クラブ・シンガーが巻き起こすヒューマンコメディの秀作『天使にラブ・ソングを…』。
売れない歌手が、ある事件から逃げる為に、かくまわれた修道院で起こす騒動を描いたコメディ映画『天使にラブ・ソングを…』。
演出は『スリーメン&リトルレディ』のエミール・アルドリーノ監督、主演は『ザ・プレイヤー』のウーピー・ゴールドバーグが務め、『レザボア・ドッグス』のハーヴェイ・カイテル、『フック』のマギー・スミス、『フィッシャー・キング』のキャシー・ナジミーが集結。
公開から長い年月経てなお、多くの映画ファンから愛される本作の魅力と、作品に込められたテーマについて考察していきます。
映画『天使にラブ・ソングを…』の作品情報
【公開】
1992年公開(アメリカ映画)
【原題】
Sister Act
【監督】
エミール・アルドリーノ
【脚本】
ジョセフ・ハワード
【製作総指揮】
スコット・ルーディン
【キャスト】
ウーピー・ゴールドバーグ、マギー・スミス、ハーベイ・カイテル、キャシー・ナジミー、ウェンディ・マッケナ、メアリー・ウィックス、ビル・ナン、ロバート・ミランダ、リチャード・ポートナウ
【作品概要】
ある事件から身を隠す為に、修道院で生活する事になった、売れない歌手のデロリスが巻き起こす騒動と、聖歌隊の再生の軌跡を描いたコメディ作品。
主演のウーピー・ゴールドバーグは、本作がキッカケで大ブレイクし、後にエミー賞、グラミー賞、オスカー、トニー賞の4つの賞をすべて受賞した女優として大活躍します。デロリスを追うマフィアのボス、ヴィンス役にハーヴェイ・カイテル、デロリスと事あるごとに対立する修道院長に、マギー・スミスと実力派の俳優が共演しています。
映画『天使にラブ・ソングを…』のあらすじ
デロリスは、ネヴァダ州リノにあるカジノに、毎晩出演しているクラブ・シンガーです。
ですが、カジノの客は、デロリスの歌を全く聞いておらず、デロリスは自身のショーに全く手ごたえを感じていません。
また、デロリスは、カジノのオーナーであるヴィンスと、愛人関係にありましたが、いつまでたっても離婚に踏み切らないヴィンスに、苛立ちを感じています。
ある時デロリスは、ヴィンスからプレゼントされた毛皮が、ヴィンスの奥さんの物である事を知り激怒します。
デロリスは、ヴィンスの事務所に怒鳴り込みますが、そこで目の当たりにしたのは、自分の運転手を射殺するヴィンスの姿でした。
デロリスは、その場から逃げ出し、警察に駆け込みます。
警察に逃げ込んだデロリスは、長年ヴィンスを追いかけているサウザー警部補から、ヴィンスがあらゆる犯罪に手を染めている危険人物である事を聞きます。
デロリスは、重要参考人として保護され、サウザー警部補に身を潜める場所として、修道院に連れて行かれます。
デロリスは、幼少期にカトリック系の学校へ通っていましたが、反抗的な態度を取り続けた問題児で、修道院に身を隠す事を拒否します。
ですが、ヴィンスがデロリスに賞金をかけている事を知り、身の危険を感じたデロリスは、修道院に隠れる事を決意します。
修道院で、デロリスの世話をする事になった修道院長は、厳格な性格で、デロリスの事を最初から嫌がっており、高圧的な態度で接してきます。
逆に、シスター・パトリックやシスター・ロバーツらの若いシスターは、デロリスを好意的に迎え入れますが、修道院を毛嫌いし、自分の生き方を変えないデロリスと、それを認めない修道院長は、やがて激突するようになります。
映画『天使にラブ・ソングを…』感想と評価
1992年に製作され、ウーピー・ゴールドバーグの代表作として知られる映画『天使にラブ・ソングを…』。
アメリカでは、公開当時に6ヶ月のロングランヒットを記録、2017年には、公開25周年を記録したTVイベントで、映画のキャストが再集結し、パフォーマンスを披露した事で話題になっています。
