ドキュメンタリー映画『空中茶室を夢みた男』は2019年10月26日(土)より、シアターイメージフォーラムにてロードショー!
“松花堂弁当”の名の由来になった、高僧にして文化人である松花堂昭乗。日本を代表する武家茶道、“遠州流茶道”の流祖である大名茶人の小堀遠州。
江戸時代初期の寛永文化を代表する2人が、京都・石清水八幡宮に作ったという空中茶室“閑雲軒”の姿を、様々な研究を紹介しながら映画は探し求めます。
華やかな桃山文化、元禄文化に挟まれた期間、京都を中心に武家や公家などの文化人を中心に興隆し、後の日本文化に大きな影響を与えている寛永文化。
映画はその時代を代表する風流人が、文化の伝統と新たな創出に情熱を注いだ姿を、改めて令和の世に紹介しています。
CONTENTS
映画『空中茶室を夢みた男』の作品情報
【公開】
2019年10月26日(土)(日本映画)
【監督・製作・企画】
田中千世子
【出演】
鈴木弥生、富山紋、柴田一佐衛門、松崎照明、小森俊寛、垣内忠、堀尾道寛、橋本政宣、立川寸志(ナレーション)、小堀宗実(遠州茶道宗家十三世家元)
【作品概要】
江戸時代初期に、松花堂昭乗と小堀遠州という粋人によって作られた、空中茶室をめぐるドキュメンタリー映画。
映画は空中茶室“閑雲軒”の姿を甦らせるだけでなく、寛永文化を築いた文化人の足跡、京都の石清水八幡宮の歴史、現在の松花堂庭園の姿を紹介していきます。
監督は「熊野から」3部作を発表した田中千世子。映画評論家としても活躍する彼女が、京都・八幡を巡り美しい風景を描きながら、埋もれた歴史を紐解く映画を作りました。
映画『空中茶室を夢みた男』のあらすじ
京都・八幡市にある石清水八幡宮。明治以前は神仏習合の護国寺を持つ“宮寺”でした。江戸時代初期、そこに社僧として仕えた人物が、当代随一の文化人と謳われた松花堂昭乗です。
茶の道を究めた松花堂昭乗は、石清水八幡宮の男山に“閑雲軒”と呼ばれる茶室を作ります。崖にせり出して作られた茶室は、清水寺本堂のような、掛けづくりの構造で作られていました。
松花堂昭乗は“閑雲軒”を作るにあたり、築城・建築・作庭に才能を発揮した大名茶人である友人、小堀遠州の協力を得ています。小堀遠州はその多才な活躍から、現在は“日本のレオナルド・ダ・ビンチ”と評されている人物です。
映画は残された資料と現地の遺跡調査から、消失した“閑雲軒”の当時の姿を探っていきます。それは松花堂昭乗と小堀遠州の足跡や、その人柄に触れる旅路へとなります。
また2人に想いをはせる現代の人々の姿と石清水八幡宮、松花堂庭園・美術館の美しい姿もあわせて紹介されます。
空中茶室をめぐる記憶の旅は、現代を生きる我々の心に何をもたらすのか。
映画『空中茶室を夢みた男』の感想と評価
江戸初期の文化人ネットワークを紹介した作品
掛けづくりという形式で、石清水八幡宮に作られた茶室“閑雲軒”。映画は様々な資料と証言から、その姿の再現を試みます。
この空中庭園を作ったのが、書の達人であり“寛永の三筆”の1人と讃えられた松花堂昭乗。石清水八幡宮の社僧で絵画にも秀で、そして茶の道を究めた文化人でした。
彼の空中茶室作りに協力したのが、大名茶人であった小堀遠州。徳川将軍家の茶道指南役を務め、今日重んじられている、季節感やおもてなしの精神を茶道に取り入れた人物です。
遠州の美意識は「綺麗さび」と称されますが、その感覚は茶道だけでなく、築城や造営などの分野にも発揮されています。
難しい話が続きましたが、コミック『へうげもの』に登場した人物と紹介すれば、理解しやすく感じる方もいるのではないでしょうか。小堀遠州は古田織部に心酔する弟子として登場し、後に徳川将軍家に仕えた事で、織部との関係に苦慮する人物として登場します。
この2人と交流した人物として、書や茶道の達人江月宗玩など、映画は寛永の時代に登場した様々な文化人たちを紹介していきます。
空中茶室から寛永に生きた人々を紹介
空中茶室“閑雲軒”を、現存する資料の研究や、現地の遺跡調査を通じて甦らせるだけでも興味深い作品ですが、映画は“閑雲軒”を軸に当時の人々とその交流を紹介していきます。
