煙草をくゆらせるように、
音楽をくゆらせる人。
音楽活動50周年を迎えた細野晴臣の半生を描いたドキュメンタリー映画。
幼い頃の音楽との出会いから、「はっぴいえんど」「YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)」などのバンド活動、そして近年行われたワールドツアーの模様まで、細野晴臣の音楽活動の軌跡が詰まっています。
様々なジャンルを取り入れ、常に変化し続ける細野晴臣。いつまでも音楽を自由に楽しみ、新しいものに心躍らせる姿が、本当に素敵です。
ワールドツアー・ロンドン公演で、5年振りにYMOメンバーが同じステージに立った貴重な映像も収録された『NO SMOKING』。魅力をたっぷり紹介します。
映画『NO SMOKING』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本)
【監督】
佐渡岳利
【キャスト】
細野晴臣、バン・ダイク・パークス、小山田圭吾、坂本龍一、高橋幸宏、マック・デマルコ、水原希子、水原佑果、宮沢りえ
【作品概要】
音楽活動50周年を迎えた細野晴臣の、活動の軌跡とルーツに迫ったドキュメンタリー映画。
細野自身のインタビューはもちろん、交流のあるミュージシャンとのライブ映像、そして普段のリラックスした姿まで、細野晴臣の魅力が詰まった映画です。
監督は、「WE ARE Perfume WORLD TOUR 3rd DOCUMENT」など、音楽を中心にエンターテイメント番組を手掛ける、NHKエンタープライズ・エグゼクティブプロデューサーの佐渡岳利。
ナレーションは、細野晴臣との共演ライブが本編にも収録されている、星野源が務めています。
映画『NO SMOKING』のあらすじとネタバレ
専用飛行機からダグラス・マッカーサーがコーンパイプを咥え、階段を降りてきました。初めて、日本に降り立りたった瞬間です。
第二次世界大戦後の日本、1948年に細野晴臣は生まれます。戦後の傷痕が残る中、ほんとに戦後に生まれて良かった、戦争に行かなくて良いんだと噛みしめていたと言います。
洋楽好きでハイカラだった母の影響で、家でSP版を聞いたりピアノを習ったりと、音楽が身近にありました。お気に入りは「Sing Sing Sing」。太鼓のレコードと呼んでいました。
近所に住んでいた叔母は、パラマウントに勤務しているキャリアウーマンで、映画のサウンドトラックをよく聞かせてくれました。ボブ・ホープ、「Good Morning Mr.Echo」もそのひとつでした。
祖父はと言うと、1912年、氷山に衝突し沈没したあのタイタニック号に乗っていた唯一の日本人生存者だというから驚きです。
父は、フレッド・アステアのようなダンサーに憧れる陽気な人でした。父から受け継いだギャグは、今でも細野の十八番になっています。
時代は、ザ・ベンチャーズ、ザ・ビーチボーイズの流行の頃です。周りの音楽をやっている者は、エレキギターを買い出します。細野もインストコピーをしていました。ボブ・ディランの、モダンフォークにも影響も受けました。
運命が動き出した大学時代。音楽にどっぷりの日々に、出会ったのが大滝詠一です。大滝詠一は、部屋に入ってくるなり挨拶もせず、ヤング・ブラッズの「Get Together」のレコードを見つけ「あっ、ゲット・トゥゲザーだ」と、反応したそうです。
「こいつ、出来るな」。細野が大滝に感じた第一印象でした。
そして、文学青年だった松本隆、大学で一緒にバンドをしていた鈴木茂も加わり、のちの「はっぴいえんど」の結成となりました。
松本の車で、大滝の故郷の岩手まで旅をしながら構想を練りました。レコードで育った青年たちは、レコーディング作業が楽しくて仕方がありません。
売れようとか有名になろうとか考えずに、日本語とウエストコーストのサウンドの組み合わせに挑戦していきます。こうして名盤「風街ろまん」が生まれました。
その後、海外でのレコーディングを経験し、細野はまた新しい音楽の可能性に出会います。
