映画『The Biggest Little Farm』は、2019年トロント映画祭で最も評価を受けた作品!
『The Biggest Little Farm』は、元アニマルプラネットの映像作家ジョン・チェスターと妻・モリーが営む農場を8年に渡り記録したドキュメンタリー作品。
ロサンゼルスの北部に位置する「アプリコット・レーン・ファーム」は、2人が古式農法を実行し、劣化した土地を再生型有機農場へと蘇らせた自然と調和する究極のパラダイス。
オプラ・ウィンフリーの『スーパー・ソール・サンデー』でも取り上げられています。
全ての人に贈られた本作のテーマは命の連携です。
CONTENTS
映画『The Biggest Little Farm』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
The Biggest Little Farm
【監督】
ジョン・チェスター
【キャスト】
ジョン・チェスター、モリー・チェスター、アラン・ヨーク
【作品概要】
2018年サンダンス映画祭への出品を皮切りに、“アカデミー賞の前哨戦”と呼ばれるカナダのトロント映画祭第2日目に上映を果たして絶賛されました。
ハートランド映画祭やタコマ映画祭、そしてパームスプリングス国際映画祭等、11の映画祭においてドキュメンタリー部門の最優秀作品賞を受賞。
チェスター夫妻に農場のコンサルタントとして招かれた世界的に著名なバイオダイナミック農法の先駆者、故アラン・ヨーク氏が登場。
本作は、ジョン・チェスター氏のナレーションで展開されます。
映画『The Biggest Little Farm』のあらすじとネタバレ
2010年。ジョン・チェスターと妻・モリーはサンタモニカの小さなアパートに在住していました。ジョンは、世界中で野生の動物を撮影するカメラマン。
パーソナルシェフのモリーは、形が一定しないズッキーニを上手に料理。食の健康はどう栽培されたかで決まるというのが持論です。
‐僕がモリーと自然を壊さずに農場を始めたい意向を話すと、誰もが無謀だと言いました‐
‐もっと無謀だったのは、僕達が犬と交わした約束が全てのきっかけだったことです‐
行政が安楽死処分する200頭の犬をジョンが仕事で撮影。その中で、自分を見つめる1頭を、ジョンとモリーはトッドと名付けて引き取ります。
「何か楽しいことしてくれるの?」とモリーが話しかけると、トッドはお腹を見せて尻尾を振ります。
‐僕達の所がトッドにとって終の棲家、それがトッドにした約束でした‐
しかし、ジョンとモリーの留守中、トッドがずっと吠え続け、近所から苦情が出て問題になります。
夫婦はロサンゼルスで有名なトレーナーにトッドの躾を頼みますが上手く行かず、オレンジの香を含んだ水のスプレーを首輪に取り付け、トッドが吠える度に噴射するようにして置きました。
2人が帰宅するとアパートの中はオレンジの香りで充満。スプレー缶は空っぽです。
更に、犬の胴回りに巻くと落ち着かせると言うサポーターを購入。トッドに着せて夫婦は外出。しかし、戻って来ると、カーペットがぼろぼろにかじってありました。
遂に大家から退去通告を受けます。
モリーの夢“料理出来得る食材全部を育てる”を糸口に農場運営をリサーチ。資金が無い為、チェスター夫妻は家族や友人に声を掛けます。そこから輪が広がり、遂に2人の伝統的な古式農業に賛同する投資家が現れます。
『アプリコット・レーン・ファーム』の誕生です。ロサンゼルスの北に位置する200エーカーの打ち捨てられた馬の牧場跡地。トッドは嬉しそうに駆け回ります。
しかし、土地は荒れ果て鍬が立たない程土が固く乾いていました。モリーは世界的に有名な古式農業の専門家に相談。招かれたアラン・ヨーク氏はホリスティックで自然環境と調和するバイオダイナミック農法を提唱します。
「目標は、生態系を真似ること。自然は多様性の中で自ら統制している」
ジョンとモリーは井戸水で牧草地を灌漑しようとしますが、水はダダ漏れで大地を流れて行くだけ…。
夫婦は古木を切って堆肥作りに励み、貯蔵する為の施設を建設。しかし、年間予算は半年で使い切り、植えた作物はゼロ。
更に、広大な土地で人手が足りない為、モリーは人を募集。結果、世界中から古式農法を学びたいという若い男女が集まります。
改善した灌漑システムで大きな池を造ってナマズを放し、ミミズに土作りを手伝ってもらいます。
「植物がなければ土壌は肥沃にならない」ヨーク氏はそう話します。
動物達のする糞こそ黄金だと言うジョンは、ヨーク氏が説いた微生物の重要性ともう一点を紹介。
「農場は動物が居ないとダメ」
児童書で紹介されている全ての動物を次々に購入。100匹のアヒルの雛、羊、鶏、雄牛等が次々に加わり、最後に妊娠中の雌豚が農場の一員になります。
2年目。元々3種類の果樹を植えるつもりだったモリーですが、アプリコット・レーン・ファームに75種類の核果を植樹。「フルーツバスケット」とモリーは呼びます。
2人がエマと名付けた豚のお産が始まります。エマを手伝うジョンは、次々にエマが産む子豚を取り上げますが、途中で数が分からなくなったと笑顔のジョン。
元気な17匹の子豚が誕生。
夫婦にとって思いがけない突破口が開けます。鶏たちが産む新鮮な卵は、納品する先の店で列ができ、30分で12個入り50パックが完売。
そこで夫婦は更にひよこを購入。農地保全の為に被覆作物も導入。伸びる雑草を刈らずに、羊達に食べさせます。雑草を踏み倒して歩く羊達は、糞や尿を落として行きます。
