられていました。

ヨニは教会に雑誌を届けました。「おじさんを拷問から助けて」というヨニに、キム・ジョンナムは「信じてくれてありがとう」と礼を述べるのでした。

彼は受け取ったものをすぐにハム神父に手渡し、神父はキム・スンフン神父のもとに届けるため、すぐに車を出しました。

それと入れ替わるように、ハン・ビョンヨンから居場所を聞き出した警察がやってきました。教会の人々は、キム・ジョンナムを屋根裏に逃しますが、警察もあとを追っていきます。

窓から外に出たキム・ジョンナムは屋根の上に落ち、その音を聞きつけた刑事たちが探しますが、みつかりません。

彼は屋根からぶら下がって身を隠したのです。しかし、体勢を崩し、その姿を室内のステンドグラス越しにパク所長に目撃されてしまいます。

ちょうどその時、パク所長に至急、治安本部室に来るよう呼び出しがかかりました。キム・ジョナムは九死に一生を得ます。

5月18日のちょうどその時間、光州抗争7周年ミサにてカトリック正義具現司祭団のキム・スンフン神父が、拷問致死事件の犯人の全ての名前と隠蔽工作の真相を明らかにし、出席していたマスコミは、驚いて、記事を書くために飛び出していきます。

こうして、パク・ジョンチョル拷問致死事件の全容が明らかとなったのです。

パク所長が治安本部室に到着するとそこには誰もいませんでした。「対策会議決定事項」と書かれた書類が置かれているのみでした。

そこには、現在収監されている二名に加え、三名の刑事、所長ら三名の処分が記載されていました。パク所長も逮捕されることとなりました。

全国で民主化を求める運動が激化していました。ハン・ビョンヨンの姉は弟からの電話を受け、漸く安堵を覚えました。

そんな矢先、店に届けられた新聞を見て、ヨニは愕然とします。そこにはイ・ハニョルが催涙弾を後頭部に受け重態だという記事が掲載されていたのです!

ヨニは、思わず走り出していました。教会の鐘がなり、自動車がクラクションを鳴らしていました。大勢の人々が街に出て抗議活動を行っていました。

これまでデモに参加してこなかった会社員や一般の人々も、皆、拳を振り上げていました。ヨニは走って、バスの上に登って抗議している人の中に加わっていました。

「護憲撤廃、独裁打倒!」と大きな声が地鳴りとなって響き渡り、街中に人が溢れていました。

映画『1987、ある闘いの真実』の感想と評価


(C)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

これまでも韓国映画はしばしば、現代史に焦点をあて、骨太の社会派エンターテイメントを制作してきましたが、本作『1987、ある闘いの真実』は決定版とも呼ぶべき重厚な作品に仕上がっています。

出演者も、キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン、キム・テリ、ソル・ギョング、パク・ヒスン、イ・ヒジュン、カン・ドンウォンら、錚々たる役者が名を連ねています。

オールスター映画といえば一般的には顔見世の意味合いが大きくカメオ出演の人も何人かいるのだろうなんて思っていたら大間違い。

一人一人が非常に重要な役を演じ、誰にも見せ場があり、だからこそ、この出演者でなければならなかったのだと納得させられました


(C)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

軍事政権による独裁・恐怖政治の中で、自身の仕事に真面目に取り組み、暴走や横暴を許すまじと振り絞った市井の人々の勇気が、まるでリレーのようにつながっていく。

もし、火葬許可のハンコを押す検事が彼でなかったなら、医師が脅しに負けて「心臓麻痺」と書き込んでいたら、記者が機転を聞かせて医師に直接取材をしなかったら、新聞社の編集長やその上の幹部が、政府のしめつけに怯えてスクープの掲載をとりやめていたら、学生たちが継続的にデモを繰り返していなかったなら…。