プレイヤーとしての面白さに目覚めた細野は、狭山のアメリカ村に家を借り、曲作りへと没頭していきます。ソロファーストアルバム「HOSONO HOUSE」が完成しました。
映画『NO SMOKING』の感想と評価
「はっぴいえんど」「YMO」の活動を始め、日本の音楽史に残る素晴らしい曲を残してきた細野晴臣。
音楽活動50周年を記念したドキュメンタリー映画『NO SMOKING』は、そんな細野晴臣のこれまでの音楽活動の軌跡や、プライベートの素顔、そしてワールドツアーライブの様子までが詰まった、見ごたえある映画となっています。
これまで影響を受けてきた音楽や当時のヒット曲と共に、彼自身が語るエピソードは、とても新鮮でワクワクしました。
幼い頃の音楽体験、仲間との出会い、音楽に対するマインド、今の細野晴臣のルーツが語られています。
中でも「はっぴいえんど」の話は、印象的でした。私が「はっぴいえんど」を知ったのは解散後でしたが、その楽曲の素晴らしさに感動したのを覚えています。
特に、アルバム「風街ろまん」に収録されている「風をあつめて」はお気に入りで、今でも聞き返す時があるほどです。聞く年齢によって、心に響いてくるものが違って、毎回新鮮な気持ちになれます。
本編では、「はっぴいえんど」結成時のエピソードとして、同じ音楽が好きな仲間が集まって、1台の車で旅をしながら、セールスを気にせず音楽主義で作り上げたという話が語られています。
何にも縛られず、好きな音楽を追求した「はっぴいえんど」の魅力に、改めて気付かされました。
細野晴臣は、変化を恐れず、時代時代で新しい音楽を柔軟に取り入れ、独自の音楽を追求してきた、日本の音楽界のパイオニア的存在です。
そのスピリットは、後輩アーティストにも受け継がれています。本作でナレーションをしている星野源もそのひとりです。
以前から細野の音楽に影響を受けていると公言していた星野源。本編にも、2016年に横浜で行われた「細野晴臣 A Night Chinatown」にゲスト参加した様子が入っています。
また、細野のライブグッズをデザインしたこともあるモデルの水原希子・佑果の姉妹との交流も微笑ましく映し出されています。
「私達は細野さんの追っかけです」と、ワールドツアーのステージに立つ水原姉妹。世代を超えた交流が素敵です。
また、ワールドツアーのライブ映像は本当に素敵です。NY公演では矢野顕子がピアノを担当。矢野のピアノとハイトーンの歌声が、細野の演奏と歌声に合わさって、ライブならではのアドリブ感がたまりません。
2018年のロンドン公演では5年振りにYMOメンバーが集結。高橋幸宏、坂本龍一がステージに上がると、客席は大盛り上がり。
時間を感じさせない即興ライブに、3人の絆が垣間見え、素敵なステージでした。「時間とか関係ないよね。ミュージシャンって会うと当時にすぐ戻れるんだ」。細野の言葉が重なります。
常にユーモアを持ち、自由で軽やか、そして才能あふれる細野の周りには、彼を慕って国内外の様々なアーティストやクリエイターたちが集まって来ます。
「はっぴいえんど」のアルバム製作で、ロスのレコーディングスタジオで出会った、名プロデューサー、ヴァン・ダイク・パークス。
細野のソロ曲「Honey Moon」をカバーし、同じステージにも立った、カナダ出身のシンガーソングライター、マック・デマルコ。
様々な人との交流を通して、新たな刺激を受け、自分の音楽を進化し続けてきた細野。誰にでも自然体に接する細野は、国境や年齢を超え、音楽を楽しんでいました。
作品を見終わった後は、魅力あふれるお茶目なおじさん、細野晴臣のファンになってしまうことでしょう。
まとめ
音楽活動50周年を迎えた細野晴臣のドキュメンタリー映画『NO SMOKING』を紹介しました。
「煙草の煙を見るとホッとするんだよね」。そう言いながら、煙をくゆらす細野晴臣。
音楽の世界を、煙をくゆらせるように、ゆらゆらと自由に、そして何よりも楽しそうに泳いでいます。
NO SMOKINGが広がる世界ではありますが、細野晴臣には煙草が似合いすぎます。