「全ては大きな円状に回り、肥沃な土へ繋がるのです」とヨーク氏。
毛虫が植物の茎を這い、小枝にはさなぎが下がっています。少しずつ野生動物が戻り、農場は彼等にとっての生息地へと変貌。
ハチドリがホバリングしながら花に口ばしを入れて蜜を口に蓄え、自分の雛に与えます。
‐鍵は、農場が必要とする均衡であり、そのバランスを取るのが野生動物なのです。これは、アランが最初から勧めていたことでした‐
コヨーテがたくさんの鶏を殺してしまい、ジョンは電気柵を導入。
そんな頃、夫婦はヨーク氏が癌を患っているという辛い知らせを受けます。しかし、山積する新たな課題は待ってくれません。
コヨーテは柵を破り、鶏小屋に侵入。外へ逃げ出した鶏も併せ、その日30羽が殺されていました。更に、エマが高熱を出して寝たっきりに。
ジョンは本やインターネットで原因を知ろうと調べ、餌を作ってエマに与えようとしますが、熱が下がってもエマは食べようとしません。
小屋でエマを見守るジョン。
‐食べさせる方策を使い果たしていました。あとは、エマが生きたいのか決めること‐
体調の悪いエマから離しておいた子豚達を母親に再会させます。一斉に乳を飲む子豚達。
エマが嬉しそうだとジョンの声が弾みます。
柵の外でモリーも見守る中、エマが立ち上がり小屋の外へ歩いて餌を食べ始めます。
‐動物達と自然に絆が築かれます。命を救おうと心から思う動物がいつか食料になる。そのことをうまく受け入れられないでいました‐
3年目。ミツバチの群れが飛び回っています。農地へ移った頃に招いたミツバチの養生家は、自然に戻った理由が見渡せば分かると言い、最初に比べて500パーセント改善したとコメント。
‐3年目の春を迎えた農場は、真のパラダイスになっていました‐
モリーが植えたフルーツバスケットの木にたくさんの実が成っています。
‐なぜアランがこれを強く推奨していたのか今になって分かります‐
4年目。大繁殖したホリネズミが果実をかじり、モリーは仕方なく鶏の餌にします。
‐鶏に食べさせる為に果樹を世話しているようなもの‐
コヨーテの攻撃は止まらず、何か所も噛まれ苦しむ鶏を安楽死させる決断をするジョン。
コヨーテが農場にいるのを目撃したモリーが位置を教え、銃を持ったジョンが走り出します。
銃声が鳴り響く農場。目を開いたまま死んだコヨーテと同じ目をしていた以前のトッドの映像。
‐コヨーテと一緒に死んだのは、妥協しなかった自分の理想に対する信念でした‐
映画『The Biggest Little Farm』の感想と評価
地上にも楽園があることを鮮やかに映し出す『The Biggest Little Fam』は、そこへ到達するまでの8年が夢を実現する苦悩の連続であったことを記録しています。
アラン・ヨーク氏が指南する自然と調和をゴールに、農場運営に全く知識を持たなかったジョンとモリー・チェスター夫妻は一心に取り組みますが、そこには他の生物から協力を得るという難しい課題が立ちはだかります。
生態系と同じような環境を創り、維持し、そして自然に対し強制しない。理想と現実の狭間で心が砕けそうになったと本作の監督・撮影のジョン・チェスターはインタビューで明かしています。
昨今、健康志向が流行る中、実際に健康を生産する農家に思いが至らないことに気づかされるドキュメンタリー。
チェスターは、遺伝子組み換え作物を扱う巨大企業・モンサントや工業化農場のマーケットにおける必要性を認めつつ、消費者には再生有機農作物(リジェネレイティヴ・ファーミング)を選択する力があると話します。
舞台になるアプリコット・レーン・ファーム生産の鶏卵は12個入り1パック15米ドルで販売。1日に1個食べる卵は、無農薬・無化学肥料・ホルモン未使用で放し飼いにされた鶏が産むものを選ぼうという思考力が必要なのかもしれません。
待ちに待ったテントウムシを含むフクロウや鷹等の野生動物が農場に生息するようになったことで、ヨーク氏が掲げた円状に回転するエコシステムが完成。
チェスター夫妻の農場は、世界最古の農業基準を定める機関デメターにより、4年間オーガニックとバイオダイナミックス農法の認定を受けています。
バイオダイナミックス農法の認定は厳しく、農場の10パーセントは野生動物が生息できる環境に復元しなければなりません。
ヨーク氏の提唱で、チェスター夫妻は最初からバイオダイナミックス農法を目指し、10パーセントの一部として灌漑整備して作品に登場する大きな池を建造。
また、農場に各国から集まった若い男女は、全員ボランティア。人もまた自然の一部だと理解できる若年層が無償でバイオダイナミックス農法を学びながら汗をかいています。
アプリコット・レーン・ファームは、アメリカ政府の年収による基準では小規模農家。しかし、90億種の微生物、たくさんの家畜、そして多種多様な野生動物が共存する大きくて小さな農場なのです。
まとめ
安楽死処分されるはずだった犬のトッドを引き取り、自分達が最後まで面倒を見ると約束したジョンとモリー・チェスター。
全てはそこから始まった夫婦による農場運営の8年に及ぶ奮闘を『The Biggest Little Farm』は記録しています。
食に知識を持っていたモリーの提案で、バイオダイナミック農法の専門家アラン・ヨーク氏をコンサルタントに招き、2人は自然に息づく生物の命と連携し目を見張る生態系の美を再生しました。
安くて便利な作物でなければいけないと思い込む消費者の価値観を覆す圧巻の映像。
微生物に始まり微生物で終わるたくさんの命で繋がった地球は、そのままで完璧なのだと強く印象に残る大変意義深いドキュメンタリーです。