2009年のイタリアは、ギリシャに始まった欧州危機が拡大し、大学の多くの研究者たちの収入が削減され、職を追われるものも後が立たない状態でした。
彼らの中には、海外に稼ぎを求めるものも多く、“国の頭脳流出”とも言われました。
本作『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』は、そうした学究の道に進めなかった研究者たちが、その才能を思いがけない分野で開花させる?痛快な風刺コメディです!!
映画『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』の作品情報
(C)2017 groenlandia srl /fandango srl
【公開】
2018年 (イタリア映画)
【原題】
Smetto quando voglio-Masterclass
【監督】
シドニー・シビリア
【キャスト】
エドアルド・レオ、ルイジ・ロ・カーショ、ステファノ・フレージ、グレタ・スカラーノ、ヴェレリア・ソラリーノ
【作品概要】
社会からはじき出された学者たちが、合法薬物で人生の一発逆転を狙う姿を描いた『いつだってやめられる7人の危ない教授たち』の続編。
元々は「首席の学者がゴミ収集員」という新聞の記事が、イタリア新進気鋭の監督シドニー・シビリアの目に止まったのが発端でした。監督シドニー・シビリア自身も映画製作のキャリアを積みながら、アルバイトで生計を立てた経験を持つ1人として向き合ったテーマです。
不遇で鬱屈したエリートたちが形振り構わず頑張る姿にどんどん感情移入させられ、年齢、性別、職業や国境を越え、社会を大いに風刺しながらも思いっきり笑ってエキサイトできる傑作コメディ映画。
映画『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』のあらすじとネタバレ
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夫ピエトロに会うため、ジュリアが刑務所に面会に来ます。
神経生物学者ピエトロは、前作で食器洗浄機を買うお金欲しさに、超高級品のスマートドラッグという合法薬物を製造し、誘拐、殺人未遂罪などで服役していました。
ピエトロは早く出所して、妊娠している妻と穏やかな暮らしを望むべく、模範囚として頑張るよと笑顔で話していましたが、ジュリアは浮かない顔。
というのも、そのまま早期にピエトロが出所してしまうと、ジュリアの講義代として貰っている報酬で生活ができなくなり、この先の生活がどうなるのかと不安に感じていたからです。
ピエトロはジュリアと話していくうちに、自分との離婚届の話になっていくのが分かると、毎回のように話を監察官に早くうち切ってもらうよう面会を終わらせていました。
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ローマでは、合法薬物が社会問題となっていました。
ローマ警察の警部パオラは、スマートドラッグが違法薬物としてリストに載っていないので、警察が介入できないことに、毎日腹を立てていました。
上司に操作を願い出ても、そんなに昇進したいのかと皮肉を言われるばかり。
さらに仮にリストに載っても、また、新種のスマートドラッグが作られ、イタチごっこになるだけだと、諦めるように告げられました。
そんな時、ピエトロが逮捕されたことを知ります。
パオラはこれを絶好のスマートドラッグの取り締まりのチャンスと捉え、刑務所のピエトロに会いに行きます。
ピエトロに会い、パオラは秘密裏に捜査の協力をすること、見返りは景気軽減と犯罪歴の抹消と話します。
はじめのうちは、あまり気の乗らなかったピエトロでしたが、もうすぐ生まれてくる子どものことを考え承諾。
そして、チームを集め操作に協力することを決意します。
再び世界の国々に流出した頭脳集団のメンバーに会いに行き、説得して集めた前回のチームに新たなメンバーを加え、秘密裏に捜査するギャング団の結成となりましたが⁈
以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』ネタバレ・結末の記載がございます。『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
古典考古学者アルトゥーロ(ローマの道路や遺跡を熟知)が、遺跡が発掘されて工事が中断されたトンネルがあることを知っていたので、ピエトロはギャング団の本部をそこに置くことにしました。
