今はなき伝説の映画館、酒田グリーン・ハウスが世界一と言われた所以とは?
山形県酒田市に、映画評論家の淀川長治が世界一の映画館と称した「グリーン・ハウス」がありました。
その映画館の存在は、酒田市の市民にとって憧れであり、かけがえのない場所でした。しかし、1976年に起きた酒田大火により映画館は焼け落ちてしまいます。
40年の時を経て、グリーン・ハウスを愛した人々の証言で、伝説の映画館が紐解かれていきます。
何を持って伝説なのか?人々に愛された映画館の魅力とは?映画にかけた支配人の想いとは?映画『世界一と言われた映画館』を紹介します。
映画『世界一と言われた映画館』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【監督】
佐藤広一
【語り】
大杉漣
【キャスト】
井山計一、土井寿信、佐藤良広、加藤永子、太田敬治、近藤千恵子、山崎英子、白崎映美、仲川秀樹
【作品概要】
山形県酒田市に存在した映画館「グリーン・ハウス」についての証言を集めたドキュメンタリー映画。グリーン・ハウスが伝説と呼ばれた所以を探ります。
山形国際ドキュメンタリー映画祭の短編作品として製作された本作は、山形県出身の佐藤広一監督が自ら構成・撮影も務めました。
ナレーションは、2018年急逝した大杉漣が担当しています。映画人として生きた彼の映画館に対する愛情も感じられる、深みのあるナレーションに注目です。
映画『世界一と言われた映画館』のあらすじとネタバレ
1976年(昭和51年)10月。それはそれは、街道沿いの柳の木が抜けるほどの強風の日でした。
喫茶ケルンの店主・井山計一さんは、当時の事を語ります。「最初は煙が見えて、火が見えても消防も来ない。どこだと思って見たら、グリーン・ハウスだった。あっという間にすごい音でシャッターが潰れてね」。
消失家屋1774棟、死者1名、負傷者1003名という甚大な被害をもたらした酒田大火です。
元消防士・土井寿信さんは、必ず消せると思っていたものが出来なかった悔しさを噛みしめます。あちこちと飛び回る火の粉。退路の確保もままならない状況で、それでも火に負けたくないと強く思った記憶がよみがえります。
グリーン・ハウスは全焼。火の原因は映写機の電気系統と言われたが、真相はわからないまま負の記憶として市民の心に残ることになります。
「消防士の訓練生の頃、グリーン・ハウスで映画『タワーリング・インフェルノ』を見ました。ビルの火災に奮闘する映画の主人公の姿に、僕も消防士として頑張ろうと決意した映画でした。2回見ましたよ。」
消防士としての決意を固めたきっかけの映画館グリーン・ハウスが、大火の火元になったことは何かの因果関係かと複雑な心境を語ります。
酒田大火以降、グリーン・ハウスの話題はどこかタブーとされていました。しかし、グリーン・ハウスは市民の憧れであり、愛された映画館でした。当時を知る人々が証言をしていきます。
ホテルのような回転扉を開けると、コーヒーの香りが漂い、蝶ネクタイ姿のバーテンのいる喫茶スペースが見える。
フロントでチケットを受け取り、夢の劇場に足を運べば、グリーンのビロードの壁に、ヨーロッパ風の彫刻が浮かび上がり、スクリーンと客席の間にある生花の花壇から華やかな香りがしてきます。まさに、グリーン・ハウス。
劇場の2階には、少人数のシネサロンがあり、コーヒーを飲みながら、すでに公開されている名作の数々を楽しめます。
映画評論家の淀川長治が、雑誌のコラムで心に残る映画館としてグリーン・ハウスを紹介、世界一の映画館と称したことで、全国的に有名になりました。
映画『世界一と言われた映画館』の感想と評価
山形県酒田市は、「西の堺、東の酒田」と称されたほど栄えた商人の町で、その歴史ある街並みは、映画『おくりびと』のロケ地としても有名です。
そんな酒田市を襲った1976年の酒田大火。大火の火元となった映画館「グリーン・ハウス」でしたが、今回当時を知る人々の証言で、とても愛されていたことが伺えます。
モダンでオシャレな映画館グリーン・ハウス。そこは、市民の憧れの場所であり、夢を与えてくれる場所でした。
またグリーン・ハウスが皆に愛された理由は、佐藤久一支配人の人柄にもあったように思います。
王道の映画作品だけではなく、自分が良いと思った作品を多くの人に見てもらいたい。そして、最高の空間で映画を楽しんで欲しいと願う支配人の想いが、皆に愛される映画館を作り上げたのでしょう。
1985年5月発行の「グリーン・イヤーズ」300回記念号には、佐藤久一支配人の挨拶が掲載されています。
「生きることの悩み、苦しみ、悲しみ、そして喜びなどの一切の縮図が映画館の中で繰り広げられる。みんなが倖せになるための種子を摘みとっていただければ私達の喜びはこれに過ぎるものはない」と、記されたあいさつ文からは、映画への愛とお客様への想いが伝わってきます。
そしてこの文の締めには「緑館支配人 佐藤久一」と記されています。グリーン・ハウスを緑館とするユーモア。久一自身が、粋でモダンなオシャレ人、皆に愛される人物だったことでしょう。
地域に愛され、多くの人に夢を与えた、世界一と言われた映画館「グリーン・ハウス」。こんな映画館で一度は映画を見てみたかった。そう思わずにはいられません。
まとめ
山形県酒田市に存在し、1976年の酒田大火で焼失した、伝説の映画館「グリーン・ハウス」。
当時の様子を知る人々の証言を集めたドキュメンタリー映画『世界一と言われた映画館』を紹介しました。
映画評論家・淀川長治がグリーン・ハウスを「世界一の映画館」と称した所以が、明らかになります。
モダンでオシャレな映画館は、市民にとって憧れの場所であり、世界に誇れるものでした。
グリーン・ハウスという優雅な空間で、映画を観るという行為が、人々にとって最高のステータスとなっていた時代。
現代はスマートフォンやタブレットなど、自宅や出先で気軽に映画を楽しめる時代になりました。
それでも映画館に足を運ぶ理由。それは、大きなスクリーンで迫力ある映像を楽しみたいということはもちろんですが、映画館という空間でひと時でも日常を忘れ、映画の世界に没頭したいからではないでしょうか。
映画館とは特別感があり、居心地がよく、夢の世界であり続けて欲しいものです。