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映画『新宿タイガー』あらすじと感想レビュー。ドキュメンタリーでお面を被った71歳の新聞配達屋さんに迫る

  • Writer :
  • 加賀谷健

みなさんは、“新宿タイガー”をご存知でしょうか。

いつでも虎のお面を付けた風変わりなスタイルで新宿の街中いたるところに出没します。

街頭で聞き込みをすると目撃情報は多数。それも映画館付近でよくみることがあるというのです。

一体、彼は何者なのでしょうか。

2019年3月22日公開の映画『新宿タイガー』は、そのタイガーマスクの下に隠された謎に果敢に迫っていくドキュメンタリーです。

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映画『新宿タイガー』の作品情報

©「新宿タイガー」の映画を作る会 

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
佐藤慶紀

【キャスト】
新宿タイガー、八嶋智人、渋川清彦、睡蓮みどり、井口昇、久保新二、石川ゆうや、里見瑤子、宮下今日子、外波山文明、速水今日子、しのはら実加、田代葉子、大上こうじ

【作品概要】
40年以上もの間、新宿の街でトラのお面を被って新聞配達を続けてきた“新宿タイガー”の生き様に迫るドキュメンタリー作品。

監督は南カリフォルニア大学で映画制作を学び、監督2作目『HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話』(2016)が釜山国際映画祭などに出品され注目を集めた佐藤慶紀。本作が初のドキュメンタリー作品です。

またナレーションは寺島しのぶが担当し、八嶋智人や渋川清彦ら豪華俳優の出演も見逃せません。

映画『新宿タイガー』のあらすじ

©「新宿タイガー」の映画を作る会 

東京は新宿。行き交う雑踏の中に、トラのお面を付け、派手な衣装を着た男性の姿があります。

その名も“新宿タイガー”。40年以上もこの恰好で新聞配達を続けています。

一体どうしてそんなことを続けているのか。その謎に迫るべくカメラが密着します。

タイガーの私生活は、「シネマと美女」に彩られています。

毎日、新聞配達後に映画を3本はしご。何よりの楽しみは美女と呑みに行くことです。

さらにタイガーと親交の深い新聞販売店やゴールデン街のバーの店主たちへのインタビューも挟まれ、人物像がどんどん浮き彫りにされていきます。

カメラの前ではいつも饒舌なタイガーですが、ルーツを尋ねられた時にはあまり多くを語ろうとしません。

それはどうやらこれまでの新宿が歩んできた歴史と深い関係があるようなのですが…。

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タイガーが走る新宿

©「新宿タイガー」の映画を作る会 

真っ昼間の新宿駅東口付近に“新宿タイガー”は突如現れます。

虎のお面に鮮やかな色彩の衣装。造花やぬいぐるみをぶら下げ、雑踏の中を縦横無尽に闊歩していきます。

行き交う人々のどんな好奇の目にさらされようとお構いなし。

重装備であるにも関わらずなぜか足取りは軽やか。しかも驚くほど新宿の街並にとけ込んでいるのです。

「タイガーの朝は早い」という寺島しのぶのナレーションが新宿タイガーを改めて画面に導きます。

早朝の5時に人影もまばらな通りを颯爽と自転車で駆け抜けるタイガーの姿は、まるで馬に跨がり風を切るジョン・ウェインさながらの勇猛さです。

すると今度は、路地裏に入って、何やら新聞紙の束を脇に抱えています。

それを素早い手つきで次々投函していく新宿タイガーは、実は“新聞配達員”だったのです。

彼が勤めているのは、朝日新聞新宿東ステーション。朝と夕方の新聞配達を毎日行っています。

この出で立ちですから、初めの頃は煙たがられたりもしたようですが、タイガーのひたむきさはいつしか公然のものとなりました。

朝日新聞では「タイガーが走る新宿」という連載記事が1年間にわたって掲載され、新宿の隅から隅までを知り尽くしたタイガーはまさに新宿のアイコンを担う存在なのです。

シネマと美女とロマンと夢

©「新宿タイガー」の映画を作る会

これまで多くのメディアが新宿タイガーを取り上げています。

タワーレコード新宿店は、2012年のリニューアルオープン時にイメージポスターのメインキャラクターに起用。

韓国の有名女性メディアのライターは、新宿のカルチャーとともに歩み続けるタイガーを“最後のロマンティスト”と評しています。

御年71歳の新宿タイガーには日課があります。

朝・夕の新聞配達で6時間駆け回ってからが本番。カフェで軽食を取り、仮眠を済ませた後、必ず向かうのが映画館。

映画館付近での出没が多いのは、日に3本は軽くはしごしてしまうほどの映画好きだからです。

大好きな高倉健が熱唱する「唐獅子牡丹」のテーマが流れるラジカセを抱えて、新宿ピカデリーへ突入していく姿は清々しく壮観です。

映画は“美女”で見るものと話すタイガーは、矢継ぎ早に「心のヒロイン」たちを挙げていきます。

「世界のミューズ」マリリン・モンロー、「世界の美女」エリザベス・テーラー、「永遠の妖精」オードリー・ヘップバーン、そして、「愛に生きた」イングリッド・バーグマン。