ちょっとした行き違いや偶然などで、簡単に切れてしまうだろう細い勇気の糸が、奇跡のようにつながっていく様がスピーディーな演出のもと、圧巻の迫力で展開していきます。

司法解剖を巡り、キム・ユンソクとハ・ジョンウが対峙する場面は、二人が共演したナ・ホンジン監督の『チェイサー』(2008)、『哀しき獣』(2010)を否が応でも思い出させ、韓国ノワールの雰囲気を極めてクールに醸し出していてゾクゾクさせられます。

また、ソル・ギョング扮する民主化運動家が、教会を上に、上に逃走する姿は、ヒッチコックの『めまい』の終盤を思わせ、その後の展開も、ヒッチコックタッチでハラハラさせられます。

とりわけ、キム・ユンソクがステンドグラスの向こうに、揺れているソル・ギョングの足を発見する場面のスリルとサスペンスといったら!

さらに、どんなに深刻で、恐ろしい物語でも、そこに笑いの要素が盛り込まれるのは韓国映画では珍しいことではありませんが、本作でもデモに巻き込まれたキム・テリ扮するヨニが、カン・ドンウォン扮する大学生に助けられ、さらに靴屋のおばさんに匿われるシーンで、大笑いさせられました。

このキム・テリ扮する女子大生は、デモなどの民主化運動に懐疑的です。多くの大学生がデモに参加する中、こうした学生も少なくなかったと思われます。

「デモなんかして何が変わるの?」とデモをする学生を冷ややかに眺めていた市民も少なくなかったでしょう。

1980年に起こった光州事件を描き、今年日本でも大ヒットした『タクシー運転手 約束は海を超えて』(2017)の主役であるソン・ガンホのキャラクターもまさにそのような人物でした。

韓国は住みやすい良い国だと肯定し、デモなどにうつつを抜かしおってと学生を非難の目で見ていました。映画はそんな彼が実際に光州に入り、信じられない光景を目にして、驚き、変わっていく姿を丹念に描いていました。

『1987、ある闘いの真実』では、その役割をキム・テリが担っています。彼女は決して軍事政権を肯定しているわけではありません。ですが、何をやっても変えることなどできないと諦めてしまっているのです。

そんな彼女が、ラストに見せる行動は、観るものの胸をうちます。一言も話さず、ただひたすら走っていく彼女を観ている私たちも、観ることで共に走るのです!

教会での攻防と、その後に続く、真相の暴露から、新たな犠牲者が出てしまう。そしてキム・テリを始め、これまで沈黙を守っていた人々がついに立ち上がり拳を振り上げる!

「護憲撤廃、独裁打倒!」への強い強い思いが沸点へと達するフィルムのエモーショナルな高まりに感極まらずにはいられませんでした。

『1987、ある闘いの真実』とてつもない傑作です!

まとめ


(C)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

『ファイ 悪魔に育てられた少年』(2013)などの作品で知られるチャン・ジュナン監督は朴槿恵(パク・クネ)政権真っ只中、秘密裏に本作の準備を進めていました。

政府の意にそぐわないコンテンツには弾圧が行われていたそうで、秘密裏に進めなければならなかったのです。

完成した映画は「崔順実(チェ・スンシル)ゲート」事件で朴槿恵が弾劾訴追された直後に公開されました。

「崔順実(チェ・スンシル)ゲート」事件は当初、朴槿恵自身もその周囲も逃げ切れると判断していたようです。野党に力がなかったからです。しかし、国民が逃げ切ることを許しませんでした。

これも市民、自らが、かつて民主主義を勝ち取ったという経験と誇りがものをいったのだと思います。映画で描かれた精神と重なって見えてきます。

朴槿恵政権が終わらず続いていたら、この映画も日の目をみず、制作陣には圧力がかけられたかもしれません。人々の勇気が映画と重なります。

日本に住む私たちこそ、今観るべき映画といえるでしょう。

それにしても韓国映画は、内容の重い、テーマのある社会派映画も、見事なエンターティンメントに仕上げてくるものが多く感心させられます。

毎回脱帽せずにはいられません。

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