メンバーとパオラはそこで会い、パオラはミッションの説明をします。
与えられたミッションは、ローマに蔓延しているスマートドラッグを分析し、その成分を突き止め新たに30種類を違法リストに追加するということでした。
メンバーたちの目が光り、歓声が上がります。
メカトロニクス工学者ルーチョ(ナイジェリアのラゴスで新作の武器の開発中)により、武器を手に入れると最初のミッションに取り掛かりました。
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売人から買うふりをしてスマートドラッグを手に入れ、本部で計算化学者アルベルト(仕事に熱心なあまり自らドラッグ中毒となってしまった)が分析をします。
成分が解明されると、動学マクロ経済学者バルトロメオ(ギャング団の経済的成功を担う頭脳)が、原料の購入履歴から資金の出所を調べ上げ、製造者を捜査します。
ギャング団は、チームのスムーズな連携で次々とミッションを成功していきました。
しかし、ながら1人地下室のトンネルで、元薬物中毒のアルベルトだけがスマートドラッグの分析をしながらも、その薬物の誘惑とたたかっていました。
面会に来る度にジュリアは、夫が自由に外出できることを知り、訝しく思いながら何度も理由を聞いてきます。
ピエトロは、秘密裏で捜査しているために本当のことが話せず、病院に診察時間に付き合うと約束しますが、間に合いませんでした。
夫の前で泣き出すジュリアの前で、ピエトロは早くミッションを終えて、出産に立ち会うことを決意しました。
テレビニュースからは、ローマで次々とスマートドラッグが消えていく映像が報じられていました。
警察の記者会見でフリーの記者ジュリアは、警部のパオラに質問をします。
「スマートドラッグは合法薬物で警察が一切介入できないのに、なぜ減っているのでしょうか?警察以外に協力者がいるのでは?」。
パオラは、たとえ協力者がいたとしても公表することができないと返答します。
ノルマの30種類のスマートドラッグのノルマがもうすぐゴールをむかえる中、アルベルトはどうしてもあと1つのソポックスが解明できませんでした。
苛立ちながらも毎日成分の分析を続けるも、ついに誘惑に負け口の中へ一錠入れてしまいました。
その頃ジュリアは、ますますピエトロを怪しんでいました。
ピエトロは、自分は模範囚だから自由時間をもらえていると説明しますが、ジュリアは激しく怒りをぶつけ、「こんなことだったら子どもを作らなかった!ピルをいっぱい飲んでいたらよかったわ!」。
この言葉で、ピエトロは解明できないソポックスはピルに関係あることに気づきます。
ピルに関係があることアルベルトに伝えようと、急いで本部に向かうピエトロでしたが、本部に着くとアルベルトが倒れ仲間が介抱しているところでした。
解剖学者ジュリオ(人体を誰よりもよく知る世界的権威)のおかげで、アルバルトは意識を取り戻し、さらにソポックスの効用によって過去の自動車事故の記憶が蘇りました。
アルバルトが車を運転しているときに、対向車の荷台に大きなクラマトグラフィー(物質を分離・精製する機器)が載せてあったことを思い出しました。
それはまさに大量のソポックスを製造するためのものでした。
それを知ったパオラは、アルベルトの事故の日にクラマトグラフィーが盗まれている事件を見つけます。
また、ピルの件も、数日後に港に大量のピルが運ばれてくる情報を手に入れました。
ギャング団はソポックスを扱う組織が輸送する途中で強奪すると見込み、パオラと共に作戦を立てました。ピルの入った荷物のコンテナに侵入しGPSを付け、追跡するというものでした。
当日港では他の作業員の見張りを散らすために、文化人類学者アンドレア(ギャング団の変装指南役)が作業員に化けました。
アンドレアが作業員と友達になって思い出話に花を咲かせているうちに、GPSを取り付けようと中に入ったラテン碑銘学者(ギャング団の軍事面を担当)マッティアでしたが、運搬の時間が急に早まり運ばれてしまいました。
しかも、GPSは違うメンバーが持っており、マッティアがコンテナに取り残されたまま貨物列車に乗って行くことになりました。
チームは列車を追うためにナチから押収したジープとサイドカーを手に入れ、乗って追跡します。
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パオラはGPSの動きを不審に思いながら、パソコンを見つめていました。