生涯の1本はヘップバーンの『ローマの休日』(1953)です。

「映画は人生のすべて、トラもすべて、映画なくしてトラなし、トラなくして人生なし」

映画の話になるとタイガーの饒舌はもう止まりません。

そんなタイガーにとって酒席を彩る現実の美女も欠かせない存在です。

めずらしく花束を片手に池袋芸術劇場へ入っていったかと思えば、お目当ては20年来の付き合いだという女優の宮下今日子。

彼女の出演舞台を観劇後、早速2人で新宿の飲み屋に入ります。するとタイガーはカメラを気にすることなくマスクを外してしまうのです。

やはり大好きな美女を前にすれば紳士的に振る舞うのが流儀。

再会を祝してお酒が進む2人。そこへ宮下の夫である俳優の八嶋智人が飛び入り参加し、宴はさらに盛り上がります。

とにかく美女をほめ殺しにしていくタイガーですが、実際その交友関係の広さには驚かされます。

続く夜は、またまた女優の睡蓮みどりとの酒席。「ビューティー・オブ・ビューティー」とのカラオケにタイガーは夢見心地です。

タイガーが紳士的なのは美女たちとの一夜にそれ以上を求めないところでしょう。

一時の“夢”をみさせてくれた今宵のビューティーに感謝しつつ、その余韻に浸りながらゆらりゆらりと1人路地をゆくタイガー。

その孤独な姿こそ、権力や金には一切興味のない男の“ロマン”というものです。

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新宿タイガーのルーツ

©「新宿タイガー」の映画を作る会

タイガーが“タイガーになった”のは、一体いつのことなのでしょうか。それは45年前のことでした。

1972年、当時24歳だった彼(本名:原田吉郎)は歌舞伎町にある稲荷鬼王神社の露店でトラのお面を見つけ、何かを直感し、それをまとめ買いしたのだと言います。

以来今日まで“新宿タイガー”として生きてきたんです。

カメラの前でのタイガーは自分のことになると多くを語ろうとしません

そこで、関係者に事実関係の確認をとると、新宿の歴史とともタイガーも歩んできたことが分かりました。

特に昭和40年代の新宿の自由さを象徴する「新宿メディアポリス宣言」の条文はそのままタイガーの生き様を説明してくれる重要な手がかりになります。

1970年代の若者の1人としてタイガーも自由と理想を追い求めていたはずです。

彼らの多くが無政府主義的なイデオロギーを掲げていた中で、タイガーは“愛と平和”を叫んでいたと当時の学生仲間が証言しています。

その時タイガーは自由と理想がイデオロギー化することを避けるため、自分自身を活用したパフォーマティブな訴えに出ることになるでしょう。

現在のスタイルは、月日が経つごとに、それが補強・強化されていったものと考えられます。

しかし重要なのは、カメラの前で自身のルーツを語ることを拒むその頑な態度です。

彼は理由付けや意味付けすることによってイデオロギー化されるのを本能的に回避しています。

「理屈じゃなく直感、理性ではなく感性」と何度も繰り返すタイガーの理想主義は、他の若者がそうだったように「浅間山荘事件」の衝撃によっても決して潰えることはありませんでした。

行きつけのバー、シネストークのオーナー田代葉子さんの言葉が沁み入るようです。

「時代はかわるけど、切れてるわけじゃない」

常に理想を求める心を失わない新宿タイガーの“ファンタジー”は、新宿の歴史ととも膨らみ続けてきたのです。

ラブ&ピースを届ける配達人

©「新宿タイガー」の映画を作る会

いたるところにラブ&ピース”というのがタイガーのライフワークでもあります。

本作ではいたるところで印象的な笑顔をみせています。

生涯の1本である『ローマの休日』が映るスクリーンに照らされたタイガーの表情の素晴らしさは、それをじっと見守るこちら側をも幸せな気分にさせてくれます。

街に繰り出せば、出逢う人すべてに「ありがとう、ありがとう」と言って気さくな笑顔をふりまき続けるタイガー。

最近では、タイガーと一緒に写真をとると幸せになれるという噂があるほどです。

「権力と国家とは無縁、それは昔も今も変わらない」

「地球が好き」

愛と平和の化身が夢想するファンタジーは規格外の規模です。彼はもしかすると“宇宙人”なのかもしれません。

まとめ

©「新宿タイガー」の映画を作る会

本作は全編絶えずタイガーの強烈な個性が推進力となっています。

とにかく人柄のよさが滲み出ているキャラクター性が、ビジュアル以上に人々の興味を引いてやまないのです。

被写体の魅力がこれほどまでの存在感をもって迫ってくるドキュメンタリー映画を他に知りません。

とは言え、「好きに理由はない」と終始語るタイガーの人生は謎に包まれたままのようです。

しかしそうした人物像が多くの観客の“想像力”を刺激するのであり、これはやはり恰好の映画的キャラクターだと言えるでしょう。

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