1615年に大阪夏の陣で豊臣氏が滅び、徳川幕府の支配が安定すると共に、朝廷と幕府の交流も盛んになります。すると公家・武家の文化人がその橋渡しとして活躍し始めます。
茶会は単に茶を楽しむものでなく、政治や経済を語る場となり、同時に心のスキンシップの場として大きな存在になっていきます。
茶会の場では身分は分けへだて無く、と言いますが、実際に高貴な方を招いた時には、その場をスムーズに進行する為にも、「おもてなし」「おもいやり」を感じさせる振る舞いが必要となります。
この新時代の茶会の形式の完成に、松花堂昭乗と小堀遠州の人脈が大きな役割を果たします。映画は空中茶室の紹介から、転じて当時の文化人の素顔について語りはじめます。
松花堂昭乗と小堀遠州、そして江月宗玩はその交流を通じ、茶道・書道・絵画の分野を大いに高めていきました。その影響は脈々と日本文化に息づいています。
小堀遠州が京都・伏見奉行であった時、松花堂昭乗は彼と江月宗玩、そして武家・公家の客人と共に招いた茶会を何度も催します。
こうして形成された”文化サロン”は、徳川幕府と朝廷の絆を深めただけでなく、武家と公家の文化を融合した、桃山文化と異なる新たな“寛永文化”を生み出しました。
小堀遠州が江戸詰めになると、頻繁に手紙をやり取りした松花堂昭乗。そして江月宗玩と吉野への旅にでますが、その時は自らを西行法師のなぞらえていたのでしょうか。
その翌年、病で没した松花堂昭乗。小堀遠州は大いに悲しんだと伝えられています。
松花堂昭乗と小堀遠州に魅せられた人々
そして映画は、当時に想いをはせる様々な人々を紹介していきます。
空中茶室に魅せられた研究者、小堀遠州が完成した茶道を守り伝える人々。謎多き松花堂昭乗の生涯の研究に身を捧げる方と、様々な人物が登場します。
明治維新の際の神仏分離令で、石清水八幡宮から松花堂昭乗の”松花堂”など、多くの僧房が取り除かれ、多くの仏教関係の資料が散逸した事実も紹介されます。日本の近代化の影で、多くの文化的遺産が失われました。
しかし石清水八幡宮の程近くに、大正期に建てられた松花堂昭乗の菩提寺・泰勝寺や、八幡市によって建てられた松花堂庭園・美術館が、今も彼の業績を忍ばせています。
そこに集まった人々の姿を、美しい八幡市の名所の風景と共に、映画は紹介していくのです。
まとめ
『空中茶室を夢みた男』は空中茶室“閑雲軒”を切り口に、松花堂昭乗と小堀遠州ら寛永時代の文化人を、それに魅せられた人々を、石清水八幡宮と日本文化の歴史を、そして美しい風景を多層的に紹介するドキュメンタリー映画です。
これは田中千世子が「熊野から」3部作に使用した手法に通じるものがあります。
シリーズは第1作『熊野から』は、主人公2人が取材に訪れた熊野で、シナリオ無しに遭遇したものを描いていく、セミドキュメンタリー形式の映画です。
第2作『熊野から ロマネスク』は劇映画形式で描き、第3作『熊野から イントゥ・ザ・新宮』は、取材のために現地を訪れたという設定の2人の体験を、またも劇映画とドキュメンタリー映画を融合させて描きます。
参考映像:『熊野から イントゥ・ザ・新宮』予告編(2018)
訪れた現場で遭遇した、様々な出来事を映画の中に取り込んでゆく田中千世子。
そのスタイルはドキュメンタリー映画である『空中茶室を夢みた男』では、時空を越えた人々のつながりを発見する旅路として、完成されています。
ところで誰もが知る、“松花堂弁当”の名の由来となった松花堂昭乗。この人物が茶会で出したお弁当が、元になった訳ではありません。
画家でもあった松花堂昭乗は、四角い箱に間仕切りを付けた、画材を入れた使い勝手の良い道具箱を愛用していました。
その道具箱にならって料理を収めた弁当が、”松花堂弁当”の名で呼ばれるようになったのです。今はコンビニやスーパーで見るお弁当にも、寛永文化の影響が息づいているのですね。
ドキュメンタリー映画『空中茶室を夢みた男』は2019年10月26日(土)より、シアターイメージフォーラムにてロードショー!