日本でも、本作をキッカケにゴスペルブームが起こったとも言われており、現在もミュージカル作品として公演が開催されるなど、世界的に愛されている作品です。
世界中で、長期間に渡り愛される本作の魅力。
それは主人公デロリスの、どんな逆境をも跳ね返す、力強い魅力的なキャラクターです。
歌手として活動しているデロリスですが、仕事はカジノでのショーのみで、そのショーも誰も見ていません。
また、カジノのオーナーのヴィンスと不倫関係にあり、それが理由で犯罪に巻き込まれ、幼少時代から忌み嫌っている修道院に潜伏する事になります。
これまで自由に生きて来たデロリスが、厳しい規律で縛られた修道院で生活する事になる訳ですが、デロリスは自分の生き方や主張を変える事はありません。
それ故、歌手として活動してきた経験を活かし、古い考え方や習慣を破壊し、新たな聖歌隊の形を作り出し、厳粛で神聖な礼拝を、自分の色に染めてしまいます。
デロリスが、アレンジを加えた讃美歌は、堅苦しいイメージを覆しており、このパフォーマンスの場面だけでも楽しめます。
特にラストで披露される「I Will Follow Him」は、有名な曲なので、耳にした事がある人も多いのではないでしょうか?
このように、全く合わない新たな環境に身を置いても、自分の生き方を変えず、周囲に影響を与えるデロリスですが「そもそも神聖な礼拝で、勝手にアレンジしたパフォーマンスをして良いのか?」という問題があります。
デロリスが加入して以降、聖歌隊のパフォーマンスが評判になり、人が集まるようになりますが、本当にそれで良いのでしょうか?
その問題点を主張する、作品内のキャラクターが修道院長となります。
修道院長は、外の世界を「恐怖」と語り、シスターとしての厳しい規律を守ってきた、保守的な考えの持ち主です。
これまで自由に生きて来たデロリスと、規律を重視して生きて来た修道院長、2人のやりとりは非常にコミカルですが「決して交わる事の無い、対極の価値観」という、重要なテーマが込められています。
本作が公開された1992年のアメリカは、人種問題や大統領選挙などで、古い価値観と新たな価値観が対立した時期です。
『天使にラブ・ソングを…』では、デロリスが聖歌隊に持ち込んだ、新たな価値観が認められ、これまで修道院長が信じて守ってきた、古い価値観が破壊されていきます。
これにより、修道院長は修道院を去る事を決め、デロリスは、これまで自由に振る舞ってきた自身の行いが、神聖で歴史のある礼拝を壊してしまった事を感じ、始めて反省します。
この場面は「多様な価値観を認める事の必要性」というメッセージが込められた、本作の印象的な場面となります。
そして、ローマ法王の前で披露される、ラストの讃美歌は、これまで対立してきた、デロリスと修道院長の、古い価値観と新たな価値観を共有させた、見事なパフォーマンスとなっており、作品を締めくくるのにこれ以上ない、名場面となっています。
まとめ
古い価値観と新たな価値観が共存する事の、重要性を描いた本作ですが、コメディー作品なので、難しい事は抜きにして、純粋に楽しめる作品でもあります。
小言を言い続ける修道院長と、のらりくらりとかわすデロリス、2人のやりとりは見ていて楽しいですし、ガラの悪い男たちが集まるバーに、シスターが入って踊ったり、カジノ内を大勢のシスターが走り回るクライマックスなど、シスターをテーマにした作品だからこその、コメディシーンも秀逸です。
デロリスという強烈なキャラクターが物語を引っ張り、圧巻の歌唱パフォーマンスの場面など、本作は見どころが満載で、鑑賞している間、楽しくて幸せな気もちになります。
公開から30年近く経過した現在も、さまざまな人に愛されている『天使にラブ・ソングを…』は、映画史に残る、最高のエンターテイメント作品と言えるでしょう。