ジャズというジャンルはない。
ジャズな人がいるだけ。
岩手県一関市で50年営業を続ける「ジャズ喫茶ベイシー」には、連日多くのジャズファンやオーディオファンが訪れます。
国内外から多くの人が、はるばる一関までやってくる理由には、極上の音を聞きたいという理由のほかに、マスター菅原正二の人柄が大きく影響しているようです。
店名「ベイシー」の由来にもなっている、カウント・ベイシーもこの店を訪れ演奏しているというから、菅原マスターの交友関係にも驚かされます。
型にはまらないフリージャズのように、生き方自体がジャズでかっこいい菅原マスター。そんな彼を取り巻く、これまた素敵なジャズ人たち。
こだわりの音を体験できる映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』は、9月18日(金)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開です。
CONTENTS
映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
星野哲也
【編集】
田口拓也
【キャスト】
菅原正二、島地勝彦、厚木繁伸、村上“ポンタ”秀一、坂田明、ペーター・ブロッツマン、阿部薫、中平穂積、安藤吉英、磯貝建文、小澤征爾、豊嶋泰嗣、中村誠一、安藤忠雄、鈴木京香、エルヴィン・ジョーンズ、渡辺貞夫ほかジャズな人々
【作品概要】
日本独自の文化ともいえるジャズ喫茶。岩手県一関市に、50年続く現在でも連日多くのジャズやオーディオファンが集う「ジャズ喫茶ベイシー」があります。
本作は、オーナーである菅原正二の交友関係を通し、こだわりの音作りや、ジャズ喫茶の魅力に迫るドキュメンタリ―映画です。菅原マスターのインタビューの他に、渡辺貞夫、坂田明、村上“ポンタ”秀一など世界的ミュージシャンによるベイシーでの生演奏シーンや、阿部薫、エルビン・ジョーンズの生前のライブシーンなど貴重な映像も収められています。
また、お店で生み出される音を、アナログ録音の伝説的名器「ナグラ」で生収録。ベイシーの空気感が体感できる極上の「音」にも注目です。
映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』のあらすじ
トンネルを過ぎると一面の雪景色。ここは、岩手県一関市。この地に50年も続く老舗のジャズ喫茶があります。
有名なジャズピアノ奏者カウント・ベイシーの名が由来の「ジャズ喫茶ベイシー」です。
店の中では、菅原正二オーナーが、タバコの煙をくゆらせコーヒーを入れています。オープン前のひとときのようです。
所狭しと棚に収められた大量のレコード。壁のサインと写真、ポスターの数々。レトロな革張りの椅子にテーブル。客席の中にはドラムセットにピアノも見えます。
店内に一歩踏み入ると、ここが岩手であること、そして日本であることさえも忘れてしまうほど異国情緒漂う空間が広がっています。
菅原オーナーが、開店以来使い続け、日々調節を重ねてきたJBLのオーディオシステムに電源を入れます。そして、レコードをプレイヤーにのせ、針を落としました。
プスン、ジジジ。流れだす音楽。ここでしか生まれない極上の音がありました。この音を求め、連日多くのジャズファンやオーディオファンが「ジャズ喫茶ベイシー」を訪ねてきます。
流れる音楽に目を瞑り酔いしれるもの、レコードを眺め歓喜するもの、思い思いに体でリズムを刻みならが会話する仲間たち。
人々がここを訪れる理由には、こだわりの音の他にもなにやら秘密がありそうです。菅原オーナーとはいったい、どんな人物なのでしょうか。
1942年岩手県一関生まれ。早稲田大学時代にハイソサエティー・オーケストラでバンド・マスター、ドラマーとして活躍後、1970年一関に「ジャズ喫茶ベイシー」を開店。
いつしか、菅原が作る音に魅了されたジャズファン、オーディオファンが集まり、ジャズ喫茶伝説の地と呼ばれるようになります。
菅原の交流関係は幅広く、渡辺貞夫、坂田明、日野皓正、山下洋輔らジャズ界のスターたちから、大学の盟友でもあるタモリ、さらには小澤征爾、安藤忠雄、鈴木京香とジャンルを超えて著名人が彼の元を訪れます。
そして何といっても、店名にもなっているカウント・ベイシーが実際に来てライブをしたというから驚きです。その時、カウント・ベイシーが菅原につけたニックネームが「Swifty(スウィフティー)」でした。
「僕の名前が店名に入っているなんて、嬉しいよ」。車イスで来日したカウント・ベイシーのために店の段差をなくした菅原オーナー。「のちにこれがバリヤフリーだと分かったよ」と可笑しく話します。