なんとかマッティアを助けましたが、薬物組織のボスのヴァルテルと会い、あっという間に大量のピルを車に運び込まれてしまいました。
その間にGPSを取り付けることができたことから、製造所を見つけることができましたが、薬物組織のメンバーは逃げてしまい、彼らを捕まえることはできませんでした。
見事にミッションを成し遂げたピエトロは病院へ向かい、子供を産み終わったジュリアに会いに行きます。
「子どもは新生児室にいるわ。」と嬉しそうに話すジュリアでしたが、ピエトロは我が子を見ることもなく警察がやってきて連行されました。
パオラに合わせてくれと頼むと、パオラも解任されていました。
アルベルトが残したメモを手に取りソポックスの文字を見つめているうちに、ピエトロは大変なことに気づきました。
その文字からヴァルテルの本当の狙いが、神経ガスによるテロということがわかりました。ピエトロは、仲間とともに悔しさと衝撃のまま再び刑務所へ連れていかれました。
映画『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』の感想と評価
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本作品『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』は、魅力的なユーモアのエッセンスが溢れるほど盛り込まれていますが、何と言っても次の3つの魅力に惹きつけられます。
魅力①社会に対する強烈な風刺
現代のイタリではアカデミックポストの数が多いとは言えない現状です。
苦労して大学で研究を重ね、博士号を取得してもその能力を十分に生かす場所が彼らのような学者にはなく、一定の場所に一度就いた者が長年そのポストに就いている状況です。(それはイタリアだけではない話ではありますが…)
登場するキャラクターたちが小競り合いを繰り返しながらも、知力と発想力、時には乏しい体力?を総動員して、秘密裏のミッションに邁進する姿は本当に健気で爽快な物語ですが、そこにアカデミアの世界に強烈な皮肉を感じます。
魅力②役に立っていると実感
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2つ目は、有能な研究者たちが劇中でくすぶっていながらも、極秘任務の達成に向かって拳を上げながら、自分が“役に立っていると実感”できた!」と喜ぶ表情です。
合法薬物の撲滅という社会貢献に、自分のやりがいを見出していく姿は、見る者の心を掴み揺さぶられます。
魅力③エキスパートである研究者の個性
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そして、何よりも心惹かれる個性豊かな研究者たちの個性です!
1人ひとりのキャラクターが光ります。
専門分野の博識は熟知を越え、神の域に入りそうでもあり、ときに闇に、ときには反社会的行動に変貌していくユーモアは、怖さも兼ね揃えており、ドキドキとハラハラが常に観客の心にフィードバックするのも大きな魅力です。
この3つの魅力を押さえておくことで、本作『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』を、より楽しむことができますよ。
まとめ
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この作品を劇場で鑑賞したことで、あらためてイタリア映画の表現力の底力と、豊かなバイタリティに驚かされました。
前作『いつだってやめられる7人の危ない教授たち』もそうですが、テンポのいい会話、個性豊かな俳優たち、予測不能は軽快なストーリー展開、薬物でハイテンションになる斬新な場面、あちこちで光めく怒涛のユーモア…。
辛いことも苦しいこともいっぱいあるのに、ツマラナイことで悩んでいる自分に、一瞬にしておサラバ!できそうです。
明日の朝は必ず上る太陽みたいな映画です。
映画の終盤の列車のシークエンスの場面は、とってもオススメなので見逃さないでください!思い出すだけで何度も吹き出せる名(迷?)場面ですよ。
本作はシリーズ3部作ということで、ラストが気になる展開で次につながることから、観た後も「魅力溢れる研究者たちに会いたい!」との次回作も待ち遠しくなりますよ〜!