フランスの巨匠フィリップ・ド・ブロカ監督の代表作『まぼろしの市街戦』が、4Kデジタル修復版で、10月27日(土)より、新宿K’s cinemaほかにて公開されることが決まりました。
狂気にまみれた愚かしい戦争をテーマに、その重苦しさを笑い飛ばすユーモアで観客を魅了し、世界中の映画ファンから復活を渇望されていた歴史的なカルト映画の傑作です。
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映画『まぼろしの市街戦』の作品情報
【公開】
1966年(フランス映画)
【原題】
Le roi de coeur(英題:KING OF HEARTS)
【監督】
フィリップ・ド・ブロカ
【キャスト】
アラン・ベイツ、ジャン=クロード・ブリアリ、ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド、ピエール・ブラッスール、フランソワーズ・クリストフ、ジュリアン・ギオマール、ミシュリーヌ・プレール、アドルフォ・チェリ
【作品概要】
巧みなストーリー展開に反戦のメッセージを込めた『カトマンズの男』(1964)『リオの男』(1965)などで知られる名匠フィリップ・ド・ブロカの代表作。
『恋する女たち』のアラン・ベイツ、『1000日のアン』や『愛のメモリー』のジュヌヴィエーヴ・ビジョルドが主役を務め、ジャン=クロード・ブリアリ、ピエール・ブラッスールなど、フランスの名優が脇を固めています。
映画史上に輝く、時代も常識も超えた類をみないユーモアたっぷりに戦争の狂気を活写した、カルト映画の歴史的傑作です。
映画『まぼろしの市街戦』のあらすじ
第一次大戦末期の1918年10月、敗走中のドイツ軍は追撃してくるイギリス軍を全滅させるため、占拠した北フランスの小さな街に大型時限爆弾を仕掛けて撤退します。
その情報をキャッチしたイギリス軍は、フランス語が話せるというだけの理由で通信兵(伝書鳩の飼育係)プランピック二等兵に爆弾解除を命じました。
街に潜入したプランピックは、残留していたドイツ兵と鉢合わせになり、精神病院へと逃げ込みます。
危険を知った住民たちが逃げ去った街はもぬけの殻になっていましたが、精神病院では状況を理解していない老若男女の患者たちが、楽しそうにトランプ遊びをしていました。
名前を聞かれたプランピックが、適当に「ハートのキング」と名乗ったことから、彼は患者たちの王様に祭り上げられます。
取り残されたサーカス団の動物たちと、街に繰り出した患者たちが解放の喜びに浸りながら入り乱れ、リアリティのない奇妙な日常を繰り広げます。
そんな状況の中でプランピックは、美しい少女コクリコなど精神病院の患者たちに徐々に親しみを覚え始め、心を通わせていきます。
爆弾の在り処が分からないプランピックは爆弾を探すのを諦め、最後の数時間を彼らと共に過ごそうと死を決意しますが…。
映画『まぼろしの市街戦』の感想と評価
本国フランスではなく、アメリカで見出されたカルト映画
フィリップ・ド・ブロカが監督した『まぼろしの市街戦』は、巧みなストーリー展開のドタバタ喜劇で観客を笑わせつつも、反戦のメッセージを強く打ち出しており、そのカルト的人気からも唯一無二の作品だと評価されています。
本作は、初公開時に本国フランスでは話題になりませんでしたが、数年後にアメリカで公開された際には5年間にわたる驚異的なロングランヒットを記録しました。
長引くベトナム戦争に厭戦感を抱きつつも直接的な批判ができない状況の中で、タイミングよく封切られたフランスの反戦映画としてアメリカの若者たちに指示されたのがヒットの要因でした。
日本では1967年に劇場初公開されましたが、オリジナル版とはエンディングが異なる日本公開版での上映でした。
今回はオリジナル版での上映で、一コマずつ4Kでデジタル修復を施した最新のデジタルマスターを使用しています。
本作は、鮮やかな色使いが見どころの一つなので、そのよみがえった色彩にも、ぜひ注目してみてください。
全編にわたって映し出される街並みは、レンガ造りの家や石畳の広場など、薄いグレーで覆われています。
そこに登場するのは、精神病院から街へ繰り出し、色とりどりの衣装を身にまとい、思い思いの役を演じる患者たち。
理容師や司教、将軍、貴族、娼館のマダム、娼婦などなど、洋品店の商品やサーカス団の衣装、はては教会の祭服までも拝借した彼らの姿は、目に染みるような鮮やかさで印象に残ります。
ジョルジュ・ドルリューの音楽の魅力
さらに映画を抒情的に盛り上げるのは、トリュフォー映画でおなじみのジョルジュ・ドルリューの哀感に満ちた音楽です。
時限爆弾が爆発するトリガーとして設定されているのが街の中心にある時計台なのですが、その鐘や歯車の音を取り入れたテーマソングが冒頭から流れます。
黒地の画面にカラフルなテロップの文字が、音楽にシンクロするように軽快なテンポで上部から降ってくるように現れるオープニングを一見しただけで、この映画のセンスは伊達ではないと予見させます。
1960年代後半のフランス映画には、ポップでキュートなテイストを取り入れた作品が数多くありますが、この作風で反戦がテーマという作品は珍しく、さらにこの骨太なテーマを皮肉あふれるユーモアでくるんで娯楽コメディに仕立て上げているのも他に類を見ません。
まとめ
主役を演じたのは、今年2018年で没後15年を迎えるイギリスの俳優アラン・ベイツで、本作は彼の最盛期の作品とも言われています。
なりゆきで命がけの任務につくことになり、あまりの動揺に目をクルクルさせる演技は、さすがのコメディ俳優っぷりで笑いを誘います。
最初は情けない腰抜けというイメージでしたが、「ハートのキング」に祭り上げられると次第に精悍な顔つきに変化し、美少女コクリコと恋に落ちるシーンでは色男に見えるから不思議なものです。
コクリコを演じたジュヌヴィエーヴ・ビジョルドは、黄色いチュチュを着て電線を使った綱渡りをするなど印象的なシーンも多く、その可憐さには目を奪われます。
そのほか脇を固めるキャストたちは舞台でも活躍した名優ぞろいで、デカダンで夢のような一日を楽しむ人たちを体現しています。
独英軍の撃ち合いの末に「いくら何でも芝居が過ぎる」と精神病院の患者たちが一斉に芝居を止めるシーンは、鳥肌が立つほど圧巻です。
正気の兵隊と心を病む患者たちを対比させつつ、本当に正気なのは誰なのか?本当の狂気とは何なのか?という問いを突き付け、ハートフルなエンディングへと向かう流れは、よく練られた脚本だとうなること間違いなしです。
『まぼろしの市街戦』は、制作より半世紀超の時を経て、東京K’s cinema、大阪シネ・ヌーヴォ、名古屋名演小劇場ほかにて、4Kデジタル修復版で正式にリバイバル公開されます。
ぜひご覧ください!