「ジャズ喫茶ベイシー」50年の歴史の中には、奇跡のライブが幾つも生まれてきました。この場所だからこそ生み出された音楽。
「俺も新しいもの好きだから、古臭くなりたくないよね。レコードはそれに答えてくれるんだ」。キラキラと目を輝かせ「音」を語る菅原オーナー。
いつまでも少年の心を忘れない彼のジャズな生き方にこそ、一関という地にありながら、「ジャズ喫茶ベイシー」に多くの人が集まってくる理由がありました。
映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』の感想と評価
戦後まもなく、高価だった輸入盤レコードを聴くために、若者はジャズ喫茶に通いました。喫茶店にも関わらず、一言もしゃべらず静かに音楽に耳を傾ける空間だったといいます。
その後、一般家庭にもステレオが普及し、音楽を録音し持ち運べる時代へ。そして、現在では、ほとんどの音楽がスマホでダウンロードでき、いつでもどこでも好きな時間に聞くことができます。
「ジャズ喫茶」という空間は、さぞかし失われてしまったのだろうと思いきや、今でも全国に約600軒以上あるというから驚きです。
それではなぜ「ジャズ喫茶」が残るのか? 答えは映画の中にありました。
また、岩手県の一関市にありながら、「ジャズ喫茶伝説の地」と呼ばれるまでになった「ベイシー」の魅力を、ぜひこの映画で知って欲しいです。
菅原オーナーの生み出す音、そこに集まるミュージシャンたちの輝き、そしてその空間を味わいにやってくるジャズファン。
「こうして人が集まってくるのは、ジャズの力ではなく、人の力だ」と、菅原オーナーの仲間たちは笑います。
東日本大震災では、レコードが散乱し、壁にヒビが入った「ベイシー」。それでも、三陸のジャズ仲間を心配し、互いに助け合ったエピソードも映画の中では語られています。
正直、音へのこだわりが薄い私には、「ダイレクトカッティングは今だに非常にイイネ!」「ダイヤモンドの針は減るんだ。針に今日もお疲れ様って声をかけるよね」「ジェームス・B・ランシングに21世紀でもJBLはすげーよって言いたい」などと言われても、ポカン状態だったのですが、それを楽しそうに話す菅原オーナーのセクシーさに魅せられました。
皆が同じ気持ちになるのを待ち、そっからは想像を膨らませ、その場の雰囲気でやりたいことを自由にやってみればいい。
フリージャズの世界と、菅原オーナーのジャズな人生に触れ、人生の生き方まで教えてもらった気がします。
「ジャズ喫茶ベイシー」地元の声
地元、岩手でも一目置かれているジャズ喫茶「ベイシー」。最近では映画『影裏』のポスターにも使用されたことで話題となった場所でもあります。
その岩手らしからぬ洗練された空間は、これまでにも映画の撮影場所に使用されたり、ライブスペースとして有名な場所です。
特に60代の音楽ファンには、たまらない場所のようです。音楽関係者の方は「なんだが、気取ってっけな」と言いながらも「JBLがいいんだよ。タモリとか来てんだぞ」と詳しいうえに、誇らしげです。
また、自宅でJBLのオーディオを使用しているという方は、「わかるね。音を作るって感覚なんだわ」と、自由に出来る場所があることが羨ましいと言います。
30代のジャズ好き女子にも聞いてみました。「私なんぞが行っていい場所ではありません。もっと精進してからデビューします」と、崇め奉っていました。
私も今作を見るまでは「ジャズ喫茶ベイシー」に対して、勝手に敷居の高さを感じていたのですが、鑑賞後はこの空間で音を聞いてみたいと思わずにはいられませんでした。
まとめ
岩手県一関にあるジャズ喫茶「ベイシー」のマスター・菅原正二がこだわり続けてきた唯一無二の音と、ジャズな人たちの生き様を描いたドキュメンタリー映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』を紹介しました。
自らバーのオーナーでもある星野哲也監督は、菅原オーナーの本気の音と生き様を、なんとか記録しなければと、情熱をこめて5年にわたり150時間もの映像を撮り続けたと言います。
とにかく「ベイシー」の最高の音を映画館でも体験できるようにと、精鋭の録音チームと共に奮闘し、レコード時代のナグラ社製オープンリールレコーダーとヴィンテージマイクを駆使し、6mmテープに収めました。
そして、SP盤、LPレコード、ダイレクトカッティング、CDなどあらゆる録音メディアの音源を映画に収録しました。このこだわりの音を、ぜひ映画館で体感してほしいです。
映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』は、9月18日(金)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開です。